プロローグ
作者誕生日につき新しく書き始めました。
書き溜め無しです。
週1更新で進めます。
VRMMORPG「World Wide Wonderland」通称W3又の名をワワワランドあるいはワワワ。
日本が呼びかけ、世界の先進国が賛同した一大VRゲームだ。
呼びかけた日本のゲーム企業が、前身となる「Link World」を発表した際にも世界的大ニュースになったが、W3の発表はそれを超えた。
Link Worldは複数のゲーム会社が、バラバラのジャンルでVRゲームを発表し、それぞれゲーム内で起きた事象が、他のゲームに反映されるという物だった。
例をあげると、農業系ゲームで出荷されたものが、経営系ゲームやファンタジーゲームの食料となる。
売り上げで新しく設備を買うことができるので、さらに品質が良くなるという物だった。
最終バージョンのVer7.777777では、それぞれのゲームを行き来できるようになり、その半年後に公式サービスが終了した。
このバージョンでは近未来型FPSキャラが中世ファンタジーを闊歩したり、農場で羊をモフったりするなど、様々な地獄絵図が繰り広げられたが、サービス終了の案内と、自分たちのゲームを支えていたプレイヤー同士の交流が目的だったため、不満の声は上がらなかった。
僕こと『木翁 修一』も農業系ゲームのファーマーの1人だったので、全身機械や半透明な幽霊、小人や移動式水槽に入った人魚といった奇抜なメンバーが農場をウロついていても嬉しかった。
逆に鍬でFPSに参加したり、モンスターを狩ったりもした。
最後の最後でハチャメチャになったが、とてつもない盛り上がりを見せた半年間だった。
そして、Link World のサービス終了と共に、VRヘッドマウントディスプレイの画面が切り替わり、同時に世界中のテレビで同じ映像が流れ、騒然となった。
映ったのはどこかの洋上に浮かべられた舞台。
周囲には各国の国旗と、同じく各国の旗を上げた戦艦。
空では多国籍で編成された戦闘機がパフォーマンス飛行を行なっている画面だった。
それもおかしいのだが、何よりも舞台に立っている人達が異常だった。
各国首脳に世界トップクラスの大富豪、そのメンバーを後ろに従えるLink World 開発運営責任者。
プレイヤー以外は思っただろう。
「1番前の女は誰だ」と。
そんな反応は予想通りだと言わんばかりの堂々とした態度で、責任者の『鷲崎 美祢流』は言い放った。
「Link Worldでの経験を生かし、新たなゲームを開発していました。後ろにいらっしゃる方々はその協力者です。新しいゲームは国境を越えて楽しめるよう自動翻訳機能が付いています。詳細はこの発表が終わり次第HPに掲載されますので、そちらをご覧ください。ゲーム名は「World Wide Wonderlandです」
ゲームの紹介よりもインパクトを大事にしたかったのかはわからないが、以降は後ろに並んでいる人たちの挨拶が始まった。
自動翻訳機能の発表も兼ねていたのか、どの国の人が話しても日本語に聞こえたことに驚いた。
そうして世界中がW3の話題で盛り上がりを見せた半年後、βテストがあり…僕は落選した。
各国サーバーで1万人という制限に対して、応募総数は300万件を超えたらしい。
その内のいくつかは転売目的だった可能性もあるけどね。
そして先月、正式サービスのために国ごとに追加で2万人のアカウントが販売された。
もちろん僕も応募したが、これも外れた。
だから明日、正式サービス開始だとしてもプレイできない僕は、高校の美術室にこもって絵を描いている。
今の想いをぶつけられた絵は、いかにもファンタジーな空飛ぶ城の絵だ。
W3やりたかったなぁ。
「お!さすが大学が決まってるだけ暇人だな!時間よりだいぶ早いじゃん!」
黄昏た僕1人の美術室に、ボクシング部所属の友人『高嶺 栄次郎』が入ってきた。
夏休み前日の終業式の後に美術室に来いと言ってきた張本人で、W3のβテスターでもある。
試合中に変なところ殴られてしまえばいいのに。
「僕だけじゃなくて栄ちゃんも決まってるでしょ。それに、暇なのは僕だけで栄ちゃんは明日からW3三昧でしょ。羨ましい。試合中にシューズの紐が切れてしまえばいいのに」
「言い過ぎじゃね?まぁ体育大学の推薦もらえたけどよ。それに俺は夏休み中も練習があるからW3三昧ってわけじゃないさ」
「ふ〜ん。まぁそこはどっちでもいいんだけど。で、要件は何?」
「そんな態度でいいのか?βテスター特典でアカウントが貰えたから修にあげようと思ったんだけどなぁ」
「え?」
「だから、βテスターの特典でW3のアカウントが貰えたから、お前にやるんだって!一緒にやろうぜ!」
「え?本当に?」
「あぁ本当だって。ほら」
渡されたのはW3のパッケージだった。
帯にはβテスター特典招待コードって書いてある。
「僕でいいの?」
「お前以外いねぇよ。妹はβやってたし、部活メンバーは誰もゲームをやらないからな」
「本当に?もう返さないよ?」
「しつこいな!お前にやるって!」
「わかった!ありがとう!」
僕は栄ちゃんを見ず、パッケージを見ながら礼を言った。
鼻で笑われた気がしたけど、そんなことはどうでもいいね。
だって明日からW3ができるんだよ!
夏休みはずっとプレイだね!
「あー。じゃあ明日昼にサービス開始だから、事前にキャラクリだけでも済ませておけよ。契約でゲーム内容は言えない決まりだからここで詳しくは言わないけど、お前が望んでたものがあるかもしれないぜ。じゃあな」
「うん。また明日」
栄ちゃんが出て行った。
手元にはW3のパッケージ。
夢じゃないんだね!
公式HPを見てもゲーム概要や、選べる職業の一部しか載ってなくて、βテスター達はゲーム内容を掲示板やSNSに書いてはダメな契約だから情報が出てないんだよね。
栄ちゃんから聞けばよかったんだけど、プレイできないのに聞くのは辛いから一切聞かなかったし、栄ちゃんも僕の前では話さないようにしてくれてたから、W3の情報は少ない。
剣と魔法のファンタジー世界を冒険することと、プレイヤーは1つの職業と複数のスキルを組み合わせて自分だけの戦い方で冒険するってことぐらい。
僕が以前やっていた農業系ゲームも踏襲しているらしいから、農場プレイもできるみたいだけど、どうせなら旅に出たいよね。
それに栄ちゃんが最後に言った言葉。
僕の望んでるものがあるかもしれない。
僕の望みは思わず見入ってしまう景色と、そこに生きる人々を描くこと。
W3の世界を旅することで刺激されていい絵が描けるかもしれない。
Link World最後の半年間で見たファンタジー世界は圧巻だった。
僕も最初からファンタジーゲームをやっていればよかったと後悔したほどだ。
よし!
さっさと画材を片付けて、キャラメイクしよう!
パニック物も書きたいんですが、そちらは書き溜めてから投稿します。