4-4 馬車ターミナル
「大丈夫ですか?」
俺は手を取って女性を助け起こした。
『あ、ありがとう。あいつは、どうしました。ラドーは』
「あれは、ラドーというのですか? 大きい魔物でしたね。あいつなら倒しましたので、どうかご安心を」
女性は目を見開いて、俺を真っ直ぐに見つめた。あれ? 倒しちゃまずかったのかな。神獣として崇められているなんてわけじゃないよね?
『本当にあれを倒したのですか? 凄い。アレに狙われたら、まず助からないと言われています』
よかった。やってしまっても大丈夫だったようだ。脅かさないでよ。
「我々は探索者ですから。それより、お怪我は? 回復魔法が使えますので治療しますよ」
『ありがとう。わ、私より、この子を』
さっきから、母親にしがみ付きまくっている男の子を前に押し出した。膝を大きく擦りむき、顔にも怪我をしている。足も捻挫をしているようだ。
俺は笑顔で手の平を差し出しながら、回復魔法をかけた。温かい何かが沁み込むように子供はみるみる回復していった。もう手慣れたもんだ。
「まだ気をつけてね。無理をしないように。じゃあ、お母さんの番だ」
治療を終えて、山崎が子供を背負った。
『ありがとうございます。何から何まですみません』
女性が恐縮していたが、そいつら自衛隊なんで気にしないでくれ。
「後で交替するよ」
「いや、お前は警戒の方を頼む。青山も何かあったら対応できるようにしてくれ」
じゃあ、任せた。山崎は体力もある方だ。車を出したいが、さすがにもう街が目の前じゃな。さっきの戦闘もかなり目立ったかもしれない。
開けた場所だから、ミサイルの破裂音はまずかったかな。街にも音が届いただろう。明日の王都行きでは気をつけよう。
緊急だったし、あの俺達で遊んでいた空の魔物のイメージが頭に残っていて、マッハで飛ぶミサイルに頼ってしまった。今度会った時はアローブーストの矢で倒そう。
俺達は子供を背負った山崎のペースに合わせて歩き、1時間弱で街の門まで辿り着いた。門の前では銃とかは引っ込めておいた。
街道沿いの宿場町のようなところだと思うので、この街はそれほど大きくはなかった。
門で探索者証を見せただけで中に入れてもらえた。やはり身分証があるのはありがたいな。
女性の案内で、すぐに宿を見つける事ができた。そこそこの値段でご飯が美味しいのだそうだ。そこに泊まる算段だったらしい。
仕事で少し向こうの街まで行っていたが、王都に帰る事にしたそうで。子供連れで魔物の出る世界の旅は大変だなあ。
「ここから乗って行けるような馬車は無いの?」
『一応ありますけど、都合よく出ているかどうか。朝早く行かないと満員になってしまうかもしれませんし。私達は費用的に厳しいので乗らないです』
乗り損なったら歩きか。それとも車を出すかどうか。困ったので聞いてみた。
「明日、馬車の案内を頼めませんか? やってくれるなら、あなた達の乗車賃も負担しましょう。王都までなるべくなら歩きたくないので」
じゃあ今までなんで馬車に乗らなかった、と聞かれると困るなと思ったが、特に追求はされなかった。歩かなくて済むのは嬉しいらしい。
『わかりました。それでは、明日夜明けには宿を出ましょう。王都に行くのに、結構最後に歩きたくない人が多いらしくて、この街からの便は確保が厳しい事が多いです』
うわ、知らなかった。これだから情報は大事だよな。
全員、今日は早めに寝るに1票だった。ご飯はかなり美味しかった。王都に近いのもあるんだろう。飯は楽しみだな。子供はすっかり山崎に懐いており、くっついて離れない。
翌朝、まだ日の昇りきらないうちに女性が呼びにきてくれた。早い。まだ3時半だわ。目覚ましは4時にかけておいたのに。食事は用意すると言っておいたので、すぐに支度して部屋に招き入れた。
柔らかパンとジュース、目玉焼きにサラダ、ヨーグルトと定番っぽい奴だったが、子供は夢中で食べていた。
それから、ふらーっとしてまた眠ってしまいそうだったが、母親に揺り起こされていた。ここで寝てしまったら、今日1日が悲惨だ。山崎が子供をおんぶした。
まだ暗いうちに宿を引き払って、馬車の乗り場に案内してもらうと、馬車乗り場は結構な賑いだった。
みんな、旅慣れている。当たり前だ、ここは地球でいえばバスターミナルみたいなものだ。彼等は地元民で、俺達は外国人なのだから。
彼女が手早く馬車を見つけて交渉してくれた。王都まで1人銀貨5枚で。大銀貨4枚渡すと、女性、サーニャさんは俺達を促して、さっと乗り込んだ。子供はマルクというようだ。
「まだ集まってきてない人もいるみたいだけど、何故そんなに慌てるのです?」
『こういうものは、お金がものを言うのですよ。後から来たのに金づくで交渉して、強引に席を奪っていくものもいるのです。乗り込んでしまっていれば約束は反故にできないですから』
やれやれ。一同、苦笑いする。
なんていうか、この馬車は前向きで座る高機動車みたいな感じのもので、後ろの客スペースの5列の粗末なベンチに人がびっしりと乗るタイプのようだ。
ざっと20人乗りで、感覚が狭いので荷物のある人は大変なようだ。先に乗り込んでスペースをとるという目的もあったのか。
丁度8人なので2列いっぱい貰えた。子供を前の列にやるのは、開いたスペースがあると荷物を押し込まれたり、酷いともう1人そこへ人間を押し込んだりされるからだ。
朝の位置取りで、その日の配置が決まるのだ。前列は女性と子供が各1人いるので、俺はわざと荷物を出して、隙間を埋めておいた。
前列は俺と山崎が親子をはさんで、2列目は青山と合田が両端を警戒する。左側は俺が、右側は青山が警戒して、合田は情報記録で山崎は子守と分担が分かれた。
地上での移動なのに、珍しく佐藤と池田の出番が無い。まあたまには、ゆっくりしてくれ。
次々と交渉する客が現れて、徐々に席が埋まっていく。夜明け前には20名満員になった。異世界の御来光を拝みながら、馬車は静かに出発した。
別作品ですが、「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
も書いております。