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4-3 地上の行軍

「今、グラヴァスから570キロ。もう1時間もかからないぞ。着陸するのなら後30分くらいじゃないか?」

 山崎がヘリセットからアナウンスする。


「あいよー。主街道から近い地点で、そうだな。50キロくらいのとこまで行くか。近いような気もするが、あまり遠くには下りたくない。その辺で見当つけてくれ。王都の飛竜には気をつけてくれ。万一遭遇したら、戦闘は避けて、降りられるようなら下に降りてやり過ごす」


「わかった。高度300mで飛んでいるから、王都が見えたら残りは60キロくらいだろう」

 それから40分くらい飛行して、王都が見え始めた。聞いていた通りの、でかい城塞都市だ。すぐにわかった。飛行マップから見てグラヴァスから約820キロ地点にあった。


「どうする? レーダーで今のところ、何も見当たらないが」

「いや、あまり接近するのはよそう。とりあえず聞いていた町まで車で移動する。そこから移動手段を何か得よう」


「了解」

 山崎はヘリコプターを降下させていった。


「一応ここからの大雑把な地図は作成しておいた。細かいとこは出来てないし、あんまり道から逸れたりしたら役に立たないぞ」


 池田と合田がその作業を請け負っていた。佐藤もドライバーとして参加している。ヘリのデータのバックアップを終えて、地上データを車両に写している合田が言った。


 ここからは、しばらく高機動車に御世話になる。元々こいつが馴染みの車両なんだけど。


高機動車は通常はシンプルな構造で信頼性を高めているが、こいつは色々マッピングとかも可能な、ダンジョン&異世界仕様だ。


 消えてしまわないようにデータのバックアップさえ取っておけば、車体本体は壊れても俺がすぐ元通りにできるんで問題ない。


 全員乗車して突き進んだ。さすが、王都に近いだけあって馬車なんかも多い。いい加減目立つな。早々に車両は引っ込めておくか。


「これから、どうするんだ?」

 池田が訊いてきたんで、合田がデータを入れてくれたタブレット端末を渡す。


「そこのマップに載っている、アルナダの町へ入る。町の近くで徒歩に切り替えるぞ。そこが、この街道で王都に入る前にある最後の町だ。運がよければ、そこから馬車に乗れるかもしれん」


 ヘリから観測した地上データと、聞いていた地名をリンクさせてマッピングしてあるのだ。

「徒歩か。緊張するな」


 青山も思案げに言う。今までは、こいつが砲手として対応しながら移動していたからな。もっぱら迷宮の中だけれども。


 本来なら徒歩は避けたいので今までは強引に車両を使用していたが、王都入りに際して揉めたくは無い。


 やがて街が見えてきた。街は馬車などでの移動に合わせて、1日の移動距離に合わせて配置されている。


 30キロの感覚は女の足でも大丈夫な距離だ。子供には少し辛いかもしれないが、この世界は俺達の地球とは違う。ゆっくり歩いて正味10時間だから、途中でバテなければ大丈夫だろう。


 日本だったら、女子供どころか大の男でも悲鳴を上げる距離だろう。自衛隊だって勘弁してほしいとか思う距離だ。


 江戸時代の壮健な男で1日10里、40キロ歩いたそうだから、ここでは楽勝の距離ではないだろうか。


 馬車で長時間強行に走らせたり、馬に乗ったりする人間は街を一つ飛ばして60キロを移動するそうだ。馬車の場合、馬を傷めるので通常はそこまで無理はしないらしい。


 残り5キロの道程を残して、俺達は車から降りた。


「やれやれ、こんな格好だと様にならないね」

「ああ、なんか迷彩服を着ていないと不安だ」


 こいつら、迷彩服に中毒していると見える。そりゃ、6年間以上も仕事で着っぱなしだものなあ。


「諦めろよ。日本に帰ったら、好きなだけ着てればいいだろ」


 周りを見ると、街道は歩いている人が一杯いた。馬車も、人間とそう変わらないスピードで進んでいる。時速5キロくらいか。速めに歩いている人間が同じくらいだ。


 長い距離を行くので、どうしても速度は控えめになる。徒歩だと時速4キロの8時間コースだ。女子供は10時間コースだな。休憩も必要だ。


 昔の馬に荷物を運ばせていた日本軍は時速5キロから急いでも8キロくらいで進んでいたはずだ。馴れないと、いや慣れたって行軍はきついもんだ。重装備を背負って歩くんだからな。


 さすがに、この中を車で突っ走る勇気はない。あと3キロほどで到着しそうだ。

 だが、そこへ襲撃してきたものがいた。


 感知系の魔法で警戒していたので、なんとなく接近が感じ取れた。最初振り向いた時、黒い小さな点にしか見えなかった。


「おい、空から何か来るぞ」

 俺はさっそく警戒の声を上げた。


「全員、戦闘態勢を取れ」

 山崎が号令して全員武器を取った。うちでは自衛隊式の掛け声なんか使わない。四の五の言わずに、ここは即戦闘の世界なのだ。


 前もって、取り決めておいた体制で迎え撃つ。青山が対空用の肩に担ぐ12.7ミリ対物ライフルを。池田と合田が、携帯用の対空ミサイルの発射準備を。佐藤と山崎が7.62mm軽機を構える。


 俺はといえば、M2重機関銃を抱えて、20mm対物ライフルも脇に準備していた。

「まだ攻撃するなよ。王都の飛竜かもしれん」


 だが、そうではなかったらしい。そいつが近づいてきたのに気づくと、人々はパニックを起こした。


 真っ黒な体躯、ギザギザな歯の生えた長い嘴。蝙蝠のような羽。まるで、恐竜図鑑に出てくる翼竜だ。まさか、こいつがドルクットっていうんじゃないだろうな。


 うわ、でかい。なんか、異様にでかいぞ。

 逃げようとした子供連れの女性が転んだ。


「いかん。助けるぞ」

 逃げ遅れた獲物に向かって、爪の生えた鳥のような足を向けた奴に、俺達はぶっ放した。


 彼らに当らないように、上の方を狙って。これだけ近いとミサイルは使えない。人間もいる。それに凄い風を起こしてやがる。翼長30mはあるとみた。中型旅客機並みだぜ!


 いきなりの猛射を受けて、怯んだ奴は飛び上がった。


「ハジメ、あれを落とせないか? サンプルが欲しい」

「じゃあ、そいつを撃て!」


 まだ、そうは飛び上がっていない奴に向かって、合田が担いだ小型対空ミサイルランチャーが火、というか主に煙を噴いた。


 赤外線誘導の撃ちっ放しなので本来なら空飛ぶ怪物なんかには当らないが、アローブーストを受けて猛然と加速したそいつは、青い軌跡シュプールを描いて奴の首に命中した。


 鈍い爆発音と共に首の千切れかけたそいつは、落ちてくる途中で合田のアイテムボックスに綺麗に収まった。


「大物が取れたなあ」

 今回はちゃんと獲物が取れたんで、合田の奴も嬉しそうだ。


 でも、あいつがご飯を取りに来てくれていたからいいようなものの、いきなりブレスとかを食らう可能性もあったんだぜ。まあ、イージスの準備はしてあったんだけど。


 俺は倒れたままの人に近寄り、声をかけた。まだ若い女性だ。子供は男の子で、幼稚園くらいだ。あいつらと一緒くらいだなあ。それなのに歩きで1日何十キロも旅をするのか。厳しい世界だ。


別作品ですが、「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」

http://ncode.syosetu.com/n6339do/

も書いております。

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