4-2 遊んで
まず万年筆。それほどたいしたものじゃない。実は1000円しない安物だが、これが馬鹿にならない。
羽根ペンの世界の人が使えば100均万年筆でも感動ものだろう。コンバーターというインク吸い上げ機構をつけると、もう少し値段がする。
貴族ならば、これを欲しがるだろうと言ってくれたので持ってきた。安いプラスチック系の材料にステンレスのペン先なので複製しなかった。先につける合金だけは特殊なので買ってきた。
低価格品だとコスト的に複製はあまりお徳ではない。大人しく買ったほうが面倒なくていいのだ。幸いにして、この世界で手にした物品の日本円への変換効率は、最高のコストパフォーマンスを示していた。
更に5000円くらいの金のペン先を使った奴も持ってきてある。これは逆に金を使っているので複製しづらかったりする。ただ色々問題はある。インクの種類や劣化の問題だ。
特にインク。万年筆は自社のインクに対して調制されている。他社のインクを使用すると、中身が最悪溶けてしまう場合もある。
よくわかっていない、こちらの世界の人はお構い無しで、こちらの粗雑なインクを万年筆に使おうとするだろう。
変なインクを使うと、すぐに使えなくなりそうだ。それに、カートリッジインクの方が瓶より倍以上の時間保存が利く。
とりあえず、カートリッジを使ってもいいが、そうなるとプラスチックゴミ問題が発生する。さすがに回収までは請け負えない。案外と微妙な代物だな。
漆塗りや蒔絵、貴金属装飾や宝石入りなどの超高級品は後で出す予定だ。少し普及させてからでないと、ありがたみがわかるまい。
そして、酒。ビールなどのように冷やして飲むものではなく、ウイスキー・ブランデーのようなものだ。この手の物には、「安くて美味い物」がゴロゴロしている。そのあたりを中心に買い込んだ。
それとは別に、とんでも級の酒もしこたましこんで来た。こういうものは、コピーすると原料的に劣化版のものしか出来ないが、それでも中々のものはできた。
元素レベルで複製しているはずなのだが、まるまる他の酒を素材にすると見事に劣化品が出来上がる。厳選原料から作らねばならない。
ラウンドブリリアンカットに輝く現代のダイヤモンド。この世界の研磨技術では作れないものだ。そもそもダイヤモンド自体を見かけない。
迷宮が罠としての宝箱のように迷宮宝石を作り出してくれるので、わざわざ硬いダイヤモンドの加工などはしないのだ。
原料は炭素だし。色んなダイヤを買い込んである。最高級の物は高い。カットの具合やゴミの有無に色など、決められた基準でクラスとか決まっている。探せば原石はあるのではないかと思うが。
だが、その美しさは辺境伯家の高貴な人達さえ魅了した。こちらの世界でも、いい取引ができるかもしれない。
魔物狩りばっかりしていられないので、「交易」を希望したのだ。このグラヴァスのようなところでは、こういう取引も国の許可なく問題なくできるそうだ。
それが大貴族というものなのであるらしい。こういうところは、現代地球とは異なるな。
あと下着類、部屋着類も出してみた。エルシアちゃんはTシャツ・短パンが気に入ったようだ。今までの下着では短パンに収まらないので、下着も地球産にした。
どうせ、外には出られないのでいいか、と両親も許可を出したらしい。お母さんやその妹の方も、色々興味があるようだ。
一応サンプルとして、万年筆も超高級品を渡しておいた。使うインクの種類はくれぐれも気をつけてほしいと言っておいた。
相手がアイテムボックス持ちなんだったんなら、劣化については問題ないんだけど、生憎とそうじゃない。
帰りに寄っていけるかどうかわからないので、ここでの買い物は徹底的に済ませた。山崎はつきっきりでエルシアちゃんのお世話だ。
合田は特にサンプルとしての意味合いで買い物に熱心だ。何があるかわからないので、全員固まって行動する。
相変わらず、むさくるしい迷彩服の集団だが、それもこの町までだ。こちらへ出発する前に師団長の許可は取ってある。
ここからは、自衛隊も制服を脱ぐ事にするのだ。一国の軍人が、許可もなく平服で他国にいるなど、地球なら見つかればスパイとして処刑されてもおかしくないが、目立つと危険なのでそうする事にした。
こちらは多分着ているものなど関係無しに、怪しいというだけで処刑されかねない。
一応、スクードと辺境伯には正式な書類を書いてもらって『許可』をもらってある。それに自衛隊は正式には軍隊ではないため、屁理屈を言えばセーフ。
現地の人の格好をしていく。簡単に言えば探索者のスタイルだ。日頃携行する武器もこちらのものだ。アイテムボックス内には剣呑な兵器を山のように持ってはいるが。
翌朝、庭から直接ヘリで発進した。
「いってらっしゃ~い」
エルシアちゃんが日本語でお見送りしてくれた。山崎が教えたらしい。子供なんで、物覚えがいい。
門兵たちには領主から通達されているので、何も問題はない。王都でも、こんな風に面倒見てくれる人いないかなあ。
あそこは王様がラスボスだから難しいだろうな。異世界から来るのもやはり不法入国だろうか。やはり、ゴルディス家のお屋敷に、お世話にはなりたいところだ。
ここから800キロあまりの空の旅。いろいろ知識はもらってきた。初めての冒険の旅になりそうだ。
空の旅は油断ならない。一つは飛行魔物。まだ、こいつはレーダーがあるから、おそらくはいきなり先制を食らう事は無いはずだ。幸いにして奴らはレーダーに映った。
だがヘリには大きな問題がある。それは騒音だ。ヘリは構造上、基本的にブレードスラップ音がする。巡航中は避けられない。
自衛隊のきわめて低騒音の偵察ヘリも貰ってきてあるが、慣れない機体に山崎が難色を示したので却下となった。それにあれはあまりスピードが出ない。
音だけで何事かと思われるだろう。魔法で撃墜されたら目も当てられない。なるべく高速で移動して、さっさと目的地を目指すという結論になった。
問題はどこまで行くかだが。あまり王都に近づくと竜騎士の迎撃を受ける事になるかもしれないし、遠いと地上での危険が増す可能性がある。
まあ行き当たりばったりといっては身も蓋もないが、他にどうしようもない。そんなわけで俺達は飛んでいたわけだが、なんか1匹追尾してきている奴がいた。
地上におりて隠れてやり過ごしてもいいのだが、こいつは速かった。降りている暇はくれそうもない。双眼鏡で確認したが、この前の奴とは違うようだ。ヘリの中からでは携行ミサイルは撃てない。
というわけで、またアローブーストの御世話になる事にした。速度を落としてもらい横にある扉を開けて、奴に向かって矢をぶっ放した。
だが奴はひらりひらりと避けていく。それは楽しそうに。更に矢を誘導したが、それも見事に交わして行く。
実に楽しそうなのが、その動きから読み取れる。そして遠ざかっていった。双眼鏡でも視認できなくなったので矢はもう俺の制御範囲を超えた。この辺が対空中戦の限界だな。
「なんだったんだ、あれは?」
俺も困惑を隠せなかった。
「さ、さあ。もしかして、遊んでいたつもりなのか?」
ミスリル弾装填の対物ライフルを抱えた青山も首を捻る。
「一応カメラには撮っておいたが」
合田的には、それで妥協したらしい。
まあ、無事だったからいいか。
別作品ですが、「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
も書いております。