3-26 呼び出し
俺達はブラックジャックを出ると、ハンヴィーを出して、21ダンジョンの入り口へと向かった。
「やれやれ。あれだけアメリカから言っても、あんなのが来るんだ。俺は公務員じゃない。あくまで、一介の大富豪だ。あんな糞みたいな貧乏人ども、やろうと思えば札束の力で俺の靴の下にいくらでも捻じ伏せられる。やはり日本政府だな、約束一つちゃんと守れない。いつもの事だが。
今度政府が強引にあんな連中をつけてきたら、一回向こうへ連れて行ってダンジョンの奥に全員置き去りにしてやる。10回くらい連続で全滅させてやったら懲りるだろう」
俺はこういう話にはもう、うんざりしていた。
みんなが、しょうがねえなという感じで軽く笑った。
「まあ、そう尖がるなよ」
「ああいうのは、適当に相手してやればいいんだ」
「いや、駄目だな。ああいうのは、おかしな外国勢力から言われてクズの国会議員が送り込んできているだけだから。俺には一切関係ない。受け付けない」
「まあ、いいけどな」
「今日は新しいパターンを試すぞ」
「へえ、どんな?」
俺の宣言に、池田が訊いてくる。車の運行に関しては奴の管轄だ。
「俺の意思で、ホスト魔物を呼び出してみる」
「できるのか? そんな事」
青山も首を捻っていた。
「だから、試しにやるんだよ。毎回行き帰りが手間でかなわん。いっそ、魔物笛でも作ってみるか」
とはいえ、どうしたもんかな。お、そうだ。
「念話を試してみるわ。車を走らせてみてくれ」
「まあ、どうせ、この前みたいに走らせるしかないんだが」
ドライバーの佐藤が身も蓋もない事を言ったが、まあ確かにそうだ。俺の作業が変わるだけだ。
「じゃ、この前のコースで行ってくれ」
佐藤に頼むと、俺は魔物に対して念話を送ってみた。
(魔物よ。もし、お前達に俺を異世界へ送る役割があるというならば来てくれ。今から異世界へ行くぞ)
ハンヴィーはルート15を突き進んでいった。
(どうした? お前達が俺をあの世界に誘ったのではなかったのか? いや、それともクヌードダンジョン、お前がか?)
そして、151補給所を通過してルート25へと突入した途端に奴らが現れた。
「よし、車を止めてくれ」
俺はあっさりと言ってのけた。
「マジか! おい、大丈夫なんだろうな」
池田もいい顔はしなかったが、対物ライフルを抱えた山崎は飄々と抜かした。
「まあ、こっちには魔法もあるんだ。試してみようぜ」
「ああ、ちょっと楽しみだ」
「あいよ、車両停止っと」
大人しそうな顔をしてはいるが、結構肝の太い佐藤は道のど真ん中にハンヴィーを止めた。
沈黙が違和感のある緊張をかもし出していた。逃走するでもなく銃を取り戦うのでもない。明確な目的のために魔物の群の出方を待っているという、今までに無いパターンだ。
幾種類もの魔物達は襲ってくるでもなく、ゆっくりとハンヴィーを取り囲んだかと思うと、すうーっという感じにその姿を消していった。ああ、本当に消えるんだな。まるで幽霊であるかのように。
気がつけば、俺達も静かに、あの大広場に出現していた。
「ほ、本当に来ちまったな。こんなに穏やかに」
合田が絶句するかのように声を振り絞った。記録官としては、この現象をどうやって報告したもんだかと思っているのだろう。
「ああ、来ちゃったねえ」
車長の池田も感慨深く呟いた。
「まあ。来られたんだからいいじゃないか。次回は、車を走らせないで呼び出すパターンを試してみようぜ~」
あと、異世界で魔物を呼ぶ笛みたいなのが売っていないか、ギルドで聞いてみよう。
俺達は勝手知ったる大広間を出口に向かって進軍した。
「やっぱり、あの魔物達が送り迎えしてくれていたんだな。だって、俺には世界を越えるような能力は無いんだし」
「しかし、肇よ。なんで、お前だけなんだ? 明さんは帰って来られずに、中で殺されてしまった」
「わからん。明さんは一般の魔物に殺されたんじゃないか? 送り迎えしてくれる奴とは違う奴に。ただ一つわかっているのは明さんは魔法が使えない。俺は魔法、特にあまり持っている人がいないという聖魔法の資質があるという事だ。その辺が色んな謎を解く鍵なんじゃないかと思っている。他にも、この世界に来た人はいるのかもしれないが、多分自力では帰れまい」
「それはどういうことだ?」
「多分、こっちへ力の補給に来たついでに、なんていうかな、人材を求めているというか。まず魔物に追われて生き延びられるもの、そして世界を越える資質のあるもの。その中で一定の基準あるいは能力に該当するもの、とかじゃないかと思っている。
迷宮は何かの救いを求めている。それが期待できる人間に便宜を図っているんじゃないのかという仮定を立てている」
「うーん、訳がわからないな」
合田も首を捻る。
「アンリさんが言っていた、儀式とやらと関係があるんじゃないかな。俺も詳しいことはわからないな。調査を進めていくと、意外なとこから判明するかもしれんぞ」
「まあ、いいのだけど。ところで例の解体場に向かっているんだが、それでいいよな?」
「あ、ああ。そういや行き先を言っていなかったな」
佐藤が気を利かせて、子供達のところへと向かってくれていた。
あっという間に着いたが、何か外で揉めていた。
俺達が入っていったので、そこにいた男達がギョッとしたらしいが構わず乗り付ける。
山崎が間髪入れずに宣言した。
「全員戦闘用意」
別作品ですが、「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
も書いております。