3-25 有象無象を蹴散らして
翌朝、守山へ顔を出した俺を、なんという事もない笑顔で山崎は迎えてくれた。
こいつの、こういうところも買ってリーダーに据えられたのかな。でも、最初から心の強いリーダーばっかりじゃないさ。俺のダチ公は凄いな。やっぱり、俺なんかは自衛隊に残らなくて良かった。
もう、いちいち師団長に断らずに出かけた。これから何回行くかわからないのだし。
午前中一杯は中将とトライ、その後で山崎達とクヌードに向かう予定だ。
ブラックジャックへ到着し、俺以外は全員戦闘装備で待機となった。
「もし夕方16時までに帰ってこなかったら、異世界へ行ったと思って、みんな一旦戻ってくれ」
「確率的にどうだい?」
「なんともいえないが、あまり分はよくないな。だから、お前らがここにいるんだ」
俺は到着するなり、外で待っていてくれたエバートソン中将を連れて、そのまま車でダンジョンへと潜っていく。
「ふふ。こんな事を言ってはいかんが、なんとなく、わくわくするな。こんな事はいつ以来だろう。子供の頃、ひいひい爺さんが南北戦争で使っていた小銃を実家の納屋で見つけて以来かもなあ。ははは」
なんか、すげえ歴史感じるな。アメリカよりも、日本の方が歴史は古いはずなんだけど。
エバートソン中将は、まるで子供に帰ったかのように楽しげに振る舞った。ここには、彼にうるさい事言う連中は誰もいないしな。
「いいですね。できれば、このまま異世界へ連れていってあげたいのですが、自由に行けるわけではないので」
「構わないさ。こんな、わくわくした気持ちでいられるのは、何年ぶりの事だろう」
そして、午前中一杯かなりの時間走り回ったが、異世界へ辿り着く事はなかった。
だが中将は、非常に満足そうにハンヴィーから降りていった。
「スズキ、どうやら米軍関係者は向こうへは行けそうにないが、引き続き宜しく頼むよ」
俺は21ダンジョンから戻り、ブラックジャックで再び仲間と合流したが、そこで予想外の事態が起きていた。
そこで俺を待ち受けていたのは、背広を着たどこかのお偉いさんと、そのお供。自衛隊広報の女性、更にマスコミの記者だった。
「さあ、出かけるぞ。さっさと連れていくんだ。まったく、散々待たせおって」
なんか偉そうに言っている馬鹿がいた。
「では宜しくお願いします」
広報の女性隊員も頭を下げた。
「へへ、さあ特種の時間だ」
卑しい笑いを浮かべるマスコミ記者が2人。
俺は無視すると、あいつらに声をかけた。
「さあ、行くぞ」
奴らはいいのかいな、とでも言いたげに付いて来たが、置いてきぼりの連中が駆け寄ってくる。
「待ちたまえ! これは政府の決定だぞ。我々を置いていくとはどういうことだ」
「そうです。自衛隊からの派遣人員は政府が決めるのですから」
「マスコミをないがしろにするとは、一体どういう」
俺はすうっと息を吸い込んでから、思いっきり叫んだ。
「うるせえ!」
人間重機のとんでもない大声で怒鳴りつけてやったら、全員貝のように沈黙した。
「これは民間人である俺が主催するツアーだ。俺は俺個人とアメリカとの契約に従い異世界に行くだけだ。お前らは一体どこの誰だ。日米政府の話し合いで、俺に対してこういう干渉はしない約束になっている。国同士で取り決めた話に、お前ら如き下っ端風情が口を出すな」
「しかし」
役人らしき男がしつこく言い寄ってきた。
こいつもどっかの国から息がかかっている奴だな。賄賂の額は幾らだ、この売国奴め。もう、うんざりするぜ。いっそ向こうへ連れていって……。
「黙れって言っているんだ。俺は日本政府の人間じゃない。ただの民間人だ。政府とも自衛隊ともマスコミとも何の関係もないね。俺が要求した人材をアメリカが用意してくれたから、そいつらを連れて行く。てめえのケツも拭けねえようなバカを連れていったとしても、肉壁の役にも立たねえんだよ」
そして、俺は複製品の89式自動小銃を乱暴に議員のおっさんに投げつけた。おっさんは飛びのいて、かろうじて避けた。ちっ。激しい音を立てて銃は転がった。
「カメラなんて誰でも持てる。銃を持てない奴に一緒に来る資格はない。異世界は厳しい場所だ、誰も守っちゃくれない。俺の生存確率を下げるお前らのような連中は連れていかない。精鋭のこいつらを連れて行く」
俺の剣幕に奴ら全員が言葉をロストしたようだ。連中はまだ何か言いたそうにしていたが俺は無視して歩き去った。
「肇、さっきのはまずくないか? 後でうるさいぞ、きっと」
合田が気にしていたが俺は首を竦めた。
「それは、お前らのせいには絶対にならないから。もしそうなったら、さっきいた連中なんか全員懲戒解雇扱いにしてやる」
「まあ、その辺は大将のお前に任せるよ」
山崎は相変わらずだ。どっしりと構えている。この間の一件で更に一皮向けただろうか。
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別作品の書籍、重版されるそうです。びっくりしました。