3-22 家飲み
家で久しぶりに山崎と飲む事にした。何故か川島もついてきた。当日に飛び込みで名古屋のホテルをとってエステとか楽しむ予定をしていたらしいのだが、一緒に異世界談義したかったらしい。
妹の友達もお泊りになった。こっちも目的は同じなようだ。美希ちゃんだけは俺が送っていった。
帰ってきたら山崎が料理に勤しんでいた。こいつも格闘表彰持ちの猛者だが、やたらと器用で料理とかガツンとこなす。
またボンボンだっただけあって、いい物食っていやがったから、うまい物を作るんだ。材料は今日大量に仕込んできたし。
「まあ、真吾ちゃんのお料理は相変わらず凄いわねえ」
うちに来ると、大概こいつが料理を担当する。
お袋が楽しみにしているので。こいつはかなり男前なんだが、おばちゃん受けする可愛いとこがある。俺は「あんたは可愛げが無い」と、実の母親からもよく言われる。
向こうの世界で、料理でもエブリン(師匠)と呼ばれてもおかしくない。こいつは絶対に就く職業を誤っている気がする。
「そら、肇。ブランドポークのソテー中華風だ。あっちで、XO醤とか受けるかな?」
「大丈夫じゃねえ? あいつら、美味い物なら、なんでもこいだし」
俺はカウンター越しに皿を受け取って、中国酒を一杯やった。淳は特製焼きそばをもりもり食っている。奴は、すっかり山崎に餌付けされていた。小学生の頃からの顔見知りだ。今まさに食い盛りだし。
ここは、元々離れだったとこなんだが、金が入ったので急遽カラオケバー風に改造してある。防音もしっかりしているし、酒もいいのを揃えている。
できたばかりだが、もっぱら、お袋が近所のおばちゃん呼んで楽しんでいるらしい。中はそれなりに広い。バーとして営業してもいいくらいだ。今日もお袋の友達が2人来ている。
ネットで見た、小洒落たスポーツバーっぽくしてある。山崎の奴も髪を伸ばして少しお洒落に染めたら、充分かっこいいマスターになれるのだが。頭は残念ながら自衛隊ルックだ。
亜理紗の要望で、山崎がカクテルを作っている。こういうのも、お手の物だ。こいつの実家には、ちゃんとホームバーがある。亜理紗、まだ19歳なのにそんなに飲むなよ。
今度、解体場のチビには山崎の料理を食わせてやろう。野外調理でも遺憾なくその威力を発揮する男だ。
俺と川島は、カウンターに陣取って山崎と話しながら楽しんでいた。生ビール注ぎは俺が担当したし、川島が配ってくれた。
淳は山崎に呼ばれるとウエイター役だ。この子は、こういう仕事も合っているかもしれないな。
「ねー、鈴木、今度異世界連れていきなさいよー。あんたがメンバー人選しているんでしょう?」
「無茶言うなよ。あっちは治安が悪いんだ。女なんか連れていけるわけがない。また新しい町へ行く予定だしな。あっちの方は飛竜に乗った竜騎兵みたいな奴がいる。ヘリが撃墜されてもおかしくないんだ。それにドラゴンみたいな奴もいるらしいぜ。探索者の親玉から、会ったら絶対に逃げろといわれているような奴が」
「えー、つまんない。女は損だな。レンジャー訓練だっていけないし。鈴木だって資格持ちだったのに」
おい……。まあ、それで自衛隊辞めたって言われれば、そうなんだが。
「司令が許可くれるわけがないだろ」
「ああ、でも肇。司令部は広報の女を連れて行かせたいらしいぞ。まあ、上の都合だろうけど」
だが山崎は隊長として懸念しているようだ。
「アホか。それこそ、連れていけるわけがない。俺は今でも覚えているぞ、フィリップの死に様を」
「肇、向こうはそんなに危険なのかい」
父が突然に声をかけてきた。
「うーん、一般的には危険かな。ただ、自分の身は守れるのが最低条件だから。その条件で絞るなら、ここにいる人間で連れていけるのは、俺以外ではこの2人だけさ。ただ、場合によっては、地球で言えばISの支配地域に入るようなもんだから。女連れは厳しいってわけだ。
あの21ダンジョンを抜けた場所、迷宮都市クヌードへ行くくらいなら父さんや淳なら連れて行っても大丈夫だけど。ただ、遊びに行くんじゃない。自衛隊が行くからには調査目的がある。未知の部分へ入らざるを得ないからな」
「ふむ。そうか。お前が行かないと駄目なのかい? お前はもう民間人なのだし」
父はいつも俺の心配をしてくれている。異世界へ行っているのも快くは思っていないのか。親なら当たり前かもしれない。
「うーん、今のとこ、俺が連れていかないと誰もあちらへは行けないんだ。偶然以外は。俺だけなら大丈夫さ。何故か俺は魔法適性が高くて、向こうでも少々の事はなんとかなる。山崎がいてくれれば、空を移動できるんでリスクも減る」
「そうか。必要な事なんだな」
「ああ、へたすると、こちらのダンジョンにも影響のある話があるかもしれないんで、行かざるを得ないよ。ダンジョンが、この先もあのまま大人しくしているかどうかもわからない。日本政府はその辺を危惧しているんじゃないかな。次回はそのあたりも調査しないといけないだろう。
日米政府は関係ないようなお荷物を連れていかせたいらしいが、断固として拒否するよ。決定権は俺にある。俺の仲間は少数精鋭で選び抜いた連中だ。陸空の移動、射撃、情報の記録や分析。これ以上の人数は機動力を削ぐ。お荷物のお世話ができる人間なんか余ってないしな。第一こっちの命が危なくなる」
「ふむ。まあ、なんにせよ、怪我とかは気をつけるようにな」
「ああ。一応、色々準備はあるし、無理をしないのが自衛隊のいいところだから。ダンジョンだって、外の警備をしているだけなんだぜ」
「ねえ、お兄ちゃん。異世界って楽しい?」
亜理紗が珍しく、真面目そうな表情で聞いてくる。
「うーん、なんていうか、リアル西部劇みたいな世界とか冒険活劇みたいな日常が好きな人なら、楽しいかな。ぶっちゃけ、自衛隊で自ら地獄のレンジャー試験に行きたいと、ハイハイと手を上げるようなタイプならいいかもな。一言でいやあ、そこの2人みたいな奴らだ。淳だったら、クヌードを出たら根を上げるだろう。よく訓練されていて戦う術を持っていて、敵が現れたらただちに兵器を持って戦える人間でないと楽しめないかなあ」
「うわあ。ちょっと行きたくないなあ」
そういや、今日のメンツは黒帯ばっかりだな。俺、川島、山崎。淳に親父にお袋。亜理紗は空手をやるのを嫌がったんで、残念ながら俺の家族はパーフェクト黒帯一家にならなかったが。
「その前に、行くための通路がダンジョン内にしかない件について。なおかつ、何故かそこで大型魔物に追い回されないと行けない点について」
「お兄さん、それ最悪じゃないですか」
妹の友達が、チューハイ片手に嫌そうな顔をした。
「そんな危ない事しているのかい?」
お袋が少し険しい表情になった。
「いや、そいつらは多分、俺には危害を加えない。今までも、そいつらと戦闘になった事は1度も無い。きっと奴らはダンジョンの意思によって、俺が望んだ場合、俺が連れて行く人間と一緒にあちらの世界に運んでくれる運び屋なんだ。何故ダンジョンがそうするのか、はっきりした事はわからない。でも、それこそが、日本にダンジョンが現れた真の理由なんだと思ってる」
「そうなの? 訳がわからないわねえ」
お袋も困惑しているようだ。
「まさにそれだよ。日本政府も自衛隊も探索している米軍も、こちらの世界の人間には俺自身も含めてまったく訳がわからない。そして向こうの迷宮都市の人間は、日本がこんな事になっている事すら知らなかった。
あちらの世界に、こんな事になった原因を作った連中がいるらしいが、そいつらだって知ってはいないんだ。それらのパーツを含めてなお、ダンジョンが何考えているのかなんて事まで考察して、初めてこういう事であったのではないかという最終結論がわかるという、そんなお話さ」
「お兄ちゃん、それこそ何がなんだか訳がわからないよ?」
亜理紗はグラス片手に眉を顰めている。
「ああ、わからん。だが、行って調査してこないといけない。何しろ、このダンジョンなんて異物が、日本のど真ん中に大量に居座っちまっている現実がある。俺の家の近くにだってあるんだ。放っておいていいなんて思わない」
「そうか。大事な仕事だ、頑張りなさい。だが怪我とかには気をつけなさい。じゃあ、私は先に休ませてもらうよ。お休み」
「お休み、父さん」
「お休みなさーい」
「お休みー」
妹達も、これからお風呂に入ってガールズトークが始まるのだろう。近所のおばちゃん達も引き上げていった。俺達自衛隊組3人だけが残った。
「また異世界に行くんだ」
川島が興味深げに訊いてくる。
「ああ、今回の報告書を見て日米政府並びに米軍や自衛隊がどういうオーダーを出してくるかだな。ビジネス上の問題を除いても、安全保障上の問題は残る。このままダンジョンが残ったり、拡大したりすれば、対応のための人員・コストがいるし、そして著しく防衛戦力の低下を招く事にもなりかねない。どうなるんだろうな」
「次も俺達が行くのかな?」
カクテルに口をつけながら山崎が尋ねる。
「来てくれないと、俺がグラヴァスまで行くのも難儀になっちまう。そういや、エルシアのお嬢様がまた膨れっ面になっているんじゃないか?」
「ははは。また何か持っていくのか?」
「そうだなあ。また明日仕入れに行くかな。付き合えよ」
「そうだな。俺は門限までに帰れればいいから」
俺達もそのへんでお開きにした。川島はここを使ってもらう。鍵もかかるし、付属のシャワーもある。簡易ベッドだが、我慢してもらおう。
別作品ですが、初めて本になります。
「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
7月10日 ツギクルブックス様より発売です。
http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html
こちらはツギクルブックス様の専用ページです。
お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。