3-19 取引
今日は金曜日。俺はブラックジャックへと来ていた。取引のためだ。買い取りのために、米本土とヨーロッパから買い付け人が来ている。
だが、そう心配する必要はない。彼等は俺の言い値で買ってくれるからだ。それ以上のはるか高額で買ってくれる客が順番待ちしているのだ。
彼等は前金で大枚予算を持ち込んでいた。まあ、口座振込みなんだけれども。
『やあ、Mr.スズキ。ごきげんよう。今回も大収穫だったようだね。君の帰還を待ち焦がれていたよ』
『それはどうも。本当ならもう少し向こうにいたかったんですが、色々報告する事もできましたので。また行きますけどね。一応、北の大きい街へも足を伸ばしましたので目新しい品も存分に。また前回好評だったものについては重点的に仕入れました』
『ところで、ミスリルの仕入れ具合はどうです? 米軍としては、そのへんのところが気になるのですが』
エバートソン中将が話に割って入った。上の人から言われているんだろう。
『ああ、ご心配なく。今回は、それなりの量を持ち帰りました。残念ながら、それ以外の魔法素材はまだ確認できていませんが』
『それでは、取引を始めますか』
今回も盛況だった。新しい品と人気商品に加え、ミスリルの量を大幅に増やしたので、量的には3倍だが価格的には5倍の4000億ほどになった。これで資産7668億円といったところか。どうせ、そう使いはしないんだが。まあ、金はあって困るものじゃない。
各種レポートを提出して、エバートソン中将と話をした。
「異世界へ行く方法なんですが、多分迷宮自身の力によるもの、もっと正しく言えば迷宮魔物の力で誘われているのかもしれません」
「というと?」
「迷宮魔物は迷宮が生み出しているもの。それが迷宮の意思のようなものにより、選別して向こうとの行き来をさせているような。ぶっちゃければ、私には世界を越える力は無いという感じではないかと」
「ふうむ」
しばし考える風で、やがて顔を上げて訊いて来た。
「もし、君がそうだというならば、どんな理由だと思うのかね?」
「ズバリ私の魔法適性ですね。なんらかの理由で迷宮が私に助けを求めているのです。まだ、その辺は調査してみないと、なんとも。今の時点で言えるのは、おそらく米軍関係者にはあちらへ行く事はできないのでは」
「それは何故だね?」
俺は目を細めて、中将をじっと見つめる。
「本当にお分かりにならないと?」
「教えてもらいたい」
「あなた達はこの作戦を侵攻と呼んでいた。ダンジョンはあなた達を信用していません。あなた方をあちらへ連れていったら事態がより悪くなるとダンジョンから思われているのでしょう。おそらく全ての通信や会話はダンジョンに聞かれて理解されていますよ」
俺のあまりの言い草に、さすがの中将も頭を抱えた。
「あくまで推論ですけどね。おそらく、軍関係者だけでなくアメリカ政府関係者を連れているだけでも、俺まで出禁じゃないですかね」
「そ、そうか」
「どうなさいます? アメリカも撤退しますか? その時点で俺も撤退ですが。まあ結構稼げたし、俺的にはもう満足です」
ちろっとドヤ顔で言ってみた。
「それは駄目だ。たとえアメリカ軍が行けなくても、君が行ける間は。偉い人達が納得してくれんよ」
「アメリカの大統領など小間使いに過ぎん、と呼ぶ連中が?」
「わかっているなら聞かんでくれ」
まあ、そいつらが俺にとっても重要なスポンサーではあるのだが。
「では、アメリカ関係者は連れていけないということで宜しいですか?」
「1度試させてもらえないかね? そうでないと上に納得してもらえんよ」
「わかりました。こちらで準備出来次第、試してみましょう。自分も、推論が当っているのか確認してみたいですね。どの道大軍を連れていくのは無理ですよ」
「わかっとる、わかっとる。やってくれるだけで充分だ」
俺は早い時間に会合を切り上げて、会社へ向かった。
「ちわ~す」
「おや肇ちゃん、久しぶり」
受付のおばちゃんの早苗さんが笑顔で挨拶してくれた。若い社員は皆子供のように可愛がってもらっている。俺も新人の頃は凄く御世話になった。
「ただいまっす。あ、これ御土産です」
ちょっとした飾り物をプレゼントした。
前回の時なら、こんなものでもそれなりの値打ち物だった。軽く1億円だ。今はキーホルダーくらいの感覚かな。
「悪いわねー。あ、小山田さんなら奥にいるわよ」
「課長、ただいま戻りました」
俺は上司に帰還の挨拶をした。
別作品ですが、初めて本になります。
「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
7月10日 ツギクルブックス様より発売です。
https://twitter.com/tugikuru
口絵公開コーナーに試し読みページついております。
http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html
こちらはツギクルブックス様の専用ページです。
お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。