3-16 帰還準備
店の方が一段落したので、正さんがテーブルに座り、切り出した。
「さて、お話ってなんだい?」
「実は、もっとあれこれ調査してから日本に戻るつもりだったのですが、きな臭い話も漂ってまいりまして。自衛隊にいる連中も上に報告しないといけないでしょうし。で、正さん。場合によっては日本に退避する可能性も考えておいてください」
正さんは、軽く目を細めて、聞き返した。
「そんなに具合が悪いのかい?」
「まだわかりません。この世界全体を巻き込むような動乱が起こる可能性が出てきました。いわゆる宗教戦争です。これはもう国家同士の戦いですらなく、世界を二分するような争いでありますので。
このクヌードは中央政府よりは距離をおいていますので微妙ですが、ここの迷宮都市の領主であるゴルディス辺境伯の近辺がきな臭くなってきている事実もあります。先の事は全くわかりません。なんともいえないのですが」
「そう。嫌だねえ、戦争は」
少し眉を潜めながら、軽く一杯やって考え込む様子で。
「わかった、色々な事を頭の中にいれて対処するようにするわ。その時は宜しくね」
「わかりました。心積もりしておいていただけるだけで違ってきますので」
俺は出してくれた御茶を啜って言葉を続けた。
「なるべく、俺はこちらの世界にいるように心がけますが、いざとなったら退避していただかねばなりません。本当なら、もう日本へ帰るようお勧めしないといけないのですが。今はまだ、そういう話も出てきたという段階ですので」
正さんも、日本酒をチビチビやりながら、思案顔だ。
「それでは、帰還の準備もありますので、今日はこれで」
「ああ、気をつけてお帰り」
俺達は、マサさんに見送られながら、若干重めの足取りでマサを後にした。
俺は、翌日スクードを訪ねて、アンリさんから聞いた話を蒸し返した。
「邪神か。そうだな。そういう線は十分にありうる。ここは、探索者の街だから、それほど荒れるという事は考えにくいが、なんともいえん。世界を揺り動かすような事態になるというのであれば、この国もただでは済まないだろう」
「で、具体的には、迷宮がどうなっているんだい?」
俺は責任者に訊いてみた。
「まあ、考えられる事といえば、迷宮の持つ魔力、これを利用しているとかか。迷宮が何らかの儀式で魔力を吸い上げられているとかだな。
そして、弱った迷宮がそちらの世界へ、お前が言うところの根を伸ばしたと。迷宮の持つ空間魔法の応用なのかもしれん。なんとも言えんがな。
そして、そういう主神交替のような時に、お前らみたいなのが来るのだそうだ。そう考えれば、お前らがいる事自体が、その証拠みたいなものかもしれないな」
なんてこった。
「そんな話をされると、まるで迷宮が俺達に助けを求めて、わざわざ呼び込んだかのように聞こえるが」
「ふふ。案外、そういうものなのかもしれないな。実は、今の主神ファドニールに替わる際にも色々とそういう話はあった。中でも聖魔法の持ち主はな。前から1度言おうと思っていたが、お前が持っている聖魔法適性は、滅多な事で持っている奴はいない。
お前らは魔力が強いらしいし。今は使えていないからいいと思っていたが、世界が宗教的な動きに揺り動かされるようになってきたのだとしたら、この先に何らかの係わり合いを余儀なくされるかもな。その件であまり不用意な動きはするなよ?」
げ、そんな話は聞いてないぞ。そういう大事な事はもっと早く言えよな。
「とりあえず、いっぺん帰ろうと思っている。またすぐ来る予定だけど。ヤバイようなら、正さんだけでも連れて帰らないといけない。本来なら今回連れていくべきなんだが。
あの歳なんだ。自分の人生は自分の好きなように生きたいだろう。こんな事言いたくないけど、日本も暮しやすいばっかりじゃないんだ」
自衛隊だって53~54歳定年で、そのあとの生活はまた違った意味での戦いになる。
「そうか。また何か情報が入ったら押さえておくとしよう」
「ああ、頼んだぜ。なんか変な話を聞いたんで、おかしな気分だ。じゃあ、今回はこれで」
俺は、あっちこっちで挨拶をして、一旦帰る事を伝えていった。お、今回はミリーちゃんに会えた。なかなか会えなかったんだよな~。帰る間際じゃなければ、くどいてみるのに。
「スズキ、元気していた? お蔭様で兄さんも、すっかり元通りよ」
「ああ、元気だったけど、今日これから国へ帰る予定なんだ。せっかくミリーに会えたのに残念だ。またすぐ来る予定だけれどね」
「そっか。じゃあ、またね~」
天使は笑顔で去っていった。
なんて間の悪い。いくら金持ちになったからといって、日本ではそうホイホイとあんな子とお近づきになるチャンスなど無いというのに。
他の連中は資料となる物品を買い集めたり、撮影などしたりしている。
俺も帰りには、色々買い集めて回った。今回買い物はグラヴァスがメインで、色々目新しい物を中心にしていた。
暇な時には、原料の銀を買い込んでミスリルをガンガン作っておいた。今回の収益の柱はこれでいいかな。
そして、定番の人気商品をクヌードで仕入れまくった。お客さんのリサーチは済んでいるんだ。
出発前には、エバートソン中将が分厚い要望リストを笑顔で手渡してくれた。まあ俺には金蔓になるものなんで、別にいいんだけどね。
後は、チビ達のところだな。
他の連中と合流して、解体場へと向かった。
「ロミオ!」
「あれ、どうしたの、こんな時間に来るのは珍しいね。またカラテ教えてよ」
「いや、今日は、また戻るんで、挨拶に来たんだ」
「ふーん、そっかあ」
今回ちゃんと戻ってきたんで、割と軽い雰囲気だ。
「俺はもちろん、またやってくるが、あいつらは来られるかどうかよくわからない。できたら、またみんなで来たいけどな」
「えー、そうなの~」
「駄目―、絶対みんなで来てー」
子供達から、クレームがついた。みんな、すっかりうちの連中と仲良しになったのだ。
「俺としても、そうしてもらいたいところなんだが、こいつらは国に雇われているんだ。そうそう俺の勝手で連れまわすわけにもいかないのさ。もっと手軽に行き来できれば別なんだけどね」
それだったら土日に行ってもいいんだが。ダンジョンの外から、スパっと魔法でいけたりとかしないもんだろうか。まあ、適性の問題があるんだろうけど。
「ふーん」
なんか不満そうだ~。
「まあ、とにかく、一回帰るんで。じゃあ、元気でな」
「バイバーイ」
みんな入り口に勢揃いで手を振ってくれた。
別作品ですが、初めて本になります。
「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
7月10日 ツギクルブックス様より発売です。
https://twitter.com/tugikuru
口絵公開コーナーに試し読みページついております。
http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html
こちらはツギクルブックス様の専用ページです。
お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。