3-15 邪神派
俺達は餓鬼共のところへと向かった。ランクルのエンジン音を聞いてわらわらと集まってきたので、グラヴァスの土産を配っていく。
嗜好品や綺麗な細工など、そういった物はやはり、この辺境の都市よりも北方の方が品揃えもいいようだ。
櫛とかもらった女の子が一生懸命髪を梳いていた。うまくできていないので山崎がひょいと抱き上げて梳いてやる。こいつは、そのへんの気配りが自然体で抜け出ている。
それから、俺達は柔軟をやり走り出した。少しハイポート(銃を抱えて走る)もやってみる。そして格闘訓練を行なった。子供達が熱心に見ている。ちょっと真似事をしていたので、軽く手ほどきをしてやった。
そのうちにアンリさんがやってきたので、格闘教室はそこでお終い。奴らは、お仕事の時間だ。
それを見守ってからマサへ行く事にした。みんな解体が上手になったので、そうそう手を切ってしまう事もないだろう。
丁度いいのでアンリさんに色々お話を窺う事にした。わかる範囲で、と前置きしながら話してくれた。
「この世界は、今は結構安定しているわね。昔は戦乱の時代なんかもあったらしいけど。国々は各々十数カ国にもなる同盟を組み対峙する事になったので、戦争ともなると大掛かりで睨み合いになるか大紛争になるかのどちらかだった。王達は戦争による利益よりも不利益の方が大きくなってしまったので、戦わなくなってしまったわ」
この世界でも、やっぱり戦争は金次第か。もっと異世界らしい激しい時代を感じていたのだが、意外と擦れているっていうか、なんかドライな奴らだな。異世界に抱いていた幻想が少し崩れ去った。
「それでも、神に関する事だけは譲れないとう感じね。これはやっかいよ。国の中でも統一されているというわけではないし。少数派と侮っていた宗教勢力に食い込まれて国家転覆なんて事もあったわ。事例的には少ないけれどね。そういう国はだらけているところがあるような、いずれは別の要因で滅びたと思われる国なので、各国の王も深刻には受け止めてはいないの」
俺は、少し考えこむ感じで尋ねる。
「この国はどうなんだ?」
「この国は非常にしっかりしているわ。国自体は、ゆったりとした雰囲気で暮しやすいけれど、そういう事はしっかりしているの。歴史もある国だから、このあたりの盟主の役割をしているわね」
「今、きな臭い話は?」
「うーん、そんなには聞いた事ないけれど、どうかしたの?」
「実は……」
俺はグラヴァスで起きた事件について語った。
アンリさんは年齢に不相応な、大きめの溜め息を吐いて。
「それは、恐らく……邪神派と呼ばれる連中の仕業ね。うーん、また、ややっこしい事になっているのね」
「邪神……ややっこしいとは?」
「その邪神というのは、前回の主神だった神の事なの。なんていうか、本来は邪なものではなくて世界中が崇めていた神様だったのが、うつろう時の間に世代交代して他の神にとって代わられただけで、別におかしな話ではないのだけれども」
その言い回しが気になった。
「けれども?」
「その神の時代はとても長くて、力があったのよ。だから、今でも古い王国や家柄などでは崇められているわ。でも、長く続いたからこそ、なんていうか後遺症というか、そういうものが残るのよ。邪神なんて、ただのいいがかり。前の勢力が大きかったので自分達に都合が悪いからそう称しているだけで、それはそれで立派な神様だったの」
ああ、そういう話。すると、恐らくは大変面倒な事だな。やれやれ。
「それが世界に及ぼす影響って、どれくらい?」
「油断すると、世界がまた戦乱の時代に落ちかねないかもしれないわね。だからこそ、王達は追及の手を緩めないでしょうから、水面下では激しいことになるわ。グラヴァスでの一件も、そういったものなのでしょう。間違いなく王にまで行く話ね。辺境伯は既に国王まで報告を上げているでしょう」
「それは、どれくらいのものなんだ? この世界の安定を崩しかねないほどの?」
「わからない。ただ、大きかった勢力であるが故に、邪神扱いされた反動のようなものが内に篭った反動は大きいかもしれないわね。私にはよくわからないわね。そんな話が詳しく知りたかったら、王都にでも行くしかないわ」
そして、彼女の横顔には陰りが感じられた。
「何か気がかりがあるなら言っておいてくれないか?」
「そうね。思い切って言っておくわ。そういう話の中で、あなたの世界へ迷宮が出現したのかもしれないという事よ。
かつて、世代交代の終わった神を主神の座につけようとして儀式を行なった連中がいたの。迷宮が絡んでいたと聞くわ。
奴らの企みは功を奏しなかったけれども、その可能性を後世に残した。今回の主神交替は、大掛かりなもの。そんな事も手立てのうちに入れている事も計算できるかもしれないわね。
既に何かが始まっているのかもしれないわ。この世界の全てを巻き込むような何かが。何もかも今の段階では憶測だけれども、この世界では充分に有り得る事。それ以外は言えないわね」
思ったよりも大事じゃないか。説明したら全員渋い顔になった。
「おい、どうする?」
合田がやや険しい表情で聞いてくる。
「方針変更。一旦帰って報告しよう。もう1回来るか、色々打ち切りにするか。それ次第だな。この世界を巡る陰謀のようなものが、俺達の地球にも影響を及ぼしているって事になる。もう、俺達で判断できる事じゃなくなってきた」
俺はバンザイで返事を返した。
「わかった。一旦戻ろう」
山崎が判断を下した。
「じゃあ色々支度するから、それから帰ろう。お前達も次回来られる保障は無いから、心おきないようにしておいてくれ」
もうかなり遅くなってしまったので、アンリさんをギルドに送ってから、その足でマサへ向かった。
例によって奥で着替えて、席についた。
「どうしたの? みんな辛気臭い顔をして」
「え、ええ。色々調査して、芳しくない話も出てきましたので。マサさんとも、後でお話をと思いまして」
「そうかい。まあ色々あるもんだ。話は後で聞くよ。さあ、飲んだ、飲んだ」
別作品ですが、初めて本になります。
「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
7月10日 ツギクルブックス様より発売です。
http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html
こちらはツギクルブックス様の専用ページです。
お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。