3-14 クヌード凱旋
「ただいま」
スクードの机の前で、そう一言。
ギルドの開けた庭にヘリで乗り付けて、帰還の挨拶をしているところだ。ここにワイヤーが無いことは確認済みだ。というか、張るようなワイヤーはないし、ロープを張るようなものが無い場所だ。
『お帰り。で、あれは何だ』
平然と出迎えるスクード。
「ヘリコプターというものだ。俺の世界では御馴染みのものだが、操縦するのは非常に困難な代物だ。俺達の中でちゃんと操縦できる免許を持っているのは、そこの山崎だけだ。金と労力がかかり過ぎるので、普通の人はそんな技能はない。自衛隊でもヘリの免許持っている奴なんて、本当に数えるほどでしかない」
『そうか。安心したよ。あれが日常茶飯事かと思うと目眩がする』
「何、金さえあれば、いくらでも日常茶飯事にできる。俺なんか、お蔭様で自家用ヘリを乗り回せるような身分になれたよ」
『世界は変われども、金の力は変わらないか。それでも、お前は他の連中と変わらない格好をしているんだな』
あ、こいつにも言われちまったぜ。
「でもさあ、あんただって相当なもんだ。そんなデスクワークしていたって、牙が抜かれたようには全く見えない。むしろ、現役の頃よりも研ぎ澄ませていないか?」
自衛隊にも、そういう人はよくいた。世の中、油断も隙も無いのだ。何度、眼鏡の事務のおっちゃんとか、業務課の女の子とかに訓練で放り投げられたことか。
スクードは肩を竦めて言い放った。
『そんな事はお互い様だ。お前も、充分俺のようなタヌキになる素養があるぞ』
タヌキの自覚はあるんだな。この世界でも、そういうのはタヌキって言うんだ。
「それより、帰りは飛行魔物に襲われちまった。情報不足で雑な戦い方をしてしまった。情報が欲しい」
俺は、帰り道に襲われた魔物の写真を見せた。
『これはイルクット。爪竜という意味だ。王都の飛竜とは異なるものだ。あれは、ファルクット、聖龍という意味だ。一般には、皆飛竜というがな。
イルクットは、それほど攻撃力は無いが速くてでかい。あの図体だけでも脅威だ。嘴も爪も鋭い。羽ばたきも強烈だし。狙われると難儀だ。しつこいし、神出鬼没だ。街道では最も恐れられている魔物の一つだ。初見でよく退けたな』
あら、強敵だったのね。高速仕様のジェットヘリが魔法でブーストして振りきれなかったからな。
「そのお、いわゆるドラゴンっているのかな。なんというか最強で、強力なブレスを吐き、でかい。とにかく最大最強の龍だ」
俺は念話に強くイメージを込めて訊いてみた。
スクードは溜め息を吐いて、
『それは、おそらく【死を運ぶ者】と呼ばれている奴の事だ。最近は目撃例というか、出現例が報告されていないが……見かけたら、問答無用で逃げろ。多分、一目でわかるぞ』
ドラゴン、ここでも最凶でしたか。
「ちなみに、そいつの事は何ていうんだい?」
スクードは、まるで言葉に出すのは災いを呼ぶ事であるかのように、声を落とし囁いた。
『ドルクット。恐ろしい竜の意味だ』
覚えおこう。そして、見かけたら全力で逃げよう。
とりあえず、クヌードに帰還したので息をつきながら、宿で会議を始めた。また、いつもの宿に拠点を移したのだ。宿の名前は、『華やかな楽園』亭という。楽園というのは、ダンジョンの事らしい。
確かに、冒険者に可愛い子は多いんだけどさ、楽園と呼ぶにはあまりに血生さ過ぎる。案の定、親父さんは探索者上がりだった。ここで昼食をとった後に、会議としゃれこんだ。
「で、クヌードに戻ってきたわけだが、これからどうする?」
俺はいつまでいてもいいんだが、こいつらは公務員だ。適当なところで、報告を上げねばならない。まあ俺だって、米軍が報告をお待ちかねなんだが。報告書を出さないと、会社に後金も入らない。
「そうだな。色々資料が集まったんで、1回報告書を出さないといけないんだが、まだ充分資料が集まったとは言えない。俺達もそうそう何度も異世界に来てばっかりもできない」
情報分析任務の合田が発言する。
「やっぱり、そうだよな。山崎がいてくれないと、俺だけじゃヘリも飛ばせないから、なかなか遠くまでは行きづらいし。日本へ帰るのは、もう少し調査をしてからにするか。王都へも行ってみたいし。本当だったら王様の顔を拝んでくるくらいでないといけないんだが。お祭りはいつなのか、聞いてくればよかったな。スクードに聞いてみるかな」
俺が個人的に商売するだけなら、このクヌードだけでもいいんだが。とりあえず、クヌードからグラヴァスまでの地図は作成した。
「他には何かあるかい?」
「後は、やっぱりこの間の件じゃないのか? 何かやばそうな話だったじゃないか。ああいう話を、お偉方は詳しく知りたいんじゃないかと思うんだが。現時点の内容だと、もう1回調べ直して来いとか言われそうだ」
池田からも、調査不十分の指摘が出た。
「やっぱり、周辺国家とかの地政学的な情報とか、このあたりに影響を及ぼしそうな世界情勢的な話もそれなりには情報が欲しいとこじゃないか?」
ハンドルを握る身として佐藤も思うとこがあるらしい。
「この世界の戦力分析もある程度いるんじゃないの?」
青山から、砲手としての戦闘担当らしい意見が出た。
「やっぱり、次回は王都まで足を伸ばしてみないか?」
空の足を担当する山崎から建設的な意見が出た。
「オーケー、じゃ調査続行という事で。こことグラヴァスで情報を集めて、王都での調査。そんなところでいいか?」
みんなに意見を訊いてみる。
「とりあえず、それでいいんじゃないか?」
特に反対意見もないようだ。山崎が締めて、今日の予定を聞いてきた。
「夕飯まで時間があるが、どうする?」
「解体場まで行って、奴らが解体の時間まで、訓練でどうだい? それから、マサへ行って、グラヴァスの御土産の食材を渡して」
「そうだな、夜のビールのために頑張りますか」
ケモナー池田も同意した。
「俺は軽くにして、資料作成の時間にするわ」
合田は、なんだかんだ言って一番忙しいのだ。俺達がやるべき仕事を1人でやっている勘定だ。
まあ、うちは見事に分業だけれどな。移動中は佐藤と池田、空中は山崎に任せきり。砲手は青山。俺は当然、俺にしか出来ない事が全て管轄だ。
更新スピード落としてごめんなさい。でも、これが普通なんですよ~。
別作品ですが、初めて本になります。
「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
7月10日 ツギクルブックス様より発売です。
http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html
こちらはツギクルブックス様の専用ページです。
お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。