3-13 空中戦
俺達は、一旦グラヴァスへと戻った。缶詰にされて、膨れたお餅になっていたエルシアちゃんを大空の散歩に連れ出した。
辺境伯も乗りたがったので、ご一緒に。館の庭を臨時の発着場にして、そこに物を置かないようにしてもらった。
『これは凄いものだ。おぬしらの国では魔道具作りが盛んなのだな』
この世界には、結構ハイテクな魔道具が存在するので、その類だと思われているらしい。
『きゃあ、凄い凄い。こんな風に空を飛ぶ事ができるなんて、ああ、景色が綺麗~。まるで、飛竜に乗ったみたいなような感じかしら』
「飛竜? そんなものがいるのか。乗った事があるのかい?」
それはヤバイな。どれくらいのスピードが出るものだろうか。奴らも速度にブーストくらいはかけてくるだろう。やたらと王都へ飛行すると、拿捕や撃墜もありうる。でも見てみたいぜ。
『ええ!? 知らないの? 王都の飛竜隊はエリート部隊よー。年に1度の大祭の時には、お披露目があるの。乗った事はないわ。でも、ああ。行きたいわ~』
なんとも切なそうにお嬢様が身もだえする。
「それは、何に捧げる祭り?」
合田が興味を引かれたようだ。
『主神ファドニール様に決まっているわ。あなたたち、本当に何も知らないのね』
ファフニールなら聞いた事はあるがなあ。こういう話も調査は必要だな。地球でも、この手の話はきな臭くてしょうがない。
案外この前の襲撃事件も、そんな宗教絡みの国ごとの事情とかが背景があるのかもしれない。
「王都までの距離は?」
『そう無茶苦茶遠くじゃないわ。ここから、クヌードまでの倍と少しくらいじゃないかしら』
800キロくらいかな? ある程度をヘリで行って、後は地上から行けば野営無しで行けるだろう。調査の必要はありそうだ。だが、車を持ち込むと目立つな。いらんトラブルにならねばいいが。
『王都は入るのに厳しい審査がある。わしの紹介状を書いてやろう。もしそれで入れなかったら、王都にはわしの屋敷もある。頼めば屋敷の者が迎えに来てくれるだろう』
俺達は遊覧飛行を終了して地上に降りた。こんな目立つ行動に出たので襲撃者も警戒しているだろう。早々また襲ってくる事はないとは思うが、俺達も攻撃対象の関係者扱いされているかもしれない。
街へ行く時とかは用心しよう。ここはクヌードではない。一度クヌードに戻って話を聞いてみようか。
俺達は館で色々と話を聞き、情報を集めた。結局一度クヌードへと戻る事にした。
俺達は周辺で魔物サンプルの収拾を兼ねて狩りを行い、資金を入手し、色々買い込んだ。食糧などの補充も行なった。概ね1週間ほど続けて、その間はエルシアちゃんの遊び相手もしてやった。
ちなみに、異世界風俗体験ツアーもきっちり楽しんだ。若い執事さんが案内してくれたのだ。気が利く男だった!
全員、概ねこの世界に求めるものは願望を叶える事はできた。クヌードにも風俗店というか、娼館のような場所はあるはずなんだが。今まで忙しくて行けなかったしな。
とりあえず、これで一旦クヌードへと帰る事にした。
「じゃあ、一度クヌードへ帰りますので」
「そうか。王都に行く前には寄っていきなさい」
「絶対だよー」
もうエルシアちゃんは山崎にべったりだ。
「はは、では遠慮なく寄らせていただきますよ。それでは」
VIP仕様のヘリを出して俺達は乗り込んだ。見送りに手を振ってくれる屋敷の人達に手を振り返しながら空へと舞い上がった。
ヘリでこの街にくる許可はもらってあるし、ヘリの騒音については通達してもらってある。
やはりヘリは快適だな。俺はVIPシートで寛ぎながら、のんびりと空の旅を楽しんでいた。2時間ちょいでクヌードまで辿り着ける。だが、いきなりヘリが急激な挙動を示し、シートベルトがどてっぱらに食いこんだ。
「ぐえっ」
俺は潰れたカエルのような悲鳴を上げて、つんのめった。
「敵だ」
静かな山崎の言葉が、パッセンジャースペースのヘリセットに流れた。
慌てて窓の外を見ると、かなりでかい大型魔物が空を飛んでいる。なんかアレな形の羽根が見えた。蝙蝠っぽい感じの、大きな奴だ。
「ドラゴンか?」
「さあな。どうする?」
「むやみな交戦は避けたい。ファストで逃げ切るのを所望する」
「心得た」
俺はファストをかけながら、セルフ空中給油も試みる。不思議な、滑るような感覚でヘリは「加速」していった。ジェット機のような、あの暴力的な加速度とは違う。
ほんわ~と滑るように圧倒的な速度を叩き出しているのだが、結論から言うと振りきれない。奴のスピードを落とすのに失敗した。飛びながらのデバフが案外と難しいな。
やはり、相手も同じ芸当ができるのだ。ドラゴンならヤバイ!
奴が炎を吹いた。だが、それは「ブレス」というには、恐らく遠く及ばない炎というしかない代物だ。
熱線がヘリを掠めたが、強化されたヘリはびくともしなかった。熱も乗員に影響を及ぼすほどではなかった。
いわゆる、ドラゴンって感じの奴ではないらしい。だが振りきれない以上は倒すしかあるまい。俺はヘリの速度を落とさせて、対面にいた合田に左側のドアを開けてもらった。
弓を構え、渾身のアローブーストを込めた必殺の矢を放った。自らの勝利を疑わぬそいつは真っ直ぐに突っ込んできていた。
まだヘリまでには相当な距離がある。たやすく命中したそれは、とてつもない爆発を伴って標的を木っ端微塵に粉砕した。
跡形もなく吹き飛んだので回収も不可能だった。ヘリもかなり揺れてしまった。失敗!
「おい、サンプル回収も考えてくれよ」
合田が文句をつけてきた。
「うるせー。命あっての物だねなんだよ」
「こっちも飛んでいるんだ、やり過ぎないようにしてくれ」
山崎からも苦言を頂戴してしまった。こんな緊急事態の時でも、こいつは安全確保のために飛行コースを慎重に選んでくれているのだ。
「わかったよ、気をつけよう。だが、火力を惜しんでこっちが撃墜されたんじゃ割に合わない。その辺は地上戦とは違うんだよ。相手の能力が未知数なんだ」
「まあ、それもそうだ。情報が不足しているよな」
山崎も納得してくれる。
とはいえ、こいつは戦闘パイロットではないのだ。今みたいな挙動は初体験だ。飛行魔物については少し情報収集の必要があるようだ。
そうこうするうちにクヌードに着いた。強引に門の前でホバーリングさせて叫んだ。
「おーいランド。俺だあ、スズキだー。中に入るぞ~」
大声でそう言い残して、あっけに取られる顔見知りの門番と並んでいた入門待ちの人達を残して、ヘリで塀の中へと姿を消した。ヘリが巻き起こす風は凄まじかっただろうな。
次回からは、夕方17時に更新します。毎日1話ずつの更新になります。怒涛の更新にお付き合いいただきまして、ありがとうございました。次回、7/3の17時になります。
別作品ですが、初めて本になります。
「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
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7月10日 ツギクルブックス様より発売です。
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こちらはツギクルブックス様の専用ページです。
お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。