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3-11 手がかり

『うむ。ワシからも礼を。感謝しておるよ。ベルトンも、間に合わなかったと言っておったしのう』


『エド、あいつらは? この町で、うちを狙ってくるなんて正気とも思えないが』

『うむ。わからん。今、手がかりを追っているが、煙のように消え失せおった』


 その言葉にジェルマン伯の瞳も曇った。自分はもとより、愛する家族を失うところだったのだ。犯人が見つからないという事は再犯の可能性もある事を意味する。


 俺はここぞとばかりに用意しておいたものを見せることにした。他の連中は既に出された酒に手をつけている。俺が差し出したものを見て驚く2人。初めて見る物だろう。


 それは、あの連中を撮影した写真のアップを印刷したものだった。さっき部屋でさっと片付けておいたのだ。


「隊長さんに渡そうと思っておったのですが、なかなか渡す機会が来ないので。どうでしょう? これは手がかりになりますでしょうか?」


 全体の写真を数枚、更に顔を判別できる人間のみアップで引き伸ばした。


 画像処理ソフトで処理を行い、比較的鮮明に再現した画像だ。それと装飾品などが見られるものは、その拡大写真を用意した。


『む、こやつは!』

 エドワード卿の目つきが鋭くなる。


『知っているのですか? エド』

 ジェルマン伯も、写真を覗き込む。


『うむ、最近この町に流れてきた貴族の従者だ。しかし、何故あやつらが。こちらの装飾にも見覚えがあるな。確か、その貴族と同じ一派の貴族家のものだ。

 これは、やたらと手は出せぬな。しかも、相当にきなくさい。サミュエルよ。しばらく館から出てはならん。また襲撃を受ける恐れがある。奴らの背後関係は調べさせよう』


 なんか不穏な空気が漂い始めていた。俺も後で色々情報を収集しよう。もっぱら、この世界についてだけど。犯罪捜査は管轄外だ。


『お客人、感謝する。これは重要な情報だ。しかし、これは不思議なものだな。どういう代物なのか』


「あはは。まあ、ちょっと小難しい代物なので、ご説明は勘弁してください。それについては我々も詳しい内容は知らなくて」


 デジタルカメラやプリンターの詳しい原理は、学校でも自衛隊でも習わなかったな。


『うむ。まあ、あなたも一杯やってくだされ』

 

 辺境伯の合図で、メイドさんが俺の杯に酒を注いでくれた。他の連中は、既に遠慮なくわいわいやっていた。


 意外な風向きになってきたもんだな。きな臭い風が吹いてくるのを感じながら、俺は杯を傾けた。


 それから、俺達はもっぱら理不尽な外出禁止を食らって退屈しているお嬢様に娯楽を提供しまくった。


 佐藤は愛用のジャグリングの道具を持ち込んできていたし、池田はサッカーボールのリフティングをご披露した。


 青山は手品の数々を披露して、合田は見事なヒップホップやブレイクダンスを。俺はハーモニカや、最近手に入れた密かな趣味の、ごついグラスアルモニカを演奏してみた。


 山崎は見事なギターを披露してみせる。色んな楽器で、お嬢様も自分で演奏してみた。


 お嬢様がそれにも飽きてきた頃合に、俺は出してみた。

「エアホッケー」の機械を。


 電力施設を屋外に設置して、許可をいただき穴を開けて配線を通した。全員俺以外は自衛隊の現役隊員で、電気工事士が俺を含めて3人もいるのだ。あっという間に据え付けて、ガンガンのノリノリである。


 いやあ盛り上がったな~。メイドさんにも人気で、お嬢様、エルシアちゃんと楽しく遊んでくれていた。世界大会まであるほどのゲームだからな。日本でも、温泉卓球とほぼ双璧ではないか。


 お次はゲームセンターの筐体マシンだ。バイクレーサーとか、ダンスゲーム。プリクラなんかも持ち込んだ。


 金に飽かせて買いこんできた代物だ。異世界でやりたい放題である。お嬢様が、ドレス姿でハングオンだ。俺もバイクくらい乗るのに、ぶっちぎられたぜ!


 他にも楽器を大量に引っ張り出す。キーボード、グランドピアノ、オルガン、バイオリン、その他弦楽器や管楽器や打楽器。大型のオルゴールまで持ち込んだ。うちの連中は結構音楽をやるのだ。


 使わせてもらっている部屋が凄い有様になってしまった。かなり広めの部屋だったのだが、さすがに狭くなった。


 子供なので、コンピューターでのお絵かきまで仕込んでしまった。なかなか絵心があったな。さすがは伯爵令嬢だ。他の道具や画材も色々持ってきた。


 あとはトランプにボードゲームの数々を。その間に俺は合田と色々な調査を済ませていった。殆ど、お遊びだけどな。


 食い物も色々作った。製造機械や屋台を持ち込んだので、この地方を治める大貴族家の中庭が縁日状態だ。


 綿飴、ポップコーン、たこ焼き、大判焼き、鯛焼き、お好み焼きと。リンゴ飴やチョコバナナも作ってみた。電力やプロパンガスがあるので、屋台装備なら使い放題だった。


 中庭に置かれた、フードコートに置かれるような白い丸テーブルにみんなで座る。ラーメンは、御領主様も夢中で食っていた。


 なんと、箸をあっさりとマスターして豪快に啜り上げる様は、まさに豪傑。伊達に辺境伯などというものを務めてはいないのだ。


 俺達は若い執事達に、ウドン、蕎麦、ラーメンの打ち方を仕込んでいった。材料は置いていく分しか持たないなあ。


 小麦粉はある。現地のスープとかの味付けで精進してくれ。いつか、この街の名物として伝えられていくかもしれない。


 被災地で、被災民の方を慰めるのに手打ち麺のイベントをやった先輩もいた。これくらいはできるようになっておけよ、みたいな話をしてくれたりして、結構駐屯地で盛り上がった事もあった。


 地元でない奴らは、なかなか実践まではいかないが、俺はうちに招待してやった。


 うちは父が多趣味で、家族のために色々してくれたので、一緒に俺も一通りの事はこなした。我が家は食う専門の奴が多くてな。父も俺が連れていった若い隊員達に手ほどきをしながら一緒に楽しんだ。


 ここでは、お嬢様も一緒に粉だらけになって頑張った。鼻の頭に粉付けて楽しそうなのは、見ていて微笑ましい。こんな妹が欲しいな。お姉さんがいないのが残念だ。


 様々な聞き取り調査の結果、この世界について色々な事がわかった。このグラヴァスは辺境区域。昔は近隣国家との緊張もあり砦のような意味合いもあったが、今はそんな時代ではないらしい。


 国家群は、比較的安定した関係であり、戦争が頻繁に起きるような時代ではない。


 ただ、小競り合いのような事は起きるが、大規模紛争に発展する事はないようだ。ここはレビエント大陸という大きな大陸に位置し多くの国家が存在する。


 この国はラプシア王国といい、比較的古くから存在し、長く続く王国だ。


 穏健派の国家で、国王は軍事よりも工房や通商などの発展に力を入れており、そういった分野を発展させるための法整備にも積極的だ。


 だが、この大陸では3本指に入る大国なので軍もそれなりで、魔法師団の実力は指折りだ。


 保守的な体制であり、ダンジョンの反対側の日本があんな国でもあるので、双方いきなり激突という不幸はとりあえず無い。アメリカがとち狂わない限りは。


 そんな雰囲気だからこそ、この間の一件が妙に気にかかる。おかしな勢力が、この国に台頭する事にならなければいいんだが。


 この先の地理についても色々と資料を手に入れた。あと、地上の魔物の情報なども。ギルドで仕入れた分と合わせて厖大な情報量だった。


「魔物のサンプルが欲しいよな」

 合田が思わず溢す。


「じゃあ、狩るか」


 用意はしてある。少し懸念もあるが。もうちょい準備をしていきたいところだ。


 翌日、俺達はというか、行くのは俺と合田だけだが。ギルドで魔法の使い手を紹介してもらいにいった。他の連中は、親睦を深めたり情報を集めたりだ。ゴルディス家で馬車を出してくれた。


 ギルドまでは馬車で1時間弱か。同じく中心部にあるのだが、ゴルディス家の屋敷がでかすぎるのだ。馬車で街を行くのも趣がある。


「スクードから紹介のあったものですが。支援魔法のいいのはありませんか」


 スクードはここのギルマスとは懇意にしていたらしくて、ギルマスのエイヴァンは俺達によくしてくれた。魔法の師匠もロハで用意してくれた。


 ここでは、味方の防御を上げる魔法と速度を上げる魔法を教わった。


 あと、逆に相手の速度を低下させる魔法。俺は勝手に、プロテクト・ファスト・スロウと名づけておいた。言葉でイメージを呼び起こすのだ。


 それと、剣の切れ味を上げる魔法も習った。カットブーストと呼ぶ事にした。


 アローブーストだって、地球の意味に翻訳した魔法名なのだ。俺達でなくても誰かを支援する場合もあるかもしれない。


 それと、アンリさんから聞いていた剣戟の力を上げる物もゲットした。スラッシュと命名した。最初にもっと魔法を覚えてから出発しろよなと思ったが、ここで覚えられたので、まあいいか。


 いざ出発するとなった時に、お嬢様のエリスが駄々をこねた。貴族だとはいえ、まだ10歳の子供だ。

『えーっ、行っちゃうの~。なんでー』


「まあ、お仕事があるからさ。お仕事が終わったら、またくるよ」


『本当に~?』

 ちょっと疑り深そうにお嬢様がジト目を向ける。


「ああ、本当だって。また遊ぼうな」

 山崎が頭を撫でながら懐柔する。いいのかねえ。貴族のお嬢さんなのに。


「じゃあ、ちょっと行ってきます」

 当主のエドワード卿も、わざわざ見送りに出て来てくれた。


『うむ。また帰ってこい』


 俺達はすでに、領主館の住人扱いになっていた。庭で働いている人達にも手を振って、門番さんに門を開けてもらった。


「いってきます」

 挙手で挨拶をして、魔導の門を潜った。


 次回は、22時に更新します。


 別作品ですが、初めて本になります。

「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」

http://ncode.syosetu.com/n6339do/

7月10日 ツギクルブックス様より発売です。

http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html

 こちらはツギクルブックス様の専用ページです。


 お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。


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