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3-9 ゴルディス家

 佐藤に車を邪魔にならないようにどけさせて、俺は怪我人の男性に声をかけた。


「大丈夫ですか? 災難でしたね。私は治療士です」

『おお、ありがたい。妻と娘を先に見てやってくれ。私は後でいい』


 頭の血を拭きながら彼は頼んできた。豪奢な上着も、血まみれだ。綺麗な金髪も台無しになってしまっている。


「山崎、こちらの方の血止めを」

「了解」


 山崎はアイテムボックスから救急キットを取り出して、応急処置を施していった。山崎の治療の手際のよさに騎馬隊長も感心していた。


「さあ、お子様から治療しましょうか」

 座り込んでいた母娘に俺は声をかけた。


 まだ二十代と思われる母親と小学生くらいの女の子だ。女の子は可愛い顔に酷い傷を負ってしまっている。地球でも顔に傷跡が残ってしまうレベルだ。


 俺は体力を回復させながら、同時に傷を癒していった。傷跡ひとつ残らない。使う端から威力が上がり、自分の魔力も上がる気がする。


『見事なものだな』

 騎馬隊長が、目を見張って褒めてくれた。


 俺は続いて奥さんを癒し、伯爵を治していった。そして次に御者さんを治療した。


『ありがとう。本当に助かったよ』

 彼は右手を差し出した。


 俺は握手を交わすと、

「馬車と馬をなんとかしましょう」


 そう言って試してみた。まず、馬を馬車から取り外してやる。ここからが人間重機の出番だ。俺は慎重に馬車を持ち上げるとぐいぐい起こし、持ち手を変えながら緩やかに押し起こしていった。


 そして、ゆっくりと支えながら衝撃を与えないように見事に起こした。これって、どれくらい重量があるのかな。


 山崎達が、拍手をしてくれて。

「いいぞー、人間クレーン」

「いや、ドーザーの代わりが務まるかもしれん」


 俺は両腕を上げてガッツポーズをして声援に答えてから、2頭の馬を治療する事にした。馬は動物だから、治してやったらすぐにむっくりと起き上がった。


 馬車は丈夫に出来ており、たいして支障はなさそうだ。馬が、ありがとうとでも言うように両側から俺の顔に鼻面を擦りつけてきた。俺は水を飲ませてやり、人参とリンゴをやった。


『君は凄いな、何者だ』

 伯爵に驚かれたが、さらっと答える。


「俺達は探索者ですよ。魔法が使えるのでね」

 とウインクしてみせた。


『さっきは、君が魔法で助けてくれたのか?』


「まあ、見殺しはあれでしたので。勝手がわからないので、申し訳はないですが戦闘は避けさせていただきました」


 騎馬隊長は驚いていたが、大貴族の話に割り込む愚は避けたようだ。お客人の怪我を治療してくれた上に曲者から救ってくれていたと理解する。丁重に扱う事に決めたようだ。


『そうか。いや助かったよ。この町に来たばかりだといったな。どうだろう、お礼と言ってはなんだが、御領主の館に滞在しないかね? 他にも是非礼がしたい』


 俺は仲間に通訳すると少し考えこんだが、これはいい機会かもしれないな。チラと合田を見たが、奴も似たような事を考えていたようで軽く頷いた。


 どの道、辺境伯のお考えは調査していかねばならんのだ。ここで好意的な出会いを果たしておくのも悪くない。


「わかりました。それでは、お邪魔させていただきます」


『君は念話を使うのだね』

「ええ、やや言葉が不自由なもので。ああ、私はハジメ・スズキといいます」


 俺の言葉に、ジェルマン伯は改めて俺達の服装を見た。揃いの迷彩服にブーツ、そして自衛隊帽。この世界でこんな格好をしているのは俺達くらいのものだ。


「隊長さん、それでいいかな?」

『あ、ああ、それで構わない。館でお話は聞かせてもらえると、ありがたいが』


「もちろんですよ」

 こうして俺達は、予定していなかった領主の館に行く話になった。


 やや速めに移動する騎馬隊に率いられた馬車の後ろをついていくと、段々と建物が豪華で敷地の広いところへとやってきた。


 速いと言っても時速20キロにも届かない。ママチャリの全力疾走に少しプラスといったあたりだろうか。


 約1時間もの間、佐藤は苦痛なノロノロ運転を強いられた。まあどの道、街中で飛ばすわけにもいかないのだが。


 そして一際広い、端がどこまであるのかわからないような、敷地の塀が正面に見えてきた。


 通りを抜けるとパッとあたりが広がり、広大な空間の向こうにゴルディス家らしきものが視界を埋めつくした。これは凄いな。壮大なお屋敷だ。アニメの中でしか拝んだ事がない。


「どこの世界にも、金持ちっていうのはいるもんなんだな」

 池田がボヤく。


「全くなあ」

 俺も賛同した。


「いや、お前は大金持ちになったんだろうが」

 合田がつっこむ。


「それでも、こんな家に住むことは一生ないだろうよ」

 俺には無理だな。当分、今の家で充分さ。


「まあ、日本じゃなあ」

 山崎も、のんびりと窓の外をみる。


「よく考えたら、肇よ。お前ってば大金持ちになったのに、また迷彩服を着ているんだな」

「はっ。言われてみればそうだわ」


 青山に突っ込まれて、初めて気がついた。何をやっているんだろうな俺。


 まあ、こんなのは今に始まった事じゃない。だてにのんびり屋の山崎と気が合うわけではないのだ。



 次回は、18時に更新します。


 別作品ですが、初めて本になります。

「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」

http://ncode.syosetu.com/n6339do/

7月10日 ツギクルブックス様より発売です。

http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html

 こちらはツギクルブックス様の専用ページです。


 お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。


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