3-8 城塞都市グラヴァス
やがて荒涼とした地平線の中に見えてきたグラヴァスは大迫力だった。
映画の中でしか拝めないようなスペクタクルだ。周りを覆う石の城壁は高さ30メートルほど。これは何から町を守っているのだろうか。
通常であるなら、他国ないし他都市という事になるが。この世界には魔物がいる。この壁でないと町を守りきれないような大型の魔物がいるとでも言うのだろうか。
自衛隊の特科部隊を大量に連れてきたい。大砲だけは持ってきてはあるが。豊川は実質特科部隊、つまり軍隊でいうところの砲兵部隊だ。駐屯地司令も特科の連隊長が務める。
俺達のチームも豊川の人間は全員特科に所属するが、この人数では運用できて一門、せいぜい2門がいいとこだ。
2門だと発射速度も落ちるだろう。特科と言っても、半分は対空ミサイルを扱う高射特科の人間だし。
なんというか、物質感というか押し出しが半端でない。視覚的にパノラマのように錯覚するほどなボリューム感がある。
その質量に視覚が圧されるような雰囲気を放っている。地球では、なかなかお目にかかれないものだ。
地球にある、この手の物は既に廃墟と化しているのだろう。写真でもお目にかかれない。地球の写真家が見たら、俺達の撮影に文句をつけて自分を連れていけと迫るのは明白だ。
城門から、並んだ馬車とかが順に通されている。仕方が無い、もう日も暮れてくるだろう。腹を括って俺達も並んだ。
周りの連中が騒いでいる。無理も無いな、この車は日本でも目立つのだ。あ、兵士がやってきた。あまり、いい予感がしないな。
『お前達は何者だ』
厳しい目つきで詰問してくる。
「俺達はクヌードの探索者だ」
俺は懐から出す振りで、アイテムボックスから探索者証を取り出した。
『その乗り物は一体なんだ。馬はどこにいる』
「クヌードじゃ今時、馬なんて使わないぜ。これは自動車という物だ。最新の魔導製品だよ。遅れているな、おっさん」
俺は抜け抜けと言い放った。そして、スクードからの紹介状を見せる。
兵士は、それに目を走らせていたが、紹介状を返してきた。
『確かに。じゃあ、こっちから入れ。お前らがいると、他の奴らが騒ぐ』
「わかった。誘導してくれ」
革の鎧を身につけて腰に剣を差し、槍を手に持ったおっさん兵士の後にメガクルーザーは、ゆっくりと続いた。やっぱ民生車両は快適だわ。ちょっと後席が窮屈だけど。
陸自の隊員は、高機動車にほぼ荷物扱いで乗せられているからな。それでもトラックの荷台よりはマシだ。
昔はそういうのも有りだったらしい。自衛隊も待遇は改善されつつある。俺達は無事に城塞都市へと、入城を果たした。
門からしばらくは石畳の広い場所となっている。ここで町へ侵入した連中を迎え撃つという事なのだろうか。
よく見ると、周りにはごつい石壁が設けられ、矢を射掛けるための穴のようなものが開いている。壁型のトーチカか。
そこから、少し離れた場所に石造りの3階くらいの建物が立ち並び、少し広めの往来が広がっていく。
建物の上には弩が多数設置されている。兵士の姿もあった。大きな馬車が4台は楽に通れそうな道だ。馬車が道端に停車する事も計算してあるのだろう。
「これから、どうする?」
山崎隊長からガイドに質問が来た。
「調査の拠点にする宿屋を探そう。安全そうなところがいい。一応町の地図も貰ってきた。佐藤にも渡してある。車を変えよう」
俺達は道の端に車を止めてメガクルーザーを仕舞い、8人乗りのランクルを引っ張り出した。石畳はアスファルトに比べゴツゴツしているが、それほど気になるものじゃない。
仮にも街中だ。一般車両の方が使いやすい。こいつにも支援魔法をかけて強化してある。よほどの事はないだろう。
「どこへ行けばいい? 皆目見当もつかんが」
ドライバーの佐藤に聞かれる。
俺は2列目の真ん中に居座って指示を出す。一人山崎が3列シートだ。大柄な山崎は居心地が悪いだろうが勘弁してもらおう。
「この町の探索者ギルドへ行く。ここは探索者というよりも冒険者といったほうがいいような仕事内容のようだが。ここの支部長に世話してもらえとの事だ。
ただし、ここは探索者ギルドが自治をしている町ではないので要注意だ。佐藤、間違っても貴族の馬車と接触事故なんか起こしてくれるなよ。街中の兵士に追われるぞ。捕まればへたすると首が飛ぶ。
ここは、いわば辺境伯の治める町だ。元々は、ここのゴルディス家という辺境伯がクヌードの迷宮も直接治めていた。今も、迷宮からの上がりを国に治めたりしているのさ。この方面の国防拠点でもあるらしい。戦争とかやっているのか、わからないがな。ここ最近は、そういう動きは無いそうだが。油断は禁物だ。ここに自衛隊本隊の支援は無いのだからな」
佐藤は首を竦め、車を走らせ始めた。運転にしっかり集中する。俺は池田に地図を渡し、指示を続けていく。
何かが倒れ石畳を激しく引っかき削るかのような激しい物音がして思わず目を向けると、対向の馬車が見事にひっくり返っている。前を走っていた馬車が避けながら走り抜けた。
通りの物陰から、黒づくめの男達がわらわらと降りてきて倒れた馬車を取り囲んだ。男達が大きく広がったので佐藤も停止せざるをえなかった。
俺達の進路を塞ぐ格好になった男は見慣れない車を見て一瞬驚いたが、剣を振るい牽制してきた。顔の下半分は黒い布に覆われている。思わず舌打ちする。これはヤバイ状況だわ。
「おい、どうする、これ」
佐藤も困って聞いてくる。強行突破もありなんだが、うーん。
「まずいな、こういうトラブルは避けたかったんだが。イージスでこの車は守っている。向こうが手を出してこないのなら手を出すな。可能性は少ないが、万が一、この男達がゴルディス家の人間だったら最悪の事になる! 撮影してくれ、ズームも頼む。出来れば奴らを1人ずつ」
馬車からは、血まみれになった男性が這い出してきた。身形からすると、貴族のようだ。
中に女性と子供が見えた。怪我をしているようだ。顔からも血を流している。俺は唇を噛んだ。助けたいが手に負えない。男達が疾風のように男性に迫る。
金属的な、固い物同士が当たって弾かれるような音がした。男達の剣はイージスの魔法に弾かれた。驚く覆面の男達。
続けて次々と剣を振り下ろすが、全て跳ね返された。剣には魔法の力がこもっていたようだ。イージスで受けると、そのように理解できる。それは向こうさんも同じだろう。
受け止めた時に受ける衝撃が普通の剣戟ではないのだ。だが、最初の頃とは段違いに強化されたイージスはビクともしない。
そして連中は、馬に乗った一団がやってくるのを目の端で捕らえ不利を悟ったか、それ以上交戦する事なく速やかに撤収した。やれやれ。
「手を出すなと言っておきながら」
みんなが俺をジト目で見た。
「女子供を目の前で見殺しは、さすがにちょっとね。まあ、そう問題にはならないだろう。黒づくめの集団は多分ゴルディス家の人間じゃない。自分の町で、あんな風にこそこそなんてしないだろう。ただ、様子もわからないから積極的な戦闘は避けた。それにしても、いきなり物騒な騒ぎが起きたな」
「じゃあ、ギルドを目指すぞ」
と、佐藤が言葉を継いだ。行こうと思ったら騎馬隊の兵士が馬で前に立ちふさがり、止められた。
『お前達、犯人を見ていたな。話を聞かせてもらおう』
隊長らしき、飾りをたくさんつけた兜や制服を着た男がゆっくりと近づいてきて、車を不審そうに見ながら言った。
みんなが、またジト目で見ていたが俺は首を竦めた。奴らの言い草からは、どっち道同じ事になったはずだ。
「俺達は関係ないぜ。たまたま居合わせただけだ。今この町に着いたばかりで、探索者ギルドへ向かうところだった。その辺をハッキリさせてくれるなら、事情聴取には応じてもいい」
そして、俺はスクードのギルドへの紹介状を見せた。
『まあ、いいだろう。では、こちらへ来てもらおう』
「その前に、あの人達の怪我を見させてもらえないか? 俺は治療の魔法を使える」
『そうか。ならば、そうしてくれ。ジェルマン伯は御領主様の重要な客人なのだ。全くとんだ失態だ』
おお、ゴルディス家の客人だったのか。
次回は、16時に更新します。
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こちらはツギクルブックス様の専用ページです。
お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。