3-7 出発(たびだち)
翌日、俺達はスクードの前で整列していた。奴は苦笑いしていたが。
「それでは、本日付にて本隊は迷宮都市クヌードを出発して、近隣都市の探索にまいります。以上」
『ああ、行ってこい。気をつけてな』
スクードの優雅な笑顔に見送られ、俺達はギルドを後にした。
俺達は、マサに対して物資の補給を徹底的に行い、子供達と充分なスキンシップをとり(主にケモミミ)、換金できた資金の手当ても充分に、準備万端出立の用意を整えた。
正さんの作ってくれた料理や水を各自大量に携帯し、車両や武器弾薬なども十分に持たせた。俺は原料となる食料なども充分に街で仕入れた。地球での補給も充分行なってきた。
西方は河、東は荒野。北方へ街道を北上する予定だ。あと疲労の問題もある。厳密に協議して、俺達が選んだ方法は『メガクルーザー』だった。
これは海自・空自で採用している、高機動車の民生版だ。本来ならばライトアーマーで行くべきなんだろうが、あれは疲れる。
ハンヴィーも戦闘以外ではちょっと。道中魔物に出会ったら俺が降りて対応。苦戦するようなら、戦闘車両を出して他のメンバーがサポートという事になった。
移動に専念する。それを主目的とするためこうなった。陸上自衛隊員も高機動車よりも、こいつに乗りたいと言う。海自空自はこれを使用している。民生車両だからなあ。やっぱ純粋な軍用よりは快適だ。
民生版ハマーほどはスポイルされていない気がする。ガラス窓だと派手な機動を行なえば、すぐ粉々になってしまうなどと言われている。
それが本当かどうかは知らないが陸自の訓練は激しいのだ。うちは重機屋だったからな。だからかわからないが高機動車はガラスではない。ビニール窓になっている。
そもそも後ろは幌なんだし。幌のビニール窓はさほど耐寒性が無いので、冬の富士ではバリバリに割れてしまったりするのだが。
ヒーターがあるだけ優しいかもしれない。後ろに行くほど温かみは行き渡らないけどな。幌だもんね。
ここでの気候的な試練はそれほど厳しくない。車両は、軍用・民生共に各種持ってきてある。でも密閉ボディとエアコン付のメガクルーザーには快適さで絶対に敵わないさ。
王都までどれだけ距離があるのか知らないが1000kmという事は考えられない。重力や地平線までの距離を測定したり、地平線の湾曲を測ったりする装置なども持ってきたが、ほぼ地球と変わらないようだ。
かなりの数の王国があるようなので、この国の中で資源鉱山であるクヌードがとんでもなく孤立している事はありえない。必ず近隣に都市はあるはずだ。
野営1泊で着けると睨んでいる。運が良ければ本日中に着けるかもだ。だから朝早くに出てきた。5時起床で、自主的早出だ。残念ながらあいつらに早出の手当はつかない。
一応は街道を通るので荒野を走るよりはマシ、と俺達は思っていたのだが。案外と、この街道は、交通が頻繁だった。
商人の馬車、村の荷馬車、村の間を走る馬。歩いている旅人。うっかりすると交通事故を起こしかねない状況だった。おまけに魔物も出た。
民間人が魔物に襲われていて救助したりとかもあって、全く思うように進まなかった。もっとも、その人達からも情報がもらえて先の見通しは付きつつある。
街道の途中に設けられた休憩所には泉もあり、多数の馬車が休憩していた。
俺達の風体を見て驚くものもいたが、クヌードから来た者の中には知っているものも大勢いた。
「とりあえず、休憩して飯にしようぜ」
「そうだな」
基本は自衛隊の行動なので時間は正確に守られる。今は日本時間で12時近いのだ。
この世界の馬車はサスペンションとかもなくて車軸も弱い。こういった民生関係は、かなりローテクだ。
大都市の民生部分などはハイテクな部分も見られるのだが。農村などはローテクだろう。お金次第なのは、どこの世界も一緒だ。
馬車は、馬や馬車に負担をかけないように大体人の歩行速度に毛の生えたような速度で移動する。
都市を出ると道もよくない。都市の中ではきちんと石で舗装されているのだが、外は完全未舗装だ。クヌードは、いわば辺境といった立ち位置らしい。
ただし、資源鉱山としての迷宮都市であるから寂れてはいない。交通も頻繁にある。しかし、道を整備しないで、どうするつもりなのか。
話に聞くと、王都に近づくにつれ街道は石畳で整備されていくようだ。本来、蹄鉄を履いた馬は石畳用なので、土とかのところでは滑ると聞いていたが。
この国の為政者はやる事がなっていない。自分の懐は痛めずに甘い汁だけ吸うという考えなのが、既に伝わってくる。まあ異世界には異世界の事情がある。部外者がとやかく言う気はないけれども。
俺達が飯を食っていると、休憩所の子供が飯を強請りにきた。最初の1人に分けてやったら他の子もいっぱい来た。子供以外も来てしまった。やれやれ。
俺達は自衛隊の規律どおりに、あっというまに飯をかきこみ、プチ配給作業に追われた。まあ笑顔がたくさん見られたからいいか。俺は日本やクヌードで大量の食料を抱え込んでいるので、このくらいではビクともしない。
使い方さえ間違えなければ金は正義かもしれない。俺の金には、できたら正義の勲章を与えてやりたいな。
ここでも色々話を聞いて情報を蓄えていく。合田が一番忙しい。新しい場所へ行けば行くほど、こいつの負担が増える。俺達も、なるべくできる範囲で仕事は手伝った。
大体みんな1日、40~50キロを移動するようだ。共同で使用するキャンプ地みたいなのがあるので、そこでまとまって野営する。
まれに魔物などの襲撃があるが、みんなで対処する。宿営地は、さすがに人数が多いので盗賊に襲われたりはしないが、道中単独で行くと襲われたりする事もある。
キャンプ地からは、キャラバンを組むのが普通だ。
ここは、クヌードから150キロ離れたキャンプ地だ。北方の大都市まではクヌードから350キロくらい。頑張れば7日で行けると皆が言っていた。
あと200キロ。街道沿いに行けば、間違いなく見える、大都市のグラヴァスに着くという。クヌードの10倍くらいの規模で、城塞都市になっているそうだ。
ちゃんと中に入れるかな? 少し大変かもしれない。一応、全員が探索者証と、あとスクードからの紹介状は持ってはいるのだが。近くまで行ったら車を降りた方がいいかもしれないな。
だが、それも考え物だ。現地の治安がわからない。ずっと降りたままではいられない。移動は車両で行なうのが基本だ。とりあえずは話し合って、車両は降りない方針を固めた。
俺達は14時に出発して、1度休憩しただけで3時間ほど走り通してグラヴァスへと辿り着いた。
道中、合田が適宜停車させて、植物や鉱物などのサンプルを採集していった。ドライブレコーダーのほか、ビデオやカメラによる精密な写真の撮影なども行なった。
途中の風景は荒涼としていて、まさに荒野だった。まあ、砂漠という意味でのデザートといったほどではないのだが、緑溢れる風景といった感じではなかった。
時折見かけるキャンプ地では、泉に人が集まり賑やかなのだが、俺達は走れる場合は街道をはずれ、荒野をひた走った。さすがに最低地上高42cmを誇るメガクルーザーは少々の事ではビクともしない。
道中、魔物も見かけたが高速移動する俺達を追尾してきたりはしなかった。殆ど野生動物だな。合田が魔物を採集したがったが、今回は余力が無いので勘弁してもらった。
次回は、14時に更新します。
別作品ですが、初めて本になります。
「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
7月10日 ツギクルブックス様より発売です。
http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html
こちらはツギクルブックス様の専用ページです。
お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。