3-6 捜索
俺達は翌日6時起床、子供達にはご飯とお味噌汁をくれてやった。おかずのシャケは気に入ったようだ。ロミオはお箸にチャレンジしていた。
可愛い猫の絵の、真っ赤なお茶碗を欲しがった奴がいるのでプレゼントした。昔、妹が小さかった頃にお気に入りで使っていた奴だ。この子達に使い道があるかなあ。
高機動車で子供達を送り、俺達はハンヴィーに乗り換えてダンジョンへと向かった。今日は明さんの消息を無駄と知りつつ追う事にした。
状況が状況だけに生存は絶望的であり、遺体の発見さえ不可能だろう。
しかし、それでも捜索はされねばならない。それが自衛隊の使命だ。俺も当然のように付き合う。数日はその作業に追われる事になるだろう。
そんな時に限って、わらわらとイーグーが湧いてきて捜索の邪魔をする。お約束という奴だな。
「こいつら、どこから沸いてくるんだ! 捜索どころじゃねえだろ。朝から5回目だぞ」
「こっちの会話を盗聴しているとしか、思えんな」
「壁から湧いてきているけどさ、絶対に嫌がらせのように、出待ちしていないか?」
「おい、そっち! 1匹撃ち漏らしているぞ」
例によって、佐藤・池田・青山は定位置にいる。青山は銃座から軽機関銃をぶっぱなしている。高いところから周りを警戒しつつ。
池田は状況を見て、応援に出られるように見わたしている。奴にはヤバくなったら、撤退を勧告して隊員を収容して撤収を指揮する作業がある。
佐藤も状況を見ながら、いつでも発車させられる体制を取っている。座りっぱなしで緊張しているコイツが、ある意味一番キツイかもしれない。
合田は自動小銃を片手に後方を警戒中だ。必要に応じて援護に入る。もっぱら俺と山崎が、地面に這い蹲って軽機関銃を撃ちまくっている。
この集団は多い。もう、かれこれ70匹は打ち倒しているが、まだまだ出てくる。俺達は弾薬に限りが無いので大丈夫だが、普通の軍隊なら逃走せねばならない状態だ。
しばらく奮闘して、やっとこさ掃討完了した。回収したイーグーは朝から累計で382体に上った。ありえねえ。
「それでも、自衛隊は捜索をやめるわけにはいかなかった。頑張れ、僕らの自衛隊」
サービスでナレーションを入れてやった。
「あほう。イーグーのいないとこに案内しろ。もう飽きたわ」
「知るか。明さんの捜索をしているんだから、他に行きようがねえだろうが」
「うむ。それは間違っちゃいないんだが、もう少しヴァリエーションは欲しいよな」
俺達は、その後もイーグー狩りを続け、レコードとなる1日621体を記録して帰投した。全員疲労の色が濃かった。ギルドに立ち寄ってアンリさんに預けたが、あまりの多さに爆笑された。
『あなた達をイーグーハンターとして、ギルドから正式に認定するわ』
「まあ、餓鬼共用にイーグーが欲しかったのは確かなんだけれどさ、もう少し他の魔物もはさみたかったな……」
『違う方に行ってみたら?』
「捜索者がいるんで無理。多分もう亡くなっているはずなんだけれど、自衛隊は国の組織だ。探さないわけにはいかないんだ。それが使命だ」
『迷宮の中で遺体は、その……残らないと思うんだけど』
「うん。知っているけど、それは関係ない。必ず捜索は行なうんだ。例え生きて帰る事ができなかったとしても、うちで待っている御家族の方がいるのだから。
せめて、お帰りなさいくらいは言わせてあげたい。しばらくここを留守にする予定だから、イーグーの在庫があるのは悪い事じゃないんだけれど」
『ご、ご愁傷様。頑張ってね』
なんとも言えない表情で見送る彼女を残して、本隊はマサへと戻る事にした。
その後も毎日捜索に出たが、出てくるのはほぼイーグーだった。合間にいくばくかの他の魔物も出てくるのであるが、ほぼイーグーという有様だ。
その後10日間に渡り明さんの手がかりを探し求めてみたが、欠片も見つからなかった。総走行距離は2000Km以上に上った。
自衛隊部隊のリーダーである山崎も、とうとう根を上げて捜索の打ち切りを宣言した。合田がそれを記録する。部外者の証人として、捜索打ち切りが妥当である事を俺が証言した。死んだ目をしたまま。
捜索中の戦闘の記録もしっかり撮られており、国や遺族の人も納得してくれるだろう。そこまでやらねばならないものなのだ。
ここには、命令してくれる中隊長や司令部も存在しない。俺達が気の済むまでやったが、さすがに限界だった。遺体の発見がほぼ不可能な場所である。だが、俺達は探したかった。
ここまでで合計3821体のイーグーが、11日間に及ぶ戦果としてアンリさんに預けられた。餓鬼共も当分は困らないな。イーグー約2年分をプレゼントだ。
それだけが唯一、俺達の心の慰めだった。俺は連中に休息を言い渡して、新たな魔法を手にすべくギルドに顔を出した。
『大変だったようだな』
スクードが労ってくれた。
「ああ、これだけは譲れない使命だ。退官したとはいえ俺も絶対に譲れない。それに、あいつらにも土産を持たせてやらないといけないから頑張ったのに。イーグーって、あんなに出るものなのか?」
『そうばっかりでもないはずなんだがな。まあ、丁度要るんだったろ。良かったじゃないか』
うん、ここの探索者ギルドは、あの子達に甘いんだよね。まあ、いい事だけどさ。
『それで、新しい魔法についてだったな。リーシュについて習え。アンリに言ってある』
「了解。他の奴らも、魔法が使えたらよかったんだがな」
俺はスクードの部屋を辞して、アンリさんを探しにいった。下で待っていてくれたらしく、2人共一緒にいた。
『じゃあ、今日は味方の防御を上げる奴を行こうか』
エブリンリーシュは銀髪を靡かせて、修練場へと歩き出した。
『いいかい? 味方が鉄の盾や大岩にでもなったようにイメージするんだ』
なるほど、味方を強化する魔法なんだな。これなら、できる気がする。
『あそこにある案山子に着せた鎧が見えるかい? あれを強化して、お前のアローブーストに耐えられるようにできたら、合格だよ』
魔法を教えている時のリーシュは喋り方が、なんか老師って感じになる。可愛い女の子の声だけれど。
俺はイメージした。ドイツの「エレファント」と呼ばれた戦車を。前面装甲は実に300mmと伝え聞く。
当時のいかなる戦車砲の攻撃にも耐えたという。88mm砲だけで戦えなんて無理ゲー。自衛隊の戦車乗りでも泣いて逃げるわ。超ハイテクの10式戦車ならやれるかなあ。
それはフェルディナントと呼ばれた。あのフェルディナント・ポルシェの名を冠し、後にヒトラーによってエレファントと名づけられた最強の重駆逐戦車。
数々の欠点を持ってはいたものの、ソ連の猛攻にもよく耐え、ソ連との通常戦闘でこれが撃破された事は殆どないという、とんでも兵器だ。
俺はそれをイメージし、案山子を強化しまくった。そして、渾身の力をこめたアローブーストで20mm対物ライフルを最強に強化して撃ち込んだ。轟音と爆発に近い惨状。吹き上がる土砂。
広大な修練場の半分以上が無残な状態にあったが、転がった案山子には傷一つ付いていなかった。これはストロングと名づけることにしよう。
最強の矛と最強の盾の闘い。とりあえずは盾の勝利で決着が付いたようだ。矛もまあ頑張ったな。いや少々頑張りすぎたようだ
『呆れちゃうわねえ。異世界の人って、魔法が凄いのかしら。で、これはどうするつもり?』
笑顔では誤魔化せそうになかったので、俺は午後いっぱいかけて元土木自衛官の本領を発揮する事とあいなった。
自衛隊から拝借してきた、銃架付きの重機達を駆使して後片付けをする羽目になった。
豊川には装備としてのドーザーは無かったんだけど、俺は自前で取った資格を持っている。ブルドーザーは自分で買ってきた。
首にタオル巻いて、汗を拭き拭き仕事に励む。久しぶりだな、こういうのも。
被災地では、国民の皆様が声援を送ってくれたりしたもんだ。あの時は黙々と働いたよ。自分の仕事が誰かのためになる事が本当に嬉しかった。
それはもう結構な数の見学者がついた。わざわざスクードの奴まで見学に来たほどだ。
解体場の子供達にも俺の勇姿を見せたかった。子供は、こういうのが好きだからなあ。
今日のビールは、滅茶苦茶、美味かったぜ。
次回は、12時に更新します。
別作品ですが、初めて本になります。
「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
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http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html
こちらはツギクルブックス様の専用ページです。
お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。