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3-5 遺留品

 倒した奴らは、素早く近寄ってくるタイプになる大型魔物の群れだった。こいつらは数が多いので危険だ。


 ベルドラ。群れ為す者の意味らしい。魔法で対応できれば概ね問題はない。そこそこの金にはなるな。全て回収しておく。


「一応、各1体はサンプルとして政府に提出したいな」

 合田から要望が入った。


「あいよ。一応そのつもりではいるけどな。続けていくぞ」

 俺達はそのまま進軍したが、今度はウルボスと遭遇した。


「おい、青山。M2を単発で使用してみてくれ。あれは肉が美味い。今夜は宴会といこうぜ。動きは鈍い。肉をなるべく痛めないように色々加減してみるから、頭を狙ってくれ」


 こいつの頭は固い。甲羅と同等だが、甲羅の中の心臓とかを狙うわけにはいかない。そこまで威力を高めると、肉や内臓がおしゃかになる。


「わかった。支援よろしく」

 50キャリパーが単発で発射される音響が通路に木霊する。奴は脳天を吹き飛ばして倒れた。おし、いい感じ。あれなら内臓も無事だから、薬の原料も大丈夫だ。これが一番要望されている。


 ウルボスを回収して更に徘徊する。そして、見た事の無いでかい奴に出会った。なんかワニか恐竜のような感じの、うーん大トカゲか?


 奴の全長は、へたをすれば10メートルくらいありそうだ。盾魔法で止められるか?


「どーする?」

「無論仕留める。盾魔法は張っておく。支援をかけるから、連射でよろしく。こいつは初めて会うタイプだ。てごわいかもしれん。駄目なら俺がやる」


 さっと青山に指示を出す。魔法の仕事を手早く終わらせる。俺はいつでも飛び出せる構えで備える。重機関銃の連射音と硝煙の煙幕の中、突進していた奴が倒れ付したのは見えた。収納を試したら、ちゃんと回収できた。


「駄目だ。イーグーの奴ら、今日はどこかへお出掛けだな」


「じゃあ、明日も狩りか?」

 山崎が確認を入れてくる。


「できれば、そうしたいな」


 イーグーの肉や骨は、定期的に需要があるので安定して捌ける。子供達も一番喜ぶんだよなあ。素材も割といい金になるし。今日は切り上げる事に決めた。他の連中も初めてだしな。


「今日のところは、これで戻ろう」

「あいよ」


 佐藤が車体の向きを変えるべく、広い場所へと向かった。このあたりは、作成されたマップがあるので、ナビが使える。


「ちょっと待て!」

 合田が唐突に声をかけてきた。


「どうした?」

 俺は怪訝そうに返す。


「あそこの調査をしたい。何かある」

 俺は渋い顔をした。まだ、みんな慣れていない。変な調査をしていて、魔物に襲われても困る。


「じゃあ、山崎が指揮して援護と警戒を。俺が見てくる。ヤバそうなら、俺の作った魔力弾を使ってくれ」


 盾魔法の使える俺が行くのが妥当だ。他の奴は、強力に支援魔法をかけた5.56㎜弾を使ってもらう事にした。


 佐藤と池田は小銃を出して車に待機。青山は銃座に。後方に敵が来たら、小銃や手榴弾などで対応する。残りの2人が俺の援護だ。全員が武装して対応した。俺は近づいていき、それを拾い上げた。


 それは血まみれの、おそらくは地球製と思われるリュックだった。米軍の物ではない、民間用の物だった。


 持ち帰ったものをみて、

「これは……」


 合田も顔を曇らせた。おそらく迷い込んだ民間人が出口を求めて彷徨い、魔物の餌食になったのだ。あるいは、無謀にも生活費のために魔物を狩る事を選んだのか。とりあえず今すぐの捜索は断念した。


 そこにこびり付いた血は、かなり古い物だ。手遅れな事が一目瞭然だった。その場での捜索は諦めた。俺達は無念のうちにそれを回収して撤収した。


 俺達はギルドに行って大物達の解体の依頼をした。ベルドラは二体残す。自衛隊と米軍用だ。例によってウルボスは肉をせしめた。まだ明るい時間だ。


 解体場に行くと、子供達が商売から帰ってきたところだった。ウルボスの肉を出してやると大歓声だ。


 俺達はマサを目指して3台の高機動車に分乗した。子供達は大はしゃぎだ。もう、うちの連中にも慣れたんで俺がついていなくても大丈夫だ。今なら肉の事しか頭にあるまい。


「正さん、どうも。またウルボスを仕留めたんで、お願いします」


「おお! そうか。今夜は宴会だな」

 正さんは嬉しそうに1匹分の肉を受け取った。


「あの、それと、このリュックに見覚えはありませんか」

 俺は回収したリュックを見せた。正さんは、目を見開いて眉を曇らせた。


「これは……明のリュックだ。迷宮の中か?」


「え、ええ。血痕が古過ぎるので、本日の捜索は断念いたしました」

 正さんは、無念さを貌に滲ませて応えを返す。


「あいつは、わしと違って帰りたがっておってな。お前のように魔法を使ったりもできなかった。あいつは収納さえ持っていなかったんだ。うちにおったんだが、ある日リュックごと消えおった。そうか……」


 救出を待っていてくれていたらなど口に出す事もできない。今回自衛隊が来たのは、たまたまの事なのだ。


 異世界で救出を待ち焦がれ、絶望に打ちひしがれて死んでもいいとの思いで帰還のためにダンジョンに向かったであろう、民間人の存在。


 俺も少し前までそうだったのだ。思わず胸に来るものがあった。現役自衛官共も無念の胸中を顔に出していた。しかし。


「え? 向こうから来て、収納を持っていない人間もいるのですか?」


 これは驚きの情報だった。他にも、こちらの世界から日本側へ足を踏み入れた人間は案外多いのかもしれない。収納持ちになった者が少ないだけで。


 だが、日本へと現れた者はいないようだが。米軍のセンサーには引っ掛かっていないし発見もされていない。


 うちの連中も狐につままれたかのような顔をしている。各自、収納を試してみる。うん、全員使えているよな。


「まあ、今考えても始まらんだろう。子供達がお待ちかねだ。飯にするぞ」


 見たら、今にも机バンバンが始まりそうな勢いだった。深刻な話をしているのがわかるので、少しは遠慮をしていたらしい。


 俺は早速、ガスコンロと鉄板、作業台とまな板に、日本で買った包丁を持ち出した。ミスリル素材でコピーしたので、肉の脂で切れ味が落ちることはない。


 包丁はミスリルに限る。日本でも、そんな時代が来るかもしれない。じゅうじゅうと肉を焼く音に、子供がお皿とフォークをもって集まる。


 山崎達はビールを取りにいった。

 正さんの醤油系味付き肉も届き始めた。今夜は明さんの冥福を祈る事にした。おそらく生きてはいまい。


『お、今日はウルボスかよ、やった!』

『ひょう、ついているな。ヤマザキ、俺にも生中をくれ』


 最早、生中ナマチュウという日本語は、この世界で完全に根付きつつある。


 いまや、この町で知らない奴はモグリだ。「ヤマザキ、生中」 それだけ聞き取れれば十分なので、山崎がビールを配り始めた。すっかりビール注ぎマイスターとして探索者達から認定されたようだ。


 ウエイトレスの2人からは、エブリン、つまり「師匠」と呼ばれている。自衛隊の仲間もみんなも「エブリンヤマザキ」と呼んで、からかっている。


 ビールマイスターの称号も広まった。正さんの呼び名は、そのまま「大将」だ。マサは今夜もはじけて子供達も轟沈している。定番のお泊りコースだ。


 次回は、10時に更新します。


 別作品ですが、初めて本になります。

「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」

http://ncode.syosetu.com/n6339do/

7月10日 ツギクルブックス様より発売です。

http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html

 こちらはツギクルブックス様の専用ページです。


 お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。


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