2-11 敵地で宴会
まだ昼なので飲めるところは限られている。そのままセントラルパークを南下して三越系列のラシックまで行き、某ビールメーカーの経営するビールバーへと、なだれ込んだ。
そのままミックスナッツみたいな、ちゃちなツマミでだらだらと飲む。
何しろ、ここのところ酷い事ばっかりだった。
異世界で魔物掃討に始まり、某国マフィア皆殺しに、アメリカ陸軍中将と会談と来たもんだ。あちこちでヤバイ橋を渡りすぎだ。まあ、それなりに身入りはあったけどな。ちったあ、だらだらしないとやっていられない。
こんな話題に付き合ってくれるのは、自衛隊の奴らだけだし。
それから、またぶらぶらして、たまたま見かけた風俗店を2件ほどハシゴして、そろそろ待ち合わせの時間になった。
「おーっす」
「ういーす」
「よおっす」
「あぽう」
どいつもこいつも、昔から変わらないような連中ばっかりだ。上から順に佐藤・池田・合田・青山だ。こいつらは俺と同じ豊川勤務で、よその土地から来た連中だ。部隊は違うが、仲がよかった。山崎も含めて全員同期だ。俺以外は陸曹試験の1次に受かり3期目を更新した。
山崎は元々曹候補だ。4年目で3曹に上がった。頭もめちゃいい。レンジャー徽章をいただいたし、何より元から成績が群を抜いてよかった。銃格闘はレンジャー以前に表彰状持ちだ。
レンジャー自体は評価に関係ないが、普通科で上がわざわざ4年目にレンジャーに送り出したんだ。他が遜色ないどころか超優秀な曹候補なら、そこで選ばれるに決まっている。
他の豊川在籍の連中も、もう全員がとっくに3曹に昇進していた。最近は任期制で入った人間が3曹昇進する割合が多いとも聞くから、こんなものなんだろうか。そのうち、みんな他地域へ移動していくかもしれないな。
佐藤は野戦特科部隊でも運転には定評がある。池田も車長として大変有能だ。この2人のコンビは夜間の車両行軍訓練で、ただの1度も嵌った事がない。
夜間走行訓練は、ライトを点けずに暗視装備で行なうが、まっくらな山の中で嵌らずに走れるわけもない。
夜中にライトをつけて走っていたら、敵に見つかっていい的になってしまう。そんな訓練で、普通の奴は嵌って、大概は随伴する専門の後方部隊にレスキューしてもらう羽目になるのだ。
青山は高射特科だが射撃表彰持ちで、一緒にグアムに行って、その射撃ぶりに腰を抜かした経験がある。
アイマスク被ったまんま、的の真ん中付近に全弾当てやがった。射撃場の人にバレたら怒られていたろう。
射撃量は重要な要素だが、射撃はセンスだ。初めて射撃場に行ってもターゲットのど真ん中に弾痕を集中させる人の話はよく聞く。もし戦地へ行くなら、こういう奴と行きたいね。
合田も高射特科だが、記録や情報分析などに定評がある。ものすごく頭がいいのに大学に行かずに何故か自衛隊にいるのだ。
うちの駐屯地の連中は色々勝手がわからないんで、最初から俺がガイドだった。俺は親父から貰ったお古のワンボックスで、あちこちを案内して一緒に遊んでいた。
どいつもこいつも揃って、短髪でガタイのいい、むくつけき野郎どもだ。一目で自衛隊の集団だとわかる。今、こそこそと俺達を避けていった2人組はヤクザだな。
「どこ行く~」
「予約してねーのかよ」
「幹事誰だっけ」
「そんな上等な物はいた試しがないな」
「えーい黙れ! 今日は俺の奢りなんだから、高いとこへ行くぞ~」
「おっす、任せたぞ。御大臣」
嫌がらせという訳では『ある』が、例の某国系の連中の中でも怪しい奴等が出入りするお店に、わざわざ自衛隊の団体で食べにいった。
これがやりたかったんだよ。店主の野郎、俺が乗り込んできたんで頭抱えているんじゃないか?
ここが食べ放題コースの店なら、豊川と守山の隊員を毎日俺の奢りで全員呼んでやるのに。昔、どこかの駐屯所の近くにある食べ放題の店がマジで潰れたらしい。隊員が千人もいたらしいから~。
この店は絶対に某国マフィアとかの息がかかっている。わざわざ興信所に金を払って急遽調べ上げたのだ。奴らの直営かもしれない。ヤバイ会合とかに使うのだ。アメリカからも情報は入っていた。
奴等が俺達に喧嘩を売ったら土曜日の騒ぎ×6になる。しかもバックにアメリカをつけている。何が起きようと日本警察は基本的に手が出せない。日本政府も防衛省も一切手がつけられない。
「また奴らが喧嘩売ってきたら、その時は問答無用で暴れるから。ケツはアメリカで拭いてくれ」
俺は中将に、はっきりとそう言った。
エバートソン陸軍中将は、『アメリカ合衆国として』奴らには手出しをさせないと、きちんと書面で約束してくれた。アメリカ合衆国大統領のサインも入っている。
その内容はなんというか、おおむね『治外法権』に等しい内容になっていた。更に銃器の携帯も使用も無制限許可だ。アメリカに貰ったものは、日本国内で好きに使っていい事になっている。
日本国総理大臣と、日本警察もそれに対して逮捕も制限も一切出来ないという内容だ。こんなものなど普通はありえない。十数枚からなる英語と日本語で書かれた書類だ。
「俺の援軍、友軍、助っ人」なども、これに含まれるため非番の自衛隊の友人も完全に免罪符となる。
アメリカ軍の知り合いを引っ張り出してきて一緒に大暴れしても全く問題が無いという、無茶苦茶な内容だ。好きなだけ反撃していい。あるいは先制攻撃すらOKと。
あれから取引の中で、「陸上自衛隊と米陸軍の保有する兵器・銃火器類」は、ほぼ入手に成功した。元本は返却した。
大変驚かれたが、これは俺のオリジナル能力だと言っておいた。確かに向こうの収納持ちは持っていなかった。信じたかどうかはわからないが。
いざ戦闘になれば奴らの拠点などは、好きなだけ潰し放題だ。アローブーストは目視の範囲なら、魔法による推進補助によりどこまでも飛んでいく。
金に飽かせてヘリをチャーターすれば、俺は弓1本で高威力巡航ミサイルの空中無限ランチャーとなる。敵の拠点全てを時速200キロ以上の移動速度で空爆可能だ。
誘導能力により100%撃破可能だ。最新の近代兵器でも真似は出来ない命中率だ。まあ、さすがに大使館とか領事館だけは攻撃するのは無理だな。
話を耳にして、わざわざ守山の司令部から第10師団師団長の陸将様が会社へやってきた。
守山の駐屯地司令は第10師団副師団長の陸将補が兼任しているみたいなので、その1個上の人だな。東海北陸の災害や防衛の最高責任者だろう。
「ああ鈴木、自衛隊を退職した君に私が何かを言う権限は無いが……まあ、そのう、ほどほどにな。小山田君、宜しく頼むよ」
ひでえな。かつての仕事場の、地元で一番の偉いさんにも釘を刺されてしまった。こっちでも問題児扱いか。俺の上は京都の第4施設団の陸将補だったんだが。
まあ、ここの師団長も一時的とはいえ上司だった人だけど。どっちみち、中部方面区なのは同じだ。だから京都を本拠地にする団の隷属下にありながら、豊川勤務だったんだが。
というわけで、相手が俺に手を出せないからこそ、わざわざこんな場所に喧嘩売りに来ているのだ。
毒でも盛れるものなら盛ってみろ。治癒魔法を全開で見せてやる。VXガスだって完全に無効にしてみせるぜ。
とにかく金に飽かせて派手に飲み食いしてやった。テーブルをひっくり返して、ウエイトレスのケツくらい触ってやったって相手は泣き寝入りするしかない立ち位置だ。
まあ、せんけどね。だって、にこやかにしていた方が効果的な事って世の中にはあるものだ。
俺は嫌がらせのためにアメリカとの特約に、こんな条件をつけておいた。取引品目はいかなる理由があっても直接間接に関わらず、某国並びに某国関係者には一切渡さない。
渡した場合は、アメリカの責任ですべて回収して無償で俺に返還されなければならない、と。
更にどうしても、某国とアメリカが取引しないといけない場合は、アメリカ大統領が俺にお願いして交渉しないといけないとも書かれている。
その特約条項の書類には、特別に大統領の署名が入っている。政党が変わって某国に甘い政権に変わっても有効な契約だ。
某国は異世界進出どころか、ビジネスをするチャンスすら永遠に失った。
次回は、朝6時に更新します。
初めて本になります。
「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
7月10日 ツギクルブックス様より発売です。
お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。