2-10 仲間達
名鉄瀬戸線守山自衛隊前から栄駅まで12分。栄駅からの最終は0時ぴったり。門限を守るつもりなら余裕過ぎる。
そう悪い立地の駐屯地じゃないと思う。他に地下鉄名城線からガイドウェイバスの「ゆとりーとライン」からも行ける便利さだ。
今日は、久しぶりに昔の仲間と会う事にしたのだ。例の武勇伝は自衛隊の連中にも伝わって、「奢れ」という話になった。
21ダンジョン警備の連中とは顔を合わせるし、向こうも俺が元自衛官なのは知っているが、元々の顔見知りでもない。そう親しくはしていなかった。
ダンジョン警備は、基本的にダンジョンの無い地域の隊員が交代で出張して行なっている。俺は退官間際だったし、レンジャー徽章をつけていた関係もあって専任でやっていた。
地元の隊員達はそれなりの課業があるので、たまに応援のローテーションを組むくらいだ。理由はある。地元の隊員は、国民を守る本来の任務につくからだ。
それと地元の駐屯地が主力で警備をやっていると、万が一の場合の魔物の掃討作戦が行なえないためだ。
特に大量のダンジョンを抱えてしまっている県などは、警備にも、掃討が必要になった時も大量の応援を貰わないと対応が難しい。
駐屯地自体が数も少なくて小さいのに、ダンジョンが湧きまくっている県などは相当キツイ。
応援を出すために人員が抜けて、どこも皆大変だが文句を言う人は余りいない。自衛隊は熱い人も多い。
こういう時だからこそ歯を食いしばって頑張るという気風はある。ダンジョン問題は長期化しそうなので、国も陸自隊員の募集枠を増やしくれている。
幸いな事に自衛隊は仕事として人気が高く、常に倍率も高いため人員の補充自体は難しくない。だが半年の訓練を経てやっと新隊員として配属なのだから、すぐにはものにならない。そこからも半年は部隊での教育がある。
一番の問題は予算だ。幕僚達も言う。予算が尽きたら、自衛隊は戦えないと。
だが、国民から「自衛隊を増やせ」と言ってきているので予算はあっさりと下りた。元々予算定員に対して1割近く少なかったのだ。
国会で野党議員がそのへんに激しくイチャモンをつけていたが、与党はおろか他の野党議員からもボロっかすにやられて、自分のネット関係の方が更に激しく爆発炎上していた。
テレビでも報道されまくって、そいつは結局辞任した。まだ大量の避難民がいる時なのに馬鹿だね。
俺も辞めるという話がダンジョン事件の起きる前から決まっていたのでなければ、あの時やめられなかったかもしれない。
特別精悍な素質のある者をレンジャー徽章付きまで育てる労力は最低でもほぼ二任期分丸々はかかる。
1任期分の時間でレンジャー徽章をつけている化け物とかもいるが、それは空挺などにいるような特別な奴だ。
今は精鋭が欲しい時なのだ。だが、もう書類が提出されて処理されていた。もしそれでも引きとめられていたら、俺も自衛隊に残ったかもしれない。
そんなこんなで、今日は昔馴染みの連中と飲む事にした。
「おーっす」
そんな風に声をかけてきたのは、山崎だ。
こいつとは駅で待ち合わせをしていた。こいつだけは、自衛隊を辞めた後も頻繁に会っていた。辞めてから豊川の奴らで会ったのは俺のレンジャー訓練のバディくらいだ。
俺より1個年上だけど、ずっと山崎って呼び捨てだ。学校じゃないからな。奴とは、初めて会ってすぐに仲良くなった。
そういう奴っているもんだ。正さんの店で知り合ったのだ。むしろ、豊川の奴じゃないから、普通に付き合いが残ったともいえる。
「元気そうだな」
久しぶりに会った悪友に、俺もごく自然に笑みを浮かべた。こいつには相手をそうさせるような雰囲気がある。
「こっちは相変わらずよ。異世界の風俗どうだった?」
ちょっと癖毛の短髪を弄くりかえしながら山崎が聞いてきた。
うん。愛知県でその名の如く最も栄えた繁華街(多数の風俗店込み)、栄から近い立地の場所にいる若い男なのだから、大体お察しという事で。
俺? 男の友情は下ネタで育むものさ。幸い俺は地元の駐屯地勤務だ。そのへんの地理も明るいといえなくもない。
そういうものの希望は出しても通るとは限らない。たまたまだ。体力馬鹿で訓練はガンガンやったし、小テストも要領よくこなした。
整理整頓は遵守し規則はキチっと守っていたので、班長からは気に入られていた。班長の評価は大きく影響する。
それでも班長だって人間だ。どんなにきちんとやっていても、気に入らない場合だってある。俺は教育期間で当たりの班長を引いたんだ。俺の地元勤務の希望は無事に通った。
「そんなところへ行っている余裕なんてなかったぜ。ダンジョン攻略一直線さ。お前も今度行く? 任務で」
「ダーっ、仕事じゃ行きたくねー。命がいくつあっても、たりねーよ」
「ああ、マジでヤバかったよ。でも、女の子は可愛かったぜえ? ああ、アニーさんの狐耳!」
「くっそ、まじかよ。連れていけ!」
「好きに行き来できるくらいなら、会社やめてマジで毎日通うわ」
「でも、お前って大金入っても会社はやめねえのな」
「今の会社は小山田さんがいるからなあ。それに、まだきな臭い話は続きそうだし。目立たずに地味に生きる事にしている」
「相変わらず、ショボイな」
「うるへー」
久々にくだらんやり取りをして、栄の街をぶらぶらする。もしかすると、こんなところもロシアだの某国だのに監視されているのかもしれないが知ったことじゃない。
栄なんか出てきたのなんか久しぶりだ。待ち合わせをした、守山駐屯地から直行の名鉄瀬戸線の駅はオアシス21の隣だったので、そこからなんとなくセントラルパークを北のテレビ塔に向かって、まただらだらと歩いていく。
何せ、日頃規律正しい自衛隊暮らしだ。外へ行くと、ついだらだらする。外出の時も仲間と出かけると、気がつくとつい習慣で軍隊のように行進している奴らもいるが、俺達はいつもだらだらを楽しんでいた。自衛隊には当直任務がある。即応性が求められるからな。
休日でも引き篭もりになる場合はある。うちはまだいい。演習の多い方面の奴らは、土日もたくさん潰れて消化出来ない代休ばかりが溜まっていく。
俺達はそうじゃないので、出かけられる時はなるべくだらだらを楽しんでいた。
自衛隊は公務員だから6時起床で17時には予定通りにキチっと終了する。「終わらねばならない」 それが出来ないなら実戦では死人の山だ。
だが書類を書いて外出許可を取った奴以外は、ずっと駐屯地内にいるんで公私の区別は付きづらい。自衛隊は宴会も多いし、しょっちゅう遊びに行っていたら金も持たない。
非常呼集がかかれば出動なんだし。夜中に大雨が降って市町村から出動要請がかかったなんて事もあった。地震だって、いつ来るかわからないのだ。
人間だらだらする時も必要なんだよ、とか言い訳しながら、だらけていた。不良隊員であった。課業はしっかりやったし門限は必ず守った。
でないと長期外出禁止が待っていたりする。連帯責任があるので他の奴から怨まれるし。
山崎は今も不良隊員なので、今日もこうやって俺とだらだらしている。
なんとなくダベりながら北方のテレビ塔まで行って折り返し、まただらだらと南へ向かっていく。
「なんで人は塔を目指してしまうんだろうな」
「さあ、だけどここの塔には飲める所が無いな」
名古屋駅のJRタワーなら、真っ昼間からいくらでも飲み放題なんだが。
次回は、24時に更新します。
別作品ですが、初めて本になります。
「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
7月10日 ツギクルブックス様より発売です。
お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。