2-9 魂の青
そう来ましたか。じゃ、後で俺の実力を見せてやろうかな。
米軍最強の機甲部隊対、元(土木)自衛隊員のエキビジョンってのはどうだい?
まったく負ける気がしねえな。
「じゃあ、ちょっと私の弓の腕前を見てくれませんか?」
「弓?」
エバートソン中将は不思議そうな顔をした。
小山田課長も、お前はこんな時に何を言っているんだ? という顔でこっちを見た。
「見せてもらおう」
中将は、どっしりと答える。
話を急がせるつもりはないようだ。俺は既に蜘蛛の巣にかかり、糸でぐるぐる巻きにされた哀れな獲物に過ぎないのだから。
俺達は外に出た。俺は何もない、迷宮が作り出した荒野にそれをドンっと出した。そう、異世界で収集した高さ10メートルものでっかい岩を。いきなり出現したそれに驚く一同。
そして、向こうで愛用していた弓をさっと取り出した。俺はそれを構え、最大級のアローブーストをかけていった。
最初にほのかに青白く、ほうっと光る矢。そして、それは徐々に輝きを増し、光り輝いていった。そして燃え上がるような爆発的なプロミネンス。
見る者の心を奪い尽くし共に燃焼する事で更に燃え上がっていくような、魂の青。奪え、燃えろ。そして昇華の炎、俺の命。
イグニッション! 矢は俺の三日月のように撓った弓から放たれて、唸りを上げて、光輝く有線誘導弾と化した。
心の昂ぶりに任せてその青をもっと耀かせ、俺の思いのまま大きく弧を描き、それは宙を駆け巡る。
まるで空中で獲物を捕らえようとする空対空ミサイルのように弾け飛び、くるくると見えない標的を探し求め、やがて「見つけたぞ」とでもいうように地上目標に狙いをつけた。
空気を螺旋にねじ上げて青い軌跡を太く鮮やかにたなびかせ、一直線に吸い込まれていく。そして、直径10メートルに達する目標の大岩を大音響と共に爆砕した。
捲き起こった噴煙が消え去った後には、ダンジョン表層の岩地に刻まれた直径30メートルの巨大なクレーターが残っただけだった。全員、それを呆然と見据え言葉もない。
「如何でしたでしょう。私の支援魔法、アローブーストは。こんなものは、異世界では幼稚園児しか使いません。だって、こんなものは攻撃魔法じゃない、ただの支援魔法ですから。
私、残念ながら攻撃魔法は使えないのですよ。現地の本物の戦士はもっと、こう、ね。わかるでしょう?」
一同、更に言葉もないようだ。
「異世界では3つの子供でさえ、重戦車や超音速戦闘機を1撃で粉砕します。いかにアメリカが世界最強といえども彼らには敵いませんよ。アメリカがやりたければ勝手にやりあえばいい。あっさりと全滅しますけどね。
我が国日本は参加しません。俺達自衛隊なんか所詮入り口の警備係ですからね。楽しかったですよ、ダンジョンの入り口警備」
俺達にダンジョン警備をさせていた大将相手に(あ、階級は中将だった)言ってやったぜ、ざまあ。まあ貰う物は貰ったし、帰るとするかな。
「では、皆さん、ごきげんよう」
「待ちたまえ。なんで日本人っていうのは、そうせっかちなんだ。つまり君は、我々に戦争ではなくビジネスを勧めたいというわけだな?」
「いえ、別に。俺は仕事がありますので、そろそろ失礼しますね」
「ああ、待て待て。ジョンソン大佐! とりあえず、手に入るだけの戦闘車両や重火器を持ってきたまえ。今すぐに!」
「は?」
「聞こえなかったのかね! 今・すぐ・に、だ」
「は、はっ。ただいま!」
ジョンソン大尉は敬礼と共にカツーンっと踵を鳴らし、駆け足で去っていった。ロバート中尉も駆けていった。
「エバートソン中将閣下。私、あと欲しいものが……」
こうして俺は異世界向けに欲しい物資を、概ね無料で手にいれる事が出来た。
まあこれだけ釘を刺しておけば、今すぐ向こうの連中にちょっかいをかけに行くムードにはならんだろう。これならいいかもしれないな。じゃあ、ちょこっとだけ商売するか。
その後、異世界からの持ち込み品の買い取りは『現金交渉のみ』で。更に、日本政府に対しても『免税措置』を強引に押し通してもらった。もうやりたい放題である。そのうちバチが当たりそうだ。
アメリカはありとあらゆるものを買い取ってくれた。あの異世界でも不人気なガラクタが1個1億円だぜ? ありえねえ異世界バブルだ。
ディーラーでの車の交渉みたいにライバルとの比較をしてやったら、金に糸目はつけなくなった。
「某国なら幾らで買ってくれるかな」
俺の図々しさに、むしろ感心してくれたようだ。
とりあえず総額で800億円にもなった。今だけ価格だな、これ。
金の匂いを嗅ぎつけて妹がもう煩いんで、少し纏まった小遣いは出してやったが。礼も言いやがらねえ。御機嫌で、そそくさと買い物に行きやがった。
弟なんか、ちょろっと2~3000円やっただけでも、「兄ちゃん、ありがとう~」って、凄くいい反応なのに。
全く困ったもんだ。まったく、いつからあんな子になったものやら。小さい頃はそれはもう、本当に可愛かったんだ。
父には仕事で使う高級鞄を贈った。高級品ではあるが嫌味の無い品のいいものだ。落ち着いて見え、歳なりの風格の出てきた父にはぴったりだ。
俺も歳を食ったら、こういう品が似合う男になりたいものだ。父は嬉しそうに「ありがとう」と言ってくれた。
母には、前から欲しがっていた超高級ミシンを贈った。すごい性能の奴だ。昔から俺達のために色々作ってくれたもんだ。
ネットからのデータ入力とかソフトとか扱いづらいと思うから、弟に面倒みるように言っておいた。
こういうものは、あの子の管轄だ。弟には欲しがっていた自転車を買ってやった。イタリア製の超高級マウンテンバイクだ。
一応は俺の家族も安全は確保したし、俺も金は出来た。アメリカも異世界制圧は一旦置く事にしたらしい。ただ、アメリカは彼の世界へ行く事に執着した。
チっ。やっぱ誤魔化せてないか。俺の性格も分析されていそうだ。俺があの世界を守ろうとしている事もバレバレなのかもしれない。やれやれだぜ。
次回は、23時に更新します。
別作品ですが、初めて本になります。
「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
7月10日 ツギクルブックス様より発売です。
お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。