2-8 熱病
「まったく何を言い出すかと思えば。何を考えているんだ?」
課長が呆れたような顔で俺を睨んだ。
「また正さんの店に飲みに行きたいので。買い物も頼まれていたし。あっちへ行くんなら、いい武器は欲しいです」
「あのう、恐縮ですが。米軍が銃の所持を認めても日本政府は認めてくれないのでは」
弁護士さんは、おそるおそる口を挟んできた。
「ああ、いいです、いいです。どの道、地球じゃ使わないので。私を身体検査しても家を家捜ししても、銃は出てこないですよ。弁護士さんには、行方不明になった当時に納品を予定していた物品についての交渉の件で来ていただいていますので」
2人は微妙な顔をしていた。
「エバートソン中将、今回来たメインの話は私が引き渡し損ねたトレーラーの件なのですが」
「ああ、あれはもういい。受け取る部署すら全滅していたものだ。不問としよう。我々は、もっと大きな話がしたい」
「では、その旨は書類でお願いします」
早速、弁護士さんがいそいそと仕事を始めた。
女性が6名ほど連れて戻ってきた。色々持ってきてくれたらしい。
「そうだな、まずこの20mm対物ライフル。さすがに手持ちでは撃てないが。マニュアルはついているよ」
背中に背負えるようになっているケースに入った、そいつを持ちあげてみた。重ってえ! と思いきや、案外軽いな。
ひょいひょいと両手の中でポンポン放っていると、持ってきてくれた兵士がえらく驚いていた。中将がじっと俺を見ていた。なんだ? まあいいや。その玩具は足元に置く。そして、次だ。
「これは50口径のデザートイーグル。そして同じく50口径リボルバーのM500だ。グリズリーを射殺できるという触れ込みのハンドガンだ。どうだ。スズキ、こういうのが欲しかったんだろう?」
楽しそうだな。さすがは、ジェネラル。全てお見通しだぜ。俺は現銃を確認する。デザートイーグルは前にも撃った事あるけれど、こんなに軽かったかな? まるでオモチャだ。
他にグロックやSIG、S&W、ベレッタなどの9mmオートのハンドガンを貰った。何故かS&Wの44マグナムリボルバーもあった。
ここの連中って、結構趣味丸出しの奴が多いんだよ。前にカウボーイスタイルで、ピースメーカーの2丁拳銃ぶらさげて、見せびらかしていた奴がいたっけな。
あとオートのショットガンにMP5。狙撃銃が5種類くらい。単発のボルトアクションも含めて7.62mmが主力だが、1丁はなんと単発ボルトアクションの12.7mmだった。
存在するのは知っていたが、まさか米軍が持っているとは思わなかった。かなりの特別仕様だ。何があっても、どうしても仕留めるための1丁なのが理解できた。
狙撃銃には絶対に向かないはずの、こいつをあえて採用する国家の非情。射手を犠牲にしてでも、やりぬかないといけない任務か~。
1発撃てば居所を察知されてすぐに倒される、命と引き換えの狙撃銃。わざわざダンジョン用に作ったわけではあるまい。
それを知って、なお任務に向かうスペシャリストの兵士。
その対価は「残された家族への手紙」 そして、それを書いて自ら届けに行く上官の姿だ。
仮にも一国の軍隊相応の組織に身を置いた事がある人間としては色々考えてしまうな。
しばらく、それを持って感慨に耽った。ハッと気がつくと、俺のその態度を見て満足そうにする米軍の面々。やだな、これって性格診断テストだったのか? 油断も隙もない。
「それでは、話してもらおうか。君がどうやって異世界へ行ったのか、その方法を」
「その前に、少し訊いてもいいですか? 米軍は何故異世界の事を知っているんです? 向こうへ行って帰ってきた人が前にもいたんじゃないかとしか思えないのですが。
あと、あんなにダンジョンの中を侵攻しているのは、そうしていけば異世界に出られるからなのですか?」
「うむ。それなんだが、ダンジョンに潜った米軍兵士の中に、ある奇妙な病気が流行ってな」
「へ~、どんな?」
俺は神妙な様子で訊いた。もしかすると、やばいウイルスかも。そういや、俺って検疫されてないや。大丈夫かな~。
「夢をみるのだ。それも……異世界における冒険の物語を」
「あはは。バロウズの火星シリーズですか? 夢があっていいですね、米軍」
「我々も、当初はそう思っていた。だが奇妙なのだ。皆が皆、同じような世界を見て、その描写があまりにもリアルで。司令部を悩ませたよ」
ジョンソン大佐も笑って頷いた。
「そして、彼らが一様に熱に浮かれたように言うのだ。奥へ、もっと奥へ、と。まるでそうすれば、彼らが渇望する異世界へ行けるかの如くに。他にも、ダンジョンの中で忽然と消えうせた者達の存在」
うっわあ。なんなの、それ。訳わからないなあ。
「そして、アメリカ首脳は、我々を奥へと進軍させる事を決意した。道を舗装し、奥へとキャンプを進め。そんな機運の時に、折しも君の失踪だ。元自衛隊隊員の君は救難信号を発し、冷静に対応し、そして……消えた。異世界へ。
このダンジョンにも詳しく、軍隊経験もある人間が武器を運搬中に魔物に追われ、迎撃体勢を整えた前線基地を目前に突如として跡形もなく消えうせた。センサーやカメラのデータがそう示していた。他にも消えた人間は大勢いる。
だが、君は『帰ってきた』、世界でたった一人。君だけが世紀の謎の鍵を握っている。
アメリカならずとも他の外国勢力もそう結論づけた。その結果の一つが土曜日の事件だ。もう事態は大きく動いてしまっているのだよ。
某国も本当ならもっと違う手段を選びたかっただろう。だが時間がなかった。月曜日には、君はこうして私と会談する事になるのだから。仕方なくあのような手に出た。焦って、そして失敗した。某国に次はない。それが現状分析といったところだね」
あいたたた。そこまでいっていたのかよ。つまり、あれだな。君は最早アメリカに協力する他はないのだぞ、と言いたいわけですね。今のこれって最高責任者からの最後通牒でしたか。
ちらっと小山田課長の顔色を窺ったが、紙のように蒼白だった。
次回は、22時に更新します。
別作品ですが、初めて本になります。
「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
7月10日 ツギクルブックス様より発売です。
お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。