2-7 交渉
地上の米軍の第21ダンジョン代表駐屯地に連絡が行き、担当者がわざわざやってきた。
45歳くらいに見える精悍な大佐さんだった。この第21ダンジョンの米軍は3個大隊からなる旅団からなっている。
3本指に入る大きいダンジョンなので2000人と人数的には旅団とはいいがたいが、旅団として扱われるため責任者の階級は高い。トップ自らのご登場だ。
『どうも大変申し訳なかった。完全な行き違いだ。事情をお伺いしたいので、丁重にお迎えせよという話だったのですが何故こんな事になってしまうものやら。我々も頭を痛めております。彼らは、まだ来たばかりで教育も行き届いているとは言えなくて。お詫びいたします』
なんかダンジョンに来る奴らは、割とちゃんとしてないというか色々あれなとこもあるらしい。正規兵というか、よく訓練された兵士は重要な場所に配置されているので変なのが回ってくるんだそうだ。教育の行き届いていない新兵も多い。
元々在日米軍自体が、そういう雰囲気があるのだ。ヨーロッパとかに質の高い兵士を配置するので、日本には問題起こすような質の悪い兵士が多いという話は聞いた事がある。
ダンジョン組は、そこから更に二段階から三段階は質が大幅に落ちているらしい。しかし酷いな。自衛隊の質の高さが凄いのか? 単に日本人自体が、基本的に問題起こさないというだけの話なのだが。
俺が付き合っていた米兵連中は皆気が良くて、酔っ払っても問題起こすような事は1度もなかったのだが。まあ友達はちゃんと選んでいたけどね。母親の言いつけだったから。
第21ダンジョンの米軍地上管理事務所となる代表駐屯地、Garrison21。通称ブラックジャックと呼ばれている。
俺はそこへの同行を求められた。小山田課長と会社の顧問弁護士と一緒に、用意されたアメリカ車の高級セダンの後部座席にお邪魔した。
『ははは。てっきり、某国工作兵が襲撃してきたのかと思いましたよ。ただの不良兵士だったとは』
『土曜日の件ですか?』
軽く振り向きながら鋭い目つきで、ジョンソン大佐がさらっと言い放った。
『おや、ご存知で』
『それも含めてお話願います』
やれやれ、それヤバイ話もあるんだよなあ。まあこうなっちゃ仕方が無いが。話のわかる奴が出てくれるといんだが。
「何の話だ?」
眉を曇らせた小山田課長が聞き咎めた。
「土曜日に、うちの弟とその彼女が誘拐されました。それで俺も連れていかれそうになってまして。外国系黒社会の人間風でしたが、命じたのは間違いなく某国政府筋でしょう」
「それで、どうした」
少し顔色を変えた課長が真剣な声で尋ねた。
「軽機関銃で敵を殲滅の後、人質は救出しました。その後は知りません。某国マフィア同士の抗争という話をでっちあげておきましたが、警察に言い訳は通用していないようです。アメリカが手を回してくれているようですが、味方というわけとは限りません。
俺は一介の民間人に過ぎません。あと、遊園地の奴らに協力者がいたようだったので、それも通報しておきました。戦闘の都合で遊園地に派手にガソリンぶちまいて火を放ちました。おかげで、まだ生きておりますが」
課長がまた頭を抱えた。
「その銃は、どこから手に入れた?」
「後で説明しますよ」
そこまでの会話で目的地に到着した。歩いたって行けるくらいの距離だ。
俺達は応接間ではなく会議室に通された。
「ようこそ、Garrison21へ。Mr.スズキ、Mr.オヤマダ。 どうぞ、おかけください」
流暢な日本語を話す、初老のごつい軍服を着た男性が議長のようだ。ダークブラウンの髪に白いものが混じっている。
威圧的なところはない。交渉したいという事なんだろうな。目は濃い目のブルーで、割と理知的な光を湛えているようだ。今朝の兵隊のような事はあるまい。
「朝は、うちの兵士が大変失礼をしたようで、実に申し訳がなかった。改めてお詫びしましょう。あの馬鹿どもについては、明日にも、全員本国へ強制送還の対応となりますので、今後ご迷惑をおかけする事はないでしょう。
私はこの問題、ああ、ダンジョン関係ですね。その解決のために本国から来ている、日本ダンジョン探索統括部の部長を務めるエバートソンです。階級は陸軍中将、2万人以上の軍を指揮する階級です。つまり日本におけるダンジョン探索関係の総責任者です」
大物が出てきちゃったな。今日の議題がなんとなくわかるぜ。俺は自分の顔が自然に渋くなっていくのを感じていた。小山田課長も同様だろう。
席には2512駐屯所のロバート中尉も来ていた。彼は笑顔で挨拶してくれたので俺も同じく返しておいた。あと、ここの責任者のジョンソン大佐と書記の女性を含めて7名の会合だ。
「まず、率直にお伺いしたい。ミスタースズキ、あなたは異世界へ行かれたのですか?」
「ノーと言っても、信じてくれないんでしょう?」
俺は軽く頭を右に引くような感じで、値踏みするようないたずらっぽい目つきで訊いてみる。もちろん笑顔で。
裏が取れてないのに、こんな大物が出てくるわけがない。もしかすると、いい取引ができるかもしれない。だが、それは向こうさんの考え次第だな。
「もちろんです。でなければ、私がここにいる理由がない」
ですよねー。まだ課長にだって、向こうの件はろくに話していないんだが。
「まず、どうやって向こうへ?」
「その前に、情報の対価をいただきたい」
「ふむ。対価というと?」
「現物支給で。武器兵器が欲しいのです。戦闘車両も含めた」
「それは何故?」
「私は行けたら、またあちらの世界に行きたいと思っております。その際に強力な兵器は持っていたいので。魔物と戦うこともあるでしょうから」
「何が欲しいのですか?」
「戦車を含む戦闘車両や砲を。M1エイブラムス戦車、戦闘ヘリ、攻撃ヘリ、装甲車、装甲警戒車、水陸両用車、ホバークラフト、120ミリ迫撃砲、対戦車誘導ミサイル各種、歩兵携行の対空ミサイル、自走砲、榴弾砲、対空機関砲、対空ミサイル車両、大型対地ミサイル車両、携行用の連装ロケット砲など。30mmガトリング砲、20mmバルカン砲などの機関砲、出来ればバルカンファランクスのようなシステムの搭載車両も欲しい。M134ミニガンなどの特殊な機関銃や、携行用の機関銃・ライフル・ショットガン・サブマシンガン・ハンドガン・特殊銃などの銃器全般。20ミリ対物ライフルがあれば、是非欲しいです。12.7mm対空ライフルもあれば。無ければ本土から取り寄せてでも欲しい。あとは爆薬類各種。強力な魔物と出会った際に確実に倒せるものを」
「お前は一体何と戦争するつもりなんだ?」
小山田課長は呆れたような顔で言った。自衛隊出身者ならではの感慨だろう。
「君がそんなものを欲しがるというのも、また一つの情報ではあるかな? だが君がテロリストにならないという保障がないな」
エバートソン中将は面白そうにいった。
「私がテロリストになるつもりなら、そんなものはいりませんよ。魔物ではなく、かよわい無辜の民を撃つのに、こんな重火器類は不要ですから。代金が安過ぎましたか?」
俺はにやにや笑いをトッピングに抜け抜けと言っておく。
「はっはっは。そうだな、それは情報次第だ。あと、前払いを一つしておいた。もう連中は君に手を出せないだろう」
エバートソン中将は口の端を上げて、ニヤリと笑った。
「そう来られちゃ仕方が無いですね。とりあえず、ここの駐屯地に配備されている銃火器を全種類弾薬込みでください。そして、その所持並びに使用の許可を」
「まあそのくらいなら、とりあえず私の権限で。おい」
書記の女性が誰かを呼びに行った。
次回は、21時に更新します。
別作品ですが、初めて本になります。
「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
7月10日 ツギクルブックス様より発売です。
お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。