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2-6 朝から一波乱

 月曜日に、俺は開き直って会社に出勤した。朝飯食って愛車のワンボックスに乗り込み、県道63号を北上して五条川を越える。いつもの出勤風景だ。


 名神高速と2つの国道155号線を越えると一気に車は減る。そこから先は第21ダンジョンしかないからだ。そこから1kmもいかないうちに、見慣れたダンジョンの風景になる。


 日本に現れたのは、皆こういう地下ダンジョンだ。地下とはいいつつ表層の大地までを蝕み、不毛の岩山のように変えてしまう。ここも以前は普通の町並みだった。


 この道は俺と同じ自衛隊施設科の連中が、緊急の任務で汗水垂らして作ったものだ。ダンジョンの入り口の封鎖が目的だったが、今はダンジョン侵攻中の米軍関係が活用している。


 自衛隊は外の警備ばかりだ。美味しい思いは米軍兵士とアメリカ合衆国が全て持っていく。ダンジョンに関わる経費も全て日本負担だ。国民の血税から大枚が払われている。


「アメリカさん、ダンジョンに来て」なんて、誰も一言も言っていないんだけど。こんなの昔からの慣わしだから、なんとも思わないけどね。日本は完全な独立国家じゃない。


 日米関係は完全な主従関係だ。だが、俺は会社の業務以外でアメリカに従う義務はない。


「おはようございます」


 事務所ではなく、現場の方に元気に挨拶して出勤する。なんと米軍の車両が2台も止まっていて銃を持った兵士が数人立っている。


 日米協定違反だ。ここは米軍基地ではない。アメリカの主権は一切及ばない。ダンジョン問題で、日本領土である事を日米間で書類を持って明確にした場所だ。向こうの大統領のサインもある。


 本来、用も無いのにダンジョン攻略部隊のアメリカ軍が活動していい事にはなっていない。日本国民の反発を抑えるために、地上駐屯地の兵士は、ゲートの警備以外では通常武装していないはずなのだが。


『おまえがスズキか? 一緒に来てもらおう』

 兵士の1人が写真を見ながら、そんな事を言ってくる。


『ものものしいな。何のつもりだ?』

『うるさい! 一緒にくればいいんだ』


「あ、おはようございます。朝から何事ですか?」

 小山田さんが現れたので、そっちへ挨拶した。


「わからん。何を言っても聞いてくれんので困っているよ」

 

『お前らなんかに俺を連行する権限はないぞ。ここは日本で、お前らはただの外国人だ』

『やかましい。お前を連れて来いとの命令だ』


『お前らの国じゃ、何かあったら弁護士を通すんじゃなかったのか?』


 兵士は俺に銃を突きつけて、こづいた。そんな事は怖くもなんともないね。


 俺は軽く銃を引っ張ってやった……つもりだったのだが、あっさり取り上げられてしまえて意外だった。


 俺は、さらっと細かく分解して、部品を広範囲にバラまいてやった。

『おい外人。さっさと拾わないと、始末書だぞ』


 俺は1個1個、部品を足で蹴り飛ばしながら親切に言ってやる。部品がやけによく飛ぶなあ。軽く蹴っただけなのに、そこそこ大きな部品が跳ね飛びながら20メートルほど転がる。


『おい、そっちの奴も。何か言いたい事とかあるのなら、弁護士を通して言え。お前らの行動は全て記録されている。恒例の日米協議において資料として活用されるから、そのつもりでいろ。俺が元自衛隊なのを忘れるなよ』


 足の裏にある小さなスプリングをぐりぐりと踏み潰しながら、はったりをかます。


 小山田さんが、苦笑しながら告げる。


『あなた方が、あまりに乱暴すぎるから、うちの社員も怒っているじゃないか。アメリカは未だにこの国の支配者気取りなのかもしれないが、そんな狼藉はもう通用しないよ。あまり問題を起こすと、ダンジョンから追い出されても仕方がない。うちだって商売だ。それは望まない。


 ダンジョンは日本の領土であり、米軍基地でも米国の領土でもない。あなた方は、ただのお客さんの外国人だ。無法をすれば、日本政府より逮捕もしくは国外退去処分が言いわたされる。この場所で銃を所持しているのは明らかに日米協定違反だ。日本政府を通じて米国大使館に抗議する』


 だがその兵士は歯を剥いて唸り、小山田課長に掴みかかった。そして、米軍兵士6人全員が見事に気絶させられて、全員お縄を頂戴する羽目になった。


 この小山田さんに近接を挑むなんて馬鹿なのか。素手なら、特戦の奴らが30人がかりで束になっても敵わないのに。


 警察が呼ばれ、全員に手錠がかかり連れていかれた。武器類も全て押収された。通常なら米軍の武器に手を出したりはできないのだが、明らかな違反行為であったためだ。


 ここは沖縄じゃない。本土ダンジョン系の新興駐屯地には、米軍に対する敬意とか畏怖とかは全く存在しない。


 特別面倒を起こすやっかいものの外国人という事で、すぐ留置所行きだ。地元の偉いさんとかとの調整が全く出来ていないのに悪さばっかりするものだから、すっかり嫌われ者だ。


 そんな奴ばっかりではないのだが。俺は結構米軍の奴らとは仲がいい。気質的に日本人よりもあいつらの方が付き合いやすい面もある。


 何故米軍は、ああも兵士を統制できないのだろうか。初期に発生したあれらの事件以来、基本的にここの警察は米軍を目の敵にしている。もうこれは完全に米軍が悪い。


 自国の国策のために外国に来ているのに、自分の欲望にまっしぐらな奴がいっぱいいて驚いた。米軍サイドもそれを良しとしているわけではないのだが、アメリカ本国の政治家は何も考えていない。


 不祥事を起こして本土送還になる兵士の数は、ダンジョン誕生以前の20倍以上にも上る。在日米軍司令官が完全に頭を抱えている。野党やマスコミが連日声高に叫びまくって、与党の政治家も渋い顔だ。


 ダンジョン関係のために急遽募集に応じてきた、あまり質のよくない連中も多い。多過ぎる。せめてちゃんとした本土の州兵とかを寄越せよ。


 予算審議は難航し、ダンジョン関係の予算がもう出せないかもしれないとアメリカ政府には通告されているが、回答は一切ない。


 そのうち、いつぞやの沖縄みたいに兵隊に外出禁止令が出そうだが、それをやると駐屯地が凄い事になってしまう。やりたくても、やれないんだろう。合掌。 


 米軍基地には警察から連絡がいくだろう。何を考えているんだろうな。あいつらは怪しい。へたすると某国に金で雇われた連中だとか。あるいは米軍兵士ですらないかもしれない。


 このあたりの米軍兵士で「オヤマダ」を知らない奴がいるはずないのだが。


 それもあって米軍の奴らは良くしてくれている部分もあるんだ。彼らにとって強さとは、純粋な尊敬対象としての意味を持つ。


 彼の部下という立場もあったし、俺自身が、かつてレンジャー徽章をつけていた事も影響したかもしれない。だがあの経験は、誇りを与えてくれると共に俺の自衛隊退職を早めた原因となった。


 最近は3曹に上がるのも厳しい。そんな中で任期制隊員の陸士長である身で、部隊長はレンジャーに推薦で送り出してくれた。


 そんな自分が誇らしくて頑張った。施設科の俺が帰還式でレンジャー徽章を首にかけてもらった。思わず涙したよ。


 だが、何かが違うような気がしたんだ。それでやめた。レンジャー訓練のバディだった男は未だ現役の自衛官だ。


 今でも付き合いがある。彼は俺が辞めたいと言った時、何も言わずに肩を組んで飲み明かしてくれた。あらかじめ外泊許可まで取ってくれていた。不思議な奴だ。


 次回は、20時に更新します。


 別作品ですが、初めて本になります。

「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」

http://ncode.syosetu.com/n6339do/

7月10日 ツギクルブックス様より発売です。


 お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。

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