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2-3 ダンジョン・パニック

 当初は何もなかった。魔物が出現するという情報があったため警察がパトロールし、命令を受けて武装した自衛隊員も出動していた。


 ダンジョンの封鎖にも回った。パトロールは主に普通科隊員だが、初めは彼らも不思議そうな顔をしていた。


 コア部隊である豊川第49連隊は8割が予備自衛官で編成される特殊性がある。その代わり残りの常時基地にいる普通化部隊には、通常任期制の隊員は1人もいない。


 上では予備自衛官の招集まで検討された。他駐屯地から応援をもらうか、召集をかけるかの事態だと判断されたのだ。通常任務に支障が出てしまいそうだったからだ。駐屯地は騒然とした空気に包まれた。


 自衛隊に【戦闘行動】を目的とした出動命令がくだされたのだ。通常の制服とは異なる、厚地の戦闘服、鉄兜、身に着けただけで10キロを越える戦闘装備の服装。


 それに装弾込みで重さ4キロくらいの自動小銃と30発入りのマガジン6本を身につける。背中には30kgの背嚢を背負った。三日分の荷物をもっていなければならない。


 ヘルメットも通常使用するプラスチック製のものでなく、金属製の戦闘用を着用した。全部合わせて約50キロ近い装備だと思ってもらえば間違いない。


 訓練なんて、これを背負って戦闘が出来るようになるためのものだと思っている。フル装備で映画みたいに走って戦えるのは、ほんの僅かな間の時間だ。現代の軍隊は車で移動する事を前提に編成されている。


 俺は施設科だったが、レンジャー資格を持っていたので、緊急でそちらへ編入された。皆初陣という事で緊張しているようだ。しかも相手は訳のわからない生物だ。


 目を白黒させているうちに班に編成され、陸曹ばかりの班に組み込まれた。この人達は、戦時には元自衛官で構成される予備自衛官や自衛隊にはいなかった一般人で構成される予備自衛官補などを、教育・指揮する教官みたいな人達なので少し緊張した。


 俺の緊張を置き去りにして事態は疾風の如く突き進んだ。荷物を背負い整列し、気合を入れられて俺を含む4人編成の班は高機動車に積み込まれていった。


「えらい事になったものですね」

 俺は高機動車の荷台でお向かいにいた普通科の陸曹に話しかけた。


「おう。射撃には充分気をつけないとな」

 正規の自衛官である、彼ら陸曹はそのあたりを強く懸念しているようだ。


 海外の警察とかは兆弾などを懸念して、銃火器のような装備は口径や弾丸の威力も選び抜いている。


 自衛隊の敵は正面の敵だけではない。自衛隊が非難されるような結果は避けないといけない。むしろ、そっちの攻防の方が激しいのだ。へたを打つと国防に支障が出てしまう。


 敵に向かってバンバン撃てばいいだけとは限らないのだ。今までは、そういうケースはほぼ無かった。俺達一般隊員が知らされていないだけで、実際には弾の飛び交う戦場もあったのかもしれないが。


 そして兆弾や流れ弾もある。89式自動小銃の有効射程は500m。弾自体はもっと飛ぶ。だから、一般人のライフル銃の所持は非常に厳しい条件になっている。軽量な5.56ミリ弾は風の影響も受けやすい。


 遠くまで飛んだ、威力の落ちた弾は目標からそれやすいだろう。やたらと撃つと意図せぬところへ着弾しないとも限らない。


 それでも人間に当れば死傷する。警察官の撃ったチャチな拳銃弾が380mも離れた場所で発見される事もあるのだ。


 おまけに戦闘区域は主に市街地というお膳立てだ。その上、相手が自分の武器で倒せるのかどうかも不明なのだ。


 戦闘自体を経験した事のない自衛隊には、いきなりで厳しい任務となった。指揮官は内心泣きが入っているだろう。そんな様子はおくびにも出さないが。


 俺は頷いて、小銃を握り締めた。高機動車の後部スペースは本来なら戦闘装備の隊員でいっぱいだ。


 最大10名で出動するため荷物を真ん中のスペースに置いて寿司詰めにするのであるが、今日は全部で4名だ。車長と運転士、そして俺を指導する3等陸曹の編成だ。


 胸元にレンジャー徽章がついていなかったら、俺なんかただのお荷物扱いになっただろう。パトロール区域が広く、随所での戦闘行動が予想されるために、分隊ではなく4名編成の班での行動となっている。


 今のところ、分隊レベル以上が必要な殲滅対象は報告されていないと。


 豊川は普通科人員が少ないため、今回はこうやって他部隊の人員を混成させて班を編成している。レンジャー資格持ちは優先して編入された。


 豊川は基本特科部隊が主力だ。そちらからもレンジャー徽章持ちは初期に動員されている。歳のいった人などは、しんどいだろう。


 本来ならば任期制陸士長で京都に本拠を置く第4施設団に所属する、施設科隊員の俺にお呼びがかかる事などないのだ。俺は課業の途中で、突然中隊長に首根っこを掴まれて引き摺っていかれた。


 連れていかれた先には、同じくレンジャー訓練の相棒だった青山が同様の目に遭っていた。そして武装を整え緊急出動するよう命じられたのだ。


 駆け足で装備を受け取り、緊急で集合した。こんな日が来るなんて夢にも思っておらず、みんな目を白黒させていた。


 あまりに異常な緊急事態で、中部方面区からの通達により普通科を擁する各師団司令部、各駐屯地司令の判断で急遽編成されたのだ。


 中部方面混成団隷下の豊川第49普通科連隊も、便宜上守山駐屯地の第10師団の指揮下に置かれた。ここも元々、昔は第10師団隷下にあった部隊だ。


 異生物との戦闘という想定外の異常事態である上に、時間いや分単位での即応性が要求されたため、とりあえず予備自衛官の招集は見送られた。


 豊川では間もなく、特科の一般隊員からも魔物パトロールに動員されることになった。


 豊川も、三河方面は全面カバーしなければならない。だが戦闘行動が必要となると、また話が変わってくる。


 これがこの地方だけであるならば、近隣の名古屋や静岡、あるいは名古屋以外からも応援を呼ぶのだが、あいにくそっちもダンジョンが発生している。


 日本海側にある第10警備地区内の駐屯地からは、三重にダンジョンが大量発生しているので、そちらへ応援に出されている。それでも三重は人員が足りないので、隣の第3警備地区からも応援をもらっている。


 唯一近場の岐阜は守山の分屯地だ。被害地域以外からの中部方面区からの応援も来る予定だが、すぐには間に合わない。


 近場の第3警備地区には和歌山県が入っており、そちらと三重への応援で大わらわだ。和歌山も駐屯地が1つしかないのに、ダンジョンが10も沸いている。


 同じ中部方面区からは、遠い中国地方と四国から来てもらうしかない。それ以外の他方面区となると、東北や九州とかからの応援になるので、更に遠い。


 東京方面にダンジョンが多数あるので、東海地方へ応援に来てくれるなら九州だろう。もはや国家総動員というのに近い。隣り合った東京方面と名古屋方面が同時にやられてしまうと、こんな酷い事になるのだ。


 お隣の東京管轄である東部方面区も、首都防衛という重大任務がありながら18ものダンジョンを抱え、日本で1番目・2番目の規模を誇る巨大ダンジョンをも抱えていた。


 また東部方面区内でも、お隣の静岡県がダンジョンを大量に抱えているため、よけいに酷い事になっている。


 和歌山・三重・静岡と近隣3県が各9~10個と大量にダンジョンを抱え込んでいるために、愛知県は応援も思うように受けられない。ダンジョンが3つしかない愛知県はまだマシな方なのだ。


 動員数に加えて、敵との戦闘行動を含む内容であるため、ある意味では東日本大震災を越える非常事態であると言えた。


 そこへ某国やロシアの領空領海侵犯攻勢があったため、自衛隊にとり泣きっ面に蜂の状態であった。陸海空の全てにおいて、余裕なしの状態だった。


 国も首相官邸に対策本部を作り、対応に大わらわだ。自衛隊には、市町村の要請に従い臨機応変に戦闘部隊を出動させるよう、国から異例の命令が下った。


 文字通り、「国民を守る」ことが最優先された。自衛隊は高機動車や通常車両タイプなどに班単位で乗り込み、慌しく魔物出現地帯でのパトロールを繰り返した。


 だが、思ったほど魔物の数は多くなく、俺は直接戦闘に関わる事はなかった。豊川の第19ダンジョンや岡崎の第20ダンジョンは比較的小さくて魔物出現数も少ないため、それぞれ数体しか魔物が外に出ていなかったようだ。


 まったく被害の出ないうちに全て掃討された。入り口は封鎖されて魔物の掃討はすぐに終わった。施設科はダンジョンを囲む柵の建設に入ったが、俺がその作業に入る事はなかった。


 一旦俺達普通科以外の人員は、豊川管轄の魔物パトロールからはずされたが、すぐにまた応援に出される事になった。


 問題は第21ダンジョンだ。かなり大型のダンジョンであったため、大量の魔物が出現した。


 49普通科連隊は数が少ない上に、地元に2つのダンジョンを抱えるため、応援は俺達のような他部隊のレンジャー資格持ちが駆り出された。


 だが、よくある話で、俺達が行く頃合には、市中の魔物退治はほぼ終了していた。だが、不安がる市民のために自衛隊のパトロールは続けられた。俺も作戦に従事したが、最後まで魔物と戦闘する事はなかった。


 名古屋の方は、都市部に大量の魔物が出現したため、市民や警官に26名の犠牲者が出てしまった。ことに市民を守るために魔物と戦わなければならなかった警官の犠牲者が14名を数えた。


 警官の負傷者は更にその10倍にも達した。彼等は威力の弱い拳銃と、基本5発の弾しか携帯していない。初期には予備の弾丸さえ持ってはいなかったので、殉職者を増やす原因になった。


 急遽予備の弾丸と、自動拳銃の配布が行なわれた。警官がライフルを持って出動する姿は日本では異様に映る。


 数少ない自動拳銃を所持していた警官の中で犠牲になった人はいなかったようだ。SATも出動したが、如何せん対応できる限界を越えていた。


 警察の要請で、名古屋市長と愛知県知事が自衛隊の出動を要請したため早期出動が可能になった。


 国が素早く対応したのだ。魔物出現から自衛隊に「戦闘指示」が下されるまで、2時間とかかってはいなかった。


 日本の国としては、異例に決断が早かったと言えるだろう。自衛隊が緊急出動したため、それ以降は犠牲が出る事はなかった。


 そんなある日、突然中部から関東にかけて魔物出現ポイントから急速にダンジョンが広がった。


 そのまま日本全体が飲み込まれていくのではないかと当初はいささかパニックになったが、そんな事はなかった。災害には比較的落ち着いて行動する国民性により、すぐに大騒動は落ち着いた。


 だが、多くの国民が家を失い、消えてしまった町も多数ある。広域ダンジョン化の際に人的被害が0だったのは奇跡だろう。


 ダンジョン化の進行がじわじわといった感じで、遅かったせいでもあるが。家財の持ち出しなどをしていて避難が遅れるような人もいたし、情報が行き渡っていない人もいたので中には危ないケースもあったのだ。


 遅まきながら自衛隊にも災害出動が命じられた。俺はそれが国民の皆さんへの最後のご奉公となった。その後、退官するまでの間、地元豊川近辺にあるダンジョンの警備へと回された。


 次回は、17時に更新します。


 別作品ですが、初めて本になります。

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7月10日 ツギクルブックス様より発売です。


 お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。


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