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2-2 何気ない日常

 課長と一緒に一旦支店に戻った。連絡を受けた社長が、わざわざ来てくれていた。愛知商社は名が示すとおり、名古屋に本社がある。


 他に千葉の第5支店、静岡の第15支店があり、日本3大ダンジョンを網羅している。ここも本店ではなく1支店扱いだ。


「鈴木、無事に戻ったか。よく生きて帰った」


 社長も元自衛官で、地元の愛知県で会社を興した。まだ40歳で、見るからに壮健で頼りになる人だ。

 喋り方も、若干自衛隊風味だ。


「はい、ありがとうございます」


 いつもは営業所の間を飛び回っており、本社での仕事も多く大変忙しいはずなのだが、こういう時にはちゃんと顔を出してくれる。ちょっと胸が熱くなった。


「また米軍から呼ばれる事になるだろう。今日はもう帰れ。小山田君、家まで送ってやってくれたまえ」


「わかりました、社長。さあ、鈴木、行くぞ」

「ありがとうございます、社長。それでは、これで失礼いたします」


 課長の運転する車の中で、俺はずっと考え事をしていた。さすがに装甲車ではない。


 ランドローバー・ディフェンダーが課長の愛車だ。もう生産中止になってしまったこの車は、自衛隊で使っている高機動車の民生版メガクルーザーよりもごつい。完全に軍用車そのものだ。


 もしもの時に備えて、こんな車に乗っている人なのであった。例えば、今日俺を迎えに行くようなシーンとか。装甲車が空いているとは限らない。


「鈴木、色々あったと思うが、今日は家に帰ってよく休め。家には連絡しておいた」


 それを聞いて、跳ね起きてスマホをみたら、家から着信の嵐だった。うっわああ。

 課長は笑って、「まあ、そんなもんだ」と俺の肩を軽くポンポンと叩いた。


 恐る恐る、母親の携帯電話に電話をかけた。スマホじゃなくてガラケーね。


「あのう、お母ちゃん?」

「肇? 肇なのね? あんた、一体何やってるのー!!」


 更に、凄い罵詈雑言の嵐が返ってきて、思いっきり凹んだ。ある意味魔物の攻撃よりもきつい。

 俺の車は、父が挨拶も兼ねて一旦引き取ってきてくれてあった。


 送ってもらった家の前で、直立不動の体勢で、小山田課長を見送った俺が振り返ったら、家族一同が総出でお出迎えだった。茶髪に染めたロングヘアを振り乱して目を吊り上げた妹が先頭だ。


「お兄ちゃん、信じられない。3週間も行方不明だったのに、帰ってきて、うちに電話一つ寄越さないなんて!」

 いきなり、こいつの攻撃か。相変わらず可愛くない!


「全く! あんたって子は、昔から~」


 少しパーマをかけた、ややきつめの顔立ちの母親が怒り心頭だ。妹は母親似だと思う。

 はいはい。言い訳のしようもございません。


「お帰り」

 穏やかに、言葉少なく迎えてくれたのは父だった。


 頭に白い物も多くなってきた年代で、渋い眼鏡をかけている。この時期、仕事が滅茶苦茶忙しいのに、帰って待っていてくれたのか。悪い事したな。


「兄ちゃん、お帰り」

 ちょっと笑いながら、高校生の弟がポンっと肩を叩いてくれた。


 おう。こういう時、こいつはサバサバしていて助かるぜ。


 妹に腕を引っ張られ、母親に後頭部をこづかれながら、俺は懐かしさの我が家に引き立てられていった。


 早速、リビングに連行されていって、今までどこで何をやっていたのか、きりきりと吐けと言われた が、俺はあっさりと拒否した。


「「なんでよ!」」


 早速、母親と妹がハモってヒスったが、俺はあっさりと答えた。

「この家の会話が盗聴されている可能性があるからだ」


 一家の団欒の場であるリビングが、沈黙一色に彩られた。父が黙って茶を啜る音だけが、それを破った。まあ、魔物が人間の血を啜る音よりは幾ばくかマシだと思う。


 弟は相変わらず面白そうな顔をして観ている。そして、御菓子を取ろうとした手を凄い顔をして睨みつける姉の手が払いのけた。首を竦める弟。


 俺は米軍で貰った菓子を、妹の頭越しに投げてやった。奴はすかさず受け取り、包みから取り出して口に放り込む。


「もう! 馬鹿馬鹿しい。あたし、もう寝る!」 


 妹は相変わらず、カルシウムが足りていないようだ。

「肇。今日はもう疲れただろう。風呂に入って、休みなさい。母さんも、もうそれくらいで」


 俺は父に、これ以上無い立派な敬礼をしてリビングから逃亡した。あの父は、自衛隊に入る時も親の同意書に黙って判をついてくれた。辞めた時も。


 今の会社に入る時も黙って頷いてくれた。生きて帰ってこられて本当によかった。

 俺がフィリップと一緒に死んでいたら、父は後悔しただろうか。


 俺は風呂の中で、あちらでの事を色々と思い出していた。向こうで俺によくしてくれた人達。子供達、正さん。ギルドの連中も。


 ビールを一杯引っ掛けて、カップ麺を啜って、部屋でベッドに倒れこんだ。3週間ぶりの自分のベッドだ。寝付けないかと思ったが、いつの間にか寝てしまったようだ。


 翌朝洗面台で、ゆっくりと朝の儀式をしていると、弟が降りてきた。

 こいつは、俺と同じでガタイがいい。父に似ているのだ。こいつも俺の影響か空手をやっている。


 短くした黒髪は、父や俺の影響があるかもしれない。まあのんびりした性格なので、粗暴な気配は全く欠片もない。顔も素直そうな顔をしている。妹と違い、こいつは可愛い。


「お早う、兄ちゃん」

「おう。おはよ。お前、こんなにのんびりしていていいのか?」


「今日、土曜日」

「そっか」

 この曜日感覚の無さには、しばらく慣れないかもしれない。


 ダイニングに行くと、みんなもう朝飯を食べ始めていた。


「おはよう」

「おはよ、馬鹿兄」

「おはようさん、今日はどこのダンジョンにおでかけ?」

 やれやれ。


 父は笑って飯を食っている。我が家は平和だねえ。何か妙に帰還した実感が湧いてきた。


「兄ちゃん、今日デートなんだ。遊園地まで送ってよ」

「あいよ」


 ダンジョンのおかげで、そうしてやったほうがいいのだ。遊園地は我が家の右上方にあるが、そこを目指していくとダンジョンに突き当たる羽目になる。


 第21ダンジョンは、家から6キロ離れたところにある。直径2kmものでかさだ。日本に40あるうちの3番目にでかいダンジョンだ。


 約直径3kmが立ち入り禁止区域となっている。入り口が中央にあるから、そんなもので済んでいる。


 一つの市町村の中心部が、ごっそり封鎖され、その市の残り部分は左右にある市町村に吸収された。地震の被害こそ無かったものの、ダンジョンに飲み込まれた町は大被害を蒙った。


 約3平方km以上に渡り、岩山のように地形が変わり果て、元の町は消えうせた。



 次回は、15時に更新します。


 別作品ですが、初めて本になります。

「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」

http://ncode.syosetu.com/n6339do/

7月10日 ツギクルブックス様より発売です。


 お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。


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