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2-1 懐かしの日本

 帰ってきた。日本……。心の奥底から熱いものがこみ上げてきた。


 はっ。俺はある事をやらないといけない事に、気がついた。マッピングのシステムをSDカードにバックアップする。


 そして、車外に出て、一回アイテムボックスに仕舞う。一瞬だけでOKだ。これで、マッピングデータが全て初期化される。燃料も殆ど抜き取っておく。オイルにも汚れみたいなのを混ぜておいた。


 データの初期化は、今までに何回も確かめた。本来はデータを消さないための配慮だが、今回は「データを残さない」ための配慮だ。このハンヴィーは、米軍に引き渡さないといけない。


 そうなると、向こうのマッピングデータが米軍の手に渡る。最初の時が、行き違いなどでトラブルになりやすい。現地の人が危険に晒される可能性が高くなる。


 俺はアメリカ軍の人間じゃない。もう自衛隊員でもない、一介の会社員だ。アメリカ軍は、所詮ただの取引相手だ。俺は彼らに対して、何の義務も持っていない。


 探索者ギルドの人達や、探索者のダチ、解体場の子供達の方が大事に決まっている。いずれ米軍も辿りつくのだろうが、俺のせいで犠牲者が出たりするのは困る。


 いつか、あっちへの通路ができたら遊びに行きたいな。観光の許可は下りるだろうか。あまりきな臭い事にならなければいいんだが。


 米軍が向こうの世界の人に対して、人道的に振舞うかは非常に微妙だ。いざとなったら強引に世界を渡り、俺の手でマスコミを送り込むか。


『君は?』

 銃を構えた憲兵が訊いてきた。


「ハジメ・スズキ。愛知商社第21ダンジョン支店所属です」

 俺はIDカードを見せた。


 ん? 米兵達が騒がしい。あ、エマージェンシー・コールを出して、それっきり3週間逐電していたんだったわ。俺はスマホを出して会社に一報を入れた。


「鈴木、本当にお前なのか? よく無事だったな。今まで、どこにいた?」

「実は、『向こうの世界』 つまり、ダンジョンが本来ある場所です。そこに行っていました」


 電話の向こうで、小山田課長が絶句している気配が感じとれた。


「あ、そうそう。向こうで、正さんに会いましたよ。ええ、あのマサの。向こうに定住されるそうです。小山田さんにも宜しく言っておいてくれと」

 更に絶句した気配が伝わってくる。


「あ、それと、迎えに来ていただけると、ありがたいです。多分、すんなり帰してもらえないと思いますので。早く風呂に入りたいです。あと、すいません、トレーラーを失いましたので、その……」


 あそこで世界を跨ぐと知っていれば、トレーラーを繋いでおいたのに。ハンヴィーだけで、こっちへ帰ってきた以上は、今更出すわけにはいかない。どの道、米軍が施した封印を解いてしまってあったので、そのままは出し辛いのだが。


「ああ、わかった。それはいい。じゃあ、迎えに行くから。大人しく待っていろ」

「ありがとうございます。道中気をつけてくださいね」


 さってと、今からが大変だ。どうやって、すっとぼけるかな~。


 まあ、俺の扱いは丁重だった。美味しいコーヒーと、ここでは貴重なお茶菓子が出された。俺は嬉しくて、もりもり食べた。相手をしてくれている駐屯所の責任者の中尉さんも、思わず笑ってしまっている。


 俺は、まず米軍に対し、上司が迎えに来るので、お話はそれからと。米軍から輸送代金を入金してもらった『武器を含む』荷物を紛失したので、そのあたりの話も含めて、弁護士を通してお話をしたいと。


 ロバート中尉は、2511駐屯地の上司と通信でやりとりしてくれて、それでいいという形になった。彼は、2512駐屯地を預かる責任者で、中隊の副隊長扱いだ。


 基本ルート15から35までを5個小隊からなる中隊で管理しており、中隊長の少佐を補佐する形となっている。彼の下に2人の少尉が小隊、プラトーンを率いている。


 中隊本部は2511にあり、そこに中隊長である少佐ともう1人の2511駐屯地を指揮する副隊長の中尉がいるという感じだ。地上や中隊の駐屯地同士との連絡事務や、他の駐屯地とのやりとりをする大尉さんが別に駐留している。


 少佐不在の場合は大尉さんが中隊を預かる。2人が同時に留守になる事は、どちらかが、あるいは両名が戦死した場合以外にはありえない。


 補給所を管理する小隊にも中尉はいたが、戦死したので2階級特進で少佐になったそうだ。残された家族のためには必要な事だ。


 それにしても、この駐屯所は大きいな。人員は、さほどいないのだが。本来はもっと人員をいれたいのだろう。


 何だよ、あれ。M2とMK19を外部砲塔に連装した装甲警備車とかあるじゃないか。あれなら、中から砲塔を操作できるし。欲しい。でもこの装甲車、中から周りは見えないんだけどな。


 1人で運転はきつい代物だ。ここにも魔力はあるようだ。日本側のダンジョンでも複製する事は可能か? コーヒーカップの下の皿で試してみた。お、できた!


 でも車の場合は、元本の車両にあるデータとかが消えちゃうよな~。すぐ俺の仕業とばれそうだ。返納のハンヴィーと一緒だからな。こいつは、新品に変わっちゃうのも言い訳が苦しい。


 俺が納入しようとしていたのは、新品だったからいいけど。本当はハンヴィーも、データ消しはやっちゃいけなかったんだが、あれはやむをえない。すっとぼけよう。あれは世界を越えたからだと言い訳しておけば、米軍には確認できないだろう。


 これで、この2512は最前線のベースじゃない。更に1個前があるからな。まあ、あっちは戦うためだけのもので、宿舎は基本こっちだけれども。


 俺は、ここで中尉さんと寛ぎながらも、色々物品の作成に励んでいた。かなり材料は集めておいたんだ。この部屋にあるものも、適当にさくさく作っていたりする。出したものは新品になるから、やりすぎたらマズイが。


 まあ、そう簡単に気づくものじゃないけど。ま、ここまでにしておくか。さっき、ガソリンの予備容器もせしめたので、ガソリンをバンバン作っているところだ。こちらの世界でも、魔力のようなものは、ちゃんとたまるようだ。


 とにかく色々と持って帰ってきたけど、結局換金は無理かな。値打ち物があるとわかれば、アメリカだけでなく他の国も目をつけて、とんでもない騒ぎになる。第一、アメリカが本気になる。


 資金を出す奴が増えるのが一番まずい。俺はアメリカという国を舐めないという習慣がついている。でも売れるなら売ってみたいのは人情だ。お宝については様子見だな。


 あの世界はあの世界。なるべく放っておいてやればいいのに。こっちの世界の人間に、あの世界をどうこうする権利なんか無い。


 まあ向こうには魔法もあるから、一筋縄にはいかないけど。現地の事情をもっと調べてくればよかった。


 この世界にダンジョンが存在するという現実もある。市民にも死者は出たのだ。脅威をもたらしている事実は否めない。俺がそんな事を考えている間に小山田課長が到着した。


 課長が乗ってきたのは『軽装甲車』だ。日本でこれを使っている会社は、うちみたいにダンジョンで仕事する会社以外には無いだろうな。超大型のバンみたいなものだ。


 ハンヴィーよりも幅があるので、すれ違いはキツイ代物だ。これに乗っているとハンヴィーなんかオモチャみたいに感じる。最近は自衛隊でも邦人救出用に購入を決定した車種だ。


「鈴木!」

 小山田さんは、いかにも自衛隊出身者らしいがっしりした体格をしている。まだ30代後半に入ったばかりだが5歳は若く見える。髪は相変わらず短めで黒々としているし。


「課長、ご心配をおかけいたしました」

「いや、無事でよかった」


『ロバート中尉、弊社の社員を保護してくださってありがとうございます。お話は後日という事で』


 小山田課長は、責任者と話をつけてくれた。これで帰れるぜ。もっと、かかるかもと覚悟していたんだ。


『わかりました。ご苦労さん』


『ロバート中尉、フィリップ少尉の事は残念でした』

 俺は別れ際にそう伝えた。彼に見せられた家族の写真が目に浮かぶ。


『ああ、そうだね。だが君が気に病む事ではない。彼は立派な軍人だった。彼の家族には、国からきちんと保障もなされた。でも、ありがとう』

 彼はそう言って、俺に右手を差しだした。


 次回は、6時に更新します。


 別作品ですが、初めて本になります。

「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」

http://ncode.syosetu.com/n6339do/

7月10日 ツギクルブックス様より発売です。


 お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。


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