1-23 帰還を目指して
それから、何日も迷宮に潜り獲物を狩った。今一度、迷宮宝石にもありついた。
今までロケット砲を使って倒していた大型魔物を、アローブーストをかけた小銃弾で倒せるようにもなった。たくさんの魔物を倒したせいか、魔力量は莫大なものになっていた。
面白い芸も身につけた。アローブーストのような要領で自分の周りに青い光の「盾」をイメージする事によって、敵の攻撃を防ぐ方法を考えた。盾というよりは、自分の場合は戦車の装甲のようなものをイメージしているのだが。
イージスと名づけた魔法は、なかなかの物だった。一度、うっかり大型魔物の接近を許してしまったら、そいつはゴキブリ並みの素早さでジグザグに突撃してきた。イージスはそれを見事に受け止めてくれた。
そいつに至近距離から45口径を最大にブーストしてやったら、どてっぱらに、どでかい穴を開けてくたばった。
魔法が無かったら、こっちが死んでいたな。接近された場合は火炎放射器も有効だ。前に言っていた秘密兵器がこいつだ。魔物も結構、激しい火炎には怯む。
一通り、1号から10号までの通路もある程度は探索しマッピングした。
いよいよ9号通路の鉱山へと向かおうと思っている。迷宮産宝石も金貨2000枚分ほど買い集めた。もう、いつ帰還出来て、悔いはない。
念話も、なんとか習得できた。最低限の辞典が作れそうなくらいの書物も集めた。かなりの量の写真や動画も収集できたし。日常の簡単な会話くらいはこなせるようになった。
治癒回復魔法は、ほぼエキスパートと言えるレベルになった。リーシェが、しょっちゅう患者を診させてくれたおかげでめきめき上達したのだ。
回復、怪我治療、病気治療、解毒、状態異常の回復など、一通りは充分こなせるようになった。簡単な治療薬の作り方も習った。薬草の種類も、それなりに覚えた。
子供達には、アンリさんに頼んで俺の事情を説明してやった。俺は違う世界から来た人間である事。そろそろ帰らないといけないだろう事。
帰れるかどうか、よくわかっていないが、その時は別れの挨拶もできないくらい唐突なお別れになる事など。
行くなと言って泣いてくれた子もいた。リーダーの子はにっこり笑って「頑張って帰れ」と言ってくれた。
どっちも嬉しかった。一応、一度この世界に来たのだから、また来られるかもしれないが、それが叶うかどうかわからない事も伝えた。
「帰ってしまっても、また来られるようなら御土産持ってまた遊びに来るから」
そう言って、チビ達の頭を撫ぜてやった。
正さんとは色々話したが、こっちの世界で生きていきたいと言われた。
「向こうの世界もいいけどな。こっちが結構気にいっとるんだ」
まあ、あっちはあっちで世知辛いしね。向こうへ帰れて、また来られるようだったらという前提で、マサさんへの御土産リストを作ったりした。
「向こうの連中に会ったら、宜しく言っておいてくれ」
こうして、色々と準備を整えて、俺は帰還への道筋を立てるためにナリスから教わった「第9号通路鉱山」を目指すことにした。
ドライブレコーダーのデータと連動したマップを作りながら、詳しい地形や目印などの写真データも添えつつ、進軍した。
今までに作ってあったマップと、ドワーフのナリスからもらった地図から、おおよそのルートは割り出してあった。マッピング作業を行いながらでも、時速30キロで3時間かからないはずだ。
食料は充分すぎるほど保有しており、万が一何かの罠でさまよい続ける羽目になったり奈落の底に行く羽目になったりしても、水や食料は全く心配が無い。ディーゼル燃料も、超大量に用意してある。車のスペアもだ。
水の魔法が覚えられなくて残念だ。ただし、空気中に水分があれば、アイテムボックスに空気ごと回収していく奥の手はある。まあ、一生分くらい飲料水は用意したが。食い物は、食用の魔物を狩る事も可能だ。
俺は早朝に出かける事にした。ギルドと子供達に挨拶して。
ギルマスのスクードは、いつもの優雅な笑顔を浮かべて見送りに来てくれたし、アンリさんやアニーさん、リーシュなんかも笑って手を振ってくれた。それより、本当に帰れるかどうかの方が心配だ。
リーダーの子の、ロミオにはそれなりの量の飴を預けていった。あまり長くは持たないぞ、と言うと、『そんなに持つわけがない。すぐ無くなっちゃうよ』と笑われた。
子供達に手を振って絶対に日本に帰ると決意する。そして、また御土産を買って、ここに帰ってくるんだと心に決めた。
ダンジョンの入り口の門兵達は、スクードから聞いているので俺が車で門を通行するのを許可してくれた。V8・6.2リッターのディーゼルエンジンの爆音を歓送マーチに、俺はダンジョンへと突入していった。
ヘッドライト、そしてラリー用のランプ群の灯りを頼りに、ハンヴィーは順調に進んでいった。魔物に後ろに回られると、やっかいなんだよな。この辺が1人の限界というか、なんていうか。
道中、都合12回ほどの魔物との遭遇があった。アローブーストのおかげで、なんなく倒せてはいる。イージスのシールド魔法も、車ごとかけられるようになったし。
そして、俺は『第9号通路鉱山』に到達した。確かに何か掘られているんだが、ここは何を採掘しているんだろうな。帰る事ばっかり頭にあって、あんまりそういう情報が収集出来ていない。
今回駄目だったら帰って色々情報の収集に励もう。これが自衛隊時代だったら、上から大目玉を食らうところだ。
ここまでは、日本のかけらも無いわけなのだが。さて、少なくとも、今までに確認できた収納持ちはナリスさんとアンリさんだけだ。もうここに来て3週間になるが、なかなか他の収納持ちには会えなかった。
しかも、みんな特定の場所とかじゃなくて、バラバラの場所で能力を手に入れているんだよな。
具体的に言えば「全て違う通路で手に入れている」
ギルドで紹介できる収納持ちが全部で9人いる中で、誰も被ってない。つまり、場所はあんまり関係無いんじゃないかという推論が成り立つ。多分今回も駄目だろう。
帰ってから餓鬼どもと遊んだり探索したり、回復魔法の練習をしたりしながら、収納持ちから事情聴取するかな。
そういや、聖魔法って、なんなんだろうな。使い手が少ないんで、ギルドやここにいる探索者にもいないって話だし。
そういや、俺はここのダンジョンの街以外に行った事ないな。他の町とはかなり離れているような事を言っていたけれど。行くのなら夜をどうするのか決めておかねばならない。
異世界探検と洒落こむのも悪くない。スクードが探索者証を発行してくれたから、他の町にもいける。
身分証が無いと入れてくれない場合があるそうだ。クヌードのような探索者ギルドが管理するダンジョンの町は、そういうのは基本関係ないらしいが。
とりあえず、鉱山までのマップは作った。一旦帰るか。燃料が少ないな。車を止めて、エンジンを切り燃料を補充した。
アイテムボックスから、燃料タンクに直接補充できるから助かる。車外で、そんな無防備な作業をしていてフィリップみたいになっても困る。
ん? 今、なんか心の底に引っかかった。なんだろう。
そして、再びエンジン始動した次の瞬間にゴンっと強い衝撃がきた。うお、なんだ!
魔物だな。そして窓から覗き込んでいたのは、あいつ。紛れもない、フィリップを食い殺した、多足魔物だ。俺は勝手に斑野郎と呼んでいる。だが数が多い。
ちっ。こんなところじゃ、やりにくいな。さっきの鉱山まで戻るか。奴らの攻撃をイージスの魔法で防ぎながら、俺は鉱山へ向けて戻っていった。
あの時と同じ奴らじゃないけれど、フィリップの敵討ちと洒落込むか。
いつぞやと違って、トレーラーなんて余計な物はついていない。下は舗装路じゃないけれど、ハンヴィーは元々そんな軟な車じゃあない。アメリカ映画みたいに派手にガンガンいった。
イージスを上手く使うと、体当たりして跳ね返るなんて芸当もできる。乗っている方は凄い衝撃が来るが、それは回復魔法でカバーするという荒っぽさだ。
お? 灯りが見えた。ちっ。方向間違えちまったか。悪い、みんな。変なのを連れてきちまった。責任持って、全部片付けるから。
イージスで車を囲って、『銃眼』をコントロールする。M2アローブーストで殲滅戦だぜ!
俺は、大広間の明かり目指して、突っ走っていった。
あれ? ここはどこだ。灯り目指して走っていたはずなのに、ただの通路だ。なんで?
狐にでも騙されたのか?
俺は用心深く、車をゆっくりと進めた。何か違和感があるな。何だろう?
いきなりスポットライトのような光が当てられた。馬鹿、眩しい、やめろ!
そこで気がついた。スポットライト? 誰が?
違う。これは「サーチライト」の光だ。そして、ここが少し広い空間なのに気がついた。
そうだ! 天井にも照明がついている! まるでラリー仕様のような車のライトが明るすぎて気がつかなかった。よく観察すればケーブル類も走っていた。
俺の車のライトに照らされて浮かび上がった、その奥地には、「2512Garrison」と書かれたプレートが掲げられていた。
それは約3週間前に、俺が命がけで駆け込もうとしていた場所そのものに他ならなかった。
そして、違和感の正体に気がついた。車の足元が、コンクリート舗装に変わっていたのだ。
ただいま、第21ダンジョン。そして日本。
第1章は終了です。次回は、朝6時に更新します。
初めて本になります。
「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
7月10日 ツギクルブックス様より発売です。
お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。