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1-16 意外な再会

『ハジメ、ご飯食べに行きましょう。ギルマスが案内してやれって』

 アンリさんが、食事に行こうと誘ってくれた。


 ほいほいと浮かれて、ついていく。広場周りは屋台だのなんだのが多いが、宿屋近辺だと食い物屋も多くなる。歩きながら訊いてみた。


「そういや、この世界って、魔法はあるの?」

 関心のある事を聞いてみる。使えると使えないのとでは生存率が違ってくるはずだ。


『ええ、あるわよ。興味があるの?』


「うん。魔力っぽいものがあるような気がするんだけれど、どうなのかなあ」

 俺は少し首を傾げながら返事をする。


 アンリさんは、店を物色しつつ、

『そうねえ。魔法には適性があるから、見てみないことにはね』


 しばらく歩きながら店を探していたが、俺が立ち止まった店の前でアンリさんも足を止めた。


『ここがいいの?』


「あ、うん。なんだか気になって」

 何が気になったのか、よくわからない。だが気になったのだ。


 俺達は、その店に入る事にした。この町ではよくあるタイプの店で、レンガ作りで木の内装を持っている。


 アンリさんによると、以前は違う店だったらしい。こういう店はオーナーがよく変わる。ここも、そんな居抜き物件の一つなのだろう。そういうところは日本と変わらないな。


 日本だと、かえって値段が高いんじゃないかなと思われる、木目の入った1枚板のテーブルに腰掛けると、早速羊皮紙に書かれたメニューを開いてみた。そして、またさっきと同じような違和感があった。

『どうしたの? ここはギルドの奢りよ~』


 うん、そういう事なら、遠慮なくいただきまーす。

「お酒はどれがお勧めかな」

『そうね、多分、このサワーが美味しいんじゃないかな』


 サワー? この世界にそんな気の利いた物があったのか?

 俺は首を捻りながらも、それを頼んでみた。ミラという果物の果汁を割ったらしい飲み物だ。


 やがて、可愛いネコミミのウエイトレスさんが、持ってきてくれた。見れば、「エダマメ」と思しき、お通しまでついている。容器も、なんというか和食器のようなスタイルだ。俺は思わず、立ち上がってしまった。


『ど、どうしたの』

 アンリさんは驚いた様子だったが、俺は聞いてみた。

「ねえ、このマメは?」


『ええ、エダマメだけど、それがどうかして?』


 まるで、「あんたの間抜けな顔の真ん中に付いている物は鼻っていうものなのよ」みたいな感じに、さらっと言われてしまった。


 やっぱり日本人が迷い込んでいるのか。という事は民間人だな。俺みたいに狩りをしないで食い物関係を始めたのか。うん、普通はそうだよな。


 俺はちょっと考え込んでしまったが、突然後ろから日本語で声をかけられた。

「肇ちゃん、あんた肇ちゃんじゃないかい?」


 慌てて振り向いた俺の眼に映ったものは、自衛隊時代によく通った飲み屋のオーナー、正さんの懐かしい顔だった。


 皺の寄ったやや角ばった顔に人懐っこい目が収まっている。痩せ気味で俺よりは頭一つ近く小さいかもしれない。背中は大きな人だけれど。


「ま、正さん?」


 ああ、そうだった。お店の看板は、漢字の正の字をデフォルメしたものだったのだ。以前の店とは違う物なので、ちょっと気づかなかったのだ。この世界風に変えてみたのだろう。


 メニューにも、そのマークが入っていた。裏から開いたので、表に書かれていた日本語には気が付かなかった。


「まあ、まあ、肇ちゃんとこんなところで会うなんて。これも、こっちの神様の思し召しなのかねえ」


 そういや、宗教関係の話とか、全く聞いていないな。そういうので戦争とかによくなるからなあ。今度聞いておこう。


『え? 知り合いなの?』


「ああ、俺の世界から来た人さ」

『そ、そう……』


 なんだろうな。アンリさんは、何か思うことがあるようだ。


「いや、こっちこそですよ。昔、みんなとよく飲みに来たなあ。あ、今、俺は小山田さんの下にいるんですよ。第21ダンジョンの中で仕事をしてます。というか、ここも正確には21ダンジョンのはずですよね」


「そうねえ。私も愛知県だったし。いや、ちょっとね、都合で21ダンジョンの方へ入って、駐屯地でのパーティを頼まれたのよ。そうしたらあんた、魔物が出ちゃってさ。トラックで魔物とカーチェイスよ。そうしたら、なんか、この町に出ちゃってさ」


「俺も武装したハンヴィーを納品途中に出くわして、同じくです。米軍の武器がありましたので、探索者をしようと思っていますよ」

「あらまあ、若い人はいいねえ。さすがは元自衛隊の人だ」


 正さんの店は隊員に凄く人気があった。栄あたりに店があったので、守山の連中と顔を合わせることもあった。


 そこで知り合いになった守山の連中とも、よく飲んだ。帰りが遅くなるんで、一緒に行った豊川の奴らは正さんの店で飲んでから、何回も俺の家まで行ったもんだ。


 坊主頭の団体を連れ帰って、その度にお袋に「むさくるしい!」とか言われたもんだ。懐かしい思い出だ。


 正さんは、顔中皺だらけにして笑った。正さんの店は、俺が退官する時にも送別会で使わせてもらった。守山の奴らも一緒にという事で栄にしたのだ。なじみの正さんの店でやってもらいたかったし。


 なんていうか、退官した引け目というか、なんかそういう物があって、なんとなくそれ以降は行き辛くなってしまって。自衛隊の連中が一杯いたからね。俺は、本当は自衛隊に残りたかったのかな。


「まあ、まあ、そんな顔しないの。このエダマメ久しぶりでしょ、ちゃんとうちの味だからねえ。揚げ出し豆腐なんかもあるんだよ。あ、良かったら天麩羅だそうか。メニューには無いんだけれど、ゴルギスの肉のいいのが入っていてね」


「お願いします」

 ゴルギスがなんなのか、よくわからないが、正さんはおかしな物は出さないから安心して食える。


 そう言って立ち去った正さんの後ろ姿を、見送りながらエダマメを口に含む。うん、美味しい。正さんのお店の味だ。まさか、異世界でこれが味わえるとはな。ああ、ここだって正さんの店なんだよなあ。


 その後、美味しい天麩羅をご馳走になり、他の客にも薦めて試食させたところ人気となり、お店のメニューにも加える事にしたらしい。


 メニューなるものも、正さんが広めたのだ。この世界でも、その名で呼ばれている。表紙には、日本語で「お品書き」と達筆に書かれているんだけどね。これが案外受けていて、他の店に頼まれて書いたりもするらしい。


 いつでも美味しい天麩羅が食べられるというだけで、なんか、元気が出てきたなあ。同じ日本人に会えたのも大きかった。


 次回は、18時に更新します。


 初めて本になります。

「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」

http://ncode.syosetu.com/n6339do/

7月10日 ツギクルブックス様より発売です。

http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html

 こちらはツギクルブックス様の専用ページです。


 お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。

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