1-15 収納持ち
革張りのソファに座りながら、俺は訊いてみた。
「あの、獣人さんの事なんだけど、アニーさんみたいな人って尻尾とかあるの? 全体的に狼みたいな人は、確か尻尾があったかと。あと解体場のチビにもあったな」
『ええ、そうね。あるんじゃないかしら。見た事は無いわね。なんなら、自分で確かめてみたら?』
いたずらっぽい光を称えて、綺麗なグリーンの瞳が揺れた。
「そ、そ、そ、そんな事!」
是非試したいのは、やまやまだが~
『獣人の人は2通りあるわね。あなたが見たような人達が本来の獣人さん。アニーさんみたいな人達は、元々獣人と人のハーフだったものが、種族として固定したものかな?』
「色んな種族の獣人さんがいるのかな」
俺はきらきらした目で質問をした。
『そうね。また会える機会があったら紹介してあげるわ』
そこで、アニーさんから声がかかった。
『ナリスが帰ってきましたわ』
おおー。どんな貴公子みたいな色男だ?
『やあ、サブマス。商談はうまくいきましたよ』
そう言ってドスドス音を立てて現れたのは、いかにもドワーフ然とした風体のもじゃ髭の親父だった。おっとお、名前からして、異世界風の色男とか出てきそうだったのに。
『ご苦労様~。あ、ちょっと話を聞かせてもらいたいの。ハジメ、こちらはギルドの鉱石部門の売買責任者のナリスよ。ドワーフで収納持ち。ぴったりでしょう。ナリス、この人が例の』
俺は【例の】で紹介がすんでしまう物件らしい。
『おお、例の不良物件か。わっはっは』
おーい、あんたら。はっきり物言い過ぎだぜ。
『で、わしに聞きたいこととは?』
「えー、その収納の能力は、ダンジョンのどのへんで手に入れたものです?」
『そうさな。実はあまり覚えておらんのだ。ある日ダンジョン内の採掘場を見に行った際に、いつの間にやら手に入っての。まあ幸運だった。便利だからのう、これは』
うーん、どんぶりだな。ドワーフだし、こんなもんなのか。
「それは、どこの入り口から入ればいいんです?」
『ダンジョンの右から2番目の入り口じゃ。中の地図も書いてやろう』
この世界には普通に紙は出回っているらしく、羽根ペンでさらさらっと書いてくれた。
「ありがとうございます」
俺はピシっと敬礼で挨拶した。
『ははは。問題児の割には礼儀正しい奴だのお。まあ、何しに行くか知らんが頑張って来い』
それから、俺はアンリさんとデートを楽しんだ。町で買い物デートだ。というか、単なる御土産漁りである。
もし例のルートで帰還できた場合、これっきりになるかも。異世界に行っていた証拠兼会社への御土産兼、自分の「値打ち物」の御土産だ。
『これなんか、どうかしら。魔物の骨から作った細工物よ』
「いいね。あちらでも、魔物は捕獲されていたんで、DNA検査でわかると思う」
『DNA検査?』
「ああなんていうか、血液や骨の一部からでも、調べれば魔物だとわかるんだ」
見た目も良さそうなんで、何種類か買った。あの子達が売った骨とかも、こういう物に変わるのかな。
『あと、こういうデザインの土産はどうかしら』
なんていうか、エキゾチックな、あるいは珍妙とでもいうような、日本では絶対に見ない、もらっても超微妙な反応しか帰ってこない代物の数々を仕入れてみた。やっぱネタ土産は必要だよね。あと食い物に、服とか。
そして、肝心の値打ち物だが、鉱物系を狙ってみた。各種鉱物の飾りみたいなのとか。地球にも、いっぱいある種類なのかもしれないが、よくわからないので買い込んでおく。
他にも宝石店があった。こんなに種類があったの? というくらいある。
エメラルドとは違い、キラキラと透き通るような不思議な輝く緑色のでかい宝石。でも高い。金貨100枚か。
『それは迷宮産の宝石ね。ある日突然沸くのよ』
「湧く?」
『うん。昨日まで無かった場所に、いきなり湧いて出たように、ダンジョンの壁とかで光っているのよ。でも気を付けないと、夢中になっている間に魔物にやられて全滅とか聞くわね』
それって、絶対【餌】だよね。罠ともいうな。そうか、それが宝箱なのか。阿古屋貝が真珠を作るみたいに、何か染み出すのかな?
鉱物質を魔力で変性させるようなものだとか。なんだか、あそこが真珠養殖場みたいに思えてきた。地球のダンジョンでは聞かないな。魔力とかが少ないのだろうか。まだ入り口が出来て日が浅いから?
とりあえず、子供達の所へ行った。なんと、昨日のあの小僧が一緒にいた。
「お前はー!」
『******!』
あ、こいつは言葉が通じないわ。今まではギルドの職員ばっかりだったんで、普通に意思疎通が出来ていたから、いきなり躓いたような感じだ。
俺はそいつを無視して、チビ達の前に、今日の獲物をドンっと出した。
「********!」
子供達がバタバタしている。
「アンリさん、こいつら何て言っているの」
『ああ、これは僕達には無理って。これは大きくて硬いからね。いつものを頂戴って言っているわよ』
大将の子供は頷いて、手で6を指し示した。これで残り26か。
「あいよ」
俺は並べてやりながら、訊いてみる。
「なあ、こいつらって、なんでこんな解体の仕事しているんだ? 俺にだって無理だぜ」
『それは、あなたが情けないだけ。この子達は親がいない子達よ。探索者の町だからね。男がいて女がいて、子供も生まれるわ。親が探索者だと、こんな事になる事もあるのよ。
ギルドとしても、なるべくの支援はしていきたいのだけれど、孤児院経営までは手が回っていないわ。我々は自治をしてはいるけれども、それは本来の仕事ではないの。これは国や領主の管轄なのよ』
えらい奴らは仕事丸無げで、甘い汁ばかり吸って、何もしないわけだな。
『というわけで探索者には、なるべく獲物はこちらで解体させるように言ってはあるんだけれど。なかなか獲物丸ごと持ってくる奴らも、そうそういなくてね。この子達も久しぶりにいい思いができているわ、ありがとう』
それで、あの冒険者の女の子は俺をこっちに引っ張ってきたのか。
「普段、こいつら何をしているの」
『皮の下処理とか、色んな下請け仕事とか、色々よ。安い賃金ばっかりだけど仕方がないわね。うちの仕事は優先で回しているわ』
そうですか。
「じゃ、この大物の解体を勉強させられないか? ギルドで解体とかしてくれるんだろう?」
『え、ええ。そうね。どの道、あなたには解体出来ないんだものね』
子供達が解体し終わるのを待って、アンリさんが子供達に説明した。
『*******』
『*******!!』
『*******』
餓鬼どもは、ちょっと飛び跳ねている。なかなか、大物の解体を見る機会も無いのだろう。嬉しそうに俺から飴をせしめると、それぞれ商売に向かった。
『解体は明日昼食後からだから、宜しくね。子供達には言っておいたわ』
それから換金をして、宝石屋へと行ってみた。昼間10枚使って、69枚仕入れたので、金貨176枚が手元にあった。
さっきの金貨100枚の緑の凄い奴と、薄ピンク色の素晴らしく煌く結晶で金貨50枚のものを仕入れた。
これだけでも一財産な気がする。残り金貨26枚だが構いやしないさ。まだ獲物は狩れる。例の虹色の宝石をアンリさんに見せたが、
『これはそんなに値打ちじゃない、有り触れたダンジョン宝石だけれど、そっちの世界ではどうかしらね』
うーん、微妙だ。
明日の大物が高く売れるといいんだが。
次回は、17時に更新します。
初めて本になります。
「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
7月10日 ツギクルブックス様より発売です。
http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html
こちらはツギクルブックス様の専用ページです。
お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。