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1-14 帰還への道

 俺もスクードに訊き返した。

「こっちの世界の事を教えてほしいんだけど、いいかな」

『ああ、いいだろう。どこまで知っている?』


 どこまでといわれてもなあ。何も知らないわ。

「女の子は、とっても可愛いな」

 スクード氏は楽しそうに目じりに皺を寄せた。


『そうだな。その意見には大いに賛同する。この世界は多くの王国からなっている。君の世界に王国はあるのか?』


「ああ、あるよ。昔は王国だらけだった。今は少なくなったよ。現存する王国も王や女王は、政治や支配体制から離れた物になっているが、王がいる国の方が色々うまくいっているケースがあるように思う。なんていうか、国民に安心感があるっていうのかな。うまく言えないけれど」


 まあ、どれをとっても一長一短なんだけどな。異世界の人に色々説明できるほど、国家や政治体制について知識もないし。


 俺は残りの御茶を啜って、米軍のコーヒーを入れたものの複製品を取り出した。荒野で採集したものや町で売っていた産物を原料に作ってみたが、なかなかのものになった。


「これ、地球でよく飲まれている飲み物なんだけど、こっちにもあるかな? 砂糖とミルクを好みで入れてくれ。あ、最初の一口は、そのままで」


『どれ』

 彼は、まず香りを嗅いで楽しんだ。そして一口啜った。


『いい香りだ。それに、一口飲んでホッとするというか、リラックスするな』

「ああ、正にそのためのものだよ。あなたみたいに、デスクワークする人には必需品だな」


『うむ。さっきの話の続きだが、世界各地にダンジョンはある。新しく生まれる物もあって管理が大変だ。放っておくと、君の世界の話じゃないが魔物が溢れてくる。昔溢れて、そのままになってしまったケースも少なくない。そいつらが、今ダンジョンの外で勝手に繁殖して世界に被害を齎している。ダンジョンを全て管理するなんて、王国にだって出来ないのさ。それで各地の貴族が管理していたりするが、中には職務怠慢で魔物を溢れさせたり、暴利を貪って探索者に逃げられまくって以下同文になったりとかな』


 彼は苦笑いしながら、ダンジョンについての歴史を語った。

「この世界も禄でもないな。俺の世界と大差ないぞ。魔物って、外にもいるのか」


『それを聞いて安心したよ。時々、この世界に絶望する事もあるんだ。それでだな、とうとうある王様が根を上げて、探索者ギルドに管理を任せる事したのだ。丁度、王国のごたごたがあってダンジョンの管理に人を回せなくなってしまってな。で、そのギルドマスターが大変うまくやって、更に王国が自ら管理するよりも莫大な利益を上げた。その中から黙っていても税金が入ってくる。各地の王もそれを見て次々と音を上げて、今や全てのダンジョンが探索者ギルドによる運営になっている』


 どこも、お上っていうのは無能なものだな。この世界のダンジョン経営は、とっくに民営化の嵐に晒されていたのか。


「俺のような人間の立場はどうなるんだい? 王様とかに知られたら、捕らえられたり処罰されたりとか」


『いや? 特にそういう事はないだろう。君が王国に危害を加えるというならば、話は別だが。はっきり言えば、君なんかに偉い人達は何の関心も無いって事かな。ただ、君が見せたような物が目に止まれば、利益になるとみて、ちょっかいがかかるかもしれん。あるいは貴族連中がおかしな事をしてくる可能性はあるが。

 よかったら、探索者ギルドに入らないかね? 王国も貴族も、うち相手に喧嘩はふっかけてこない。とりあえず、ギルドマスター付きという事でどうだ?』


 要するに、守ってやるから暴れるなという事か。ここは問題さえなければ、まず順当に利益が上がる資源鉱山だし。それもいいかな。


「じゃあ、宜しく頼む。あ、敬語でないとまずいのかな?」


『いや、構わない。問題児が管理できれば、それでいいんだ』

 あ、この人はっきり物言った。彼は真面目そうな顔付きで、目の奥が笑っていた。


『とりあえず、念話の練習からしようか。少なくとも、人の言うことはわかるようになるぞ。言葉の習得も早くなるだろう』


「そう言えば、獲物の買い取りなんかもしてくれるのかい? 換金する時、みんな買い取り部位だけ持ってきているんだよなあ。今、子供達に解体して貰っているのだけれど、あまりデカイと、あいつらには無理なんじゃないかなと思って」


『ああ、収納の能力を持っているんだったな。そいつは貴重な能力でな。ダンジョンを探索していると、稀に身につくことがある。ここ2年ほどの間に発見された能力だ。普通はそんな能力は無いから、必要部分だけ剥ぎ取ってくるものさ』


 なんだと? そいつらは世界を越えたから、その能力を身につけたのだ。どこで手に入れたのか聞きだして、マップを作れば帰還ルートも判明するかもしれない。


「そいつらと、話をさせてもらうわけにはいかないか? 帰還の手がかりになるかもしれない。というか、今のところ、それだけが手がかりだ。あと、彼らも念話を使えるのか?」


『そうだな。おいおいに紹介しよう。というのは、みんな仕事しているし、なかなか時間が合わないだろう。あと、片一方が念話を使えれば、大丈夫だ。お前が覚えろ。とりあえず、1人紹介してやろう。うちのサブマスだ。おいアンリ』


 ええー。あの人がサブマス? まだ若そうだったけど。


『あら、宜しくね』

 扉の向こうに控えていたアンリさんが、すぐに現れて念話で話しかけてくれた。


「アンリ、ついでに念話の訓練と、収納持ちを捉まえられたら話を付けてやってくれ。じゃあハジメ、また後ほど」

 そう言って、彼は机に戻った。


『ハジメっていうのね、宜しく。私の名前は知っているわね?』


 俺は頷いた。おっぱいの柔らかさも知っています。思わず胸に視線をやってしまい、慌てて戻す。彼女が笑っていたので安心した。


『ハジメはいくつ? 私は22よ』

 ええっ? サブマスターなんだよね?


「俺は24だけど、サブマスなんでしょ。若いのに凄いなあ」


『ん、なんていうか、現役しながらの管理っていうか』

 ああ、なんていうかわかる。


 練習に参加している、姉御肌の女子マネ? 居並んだ、むくつけき探索者の野郎共が、整列して「ウイースっ」とかやっているイメージが浮かんでしまった。


 多分、この人は凄腕、それも半端でなく凄腕だ。今日俺が兵器を持ち出して狩った魔物など、剣1本だけを使って鼻歌で倒すに違いない。誰もが文句なく認めるような憧れの探索者って感じなのかな。


「探索者って、階級っていうか、ランクみたいなものはあるの?」

『そんなものは無いわ。みんな平等よ。ただ、他から一目置かれる人っているものよ』


 笑顔で答えてくれる彼女を見て、思った(うん知っています。それは貴女の事ですね)。


 素敵な金髪をなびかせながら、くるりっと回った彼女の胸が鮮やかに揺れたのだけは見逃さなかったが。


 彼女はずいずいと先を歩いていき、職員の人に声をかけた。


『アニー、ナリスを見なかった?』

 アニーと呼ばれた獣耳の女性は、顔をあげて(おお! 美人だ)


『そうですね。そろそろ帰ってくる頃じゃないですか? もう少しお待ちいただけますか』


 俺の眼は、ブラウンの髪と瞳を持った美女のケモノ耳に釘付けだった。彼女にチラっと目線を送られたので慌てて目を逸らせた。ああ、お狐様!


『あはは。アニー、この人はアニーみたいな獣人のいない世界から来たらしいのよ。気にしないであげてちょうだい。それにアニーは可愛いから』

 俺は、こくこくと頷いて肯定した。


『そう。あなたが例の。大変ね』

 その大変という言葉が、アンリさんに向けられているのだと気づいたのは、その場を離れた後のことだった。


 次回は、15時に更新します。


 初めて本になります。

「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」

http://ncode.syosetu.com/n6339do/

7月10日 ツギクルブックス様より発売です。

http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html

 こちらはツギクルブックス様の専用ページです。


 お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。


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