5-14 選ばれし者
おお、ジェイク! 今日はなんか王子らしいぜ。俺の驚愕した視線に、奴も苦笑気味だ。後ろで侍女が1人笑いを噛み殺している。
日頃ジェイクが世話を焼かせて、金切り声を上げている人なのではないだろうか。俺が視線を送るとウインクしてくれたので、笑顔を返しておいた。
やったぜ。侍女さんも美人だ。クヌードへは行けなかったが、新しい出会いの予感がするぜっ! 俺はしばし、幸せな妄想に浸った。
「……肇、おい肇ってば」
ん? どうした山崎。そして、強烈なデコピンが俺を襲った。
「ギャン」
なんか棒切れで叩かれた野良犬のような声を出して、俺は我に返った。
目の前には、ちょっと怒った顔の川島がいた。おお、新発見。こいつの怒った顔はなかなか可愛いぞ。
「この馬鹿チン。さっきから、王様が話しかけているでしょう~。返事くらいしなさい」
あれま。他の奴らも白い目で視ている。
「すみません、国王陛下。この馬鹿、さっきから美人の侍女さんに見とれていたようで」
川島が念話でフォローする。
『ホアッハッハ。そうか、そうか。我が国は大国ゆえ各地より美女も集まってくる。どうだ、1人嫁に持って帰るか』
いやあ、そんなあ。てれてれ。嫁って持って帰るものだったのね。しかし、豪快な笑い声だった。
『父上、お戯れはそこまでで。スズキも話はちゃんと聞いてくれ』
おっと、王子様に怒られちまったぜ! ちぇっ、お戯れだったのか。
『して御主、迷宮に選ばれたとな』
ガラス製らしい、細かい細工の酒の杯を傾けながら、王様はやや鋭い目つきで聞いてきた。
出来る! このグラスは、なんていうか、西洋版切子グラスのような。商品仕入れのリストに頭の中で書き加えながら、俺は答えた。
「選ばれた……何の話です。俺はただ、迷宮魔物にこっちへ連れてこられただけですが。他にも連れてこられた連中はいっぱいいますよ。彼らは自力で帰れなくて、自由に行き来できるのは俺だけなんですが」
俺は早速他の奴らの白い目を尻目に、酒の杯を手にして、どれから食おうか料理を全力でサーチしていた。
『はっはっはっ。エルリオット、まったくお前のいうとおりだな。この御仁、【選ばれし者】の使命・運命などよりも、可愛い女や酒と料理に夢中だ。このわしを前にしても、動じるそぶりもない。まっこと愉快な事この上なし。わっはっはっは』
川島が右腕で作った拳で、でこを支えて頭が痛いような表情を作っていた。山崎はなんとも言えないような楽しそうな笑みを浮かべている。
それを見て、他の連中も何かを察したのか、難しい事を考えるのはやめにしたようで、各々料理に手をつけだした。さすがに酒には手をつけてはいないが。
国王様は更に楽しそうにして、ジェイクも笑ってしまう事にしたようだ。
川島も諦めて料理をかっこみ、無くなってしまった料理の御代わりを頼んでいた。王様の笑い声がまた響く。
ところで、【選ばれし者】ってなんだ?
だが酒と飯が美味すぎて、割とどうでもよかった。
俺は酒が回って、うとうとしていたが、揺り起こされた。
「あんた、本当にいいタマね。起きなさい、いくわよ」
ええっ、イクなら一緒に、などという品の無い台詞を吐く時間もなく、他の連中に引っ張り上げられた。
「お前、本当にいい根性しているな、そら行くぞ」
「えー、どこへー」
「牢屋だ」
「そんな。俺が一体どんな悪い事をしたというんだ。理不尽すぎるぜ」
「いいから行くぞ。なんか日本人っぽいのが拘留されているらしい」
マジか。まあ、ありがちな話だな。よく打ち首にならなかったもんだな。
どれ、しょうがないなあ。自衛隊異世界スクワッドが今引き取りに行くぜ。
あ、足元がふらつく。だって、あの王様ってば、すごく酒勧めてくれるんだもの。他の連中が、皆頭を振っていた。