1-11 郊外へ
宿で朝飯を食ってから、ゆっくり出かける。どうせ今日も餓鬼共が待っていそうだしな。早めに帰ろう。
町のはずれまで、なんと馬車に乗れた。くそ、公共交通機関あったじゃないか。昨日は往復20km歩いちゃったよ。買出しに来たのか、次々と乗り合わせた連中が降りていった。
なんていうか、いわゆる幌馬車だ。タイヤも木だし。鉄の輪は嵌めてあるようだが。樽の蓋をもっと丈夫にしたような感じか。
軸受けなんかも見たが、これだと車軸なんてすぐ磨り減って、ゴトゴトな感じになるな。そうなると重くなって、スピードが出ないし、すぐに馬もへばる。
町はずれの停留所に馬車は止まり、人を待つ間、馬が休んでいる感じだ。お疲れさん。
しばらくそこから、離れていって、ハンヴィーを出してエンジンを始動させた。このアイテムボックスは、品物を中にしまうと何故か新品になってしまう。材料とエネルギーがあれば、オートメンテナンスされるのだ。
データさえ消える。バックアップを取っておいてよかった。バックアップする物だけは収納に仕舞っておけない。今の所、特に問題は無いけれど、そのうち問題が生じるかもしれない。
かっぱらいやスリには気をつけないとな。目の前には見渡すばかりの荒野が広がっている。ダンジョンの外にも魔物がいたりするのだろうか。野営は避けたいな。
この町はダンジョンに付随して存在するために、川の傍とかに作られていない。地下水に依存しているのだろうか。へたすると魔法で作られているのかもしれない。
それにしても、未だに町の名前さえ判明していない。字はわかるんだけどな。町の入り口に町の名前の看板があったので、記録には取っておいた。俺は地図の岩山の方角に車を走らせた。
2時間ほど走らせた頃に岩山が見えてきた。今は10時くらいか。ごろごろする岩山は宝の山だ。目視収納は凄い。そのあたりにある巨岩を次々と収納していった。
材料を得て、車・武器・弾薬・その他道具・衣料品と次々作っていたが、肝心の魔力の方はあっさり終了してしまった。さすがに物が多過ぎた。
まあ、それは仕方が無いので、収納の方を続けていく。30分もあれば、そのあたりの岩山は、ほぼ平地になってしまった。何かの目印になっていたりしたらヤバイ。まあ街道からは、かなりはずれた場所なんだけれど。
それから川を目指した。地図からすると、そう遠くないはずなのだが、なかなか見えない。1時間ほど走らせて、ようやっと辿り着いた。周辺に町どころか集落も見えない。
とにかく川の水を採集しまくった。かなりの大河だったので、安心した。当然枯れるほど取ってはいけないので、ほどほどにしておく。
それでも、町の泉で取るよりも、桁違いの量だ。近くに海があるといいのに。
そろそろ時間だから帰るとする。馬車の待ち時間に飯を食って、なんとか15時くらいには解体場には着いた。子供に飴を配ってから、後で口をゆすがせて今日の取引を始める。
男の子は、今日は片手で5体を要求した。そうか、昨日は欲張りすぎて、なかなか捌けなかったか。担ぐのも大変だしね。
いつもの如くに、要求どおり5体出してやる。子供達は、ザックザックと奮闘中だ。
しばらく待って、素材を受け取った。解体中のスプラッターな雰囲気にも、だいぶ慣れてきた気がする~。残りが32体か。
今日も換金屋の親父のところで、金貨57枚と銀貨50枚を受け取り、お宝探しの旅に出た。何かいい物は無いかな。浮き浮きと、あたりを見回していた。
ガシャン。何かでかい音がして、少年が転がってきた。中から出てきた男連中は下卑た表情で、そいつを取り囲んだ。少年は、男達を見上げながら睨みつけていた。
やれやれ。トラブルは回避するに限る。ところが、そいつが俺を目指してやってきて、素早くしがみ付いた。
『***********』
しがみ付いた俺を指差しながら、男達に何かえらい事まくしたてている。男達が爆笑していた。ふざけろ、こいつ! なんたる不覚。勝手にトラブルに人を巻き込むな。
俺はそいつの首根っこを抑えて持ち上げると、逆に大声で怒鳴るように叫んだ。
「ふざけるなよ、糞餓鬼。何のつもりだ、ええっ? 勝手に人を巻き込んでいるんじゃねえ。俺はお前なんかに関わり合っている暇は無いんだ。あ、何しがみ付いているんだ、離せ」
頭と肩を押しながら、ぐいぐい足で引き剥がそうとするが、離れない。このお。
それを見て、更に嗤う男共。大将格の隣にいた男が、何事かを囁いた。
奴らは大将の指示で、俺をグルっと遠巻きに囲んだ。そして、武器を抜いた。あ、先に抜きやがったな。おまえら撃たれても文句は言えないぞ。
あいつ、広場で俺の事を見ていたに違いない。言葉が通じなくて、金を持っているカモだってか!
俺は、ついにぶちきれた。
「出でよ、ハンヴィー」
現れた物を目の当たりにして、男達が目を剥いた。出てきた具合で後ろにいた男達を3人と隣にいた1人を弾き飛ばした。
もう1人横にいた奴も、慌てて前の2人と合流する。かなりビビっている御様子だ。
俺は手慣れた感じでハンヴィーによじ登り、M2の銃座に付いた。弾薬ベルトはセット済みだ。チャンバーに弾は入っている。迷宮内での戦闘がすぐ開始出来る体制だ。
安全装置をはずし、前にいる奴ら3人に狙いをつける。当てないけどね。
この機関銃の弾丸は、人間の体の傍を掠らせただけでも大惨事となる。冗談抜きで肉が飛ぶから。俺はイヤープロテクターをはめてトリガーを引いた。
凶器のような轟音の連射が2度鳴り響き、奴ら3人の間をフィフティ・キャリパー、50口径重機関銃の弾丸が駆け抜けた。弾丸に抉られて、石畳が砕け、盛大に破片が上がった。それが男達にビシビシと当たる。
真ん中のボスには両側から破片が飛んでくる。兆弾になってないだろうな? 12.7mm機銃弾の強烈な衝撃波の嵐を受けて固まる男達。奴らはなんか、ものすごい顔をしている。
こいつは、音も半端じゃないからな。かなり離れたところからも、チカチカと光って見える発射炎。猛然と吹き上がる硝煙。
初めて銃撃を浴びせられたら、その恐怖は半端じゃない。しかも、こいつらにとっては知識にすらない物だ。
ハンヴィーは、その全身をM2重機関銃の発射煙で半ば覆い隠した。戦争でもないのに、こいつを街中で使うなんて、狂気の沙汰だ。自衛隊の演習場で撃っても、兆弾が外に飛び出して大問題になる事さえあるのだ。
市議会が紛糾し、自衛隊に質問書が届けられる。ネットにも晒されちゃうし。駐屯地の責任者とかが、頭を抱える羽目になる。主に駐屯地司令かな。
2キロ先の人間に当たっても、真っ二つにちぎれてしまう事さえある凶弾だ。
だが撃った。元自衛隊員にあるまじき行為だが、俺は完全にぶち切れていた。どいつもこいつも、ふざけやがって。奴らは元より、あの糞餓鬼も呆然としている。
俺は開いたハッチの射撃手の位置から運転席へ手早く移動すると、エンジンを始動した。そして、一歩も動けない奴らに向かって、アクセルべた踏みで全速前進する。
見た事もない迷彩色を纏った巨大な鋼鉄の怪物が放つディーゼルエンジンの凄まじい咆哮に、奴らは飛び跳ねて散り散りに逃げ惑った。
あの糞餓鬼は騒ぎに紛れ、いつのまにか、どこにもいなかった。野郎、今度見つけたらただじゃおかねえぞ。
ハイになった俺は、息を飲んで見守る街の人々を尻目にそのまま町を進軍し、宿屋に乗り付けて何事もなかったかのようにハンヴィーを仕舞いこんだ。そう、きっと何もなかったのさ。
全く、おかげで何もお宝を発見できなかったじゃないか。ダンジョン探索中にいきなり日本側に出てしまうかもしれない。お宝は今のうちにしか手に入らないのだ!
何か、思考が本末転倒している気がしないでもないのだが、せっかく来たのに手ぶらじゃあんまりだぜ。
せっかく命からがら異世界くんだりまで来たんだ。俺だって美味しい思いの一つくらいはして帰りたい。
次回は、24時に更新します。
初めて本になります。
「おっさんのリメイク冒険日記 ~オートキャンプから始まる異世界満喫ライフ~」
http://ncode.syosetu.com/n6339do/
7月10日 ツギクルブックス様より発売です。
http://books.tugikuru.jp/detail_ossan.html
こちらはツギクルブックス様の専用ページです。
お目汚しですが、しばらく宣伝ページに使わせてください。