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自動執筆機ウィラコチャ

作者:URA
 今、念願かなって手に入れた自動執筆機ウィラコチャが有る。

 こいつを手に入れるまでにどれ程の労を要したか……。

 ソレは血の滲むような努力の連続だった。

 時にドロ水を(すす)るような思いもした。

 幾多の幸運と、幾多の不運と、数奇な巡り合わせによって今この時が有ると言って間違いないだろう。

 だが、それは今語る事ではない。

 私が伝えるべきはやはりこの機械の素晴らしさではないかと思う。

 形状はとてもコンパクトに出来ている。
 銀色の流線型が美しいこの機械は、首に装着する事によって機能する。
 肌触りもとても良く、磨き上げられた表面には引っかかるものが何もない。

 直接肌に触れる事によるアレルギーの心配だっていらない。

 最先端の医療機器にも使われる、樹脂素材で形成されるこの機械は、軽く、靭やかで、落としても壊れにくいと評判だ。

 使用するに当たって、ディスプレイだけは自分で用意する必要がある。

 だが今どきディスプレイが無い家庭を探すほうが難しい世の中だ。

 それはこの機械の支障とは全く持ってならないだろう。

 さあ、その使い方だが、ソレも至って簡単だ。

 ディスプレイの間に専用ソフトを介する必要が有るが、画面さえ有れば何処でも執筆が出来る優れ物なのだ。

 そう、それは例えば近年普及を始めた携帯型液晶端末でも問題ない。

 おっと、専用ソフトと言うのは現代普及している携帯端末と同じ程の大きさをしている。
 首に装着する本体と同じく銀色で、角のとれた滑らかな板状だ。

 執筆の最画面を確認する必要は無いのだから、専用ソフトと端末を一緒にポケットに入れてしまえばイツでもドコでも執筆出来ると言うことなのだ。

 分かるだろうか、この素晴らしさ。

 分かるだろうか、この利便性。

 執筆の上で一番の問題点――それは時間だ。

 いくら素晴らしい文章を思いついても、その文章をアウトプットする迄にはどうしても時間が必要となってしまう。

 いくら高速執筆を得意とする人間がいたとしても、この機械にはかなうまい。

 なぜなら、この機械は〝考える事自体〟が執筆作業となっているのだから。

 当然、指を動かすことによる腱鞘炎などの心配もなくなるし、慣れてくると別の事をしながらでも執筆が出来てしまうと聞く。

 私はまだその粋に達してはいないが、いずれ執筆をしながら日常生活が送れるまでになるだろう。

 そうなれば、一日文庫本一冊などあっという間だ。読む時間と同じ時間で執筆が出来てしまうのだ。

 だが問題も有る、この執筆速度。普及しすぎては世の中に文章が溢れかえってしまうのでは無いだろうか?

 いや、杞憂だろう。コレほどの素晴らしい機械が生まれる時代なのだ。直ぐに今以上の読了時間を可能とする機械が生まれるに違いない。

 つまりこの機械に欠陥は無いと言えるだろう。

 ああ……この機械は本当に素晴らしい。

 機能もそうだが、この自動執筆機の名前も良い。

 神の御業とも思えるこの機械に付けられた名は、古代インカ神話の文化神ウィラコチャだ。

 かの神は古代インカにて、全ての樹木、花、果物、薬草に名前を付け、人々に食用、薬効、毒の知識を与えたと言われる。

 当時無秩序だったアンデス地方の人々に、豊かな生活の規範を示し、人々に慈愛や親愛を説いた。

 他にも農業の仕方や、灌漑水路を整備なども手がけている。

 更に、行く先々で数多の病人を治した医師でもあったようだ。

 そのような素晴らしい神の名を冠したこの機械は、きっと使用者に想像も出来ない新たな発想や知恵を与えてくれるに違いない。

 そお、例えるなら砂漠の中から一粒のダイアモンドを見つけるようなアイデアであったり。

 曇天の中、降りてくる天国への階段のような感動を与えたり。

 豚に真珠の価値が分かったりするかもしれない。

 ソノような文章がこの機械を通すことで書けるようになると考えると、寒くもないのに背筋が震える感覚に襲われる。

 今もこうして想像しているだけなのだ。

 思うだけで文章化される事の素晴らしさ。

 体はベッドで横たわり、視界は何処までも闇の中。

 手足の感覚はあれど自在に動かすこともかなわない。

 なのに文字は書ける。

 物語が紡げる。

 皆も是非体験してほしい。

 素晴らしい自動執筆機!

 ウィラコチャ万歳!

 ウィラコチャ万歳!

 ………………。

 …………。

 ……。


■◇■◇■


「なんだこの文章は……」

 どうやら私は執筆中に眠ってしまっていたようだ。
 目の前には延々と綴られる自動執筆機の自慢文章。

「コレだから自動執筆機は駄目なのだ。読み返す時間も無限ではないのだぞ」

 眠っている時間、機械が拾い続けた文字は見るに耐えない内容ばかりだった。

 むしろ、この内容から、夢を見ていたのは私ではなく〝機械〟の方では無いのかとさえ思えてしまう。

「文明の発達と言うのも考えものだな……」

 私は呟くと、銀色の流線型をゴミ箱へと放り投げたのだった。


「ああ、私だ。ウィラコチャは海の泡となって消えたよ。次はもっと融通の聞く奴がいいな……ケツァルコアトルとか無いのか?」

=Fin=
普通のサイエンス・フィクションのつもりです。
※9月4日午後2時頃。感想掲示板の指摘を受け「私」文の誤字を訂正いたしました。『永遠→延々』『いかんのだ→駄目なのだ』『しまったようだ→しまっていたようだ』『発展→発達』

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