第2話 教訓は生かすべし
春、とりあえずその言葉だけで和める季節。俺こと仙崎和樹は昼を過ぎたというのに未だにベッドで寝ていた。
ダメ人間と言うことなかれ。1日中寝れるなんて、これほどの贅沢はないぞ。
母さんは仕事で帰ってくる日が少ないし、今は春休みだから学校もない。俺の睡眠を妨げるものは何もない。
「和樹く〜ん、お腹減ったよ〜」
と思ったらありました妨げるもの。
心なしか、やつれた表情で死神がフラフラと入ってきた。ノックくらいしろ。
魔界の王位争奪戦とかいうワケのわからないのに巻き込まれることになった俺。そして、そんな俺を護るために魔界からやって来たのが彼女、死神ミーナ・グライツェフ。
彼女曰く、和樹君から離れるワケにはいかないらしく、俺の家に居候することになったのだ。
まあ問題もあるんだけどね。若い男女が2人っきりうんぬんより、こいつはよく食べる。その食べっぷりに、こいつの胃袋は宇宙か? って思うくらいだ。おかげで我が家のエンゲル係数は天井知らずだぜ。……そんなに裕福じゃないんだけどなぁ。
「腹減ってんなら台所にでも行って好きなもん食ってこい」
「そんなこと言ったって、あたしこっちの世界に来るの初めてだから何食べたらいいか分かんないよ」
ご飯作って〜、とミーナは執拗に俺の布団を揺らしてくる。やめろ、揺らすな、ささやかな俺の幸せを奪う気か。
「それにほら、今他の魔王候補に襲われたら、あたしお腹空いちゃって戦えないよ」
う、確かにそれはまずいな。俺としても、非常に困る。
「……しゃあねぇな。じゃあ何か作るか」
「やったー♪」
万歳して喜ぶミーナ。俺はのそのそとベッドから降り、台所へと向かった。
台所に行き、冷蔵庫の中身を確認。やべ、なんにも無い。今日買い物に行かないといけないな。めんどくせぇ。
材料が無くては料理なんてできない。取り合えずこの場は、買いだめしておいたカップラーメンで凌ぐか。
やかんの水が沸騰しかけた頃合いに、お湯をカップラーメンの中に注ぐ。
箸も備えて戻ると、ミーナはソファーで横になったままテレビを観ていた。こいつ、すっかりこっちの生活に順応してるな。昼下がりの主婦みたいだ。
「ミーナ、できたぞ」
「やっほう! 待ってたよー」
すぐに椅子に座るミーナ。よっぽど腹減ってたんだな。
「出来るまで三分かかるからそれまで待てよ?」
「うん、分かった!」
うずうずしながら、じ〜っとカップラーメンを見続けている。でもこういうのって意識してると長く感じちゃうんだよな。
俺はテレビでも観て待つことにした。ちなみに内容は――
「まだ?」
「まだ」
内容は――
「まだ?」
「まだ」
……な
「まだ?」
「お前どんだけ我慢できねぇんだよ!?」
〇
カップラーメンを食べ終え、俺は買い物に出掛けるために着替え始める。
「あれ、和樹君どこ行くの?」
カップラーメンを五つも食ったミーナが聞いてくる。あれだけ食ったのに出るとこは出て(胸以外)引っ込むとこは引っ込んでるなんて、女泣かせな奴だな。
「食材が無いから買ってくる。るすば……」
「あたしも行く!」
最後まで言わせろ。まあ、こいつも周辺のことくらい知っとかなきゃな。
「ああいいぞ。けど、その格好でついてくるなよ」
黒衣なんて、周りから見たら変人極まりないからな。
「でも、あたしこの服しか持ってないよ?」
「俺の服貸してやるから。早く着替えてこい」
「うん♪」
パタパタと洗濯物の山に向かったミーナは適当に服を取り出していく。
数分後、白のワイシャツに青のジーパンに着替えたミーナが戻ってきた。なんか、こう見てみると普通の人間と変わらないな。
「さっ、行こ行こ♪」
俺の腕をとってはしゃぐミーナ。
ま、たまにはこんなのも悪くないだろ。
〇
俺達は近くのスーパーで買い物することにした。
今晩は何作ろうかな? どうせならあいつが今まで食べたこと無いやつでも作るか。
「和樹君和樹君、あたしこれ食べたい!」
いろいろ物色していたミーナが戻ってきた。その手には。
ポテトチップス、桃味。
…………ま、不味そう。業者の人は何を考えてこんな物をつくるんだ? 意図がまったく掴めん。
「ダメだ。もっとマシな物チョイスしてこい」
「え〜」
そんな残念そうな顔するな。後で後悔するのはお前なんだぞ。
「そういやお前、あのばかでかい剣持ってきてないんだな?」
「ああアレ、いいのいいの。いつでも取り出せるから」
「そうなのか?」
「うん、こうズブズブって」
手でジェスチャーして伝えてるようだが、どうせなら見たら剣を抜く仕草なのか、ワケの分からん動きでまったく分かんねぇよ。
「けどさ、普通死神って鎌じゃないのか?」
「それは偏見だよ和樹君。第一、鎌って扱いにくいんだよね。戦闘にも不向きだし。なんで昔の人はあんな物使ってたのか気が知れないよ」
なんかいろいろとぶっちゃけたな。
「じゃあ魔界は? なんか気持ち悪い色の空におぞましい植物。安心できる場所なんて無い、弱肉強食な世界か?」
「そんな世界だったらあたし居たくないんだけど。すぐさまこっちに移ってくるよ」
「ならどんな世界なんだよ?」
「ちゃんと青空もあるし綺麗な草木もあるよ。国を中心に村がいくつも点在してて、凶暴な魔物なんて辺境の地帯にしかいないし」
「へぇ〜、一度行ってみたいな」
「行きたいんだったら連れていってもいいけど、あまり治安の良くない所もあるし、今王位争奪戦の最中だから行ったら他の魔王候補に襲われちゃうよ」
「やめときます」
誰が好き好んで激戦区に飛び込むか。俺は平和が好きなんだよ。元々、この戦いだって否応なしに巻き込まれることになったわけだし。
ま、今はそんなこと言ったって何も変わりはしないんだ。考えた所で無駄。さっさと料理の材料買わないと。
「和樹君、じゃあこれは?」
またミーナが他の商品を持ってきた。今度は。
抹茶わさびアイス。
……俺、お前のセンスを疑うよ。
〇
材料を買い終えた俺達は寄り道もせずに家へと戻り、料理の準備を始めた。
途中、ミーナも手伝いたいと言ったので了承したが、きっとあいつは料理を作ったことが無いんだな。でなきゃ、鍋が爆発したり、レンジが爆発したり、食材が爆発したりするはずがないから。
今日の教訓、ミーナに包丁を握らせるな。
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