第1話 憧れないし目指したくもない
俺こと仙崎和樹は今とぼとぼと家路に着いていた。
隣にはさっき、俺を犬の化物から救ってくれた正体不明の少女。その背中には布でくるんだ身の丈を越す大剣を背負っている。さすがに刃を剥き出しにしてるのは危ないからね。拳銃腰につけた怖い人が来ちゃうから。
あの後、俺が少女に説明を聞こうとしたら、
「話が長くなるから和樹君の家に行こ♪」
とか言うから仕方なく連れっててはいるが、一体何者なんだ?
片手で化物押さえつけるし、あれを見てもまったく驚いていない。むしろ見慣れているようだった。
いろんな事を考えてる内に、我が家へと着いた。立派な一軒家。俺には母さん一人しかいない。父さんのことは何も知らないが、母さんが話したくないならきっとろくでもない父親だったんだろう。今では毛ほども興味が無い。
「リビングで待っててくれ。今日は母さん帰ってこないから」
「お邪魔しまーす」
ペコリとお辞儀してから少女は家に入ってくる。結構礼儀正しいじゃないか。
俺は台所でやかんに水を汲み、コンロの火にかける。一応客だからお茶ぐらい出さないとな。
お茶をいれてリビングに戻ると、少女は椅子に座って待っていた。
「ほら、おいしくはないぞ」
少女の前にコトリとお茶を置く。
「なにこれ?」
「なにって……お茶を知らないのか?」
「へぇ〜お茶って言うんだ」
少女はまじまじとお茶を見つめている。お茶を知らないって、どんな生活してきたんだよ?
お茶を口にした少女はビクッと跳ね上がった。
「か、和樹君! これ熱いよ〜」
舌を出して涙ながらに訴える。その仕草可愛いな。
「熱いのがいいんだよ。お前、お茶飲んだこと無いのか?」
「うん。あたしの『世界』にはこんなの無いよ」
“あたしの世界”?
「なあ、そろそろ聞かしてもらっていいか? お前が誰で、あの化物は何なんだ? 一体何が始まろうとしているんだ」
「……そうだね。説明しないといけないね」
少女は湯飲みを置くと、真剣な表情になった。俺も椅子に座り、彼女の口からでる言葉を待ち構える。
「まずは紹介からいこっか。あたしはミーナ・グライツェフ、別世界『魔界』からやってきた死神だよ」
「は? 死神? 死神ってあの魂を刈り取るやつ?」
「うん。でね、初めから説明すると、うちの魔王様はとんでもなく女たらしな奴なの」
「へ?」
「通称、『魔界の女撃墜王』。俺に落とせない女はいないってくらい豪語しててさぁ、過去に百人切りもしたことあるらしくてね」
さっきから全く関係ないこと言ってないか? それが俺とどう関係あるんだよ。
「あっ、関係ない話してないかって顔してる。話は最後まで聞こうね。それで、遂に魔王様もご子息に王位を引き継がせることになったの。大臣達は大喜び」
人心の薄い魔王様だな。
「で、ここで問題が発生。やっぱり最後まで問題残すんだよね。女百人切りなんかしてたから魔王様のご子息があちらこちらから名乗りをあげてきたの、国はもう大混乱」
「そりゃ大変だな」
「ご子息が多すぎて、遂に魔王様はとんでもないことを言い出したの」
「どんな?」
「やっぱ魔王になるからには最強じゃなきゃいけない。というわけで、子供達で戦い合い、勝ち抜いた者に王位を引き継がせる、ってね」
「さ、災難だな」
「でしょ〜」
と、ここまで説明してもらったんだが、結局なんで俺が襲われなきゃいけないんだ?
「まだ気づかないの? 案外鈍いんだね和樹君って。襲われる理由なんて一つしかないじゃん。つまり、和樹君も魔王様のご子息ってことだよ」
「………………………………ごめん、もう一回言って」
「だから〜、和樹君も魔王候補の一人なんだよ」
「……………………………………………………はあああああああ!?」
「ナイスリアクション♪」
俺が、魔王の息子? どこの漫画の話だよ。全く笑えねぇ冗談だ。
「ふ、ふざけんな! なんだよそれ、それだけで今日みたいな、あんな化物に襲われなきゃいけないのかよ!」
「和樹君がなんて言ったって、もう王位争奪戦は始まってる。この戦いに放棄は認められない。後は、勝ち抜くしかないんだよ」
「そんな……」
今まで普通に生きてきて、いきなり化物同士の戦いに巻き込まれるなんて。この先どうすりゃいいんだよ。
「安心してよ」
「え?」
「そのためにあたしは来たの。何も知らない和樹君のために、和樹君を護るのがあたしの仕事。だから安心して、和樹君はあたしが護るから」
そう言って、彼女、ミーナはニッコリと微笑んだ。
根拠も何もない口先だけの約束。けど、心のどこかで信じられると思えた。
「あっ、和樹君、お茶っていうのおかわり!」
…………たぶん。
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