一つの真っ白な紙飛行機が、一人の少女へと向かう。彼女は、それに気がつかない。
彼女の緑色の美しい長髪は、いつものように橙色の髪止めで上の髪だけまとめ、あとは流している。
その髪が白い紙飛行機に映り、白は薄い緑へと色を変えた。
──ふわっ
紙飛行機は、少女の頭に向かっていたはずが彼女の頭を乗り越えてそのまま何事もなかったかのように飛んでいった。
それは、彼女の周りを何かが覆っているように見せて・・・
「化け物だあぁぁぁーー!!!」
男子の嘲り声に振り返る意味はない。いつものことだから。
小学一年生の教室に、緑髪の少女──凪は居た。本当はもう一つ上の学年にいるべき年だが、もうそんなのどうでも良い。
後ろから紙くずを投げられても凪には当たらない。全てが凪に当たる前に方向を変える。
「あいつきもいな〜。何で当たらないんだろう?」
「しらねーよ!ってか当てた奴に、俺の全財産やるわ!」
「マジで?やったぁ〜。みんな投げろー!!」
かけ声と共に、はさみまで投げつけられる。
凪はと言うと、黙々と帰りの支度をしていた。こんなこと日常茶飯事なのだ。勿論、投げられる物一つ絶対に凪には当たらない。
「ちぇっ、つまんねー。」
「ぐふっ・・でも、凪ちゃんって可愛いよねぇ〜。いぢめるのやめなよおぉぉ〜。」
「きーもー男ー。出てくるなよキモイんだから〜。」
男子達に蹴られて、きも男とよばれる男子は机の下に引っ込んだ。
きも男の言うことは正しい。凪は、齢7歳にして麗人の雰囲気をうかがわせる容姿をしていた。この少女はあと十年すればまさしく美しい女性へと変貌するだろう。
「一人も友達の居ない奴なんて生きる価値無いんだよ。」
「そうそう、早く消えろー。」
それでも凪は黙々としていた。後ろにいる男子達に振り返ることなど無い。まだ、男子は直接言ってくるだけで、それ以外の害はない。
どちらかというと、女子の方が手がかかった。
今、凪が作業しているのはびりびりに切り裂かれた連絡帳をセロテープで直しているのだ。無駄に使うお金はないために、新しく買うことはできない。
二年前の自分だったらおそらくこの場面で泣いていただろう。だが、もう涙さえ出てこなかった。枯れてしまったのだろうと凪は思う。
「あんたたち!!何やってるのっ!!?」
「うっわー。お前がいうかよ?」
教室の前から入ってきたのは凪と同じ髪型の少女。少し茶髪がかった髪を持っている子だ。
・・・そして、凪をいじめている一人でもある。
「あたし、考えたのよ。イジメはダメだって思ったの。今までごめんね。」
「・・・・。」
後ろを向いて振り返らない凪に、少女は謝罪した。
それでも凪は反応しない。少女はしびれを切らしたのか凪の目の前へとやってきた。
「うっわー!ショータイムだぞ〜!」
「ヒューヒュー!」
はやし立てる男子達。けれど少女は何も言わずに凪の顔を見上げた。
「心を閉ざさないで。あたしは貴方をもういじめたりしないわ。」
「・・・・・。」
今までの二年間、自分は守られる者ではなくなった。そして、まわりが敵だけになった。
「あたしたちと友達になりましょう?」
「・・・・・。」
友達など今まで出来たためしがない。風のせいもあるが、凪のこの雰囲気が人を寄せ付けない。周りから「化け物」といわれる凪に、だれも近づくわけなど無いのだ。
でも、この少女は・・・
「あたしを信じて!!」
「ヒュー!!偽善者マリ!!」
これは偽善。
このマリという少女が凪にした仕打ちを考えれば、誰から見ても偽善だった。・・・嘘だった。
それでも──
それでも一度だけで良いから、幼い緑髪の少女は信じてみたかったのだ。まだ、守られるべき存在であった少女は、共に歩んでくれる人がほしかった。
偽善でも良い。無いよりはマシ。
これが、マリと凪との出会い。そして凪の一番苦しい過去かもしれない・・・
「風舞 凪」風舞家当主であり、長姫であり、たった一人の生き残り。四神家と呼ばれる火・水・土・風からなる四家の一つ、風の家は幼き少女が当主を務めていた。
それが、凪。
──凪・・・それは、風が止まるという意味を持つ名。
四家は世間に跋扈する魑魅魍魎、すなわち妖怪を退治するために在る。
今、風の家はたった一人の少女だけになり、その少女は異名を持つ者──
同じ血筋の者は絶え、一人風の家を継いだのは幼き少女。名は──凪。それは、「風が止む」という意味・・・ |