112話 シュカの教え
情報収集をクロネコ達に任せ、ユーリとフィーナはそれぞれの修業をしていた。
それも、一時休憩となり久々の二人の時間を楽しんでいた彼女たちの所にシュカが現れ、ユーリの修業を付けると言う。
果たして戦いには慣れたとはいえ、攻撃が苦手な彼女はシュカの戦術を学ぶことは出来るのだろうか?
リーチェさんとクロネコさん……シュカの手助けもあり、僕の修業が始まった訳だけど……
「ユ、ユーリ大丈夫?」
「だ、大丈夫……」
以前……日本にいた時より確実に体力は上がってる。
皆が走って行っても追いつくぐらいなら出来る、けど……
「予想、外……ユーリ、体力無い」
そう、僕には武器を持って攻撃をしながら動き回るという体力が無かった。
どれ位体力不足かというと……
「ノルドより、弱い」
「ぅう……」
このように、シュカにはっきりと評価対象を示されて言われてしまうぐらい体力が無いらしい。
「で、でもほらノルド君はまだ子供だから、ね?」
僕がそう言うと……
「確かに子供は疲れ知らずだけど……ユーリはちょっと体力不足だね?」
フィーもフォローを入れてくれないなんて……
「少しも、動いてない……、深刻」
「そ、そんな……」
因みにこの修行が始まったのが大体一、二時間前位だ。
結構動いているはずなのに、シュカは息一つ切らしていないし、そんな彼女を疲れさせたノルド君の体力は一体なんなの!?
いや、それよりも……こんなに体力を使ってしまうんじゃ、魔法に支障をきたす。
護身用にもらったナイフがもったいないけど……ん? まてよ?
僕は動き回って攻撃するのに慣れてない……それは当然だ。
弓は遠距離から動かずに撃てるし、魔法だってそうだ。
走りながら魔法を唱えたことってあったっけ? いや、ない。
もし、あったとしても一回や二回の話だ。
それに動き回って魔法を使う時は大体、浮遊を使っている。
「ユーリ、休んだら、もう一回」
「シュ、シュカ? 今日はもうユーリも疲れてるし……」
「戦う手段、増える、良いこと……ユーリ、一つ教える」
そもそも、僕には武器が使えない。
今までそう思ってきたはずだ……弓に関しては何故か相性が良かった位にしか考えてなかった。
でも、例えば走りながら弓を撃つとしたら同じ結果になるんじゃないか?
「ユーリ、聞いてない」
「へ? ご、ごめん……なんだっけ?」
どうやら、シュカは僕になにかを言ったみたいだけど……全然聞いてなかったよ……
「短剣軽い、だから、剣よりも速さを生かす、一撃が軽い分、一撃で仕留める」
えっと……つまり、一撃が軽いから……長期戦は無理、急所を判断して一撃で仕留めろってことだよね?
「もしくは、体術、学ぶ」
そう言えば、シュカも体術を含めた戦い方だったよね?
体術に関しては専門のバルドと比べてしまうと流石に差が出てるみたいだけど、シュカの素早さでああ何度も攻撃されたら耐えきれない。
一撃が軽い分、手数で戦うか、急所を狙うか……
でも、僕は短剣を扱うには遅すぎるし、どうしても攻撃がぶれてしまう。
ただ立って武器を振るのと、走りながら振るのとこんなにも違うものだとは思わなかったよ。
剣は以前にへっぴり腰って言われたし、体術に関しても……
「前にシアと一緒に教えたけど、目立った成長はなかったよね? ユーリは魔法も含めて相手を攻撃するっていうことが苦手なのかな?」
「あ、はは……」
自分でもそう思うよ。
「笑ってる場合違う、致命的」
「で、でも、この頃はちゃんと魔法使えてるよー?」
ん?
「魔法……?」
「うん、すごい魔法も作ってるし、ソティルの魔法以外でも戦えるようになってるよね」
このナイフは元々魔力が切れた時の保険って言われてリーチェさんがダイヤで作ってくれたものだ。
でも、僕の魔力が切れるとしたらそれは……
ソティルの魔法を使った時――
どの位使えば限界が来るのかも大体分ってる。
それだけじゃない、今は彼女が残りの魔力を教えてくれることもある……魔力切れが起きるとしたらそれは故意に起こすか、予想外のことが起きた時だ。
前者はまずありえない。
後者はそれを考えて行動すれば、未然に防げる可能性が高い。
なら……速さを得る方法があるじゃないか!!
「ユーリ? えっともしかして私……変なこと――」
「フィー! ありがとう!!」
「ふぁ!? え、う、うん、どういたしまして?」
フィーの言葉がなかったら気が付かなかった。
試してみる価値は十分だ! そうと決まったら……
「シュカもう一回だ! 試してみたいことがある!」
「わ、分かった……再開、する」
シュカは武器を構え、待ってくれている。
でも、実戦ではこうは待ってくれないだろう……後でより近い形でお願いするとして、今は慣れることに集中しよう。
形だけとはいえ、僕はナタリアとの戦いの時に一度やっていることだ。
「我らに天かける翼を、エアリアルムーブ」
「――ッ!?」
「ま、魔法?」
僕は浮遊を自身へと掛けると、鞘を固定したナイフを構えシュカへと向かっていき……振りぬいた、が……それはシュカの持つナイフによって防がれ……
「うわぁ!?」
「びっくり、した」
その小さな衝撃で僕は体勢を崩す……お、思ったより難しい。
攻撃の際も、地に足がついているわけじゃないから踏ん張りが効かないし……今みたいに防がれただけで簡単に体がぐらついてしまう。
でも、これなら……僕は体勢を整えると再び短剣を振りぬく。
しかし、当然シュカはそれをいとも簡単に防ぎ、またも僕は体勢を崩す。
何度も、何度も……何度もやっていく内に分かったこと、いや確信したことがある。
自身の体を動かし走るより、魔法で空を飛んだ方が体の負担が目に見えて減る。
「少し、休む」
「へ、う、うん……」
シュカの制止がかかり僕は魔法を解くと……なにやらシュカは考えるそぶりを見せ、ふとフィーの方を見ると彼女も同じようにしているけど……どうしたんだろう?
「空に浮いたまま戦うなんて、器用なことするね? ユーリは……」
へ?
「シュカも、思った」
「い、いや、でもグリフィンの時もやったよ?」
「うん、でも普通、地上を走るより空の方が不利だよ? 私は苦手っていうのもあるけど……どうしたって自由が利かなくなっちゃうでしょ?」
「だから、魔法使えても考える人、いない」
そう言えば、ナタリアも剣を構えて走って来てたな。
あの時もし、空を飛ばれていたら……よそう、怖くなってきた。
とはいえ、そんな特別なことはしてないはずなんだけど、二人の様子からすると少なくとも二人は見たことがないってことなんだろう。
「うーん? 僕としては走るより、飛んだ方が良いんだけど……」
「そう言えばユーリは飛ぶの得意だったよね、だからなのかな?」
「理由、どうであれ、さっきより、良い」
どうやら、僕の思い違いではなく二人ともさっきよりは良くなっていると思ってくれてるみたいだ。
「でも、ぐらつくの、隙多い」
「あ、ははは……」
「笑ったら駄目だよ? 怪我されたら怒るからね?」
うぅ……フィーが優しくない……
「れ、練習してどうにかするよ?」
「うん、そうしてね?」
「ちゃんと、手伝う、安心する」
頑張らないといけないな、そう心に決めつつも日が暮れてきたことに気が付いた僕は二人に告げる。
「今日はもう街に戻ろう……」
「うん、戻ろうかーご飯なにかな~?」
「モチモチ、が良い」
確かに美味しかったけど……あれは一応お菓子の部類に入るらしい。
僕もモチモチだけでも良いんだけど……
「ミケお婆ちゃんの料理美味しかったし、今日も楽しみだよ」
「うん、美味しいよね?」
知人の手料理を褒められて嬉しいのか、フィーはそう言いながら笑顔で尻尾を振り、シュカは頷いている。
お昼はお店で買った物だったし、さっき口にしたように夕飯が楽しみだ。
なにが出て来るのかと談笑をしながら僕たちはレライへと帰路につき、ミケお婆ちゃんの家へと足を急がせた。