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  ARCADIA ver2.00 作者:Wiz Craft
 S8 朱鳥祭
 手記を読み終えたマイキーは暫し言葉に戸惑っていた。仲間達は釈明を求めていたが、マイキーの口では上手く言葉に纏まらなかった。
 クロック・ハーベルクの晩年の想いを知り得た今、彼のヘブライ族に対する愛情の深さをもまた知る。
 彼は心からこの種族を愛していたのだ。それだけに興味本位で近付く人間達を彼らから遠ざけようとした。一世一代の大仕掛け。彼が天命を持って終遂げようとした事は一体何だったのか。
 ここでマイキーの念頭に浮んだ光景は一つ。あの巨大天然石のオラクルゲートだ。パスワード仕掛けのあの自然の査問が冒険者の行く手を断固として遮っている。
 パスワードの解読法を知らなければ、まさに冒険者にとって為す術は無い。日替わりで変化するパスワード。暗号を解読してそのアルゴリズムを解かなければこうしてここに辿り着く事は出来なかった。
 だが、何故だろうか。彼の意志に従じるならば、本来マイキー達は暗号の解を知るべきでは無い。いや、知り得る筈が無いのだ。パスワードの解読が不可能だからこそ、彼が仕掛けたこの大仕掛けは初めて機能する事が出来る。
 そんな、マイキー達をここまで導いたのは一体何だったのか。
 そう、それはあの黒装束の少年と白装束の少女だ。
 彼等がパレスチアの地で冒険者達を導いている。晩年の想いで彼等を人間から遠ざけようとしたクロックの意向を無視して。一体それは何故?
 考えれば考える程、湧き出る疑問が止まらない。

「マイキー……どうしたの?」とアイネの言葉にふと現実に返る。

 そうだ、一人で悩んでいても何も始まらない。ここへ来た当初の目的を忘れてはならない。
 丁度その時だった。民家の外から叫び声に似た雄叫びが響いて来たのは。慌てて外へと飛び出したマイキー達の視界に飛び込んできたのは、黒装束を纏ったヘブライ族の若者達の姿だった。
 肩には網状に組まれたカンパラの荷台を背負い、その上では体長三メートルは在るかと思われる朱鳥が横たわっていた。その周囲では白装束を纏った集落の女性達が歓声を上げている。
 民家の中から遅れて現れたクロップスは若者達の成果を満足そうに眺めると、拍手を持って称え始める。

「Grasco...ful...Grasco」

 若者達はクロップスの家の前に仕留めた獲物を降ろすと、敬礼をして整列する。
 只ならぬ彼らの畏敬の対象は明らかに、今マイキー達の背後に佇む老父へと向けられていた。

「クロップスさんて……もしかしてこの集落では凄く偉い人なんじゃ」とアイネが小声で呟くと同時にクロップスがその両手を大きく掲げ胸に当て、祈りを捧げ始める。

 周囲の村人達が一斉に祈りに続き始めると、その動きに習いマイキー達も両手を掲げ胸に当てる。
 村に一斉に点される松明。村人達が歓声を上げながら狂喜乱舞するその姿に若干の不安が生まれる。横たわる朱鳥と共に、広場へと誘導されながらタピオが困惑した表情で一言を漏らす。

「僕達……食べられたりしないよね」と、その呟きに煙草を咥えながら微笑するジャック。
「可能性は否めないな」

 返答に引き攣ったタピオが乾いた笑いを漏らす。

「ジャック。本気マジで……言ってる?」
本気本気マジマジ

 キティはそんな会話を聞き入れながらしっかりとアイネの手を握り締めていた。
 広場へと到着した一同は、古井戸を囲むように円状に設置された丸太の椅子に座らされただ成り行きを見守る。いつしか、周囲には幾つもの松明が打ち立てられ古井戸の周りでは運ばれた朱鳥の解体作業が始まっていた。その隣では燃え盛る炎が焚かれ、辺りには乾燥した木々や葉が焦げる煙に匂いが充満し始める。そして、その炎の元に晒されるは朱鳥バンディスの生肉である。

「良かったな。とりあえず食われる対象は俺達じゃないみたいだぜ」とジャックの言葉にほっと胸を撫で下ろすタピオ。隣ではマイキーが彼等の儀式の様子に魅了されたように見入っていた。
「食われるどころか……大切な儀式に僕らを参加させてくれるんじゃないか」
「大切な儀式?」とアイネが尋ね返すとマイキーの瞳に浮かぶ炎が揺れる。

 焼け焦げる肉の香りが漂い始めると、白装束を纏った女性達が丸椅子に並ぶ黒装束の男達に受け皿となる大葉で包んだ肉の断片を配り始める。それはマイキー達も例外では無く、手渡された熱い肉を前にアイネは「ありがとうございます」と笑顔で受け取った。
 炎が揺らめく中、男達は無言で取り憑かれかのようにただ肉を喰らう。まるで野生に返ったかのように素手で生肉を貪るその姿にマイキー達もまた溶け込む。
 食事を終えると言い様の無い不思議な感覚が身を支配する。この不可思議な環境が身をそうさせるのか、何とも言えない高揚感。まるで自身が神にでもなったかのような錯覚に陥る瞬間。
 そんな折、黒装束の男達は丸椅子から腰を上げるとクロップスがゆっくりとその左手を掲げる。同時に両手を掲げ、胸に手を当てる男達。

「Rozen Hauben Blaupa Huspa...Clen Coppa Mullu」

 呪文のように重なる言葉が大気を震わせ、同時に黒装束の男達の身体が緑色のオーラに包まれ始める。夜の闇を照らすように、赤き炎と交わるように立ち昇り始める緑色の輝きはマイキー達をも包み込む。
 マイキー達はただ言葉を失って、身体を包むそのエネルギーに身を任せていた。溢れ出るような不思議な力。そして黒装束の男達の大合唱が最高潮に高まった刹那、次の瞬間音は止んでいた。
 眩い緑光に包まれながらクロップスは男達を従えて、集落の外へと歩み始める。残されたマイキー達が呆然自失としていると村の女性達が手仕草で後を追うように伝える。 
 現状把握には苦しむ。だが確実に何かが進行している。その真相を掴む為にも今はただ成り行きに身を任せる以外に方法は無かった。
▼次回更新予定日:10/30
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