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  ARCADIA ver2.00 作者:Wiz Craft
 S9 漂流物
 マイキーの心配を他所に暫くすると、砂浜にはジャックとアイネが走り込んで来た。
 酷く慌てたその様子にマイキーが苦笑していると、二人は息を切らせながらその場に倒れ込む。
 どうやら話を聞くと、一匹のシーフロッガーに絡まれて逃げていたところ、複数のシーフロッガーとリンクし悲惨な逃走劇となったらしい。森に木々を避けながら全力疾走した二人はやっとの想いでこの砂浜に辿り着いたと言う。

「よく生きてたな」

 嘲笑を浮かべてそう語り掛けるマイキーに、二人は息を切らせながら冗談じゃないと言った表情を浮かべる。

「どうも、奴等は強い光を嫌うみたいだな。あの森から砂浜には出てこないらしい」

 その言葉に安心したように胸を撫で下ろすアイネ。
 丁度その時だった。森の方から聞こえてくる悲鳴。
 三人が森へと視線を向ける先で、悲鳴は強まり、そして森の中に浮かび上がる一人の若い冒険者の姿。

「うわぁぁ! 助けてくれ」

 二十代と思われる旅人服の男がまさに森から砂浜へ飛び出ようとしたその時だった。
 背後まで迫っていたシーフロッガーの赤い舌が素早い動きで男の首元へと巻き付く。

「うぐっ……ぅ……」

 苦しそうに呻き声を上げる男の様子に、砂浜から立ち上がり駆け出すマイキーに続いてジャックとアイネも飛び出す。
 男の身体から次第に力が抜けて行く。目の前に迫るマイキー達の姿に最後の希望を掛けて、その表情に希望を浮かべたその時だった。
 男の背中に走る衝撃。ゆっくりと振り向いた先には、そこには獲物を捕らえた仲間の元へ駆けつけたもう一匹のシーフロッガーの姿が在った。

「そ……んな……」

 今、光の粒子を立ち昇らせて消えて行く冒険者の姿。
 その姿を前に呆然と立ち止まるマイキー達。一歩間違えれば自分達が彼の運命を辿っていたかもしれない。

「間に合わなかったか」と呟いたマイキーの後ろで、ジャックが「クソッ!」と怒り交じりに砂を蹴り上げる。アイネはただ消え行く冒険者の光をただじっと見守っていた。
 冒険者の姿が美しい結晶体へと姿を変えた数秒後、その美しいクリスタルもまた光の中へと消えて行った。
 そう、彼はホームポイントへと帰還したのだ。

「とんでもないとこへ来ちまったな」とジャックが煙草を口に咥えて呟く。

 周囲の海岸線は巨大な岩場で途切れており、元来たあの星砂の海岸線に繋がる砂浜に戻るにはまたあの森を通るしかないようだった。
 砂浜で三人が今後の動向を考えあぐねていたその時。ふと海原の方を見つめていたアイネが、何やら海岸に向かって流れてくる漂流影に気付いた。

「ねぇ、見て。何だろうあれ」

 アイネの言葉に浅瀬へと視線を向ける二人。
 浅瀬に浮ぶその黒い影。角張ったその漂流物の正体。それは木棺だった。
 一同が見つめる中、木棺は波打ち際へと流れ着き、そして砂浜に乗り上げる。
 徐に木棺に近づいて行くマイキーに、ジャックは煙草を口に咥え火を灯すとそれに続く。アイネは警戒しているのか、木棺には近寄らず遠目でそんな二人の様子を見守っていた。

「何だこれ。棺か?」

 全長二メートル程の細長の六角形型の棺。水に濡れ腐敗化が進んだその様子はかなりの年代を感じさせる。
 棺に手を掛け外様を調べ始める二人。

「死体でも入ってんのか」とジャックが煙を吐き出しながら呟くと、マイキーが微笑を返した。
「まさか。ここから開けられるみたいだな」

 マイキーの言葉に無言で頷いたジャックは両側に並び、木棺の表面にそっと手を掛ける。
 掛け声を上げた二人が外蓋を外すと、その中身に二人は声を上げる。

「何だこれ。すげぇ」

 二人の言葉にゆっくりと近寄ってきたアイネはその中身を見て目を覆う。
 腐敗し、海草や苔のこびり付いた木棺の底には一体の白骨が横たわっていた。どうやら海を渡って流れてきたのはこの世界の漂流者のようだった。
 不思議な事に木棺の腐敗に対して、漂流者が身に付けている装備は繊維質が保たれ、綺麗な清装が施されていた。白骨の胸には一本の銅剣が抱えられていた。
 その銅剣を手に取るマイキーを見てアイネが声を上げる。

「止めなよ。気持ち悪いよ。この人に返してあげよう」
「何言ってんだ。これはゲームの世界だぞ。この漂流物だって一つの設定なんだよ。きっと定期的に特定の海岸に漂流物が流れ着く、言わばトレジャーボックスみたいなもんなんだよ」

 マイキーはそう語ると銅剣をニ、三振りしてカード化のボイスコマンドを宣言する。

「Materializeマテリアライズ

 この世界ではこの『Materializeマテリアライズ』というボイスコマンドの宣言によって手に取ったものを文字通りカード化する事が出来る。基本的には文字通り手に取ったものならば何でも変換出来る。逆に手に持てないもの、極度な重量を有したものや、液体などのように手で掬えないもの、また既にその所有権を持ったプレーヤーが存在する物体はカード化する事は出来ない。それがこの世界での厳然たるルールだった。
 宣言と同時にカード化されたその内容に目を通し始める三人。

◆―――――――――――――――――――――――――――◆
〆カード名
漂流者の銅剣

〆分類
武器-片手剣

〆説明
漂流者が胸に抱えていた銅製の長剣。

〆装備効果
物理攻撃力+7
◆―――――――――――――――――――――――――――◆

「やっぱりな。僕らが持ってる銅剣とは違う。物理攻撃力のプラス値がこっちの方が上だ」

 顔を輝かせるマイキーとジャックを他所に一人不服そうなアイネ。

「この服ももしかしたらマテリアライズできるんじゃないか? 不自然に綺麗だろ」

 ジャックはそう呟き白骨から衣服を剥ぎ取っていく。
 そして彼の予想は的中していた。漂流者が纏っていた清装はマテリアライズによってそれぞれ『漂流者の帽子』『漂流者の皮服』『漂流者の跨着』『漂流者の靴』の計四品の防具へと変換された。
 漂流者の防具の性能は、旅人よりも値が高い『4』という数値だった。
 ちなみにこの世界での防具の概念は正式サービスの開始から大きく変更されている。今まではそれぞれ装備部位に防御力が割り振られ、防具の防御力はその総計値が基本となるプレイヤーの防御力に加算されていたが、現在では各防具によって防御力は固定されている。つまり旅人の装備を頭だけ被ろうが、身体全体を覆うまいが防御力は定められた値に固定なのである。
 これを解決するために、正式サービスから導入されたのは『保護率』という概念だった。ここでの詳しい説明は避けるが、各防具ごとに身体の『保護率』が定められておりこのパーセンテージに基づいて身体が部分的に防具に定められた定数を加算して守られる事になる。
 旅人の装備で言えば頭だけ被れば防御力は14.4%。つまり帽子によって守られた頭の部分だけ旅人装備の防御力である『3』の値が物理防御力にプラスされる事になる。これに対し頭、胴、脚、足の全身を旅人装備で覆った時の物理防御力への加算値は前述と変わらない。変わるのは『保護率』である。頭だけ装備していた時の、保護率は14.4%。これに対し全身を旅人装備で固めた際の保護率は80%に及ぶ。
 つまり、これは敵から受ける攻撃に対して80%の確率で『3』の防御力を上乗せすると解釈しても間違いでは無い。実際にはプレーヤーの防御行動によってはこの確率は零にも百にも変動する事になるが、大まかな概念は前述の通りである。
 木棺から入手された五枚のカードを片手に、その分配について言及し始めるマイキー。
 絶対にいらない、と言い張るアイネを前にマイキーとジャックは顔を見合わせその扱いに困っていた。

「お前が全部使えよ。どうせ三人で行動するんだし、その方が効果的だろ」

 ジャックの言葉に手にした五枚のカードを器用に片手で交ぜていたマイキーは静かに頷く。

「じゃあ、そうさせて貰うか」

 互いに信頼関係は成り立っている。カードを独占したからと云って悪いように扱うつもりはマイキーには毛頭無かった。

「とりあえずはシーフロッガーの生息するこのエリアから脱出しよう。狩りをするなら、今の段階じゃ島の南部か、もしくはイルカ島に戻った方が良さそうだ」

 マイキーの言葉に頷く二人。
 二人の目の前で、マイキーは旅人の服から少し排他的な廃れたデザインの漂流者の衣服に変更し、剣を手にする。

「もしもの時は盾は僕が引き受ける。その間に二人は全力で逃げな」
「ここから島の南の浜辺まではさっきと距離が比じゃねぇぜ」と苦笑しながらジャック。

 もしも、シーフロッガーの追尾範囲が森の中全域に及んでいるとすれば絡まれたら終わりだ。

「まぁ、死んだら神でも恨めよ」
「そういう発言が厨ニ臭ぇんだよ、お前は」

 そんな二人のやり取りに笑顔を見せるアイネ。
 一同の動向が決まった所で、日はちょうど昇りかけていた。
 そろそろ腹も減ってきた頃合だ。思えば昼食の事を完全に忘れていた。
 村へと戻ろう。願わくば……

――無事に帰れる事を祈って――
▼次回更新日:5/24
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