第1章 「揺れる想い」 (1)
君が目の前に現れたあの日
息が止まるような出会いがあることを
はじめて知った
モノクロームの景色が
鮮やかに色づき
風の色まで
違って見えた
君はまるで夜明けの光
僕に輝きをくれた
あの頃には戻れないのに
まだどうしようもなく
君に恋い焦がれてる
狂おしいほどのこの想いを
止めるすべを知らない
たとえ君が他の誰かのものでも
君を愛することをやめるなんて
できはしない
第1章 「揺れる想い」(1)
パリに渡ってから5年後の10月、
日本に向かう飛行機の機内にいる私は、21才になっていたーーーーー
何度もハンドミラーを見て顔をチェックしてそわそわしていると、ルディが読んでいた本から顔をあげて、可笑しそうに笑いながら声をかけてきた。
「そんなに心配しなくても大丈夫だぜ。
空港で待ち受けている報道陣と、後に控えてる記者会見が心配で、緊張してるんだろ?
なにしろテニス世界ランキング1位のこのオレ、ルドルフ・アッシュ・ランベールのブランド『Bleu Vert (ブルー・ヴェール)』世界初公開のお披露目だ。
フランスじゃなくて真っ先に日本で発表するとあって、報道陣の数も半端じゃなく、ブランドモデルである君にもかなりの注目が集まることになるけど、オレがついてる。
大丈夫だ。オレを信じろ」
思いもかけないルディの言葉に、私は目を丸くして答えた。
「えっ?やだ。何言ってんの、ルディってば。
私 、そんなの全然心配してないわよ。
この数年間、モデルとしてどれだけ訓練を積んだと思ってるの。
自分で言うのもなんだけど、意外にステージなんかは肝が据わってて、全くアガらないのよね
報道陣も記者会見も全く心配してません!
私が心配してるのは・・・・青山の家に帰って鷹矢と対面することよ。
久しぶりに私を見て、どんな風に思われるのかが、心配で・・・・」
鷹矢ーーー今、どうしてるんだろう。
元気にしてる?
大学時代にテニスの全日本チャンピオンになってプロ選手としてデビューして、世界ランキング2位にまでのぼりつめた今は、毎日が多忙だろうけど、この5年間、少しは私のこと思い出してくれてた?
私の言葉にルディはガクッと肩透かしをくらって前のめりになり、吐き気をもよおしたみたいな声をだした。
「鷹矢か・・・・。
いつでも鷹矢、鷹矢、鷹矢。
君の頭の中は鷹矢のことしかないのか?」
「そーよ、悪い?
厳しいモデルの訓練に耐えたのも、鷹矢に再会したときに綺麗になったと思われたくてがんばったからなんだから。
すごく不純な動機だけど」
ルディが横でいらだたしげにうなる。
「このオレのブランドデビューの日だっていうのに、鷹矢、鷹矢ってどういうことだよ。
こんなにオレが愛莉のことを心配して尽くしてるのに、なんて薄情なブランドモデルだ。」
ごめんね。だって鷹矢は最愛の人なんだもの。
たとえ5年前に最悪な形で別れて、それ以来ずっと何の音沙汰がなくても。
私は隣でふくれっつらのルディの顔を、チラッと横目で見た。
こうやってすねているところを見ると、彼がテニスの世界王者だなんてうそみたい。
ルディは、鷹矢が小学生、中学生のころ、パリ留学していた時の大親友で、ともにテニスでトップに立つことを夢見て一緒にダブルスも組むパートナーだった。
今は、世界の舞台で戦うライバルとして、お互いに少し距離を置くようになったらしいけど。
ルディとは、私がパリについて間もないころに、たまたま書店で偶然ばったり出くわした。
「あれ・・・・君、もしかして・・・・鷹矢の妹?」
久しぶりに聞く流暢な日本語におどろいて顔を上げると、そこには日本でのパーティーで一度紹介されたことのある鷹矢の友人のルディの姿があった。
「毎日バレエのレッスンばかりじゃ息が詰まるぜ。少しは俺に付き合って遊べよ」
そういって彼は、私を夜毎、いろいろなパーティにエスコートしてくれるようになった。
私はエキゾチックな東洋人ということで珍しがられて、そこでいくつかモデルの仕事を頼まれるようになった。
「バレエを小さなころからしているだけあって、愛莉はスタイルだけはいいからな。
黙ってたらおしとやかに見えるぜ。話すと、中身のじゃじゃ馬がすぐにばれるけど。」
「何よ、その言い方。ひど過ぎる!」
そうやってモデルの仕事をいくつも引き受けているうちに、私はだんだんバレエよりもモデルの仕事に興味を覚えていった。
バレエ学校を修了した後、バレエ団に入団するかどうかを悩んで結局、ステージモデルへの道を選んだ。
モデルとしての訓練を受けて、ショーの仕事が舞い込んで来るようになったある日、ルディが自分のブランドを立ち上げるから、そのブランドモデルにならないかと話を持ちかけてきた。
「10~20代をターゲットにしたファッションブランドにするつもりだ。
名前は、『Bleu Vert (ブルー・ヴェール)』
そして、ブランドモデルを、愛莉、君にお願いしたい。もちろん引き受けてくれるだろ?」
そんな大役を任せてもらえるなんて、私はもちろん大喜びで引き受けた。
そのブランドのお披露目が、まず日本で行われるということで、私はルディとともに5年ぶりに日本へ戻ることになったのだったーーー。
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