この世界の美的感覚は激しく間違っている
竹野内 碧様主催 「恋愛糖分過多企画」!
引き出しから引っ張って来ました作品です。少しでも楽しんで頂けると嬉しい限りです。
異世界のもふもふファンタジーに落ちてしまいました、主人公です。まっ平の胸とちんちくりんの身長、短い髪、童顔。そんな感じですが女です。
異世界……このエルトリアの世界に落ちてしまったのは2週間前。せんべいをかじりながらゴロゴロしていたら、チャンネルが変わったかのように急に景色が変わった。何を言っているか分からないと思いますが、私も良く分かっていない。
見ず知らずの森にいきなり飛ばされて……取りあえずせんべいを食べ終えてから思案していた時、魔物っぽいモノに襲われ……助けられました。
そのとき助けてくれたのが、今現在も私の世話をしてくれているエルトリアの騎士です。
このエルトリアの世界……実は獣耳と尻尾が生えた人しかいらっしゃりません。毛の生えた個所は人それぞれ……完全に顔まで獣だったり、人と遜色ない程の状態に耳と尻尾だけ生えさせた人だったり……。
取りあえず耳と尻尾は安定してあります。
私を救ってくれたエルトリアの騎士様は、銀色オオカミと評してしまえばいいのか……綺麗な銀の髪が腰まであり、ゆらゆら揺れる尻尾もキラキラ銀色に光ってとても綺麗。お顔も超絶キラキラしいです。耳と尻尾以外は人間と変わらない装備です。
これだけ恰好良ければモッテモテだろうな、と思うのですが……エルトリアではそうでもないそうだ。美的感覚が違うのでしょうね……エルトリアではゴリマッチョがモッテモテになります。顔が濃くて、筋肉がテカテカしてる……ボディビルダーがモテモテです。
なので、私を助けてくれた騎士はあまりモテないのだそうな。筋肉が付きにくいタイプみたいで、スラッとしてる。それでいて、しっかり力があるので騎士としても問題ない。
何故この人がモテないのかっ……間違っている!ここの人達の美的感覚は激しく間違っている!
「あまり、見ないでいただけますか?」
かぁ、と頬を染める騎士様。その顔、恰好良すぎでしょう、常識的に考えて。恥ずかしそうにしてるのがムラムラします。ごめんなさい。
「尻尾、触っても良いですか?」
「……っ!そ、れは……」
そっと近寄ってそう言うと、さらに顔を赤らめられます。その顔イイですよ!私興奮してきました。ごめんなさい。
「貴方のような方は……私には勿体ないですよ」
「ふぅ……」
これです。なんかワカリマセンが、エルトリアでは私のような女性がモッテモテなんだそうで、気おくれしてしまうんだとか。間違ってますよー!ここの国の人は激しく間違ってますよー!私は声を大にして言いたい。
「たまたまあの時助けたのが……私だったというだけなのです」
シュンと項垂れる耳と尻尾。イエイエ、違うと思いますよ?いいからその素敵尻尾を触らせろい。
私が手をワキワキしていたら、また顔を赤くさせていた。ちょっと目が潤んでいる。なんだそれ、誘ってるのか。ごめんなさい。我慢できなくなって、勝手に尻尾を触らせて頂きます。
「ふわ……ふわもふ……!」
「っ……!」
ふわふわもふもふの手触りに私は幸せです。実はこのふわもふの尻尾もモテないのだそうだ。尻尾は筋肉質でシュッとしたのがモテる。もう私には訳が分からないよ。
「や、やめてください!」
「っ!」
バッと私から離れる騎士様。わぁ、流石に引かれたかな?ゆでだこのようになった騎士様は震えている。目が合った騎士様はバッと私から目を逸らし、床を仇のように睨んでいる。
「私も、男なのです……そのように、触られると……その、我慢が出来なくなってしまうのです」
「なん……だと」
「す、すいません!」
我慢が出来なくなる?何だそれは。ちょっとググらせて。しまった、パソコンがない。いや、分かってる。分かってるよ。
でもさ、考えてみてよ。私みたいにパッとしない女がさ、そんな、そんなさ、カッコいい騎士様(けも耳付き)に「我慢できなくなる」だなんてどんなエロゲだよって話だよ。いや、ほんと。意味分かんない位恰好良いのにさ。何故だか騎士様は全く自信がないんだよ。美的感覚が違うって言ってもさぁ。
「私は好きだから触ってるんだけど」
「……!ですから、そのように言わないでください。期待してしまうでしょう……!」
いや、あのさ。私にアプローチかけてくるゴリマッチョとかどんな拷問だよと思う訳で。いや、私みたいにパッとしない女が何贅沢言ってんだみたいな話なんですけれど。逆にそんな赤い顔でさ、期待しちゃう的な事言われちゃうとさ、私の方が期待しちゃう訳で。なんかもっと押せばいけるんじゃないかなとか思っちゃう訳で。
「私じゃ、ダメ?」
「そんな事は……!ただ、貴方はご自分が美しいと理解されてらっしゃらないから……」
え、なにそれ?おいしいの?美しい?私が?意味が分からない。やっぱりこの世界の美的感覚は激しく間違っている。
「はっきり嫌いだって言ってくれたら、私だって諦めるよ……」
「……っ!」
美しいだなんだ言ってるけど、本当は違うんだよね?異世界から来たわけだし、獣耳も尻尾もないし。
胸だってないし、髪だって普通の黒だし。騎士様が嫌いだってはっきり言ってくれるなら、私だってさ、ストーカーにはなりたくないんだよ。
だからもうスッパリ言ってよ。申し訳ないよ。ずっと騎士様にお世話になるのはさ。
「何故、そんな事をおっしゃられるのですか……」
低く、震えるような声にゾクリとする。腰が砕けそうだ。俯いていた顔が私とかち合う。その瞳は熱で潤んでいて、ドキッとした。その熱い瞳に囚われた様に、私は動く事が出来なくなる。
私が固まっていると、騎士様がグッと引き寄せてその胸板に私を閉じ込める。鍛えられた胸板は、細い見た目に反してしっかりついており、うっとりするほど。甘いような騎士様の香りに、頭が痺れて何も考えられなくなりそうだ。
「嫌いだなんて、私から、言えるはずがないのに……そのような酷い事をおっしゃる」
すぐ近くで苦しそうに響く低い声にリアルに腰が砕けた。崩れそうになるのを騎士様はしっかりと抱き留めてくれる。腰に回された腕にもゾクゾクする。そっと私を顔だけ向き合うように離す。
間近に、騎士様の端麗な顔が見える。騎士様の潤んだ瞳が私を射抜く。
やばい。これは非常にやばい。いや、なんか知らんけど。地雷踏んだっぽい。体に力入らない。
頭がぼーっとする。ただ、騎士様の胸が私と同じように激しく脈打っているのは分かった。
「貴方が後悔しても、もう私は知りませんよ」
どこか嬉しそうに、頬を染めて微笑む騎士様の顔が、だんだんと近づく。
私は、抵抗も何も出来ないまま、そのままオオカミの騎士様に食べられてしまいました。
もちろん、性的な意味で……!
男はオオカミなのよ、気をつけなさい。