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クランクアップ

作者:宵野遑
 学生でいられるのも、あと半年。なのに、未だ決まらない進路。時間ばかりが恐ろしい勢いで溶けていく。
 これまで人生という大海原をあてどなく漂ってきたが、ここにきて、ただ流されているだけという現状に嫌気がさしてしまった。だからといって、ろくに握ったこともない舵を切る勇気も奮わず、甲板に佇み、ただ遠くの波間をぼんやりと眺めているのだった。
 僕は手の平に置かれた羅針盤に視線を落とした。捻じ曲がった針が頼りなく揺れている。思わず漏れた溜息は誰の耳にも届くことなく潮風にかき消された。
 このまま流され続けるべきか、思い切って舵を切るべきか。
 どうすればいいのだ……。
 渦巻く迷いが絡まり、それは焦燥へと変わる。僕は強く拳を握った――。
「はい! 葛藤!」
 監督の高らかな叫び声が響き渡り、全身の力が抜けた。まるで僕の心の内を見透かしたような言葉だが、それは単なる空耳で、実際には「カット」と言ったのだろう。
 撮影したショットを確認していた監督は、やがてモニターから顔を上げると、含み笑いをしながら近づいてきた。
「よかったよ。若者の苦しみがひしひしと伝わってきた。この映画は傑作になるぞ」
 監督は僕の肩をぽんと叩き、周りのスタッフに指示を飛ばし始める。
 もう航海の演出は使わないから、とっとと船、片付けて! 急いで新しいセットの準備だ! 次は主人公が覚悟を決める大事なシーンだから気合い入れてけよ!
 撮影現場が騒がしく動き出した。
「ねえ、監督」
 僕は喧騒の中、どこかへ向かおうとしている監督を呼び止めた。
「この撮影――この作品はいつになったら終わりを迎えるんですか」
「そんなの自分で決めろ」
 次の脚本も考えておけと言い残して、監督は慌ただしく去っていった。
 馬鹿馬鹿しい。あまりにも滑稽だ。これ以上やってられるか。
 僕は林立する撮影機材を片っ端から地面に叩き付け、唖然とするスタッフを尻目にスタジオを後にした。

――了

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