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銀城学園物語
作:佐乃海テル



2


「本日の生徒会を始めます。礼」
「えー、本日は遅刻監視員制度の意見と今後の対策等を話したいと思います」

 神山みなみが成立させた遅刻監視員制度だったが、生徒の大半が罰則を無視する事態が多発し、取締りとして成り立っていなかった。今日の生徒会はズバリ遅刻監視員制度の対策――と名目上銘打ってはいるが、ほとんどの生徒会委員が今日の生徒会はこの制度を廃案にする会ととらえている。実用性の無い案のために無駄な体力を使わされたことに対する、一種の怒りが神山の視線に目いっぱい注がれていた。

 ちょっとした間にカナメは隣の神山を見た。
「(彼女には悪いがこのままではこの案は廃案になってしまうだろう)」
 力強い公約で突如躍り出た元不登校児の副会長をカナメは気の毒に思わずにはいられなかった。どう考えてもこの案は無茶が過ぎる。いくら生徒会といっても生徒に暴力をふるうなどをして、何としても規則に従うことを要求するのは不可能だからだ。
 ところがどういうわけだろう。彼女は別に動揺することなく、平然を装っている。それどころかカナメの目には、落ち着きを通り越した余裕が感じられた。

「えーと、意見は?」
カナメが制度案に対する意見を求めると皆、待ってましたとばかりに挙手した。
「じゃあ、1年D組」
「正直こんなことをしている学校は他に例を見ません。この案の方向性は素晴らしいと思いますが、方法が実用的でないと思います。撤廃すべきです」
「……わかりました。他には」
 言ったと同時にまた次の人が挙手した。カナメは心の中で苦笑した。自分に損になる案、反対意見の時はよくもこんなに活発に意見が出るものだ、と。

「2年A組」
 自分のクラスだ。案の定水川だった。何か起こらければいいのだが、とカナメは思ったが指名したのは自分であり、時すでに遅しと諦めた。
「この案には問題点が複数あります。まず第一に……」
 長い論理を展開し始めた。こんな長い話を平気で即興で作れるから生徒会委員になれたのかもしれない、とカナメが感じたほどだった。そしてこの論理展開はこの案だけでなく、副会長としての神山みなみの存在も認めない、という力を発していた。

 水川の演説中も神山の表情は落ち着いていた。水川の精一杯の皮肉も神山にはひとかけらも届いていないような、余裕。
「さて、一通り意見がまとまりましたね。とりあえず発案者の神山さんから何かありますか」
「……」
神山はぐるりと生徒会室にいる委員を見回した後、口を開けた。

「すみませんでした。皆さんの意見、私が実際に監視員として見た側としても、実効性に欠けた案のように感じられました。考案の段階での話し合いが足りなかったようです」
 意外とあっさり謝ったことには、皆もカナメも驚いた。演説にしても立案にしても、あの口調からして滅茶苦茶な反論をしてくるに違いない。そうしたら皆で徹底抗戦するまで――そう考えていたからだ。緩やかに廃案で向かっていく流れになるだろうと、皆安堵の表情を浮かべた。
 ところが神山は皆の驚きをこれで終わらせてはくれなかった。

「そこで、もう一度案の根底から考え直してきます。そして来週もう一週間の試験実施を提案します」
 皆固まった。構わず神山は続ける。
「よろしいですか、会長」
 カナメのところにも火花が散ってきた。どっちの火花を浴びればいいのか。彼は決断をやむなくした。
「じゃあ、もう一週間だけ」

「何考えてるの!?」
 予想していた水川からの火花は帰りの職員室前に、意外と早く訪れた。
「何であんな女の案を! あなたさえ反対すれば、廃案になったのよ! 事の重大さわかってる?」
「ここで言うな。言いたいことがあるなら生徒会で言え。この間の二の舞になったら面倒だ」
「何よ、もしかしてあの後謝ったりしたの」
 水川の顔がふてくされていく。
「当たり前だろ。学校だけでなく生徒会の風紀を守ることも、生徒会長の役目の一つだろ。まあ、あの場合は風紀というよりは空気と言うべきかもしれないが」
「余計なことしなくて結構」
 神山のことを何も分かっていない水川の態度に、カナメの憤りは限界点を突破した。
「だったら始めから余計な揉め事を起こすな!」
 水川はカナメが初めて声を荒げたことに驚いていた。
「そんな、そんなに怒らなくたって」
 水川も、カナメも何も言えない。
「……」
 校門で二人は反対方向に別れていった。帰り道の方向は同じのはずなのに。
 そんな二人を、愉快とも不愉快とも取れる表情で彼女は見ていた。

 次の日登校したカナメを神山が訪ねてきた。
「昨日はありがとうございます」
「ん、ああ、試験実施のことね、いいよ別に」
 そう言いながらカナメは遠くの水川のほうをちらりと見た。あちらはいつにもなく不機嫌そうだ。
「絶対、この案が学校のためになるように策を練りますから」
「まあ、僕は会長だから中立的立場にいなきゃいけないわけだが、その姿勢とやる気は応援するよ。頑張れ」
「はい」

 週が変わり遅刻監視員制度の再試験が実施された。神山が考えたのは遅刻点が3以上になったら、朝のホームルームに担任を通して個人で呼び出しをかけるというものだった。確かに以前よりは実用的になったとはいえる。
「今週末の生徒会はどうなるのやら……」
 カナメの不安は胸の中でどんどん膨らむ一方だった。


ご意見・ご感想をお待ちしております。次回軽い戦闘が入るかもしれません。











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