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銀城学園物語
作:佐乃海テル



13


 ステージが変わった。屋上の周りのフェンスが音を立てずに校庭へと落ちていった。
 そして、神山は水川の処刑台を作り上げたのだ。
 いつしか、カナメの頭痛は治っていた。


「私は三条くんに助けられた。故に、なるべく三条くんの願いや希望は聞き入れたいと思ってるの。今の私にできないことはほとんどない。だからしてほしいことなら聞いてあげる」
 神山は優しい声音で、そう言った。
「それなら……」
 水川を助けてくれ、とカナメが言う前に神山が断った。
「それは別問題。水川さん達に仕返しをために与えられた力を使う場を、あなたが与えてくれた。そのことに感謝しているの。それを実現させたら、あなたへの恩も無くなってしまい、矛盾が起こる」
「そうは言っても」
「だから私は自らの手で水川さんに復讐をしようと言っているの。もちろんその後は少年院なり拘置所なり刑務所なりで現代人類のルールに則って罰を受けさせてもらうわ」
「衝動的に殺し、罰を受けるなら俺だって文句は言わない。なのに罰を受ける所まで計画ができているのならば、今すぐこんなことをやめろ! お前のことを思っている親達にも良くないだろう」
「あら、お涙頂戴って所かしら? そんなことで慰められる様なら、今頃こんなところまで行動を踏み切っていないわ。まあ、そんなところが三条くんらしいわ」
「そんなことを言われても嬉しくない。いいから水川を離せ」
 水川はとうとう泣き出している。
「うるさいわね、この女は」
 神山がそう言った瞬間、水川の声はカナメ達の耳に届かなくなった。水川だけが必死で何かを叫んでいるように見える。
「さて、手短に終わらせましょうか。あなた達も疲れているんでしょう」
 一筋縄ではいかない。そう思ったカナメは方向性を変えることにした。
「なあ、ところで」
 神山が手を止め、カナメを不思議そうな目で見つめる。
「何?」
「その能力とやらは何でも出来るのか?」
「もちろん」
「じゃあこの学校の校庭の真ん中の鬱陶しい木を根こそぎ消すこととかは?」
「基本的に強い強い怨念が無いとダメ。あそこに春村さんがいたりしたらできるわ。山岸くんでも出来ないことは無いけれど、逆に疲れるわ。怨念が無い分体力も消費するのよ」
 三条には恩があるのか、柔軟に対応してくれる。この部分に山岸は違いを感じた。三条なら弱点を調べて、いい方向に向かってくれる。ここで俺と姉星は口出しをしてはいけない。変に気を立てたら自殺行為だ。あくまで、自分達の出番の時にしか出しゃばってはいけないんだ。
 姉星と山岸の目が合った。互いに同じようなことを考えていたようだ。山岸は自分の唇に人差し指を立てて、姉星にアイコンタクトを送る。姉星も了解したように、首を軽く傾けた。うなずいているのだろう。


 三条の情報収集はまだこれからだった。
「じゃあもし俺を殺そうとすると、どうなるんだ?」
 意味深なふりをしないよう、笑いを含みながらカナメは聞く。
「そうね、私の身が滅ぶかもね。そこまでいかなくても私にとっては痛手。精神的にもね。あなたは大切な人ですもの」
 よし、これでとりあえずいいかな。
 カナメはありがとう、と礼を言い、とりあえずもう一度お願いをしてみた。
「水川をどうにか、許してくれないか」
「だから、それは無理。殺した後で供養はいくらでもしてあげるからそれだけはご勘弁」
 神山は微笑む。カナメは後ろを振り返り、山岸と姉星を見つめた。それで何かを理解したようだ。山岸が口を開いた。
「ふざけんなよ、水川を殺されてたまるか。供養なんか考える前に思いとどまれ」
「うるさいわ」
「水川を殺すんなら、俺を先に殺せ」
「私もよ!」
 姉星は踏み出た。
 思わぬ展開に神山の怒りは高く、高く昇っていく。
「いい加減に邪魔するのよしてくれない? 鬱陶しいだけなの」
 先に山岸に手が伸びた。その手は見えない手だった。山岸は空中に放り投げだされ、屋上の地面に何度も、何度も叩き付けられた。痛みが強すぎて、悲鳴が声にならなかった。10回近く叩き付けられた後、その手は運動を止めた。
「……!」
「声にもならないじゃないの。そんなんじゃ殺されるまで持つかしら。ふふふ」
 次は姉星に手が伸びるのだろうか。この間受けたような暴力を、いやそれ以上をまた彼女は受けなければならないのだろうか。そして水川をこのまま見殺しにできるのか。そう思っているうちに、スローモーションのように神山の視線が山岸から姉星へと移っていく、移っていく。
「姉星は関係無い。だったら俺を殺せ」
 カナメは神山の前に立った。


「三条くん……?」
 神山の笑みは消えた。
「何であなたまで邪魔するの? 私を守ってくれたじゃない」
「それはこんな酷いことを考えることすらできなかった君のときだ。今の君には同情をひとかけらも注げない」
「どうして? どうしてみんなで邪魔するのよ! 中学のときも! 高校に入っても! 復讐だって5人うまくいった! もう一人、最後の最後にどうしてみんな邪魔するのよ! なんで三条くんまで、私を陥れた人に味方するのよ! どうして! どうしてなの!」
 神山は悲鳴をあげはじめた。涙がぽろり、ぽろりとこぼれ落ちる。
 まるで校門を泣きながら、駆け下りた頃のように。


「もういい」
 神山は涙をぬぐったが、彼女の思いとは裏腹に、涙は止まらない。
 彼女にも思い通りにならないことはあるのだと、カナメたちにはわかった。
「三条くんまで裏切るんなら、私はするべきことをするだけだわ」
「裏切るなんて、人聞きの悪い言い方はよせ。謝罪なら僕の口からしたはずだ」
「この女の、この口から聞いたことは無いわよ」
「お前が水川を謝れない状況にしていただけだろう」
「うるさいわ。もう三条くんにも消えてもらいましょ」
 そういって彼女はカナメを見つめた。


 何も起きない。
 神山の顔が青色を増してくる。
「何で、何で……何でよ! なんで力が来ないのよ!」
 それは彼女の言ったとおりだった。カナメには何の恨みも無い。それどころか、中学のあの状況からただ一人の救世主として好意を持っていた。その証拠にうわべだけ「殺す」と言っていても、カナメの身には何も起こらないのだった。
「何でよ! 私の計画を邪魔するやつなんか死ねばいいのに!」
「中学の頃の、三条の思いやりを忘れたのか? 受験中の忙しい中、お前のことを教員なんかよりもきちんと考えていた三条を殺すのか?」
 また地面に叩き付けられることは覚悟のうえで、山岸は口を開けた。今度は神山は「うるさい」とは言わなかった。言えなかった。その山岸の言葉もしっかりと神山の心の底に、突き刺さっていた。


「ああああああああああああああああああああああああああああっ!」
 そう大きな悲鳴を出すと神山の涙は止まった。


「私の、負けだわ」
 負けを認めた。
「あなた達の絆は私の恨みより強かったのね。いや、三条くんの恩のほうが私の恨みより強いことを実感したんだわ。私には三条くんを殺すことなんか到底、できない。やっぱり」
 言葉を一度切った。
「人の優しさは、恨みなんかよりずっとずっと強いのね。怨念で何でも出来るなんて、大間違いだわ」
 神山の体から光が発せられる。
「みんな、ありがとう。そして、ごめんね。私はきちんと罪を償います。私なんかのために、夜の学校に来てくれてありがとう。いや、私のためじゃないわ。水川さんのためかしらね。いずれにしてもお手数をかけて、ごめんなさい。能力の最後の使い道として、あなた達の服装・場所を元の所に戻します」
 カナメ達の視界が薄くなっていく。そして、


「ありがとう」
 視界は真っ暗になった。












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