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第37話:キュイス






「リストンさん、どうしたんですか?」

何事か深く考えているらしいリストンに、凛が声をかけると、リストンは他の隊員達を手招きすると、凛の傍にやってきた。
全員が集まると、リストンが話を切り出した。

「コドミルスについてなのですが・・・」

彼の話を聞いていくうちに、穏やかになってきていた凛達の雰囲気がこわばった。





リストンの話によると、そもそもコドミルスは、黒魔獣とはいえ、人を襲う事は通常ないというのだ。

「え!? それは確かですか?」

「ええ。 傭兵をしていた間、国中を転々としたので、森については詳しいのです。 特に黒魔獣の情報は、知っていないと生命に関わりますから・・・」

「でも、僕達には、集団で襲い掛かってきましたよね。何故だか、分かりますか?」

不安な表情でリストンの答えを待つ凛達。
それまで、ずっと何かを探すように焼け焦げた土の一帯を見渡していたリストンが、ふと目を細めると、素早く歩き出した。
一体のコドミルスの死骸のもとに辿り付くと、ゆっくりと、その足元にしゃがみこむ。
手をのばし、何かをそっと拾い上げた。


「リストンさん?」

呼びかける凛に、リストンは暗い表情で振り向くと、凛達の方へ戻ってきた。

「これが原因です」

そう言って、凛へ手渡した物は、小さな花だった。






「これは・・・?」

凛は、リストンに手渡された花を見詰める。
薔薇に似た形をした花だ。
綺麗なエメラルドグリーン色の花びらが可憐に咲いている。
原因と言われても、戸惑うだけだった。

「キュイスという花なのですが、狂夢花マッド・ドリームという通称の方が有名です」

「マッド・ドリーム・・・?」

「ええ。キュイスは、南部の森のごく一部に咲いている花です。美しく、良い香りなので、観賞用として親しまれていたのですが、ある事件を境に、忌み嫌われるようになったのです・・・」






その事件は、トルシア全土を震撼させるものだった。
昔、トルシア南部地方の森の中には、国一番の観光名所があった。
その場所は、澄んだ湖と小さいけれども素晴らしく美しい花畑で有名だった。
キュイスの花畑だ。
キュイスは、とても珍しく、貴重な花だったので、その場所からの持ち出しは禁止されていた。
そもそも、その花畑は、湖の中央部分にある小さな陸地にあったので、キュイスを採ることは、かなり難しかったのだが、とうとう、違反し、キュイスを持ち去った者が現れた。
それが、数年前、王都から南部地方へ観光へ来ていた家族連れだ。



子供を3人連れて観光に来ていたフモート一家は、キュイスの花畑を満喫していた。
フモート夫妻が畔で休んでいる間、子供達は走り回っていた。

「ねえねえ、おかあさん!あのお花、家に持ってかえりたい!」

一番年少の子供がねだった。
5歳の女の子だ。
きらきら陽の光を浴びて輝く金髪を揺らしながら、両親に頼んだ。
一番下の子供には甘いのだろう、両親の表情には、彼女の望むようにしてあげたいという気持ちがよく表れていた。

「ごめんね、あのお花は、持って行くことは出来ないのよ」

母親が言うと、女の子はぐずり始めた。

「いや! ほしいのっ!! ほしいほしいー!」

泣き叫び、いくら宥めても、女の子は諦めない。
女の子の機嫌を取る事に疲れた両親は、考えた。
一輪ぐらいなら、問題ないのではないかと・・・
フモート夫妻は、人気がないときに、何とかキュイスの咲く小さな陸地にたどり着き、綺麗な花畑から、一輪抜き取った。
その行動が、彼ら一家を破滅へと導く事になるとも思わずに・・・



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