~前回のあらすじ~
すっかりミルタンクの怪我も治り、
次の目的地であるコガネシティを目指して旅をするリリス達。
ウバメの森でつかみ所がない性格の舞子さんに再びリリスは遭遇するも、
涼子達はその舞子さんの存在を見かけなかったという。
一時は幽霊疑惑も囁かれたが、なんだかんだでウバメの森を抜け、
涼子の実家である育て屋さんへと到着すると、
人手が足りないため涼子は育て屋さんに残ることに。
リリスはアカネと一緒に、一時離脱した涼子に見送られながら
コガネシティを目指すのだった……。
第三十五話 リリスとアカネ ~コガネシティ珍道中?~
「ほにゃぁっ……ここがコガネシティ……!!」
『ワニワニ……』
『イシッ…』
祖父母の手伝いをするために一時育て屋さんに残ったリョウコを置いて、
34番道路を進んだ先に広がっている光景に、
リリスとポケモン達はあんぐり口を開けてその場に立ちつくしていた。
「ふふふっ、大都会やろう!」
そんなリリス達の前に立って、アカネは自慢げに自分の故郷を紹介する。
首が痛くなるくらいまで見上げないとてっぺんが見えないような高層ビルに、
ジョウト地方全土が見渡せそうな高さのタワーや、
所狭しと立ち並ぶ様々なお店の数々。さらに道路を行き交う人々の多さが、
このコガネシティがどれほどの大都会かを物語っていた。
古風な建物が目立つキキョウシティや
周囲を森に囲まれて自然豊かなヒワダタウンも魅力的ではあったが、
このコガネシティは、先ほどの2つの町にはないスケールと迫力を備えている。
「さ、とりあえずゲームコーナーでの大会までには
まだ時間はあるだろうし、コガネシティの観光といこか!」
「さんせーいっ!」
『エレエーレ!』
早速このコガネシティがどんなものか知りたいという好奇心に駆られたリリス達は、
アカネの提案を断るはずもなく、すんなりOKした。
「はーい、それじゃあトレーナー1名と、そのポケモンさん達、ごあんなーい!
迷子にならんよう、ちゃーんとついてきーや!」
「いえっさー!」
アカネは早速、先頭を切って歩き始め、
リリスとポケモン達がその後についていく。
『ワニワニ』
『フリリー…』
道を歩いている間にも、ポケモン達は人工物が町の9割を占めていそうな
コガネシティの景色をキョロキョロ見渡しながら歩いている。
ポケモンが本来生息している草むらや木がないのはやはり気になるようで、
バタフリーやイシツブテ達はどこかそわそわしているようではあったが、
その一方で、最新のテクノロジーで作られたと思われるコガネシティのビルや
舗装されている道路には興味があるようで、しきりに臭いを嗅いだり、
トントンと触ってみたりしている。
★
「あー、うちの左手に見えるのが、コガネシティのラジオ塔でございまーす!」
「あたし知ってるー! 確か、オーキド博士のポケモン講座とか、
アオイちゃんの合い言葉なんかも放送してるんだよね!」
道を歩いている内に、リリスとアカネはビル群の中でもひときわ目立つ
アンテナをあちこちに設置したパッと見奇妙な建物の前に立つ。
アカネが最後まで解説を言い終わらない内に、リリスは割り込むように挙手して喋った。
「お、詳しいなぁ?」
「ふふーん、昔、お母さんが料理を作ってるときに、
よくラジオを隣に置いてたのを聞いてたもん!」
「それだったら話は早いな。このラジオ塔は、
コガネシティに昔あった古い塔をベースにして今の形に建て直したんや」
「ほぇ、そうなの?」
「そういう事!新しいだけやのうて、古いモンもちゃんと捨てずに取り入れる。
今目の前に広がってるビルも、ちゃーんと昔あった建物が土台になっとるねんで?」
「ほにゃぁ……コレ全部がそうなんだ……」
周囲に広がっている建物を全部見渡して、
昔の時点でこれだけの数の建物があったと言う事は、
コガネシティは昔からすでにジョウト地方の中心であると言う事もできる。
一体どれほどの数の人間やポケモンが暮らしていたんだろうと、
頭の中で少し想像してみたが、あくまで憶測でしかないのですぐに想像は中断された。
「古い物を壊さずちゃんと受け継ぐ。
ジョウトならではの町並みなんや、コガネシティは!」
「ほへえ……なんだか、立派な町だね!」
「せやろせやろ? コガネシティの色んなトコを
見て回りたいんだったら、もっともっと案内したるで!」
「にゃ! じゃあおねがーい! もっともっと、このすごい町の事を色々教えて!」
「よっしゃ! それじゃ、スミからスミまでスポットを案内したる!」
アカネは自分の故郷を褒められて気分が良いらしく、
テンションが上がってきている。こういうタイプはおだてれば
もっと詳しく色々喋ってくれるかもしれないと思ったリリスは、
早速アカネをおだててみると、彼女は見事にそれにのっかってくれた。
ここまで誘導できたのはリリスが頭のキレるタイプだったからではなく、
アカネの思考がどことなくリリスと似ていた部分があったので、
自分が言われて嬉しい事を言えばもっと喜ぶんじゃないかと思ったから
試してみたのだ。その結果は見ての通り大成功。
似たもの同士というのはこういう所でも役に立つものである。
「そいじゃ、次のスポットにレッツらゴー! ……と言いたい所やけど、
ちょっちラジオ塔にうちは用事があるから、外で待っててな!」
「え? 何々? 何の用事なのー?」
「リリスちゃんは詳しく知らんでもええ事やって!」
アカネはさっきまでとはうって変わり、
リリスを近づけまいとするような態度でラジオ塔目がけて駆けていく。
「なんか怪しいぞぉ……? みんな、後を追いかけるよ!」
『イシ!』
『ポッポー!』
もちろんリリスがこれを放っておくわけもなく、
アカネの止める声を振り切って後を追いかけていった。
ほとんどタイムラグなしでアカネに続いてラジオ塔の自動ドアをくぐると、
クーラーのひんやりした風が体に吹き付けてきて、
ハッキリ言って外は蒸し暑かったので生き返った気持ちになる。
「さーてと、アカネさんは一体どこに……あっ、いた!」
一体何の用事なんだとアカネを探して周囲を見渡すと、
彼女の姿は3秒もしない内に見つかった。
ピンクの髪に真っ白な半袖半ズボンというスタイルは
群衆に紛れていたとしても相当目立つのだが、それはさておき……、
アカネはカウンター越しに受付の女性と何やら問答しているようである。
「えーっとな、その問題の答えはこうで……!」
「はい、正解!」
「いよっしゃぁ!」
アカネは受付越しに女性との問答に夢中になっており、
リリスの事まで構っている余裕はなさそうだった。
「ずいぶん力が入ってるなぁ……何をしているんだろ?
みんな、そーっと近づくよ?」
『エレレ』
『フリーッ』
いちおうすでに気づかれているとは思うが、
リリスは口に人差し指を当てて喋らないように合図を出しながら、
抜き足、差し足、忍び足で、そーっとポケモン達と一緒にアカネのそばまで近づいていく。
だんだんと距離が縮まって行くに連れ、
アカネと受付嬢のやり取りもハッキリと聞こえてくるようになった。
「では4問目です。 ポケモンのコイキングに、技マシンは使えない?」
「うーん……どんなポケモンでも技マシンは使えるやろうし、答えはNOや!」
「ファイナルアンサー?」
「……ファ、ファイナルアンサー!」
「………」
「ほにゃぁ……」
とりあえず【ファイナルアンサー?】というのは
【本当にそれでいいのか?】という意味だと解釈し、
アカネが答えたとたんに、黙ってしまう受付嬢。
その場に重苦しい空気が流れ、緊張感故か、リリスはごくりと生唾を飲み込む。
「……残念! 不正解です! 惜しいところまでいったのに残念でしたねー」
「くわああぁぁ! そんなんアリかぁぁ!?」
「また明日、改めて挑戦してくださいね?」
ちょうど先ほど飲み込んだ生唾が胃袋に差し掛かろうとしていたその時、
受付嬢の口からアカネの回答が不正解であると告げられ、
アカネは頭を抱えてその場に崩れおちた。
そんなアカネに対し、受付嬢は営業スマイルのまま、
特に慰めようとはせず、また挑戦するよう促していた。
「あのー……一体、今のはなんだったの?」
「えぁ、リリスちゃん、いつからおったん……?」
「え? さ、さっきから……」
まるで人生を転落していく事が決定づけられたかのように
大きなリアクションを取ったアカネを見て、
リリスは恐る恐る、アカネと受付嬢の二人に質問する。
アカネは酷く落胆した様子でリリスに問いかけ、
リリスはどう励ましの言葉をかけたらいいのか分からず、
とりあえず自分はついさっきからここにいた事を話した。
★
「ただいま当ラジオ塔ではキャンペーン中なのです!
私が出すクイズに五問続けて正解すると、特製のラジオカードをプレゼント!
コレをポケギアに読み込ませれば、
いつでもどこでもラジオが聴けるようになっちゃう優れモノなんですよ!」
「ほにゃ! そんなにすごいのが貰えちゃうの!?」
「exactly(その通りでございます)」
リリスの問いに答える受付嬢が手に持っているキラリと光るチップを見て、
小さいときに家にあったラジオでしょっちゅう楽しく聞いていた
【オーキド博士のポケモン講座】や、【ポケモンミュージック】が聞けると思うと、
自然とテンションが上がっている自分がいた。
「今な、このラジオカードがもらえるクイズをやっとって……
うちも貰おうと頑張っとるんやけど、クイズがムズカしゅーて全然貰えんねん!
毎日トライしとるんやけどなぁ……。問題も日にちごとにコロコロ変わるし……」
「そうだったんだ……よーし、じゃあ今度はあたしが挑戦する!」
「えぇ!? ちょ、無理やって! うちにできんモノがリリスちゃんに出来るわけ……」
「やってみなけりゃわかんないよ! お姉さん、あたしも挑戦していいよね!?」
「はい、このキャンペーンにはトレーナーの方もトレーナーでない方も、
子供からお年寄りまで、参加に制限はかかっておりませんのでどなたでも挑戦できますわ」
遠回しにリリスをバカにしているような言い方をするアカネの反対を押し切って
受付嬢に挑戦の許可を問うと、受付嬢はすんなりと了承してくれた。
「では、私が今から出すクイズに5問答えて貰って、全て正解だったのなら、
このラジオカードを差し上げます。用意はよろしいですか?」
「お、OK!」
『ワニ……』
『チョゲ……』
気合いバッチリに構えてみたはいいものの、頭を使う事は基本的にあまりないので、
実のところを言うと自信満々というワケではなかった。
ポケモン達にはそういう部分も見抜かれてしまっているようで、
みんなしてやや心配そうな眼差しを向けている。
「では第一問。ポケギアでタウンマップを見られるようになりますか?」
「はい! マップカードをポケギアに差し込んだらタウンマップを
ポケギアで見られるようになります! 答えはYESで!」
第一問は思いの外簡単な問題だった。
ポケギアでタウンマップが見られるようになるというのは
すでにヨシノシティでランニングシューズをくれたおじいさんから
マップカードをもらった時に確認済みである。
「ファイナルアンサー?」
「うん、ファイナルアンサー!」
故にリリスは迷うことなくYESを選択して、
ファイナルアンサーとして突きつけた。
「正解! まあ最初はコテ試しのようなものですわ。
本番はここから……では第二問! ポケモンのニドリーナは♀しかいない?」
「え、えぇぇ……?」
このままガンガン突っ切ろうとしていた矢先、
早くも難関にぶちあたってしまった。
ニドリーナなんてポケモンは見た事も聞いた事ない。
「確かニドリーナはニドラン♀が進化した姿やったよーな……。
うちも可愛いから探そうとしてたんやけどねえ」
「ニドラン♀が?」
アカネがポツリと呟いた一言で、
ゴチャゴチャしていた頭の中が高速で整頓されていくような感覚が走った。
確かヒワダタウンでのアスカとのバトルでアスカが繰り出したニドキングは、
ニドラン♂の最終進化形態だったはず。それなら……。
「い……YES! ファイナルアンサー!!」
「フゥーム…… ……正解!
ちょっと危なかったみたいだけど何とか乗り切ったみたいですね!」
「ふぃー……ホントに危なかったよ……」
この問題はリリスにとっても確信がなかったので、少々危ない賭けだった。
ニドラン♂が最終的にニドキングになったという事は、
♀のニドランの進化系であるニドリーナに♂がいる可能性は低いと思い、
吉と出るか凶と出るかハラハラしながら答えたが、どうやら吉が出てくれたらしい。
「まだまだこれからですよ? 第三問!
ボール職人のガンテツさん、モンスターボールの材料に使うのはボンゴレ?」
「むむ……」
ガンテツと聞いて、自分をハナタレ呼ばわりして高笑いする顔が思い浮かび、
憎たらしいという気持ちが沸いてきたが、今はグッと堪えて問題の方に集中する。
よーく記憶を思い返してみよう。確か最後にガンテツと別れた時に彼の言っていた言葉は……。
【ガハハ、まぁぼんぐりの木の実は意外と広い範囲で実っとるからその内取ってくりゃいいわい……】
「そうだ、確かレベルボールを受け取ったとき、ガンテツのお爺ちゃんは
ぼんぐりって言ってたはず! 答えはNOだよ! ファイナルアンサーで!」
「……正解! この問題って意外と間違える人多いんですけどねー」
「まさかこの餞別がこんな所で役に立つなんて……感謝しなきゃいけないかな」
リリスはバッグからガンテツが餞別にとくれたレベルボールを取り出して、
しげしげと眺めながら今もボール作りのためにあくせく働いているであろうガンテツを思い出し、
憎たらしさの中に感謝の気持ちを込めて、そっとレベルボールをバッグに収めた。
「さぁここから本番ですよー。第四問! ポケモンのコイキングに、技マシンは使えない?」
「あっ……!!」
「つ……使えません! YESで! ファイナルアンサー!」
アカネが隣でハッとしたのをよそに、リリスは即座にYESと答える。
この問題はついさっきアカネに出題され、そして彼女が間違えた問題だ。
基本的に【YES】か【NO】かの二択問題で【NO】がハズレだったのなら、
正解は【YES】以外にあり得ないはずである。
「正解っ! これはさっき出された問題だったから、
ある意味サービス問題だったかもしれませんね。
さぁ次でいよいよ最後の問題です! 準備はいいですか?」
「うん!」
「ぅーっ……」
プレッシャーを与えるような言い方をする受付嬢に対し、
気丈に振る舞うリリス。後ろでアカネが【失敗しろ失敗しろ】という感じのオーラを出していたが、
可能な限り気にしないでリリスは問題に臨んだ。
「では最終問題の第五問! 人気番組、オーキド博士のポケモン講座、お相手はミルクちゃん?」
「はい! 確か相手はみるくちゃんだったから答えはYES……あれ? NOだったかな?」
【オーキド博士のポケモン講座】は小さい時に家のラジオで
ずっと聞いていた番組だったので、
これはもらった! とすぐさま答えようとしたが、
頭の中で名前がハッキリ出てこない。
ミルクだったような気もしたしそうでないような気もする。
ミルクにしろそうでないにしろ、それに近い名前だったことは覚えているのだが、
ハッキリと断定できるレベルまで思い出せないのだ。
「とりあえず、YESでファイナルアンサーですか?」
「ちょ、ちょっと待って! シンキングタイム!」
最終問題まで来た以上、ここまで来たからには絶対に全問正解したい。
だがハッキリとした答えのビジョンが見えない以上はうかつに答えるのは危険だ。
二問目の時みたいにマグレで正解する可能性もなくはないが、
それはあくまで50%の確率の話であり、バクチ以外の何者でもない。
「そうそう、言い忘れてましたが1問につき、制限時間は約30秒ですから、
それを過ぎてもまだ答えが出ない場合は問答無用で不正解ですからね?」
「えー!? そ、そんなぁ……!」
リリスはさらに追い込まれてしまい、思わず声を継いで考えが漏れてしまう。
じっくり考える事ができなくなってしまった以上、
やはり正解率50%のバクチに頼るしか無いのだろうか。
こうやって考えている間にも時間は1秒1秒、確実に過ぎている。
★
「残り 15秒です。14,13……」
「うーっ……」
カウントダウンを数える受付嬢の声がさらにリリスから冷静さを奪い取る。
この受付嬢がもしポケモントレーナーだったなら、相手の心理をかき乱し、
戦いを自分のペースに持っていくタイプの強豪になっていたに違いない。
「こうなったらイチかバチか……」
彼女は腹をくくった。こうなったら賭けてみるしかない。
このまま時間切れを迎えて問答無用で不正解になるよりはマシだ。
「うーっ、な、ならYE……」
【ポケモンを愛するあなたにお届け! オーキド博士のポケモン講座の時間がやって参りましたー!】
「ほにゃ?」
さぁ言うぞと声を出しかかっていたとき、
ラジオ塔の1F全体に天井に設置されたスピーカーから音声が流れ始める。
リリスは一体何事かと思って回りをキョロキョロ見渡し始めた。
「あー、ちょうど上の階でラジオ番組の収録が始まったみたいやね」
【お相手はわたし、クルミですう! 臨時ニュースですよう! トキワの森で……】
「!」
アカネが1Fに流れる声の正体を解説してくれている間にも、
今、リリスにとって、もっとも幸運を呼ぶメッセージがスピーカーから発せられた。
耳がおかしくなっていないならスピーカーのメッセージの中に、
確かに【クルミ】という文字が含まれていた。
「せ、正解はNO! オーキド博士のポケモン講座のお相手は
ミルクちゃんじゃなくてクルミちゃんだよ! ファイナルアンサーっ!」
もちろん、このチャンスを逃すまいとリリスはすぐさま回答した。
「チッ……正解! あと2秒でタイムアップでしたから、
ホントにギリギリでしたね! 全問正解、おめでとうございまーす!!
賞品のラジオカード、大事に扱って下さいね!」
「わー……ありがとーございます!!」
半ばアクシデントのような形で答えが流れてしまった事もあり、
受付嬢はやや納得がいかなさそうだったが、
それでも今更問題を訂正したり、正解を無効にすることもできなさそうなので、
とりあえずはリリスが全問正解した事にしてくれたようだ。
ラジオカードを受け取った際に、受付嬢の方から
小さく舌打ちしたような音が聞こえたのは多分気のせいだろう。
「どれどれ……?」
早速、リリスはポケギアに受付嬢から受け取ったラジオカードを差し込んでみる。
【メノクラゲは、47番道路に生息しておるようじゃ!】
「はわ! お、オーキド博士の声だ!!」
すると、ポケギアの液晶画面に新しい映像が展開され、
今ラジオ塔の1Fにスピーカーから流れているのと同じ音声が
リリスのポケギアからも聞こえ始めた。
これで完全に、リリスのポケギアにラジオと同じ機能が備わったようである。
「うー……先を越されてもうた……。
なんか所々納得できん場面もあったけど、素直におめでとー!」
アカネの方も妬むのは見苦しいと思ったのだろうか、
それとも素直にリリスの幸運に感心したのかは定かでないが、
リリスがラジオカードを手に入れた事を祝福してくれていた。
「あ、ありがとー! ねえねえ、さっきアカネさんは
上の階でラジオ番組が収録されてるって言ってたけど、
もしかしてオーキド博士達が上の階にいるの!?」
「え? そりゃあまあそうやけど……上の階は関係者以外立ち入り禁止で、
しかもオーキド博士はほぼ1日中ラジオ塔で番組収録中やで?」
【そりゃあまあそうやけど……】の辺りで「じゃあ早速会いに行くー!」と
走り出したリリスだったが、アカネのその後の言葉を聞いて
つんのめるようにその場で転倒した。
「いたた……それならそうと早く言ってよぉ……」
「言い終わる前にリリスちゃんが走り出したんやん……。
とりあえずオーキド博士にはほぼ会えんと見てええやろ。大会の事もあるしな?」
「そんなあ……」
自分の回りに仲良くなったポケモン達が増えたのを
オーキド博士に見てもらいたかったリリスではあったが、
1日中ここで待機しているワケにもいかなかったので、しぶしぶ断念する事に。
「ほら、せっかくラジオカードを手に入れたんやからもっと笑顔でおらんと!
それにまだ見てもらいたいとこもあるしな! ほら、いくで!」
「んう……わかったー」
『チョゲッ』
せっかくラジオカードを手に入れたのに不満そうにしていたのでは
ラジオカードを手に入れる事ができなかったアカネに失礼だと思い、
リリスは強引にペースを持ち直してアカネについて行く。
★
「見せたい場所って、今度はどこなのー?」
「そいつは見てのおたのしみや!」
ラジオ塔を出て道路を歩く中で、
行き先が気になったリリスはアカネに聞いてみるが、
アカネは「あらかじめ教えたら面白くないやろ?」と教えてくれない。
アカネの後をついて行く内に、やがて二人とポケモン達は
だんだん人通りの少ない路地裏のような場所へと足を踏み入れていた。
表通りと違って、ビルや民家の影になっているような場所であるためか、
昼間であるにもかかわらず薄暗い。
「ね、ねえ……ホントに見せたいものがここにあるの?
まさか人に見つからない場所に誘い出して色んな事する気じゃ……」
「アホ! うちがそないな事するような危ない子に見えるか?
ほれ、ついたで! ここがそうや!」
ビシッとリリスにツッコミを入れた後、アカネが指さした先には
【ミラクルサイクル自転車! 世界一の自転車をお届けします!】という文字が
デカデカと書かれた看板のかかった、青い屋根と自転車が目立つ建物があった。
もっとも、場所が場所だけに気づく人はほとんどいないような気もしたが。
「えーと、自転車屋さんかな……?」
「そ! 旅をするんだったら移動手段も必要やろ?
ちょうど修理に出してたうちの折りたたみ式の自転車も
引き取ろうと思ってた所やし、見ていったらええで!」
「なるほどなるほど……分かった。そうしてみるね!」
単純に考えてみても、歩くよりは自転車に乗った方が移動が楽になるし、
それが旅をするのならばなおさら徒歩に代わる長距離を移動する手段が欲しい所だ。
さすがにポケモン達を全員乗せて自転車で移動するのは危ないから、
自転車に乗っている間はモンスターボールに戻さないといけなくなるかもしれないが……
その辺りの問題は自転車から降りた時にまたモンスターボールから出せば良いだけの話である。
持ち運びに関しても、【折りたたみ式】であるならばさほど問題にはならないはずなので、
デメリットを補って余りあるだけのメリットが自転車にあるのは確かだ。
「おっちゃーん! 自転車、引き取りにきたでぇー!!」
そういう事を考えている間にも、
アカネは声に元気を宿して自動ドアをくぐって店の中に入っていく。
「こんにちはー…… はわ! す、すごい数の自転車……!」
『エレエレ……』
『ワニッ』
リリスもそれに続いて店の中へと入ると、彼女を出迎えたのは
床はもちろん、壁や天井にまで設置された無数の自転車達だった。
カゴが前面についたママチャリから荒れ地に強そうなマウンテンバイク、
補助輪のついた自転車に加え、果てはバイクのフレームをくっつけた
パッと見た感じではオートバイと見分けが付かないような自転車まであった。
その品揃えには、リリスもポケモンも圧倒されているばかりである。
「ああ、アカネちゃんかい……
修理に出してた自転車だったら、この通り直しておいたよ」
リリスとポケモン達が自転車の品揃えに見とれている中、
カウンターの奥から頭の禿げた緑色の作業着姿の初老のおじさんがのっそりと現れる。
そして、そのすぐ後に桃色のフレームを骨組みとした
所々に赤色の模様の入った可愛らしい自転車が奥から取り出された。
「きゃーん、完璧やぁ! 店長さん、相変わらずの凄腕やね!」
「はぁ……褒めてくれるのは嬉しいんだけど、自転車は全然売れないんだよねえ……。
家が多いからこの場所を選んだけど、お店立てる場所間違えたのかなぁ」
アカネはミラクルサイクル自転車の店長によって修繕された自転車をなでなでしながら
その腕前を褒めるも、肝心の店長本人は浮かない顔でため息混じりに喋っている。
「確かにこんな人通りが少ない上に薄暗い所じゃ、
自転車が売れないのも無理ないような気がしないでもないけど……」
「ごもっともだよホント……けど、できることなら
うちの自転車をできるだけ多くの人に利用してもらいたいんだよなあ。
なんとか良い方法はないものか……」
リリスの指摘に対する返事を見る限りだと、
店長は自分でも自転車が売れない原因は分かっているようだ。
おそらく、店を建てた当時はそんな事などまったく気にしていなかったが、
自転車が売れないまま時が経つに連れて、ようやく原因を把握したといった所だろうか。
「そんなら、このお店自体を表通りに移せばええだけとちゃうの?」
「いや、そうしたいのは山々なんだけどお金がなくてねえ……。
表通りは他のお店やビルが占領しちゃってるから……」
「うーん……」
この自転車屋さんは、お金の方でも結構深刻な事態を迎えているようだ。
店長さんの諦め気味な表情を見て気の毒に思ったリリスは
なんとかいいアイデアを提供しようとするも、
これと言って特別な良いアイデアは出てきてくれない。
しかしその時、アカネがさらに口を開いた。
「あっ! それだったらさぁ、うちとリリスちゃんが
自転車に乗りまくって宣伝するっていうのはどうや!?
自転車にこのお店の住所を貼り付けた旗を掲げたりして!」
「えっ? あたしも強制参加!?」
「えーやんか! これも人助けやし、何より自転車が手に入るチャンスやで?!」
「それはまあそうだけど……」
自分の名前が勝手に入っていた事に異議を唱えるリリスに対して、
アカネはこれも人助けのためだと耳打ちしてリリスを納得させようとする。
確かに少しの手間以外は何のデメリットもないし……と思っていたその時だった。
「そうだ、それだ!! なんでその方法に今まで気が付かなかったんだろう!
どうだろう? 二人とも、自転車に乗りまくって宣伝してくれない?」
「うちはもちろんええで! この自転車、なんだかんだで気に入ってるし、
店長さんにはいつもお世話になっとるしな!」
「んー、じゃああたしもやる!」
それまでとは別人のような希望にあふれた店長の顔を見た後で拒否できる程
リリスは自己中ではなかったので、アカネに合わせる形でOKを出す。
「そうと決まったら早速準備しないと!
ええと、宣伝用の旗は新装開店の時に使ったヤツを使うとして……
そっちの君、どれがいい?」
「えっ? あたし? えーと、【どれがいい?】って言うのはどういう……」
「君が乗る自転車の事だよ! ここに置いてあるヤツだったら
どれを選んでもいいから、決まったら知らせておくれ!」
「あ、そういう事! それなら……」
さっきからテンションが上がりっぱなしの店長は奥の方へと駆け出す。
言葉の意味を把握したリリスは、早速どの自転車を選ぼうか迷っていた。
とりあえず旅をするからにはできるだけ頑丈そうなのが良いと思い、
マウンテンバイクのコーナーに足を運んで一通り眺めてみる。
「大体形はどれも似たような感じだなぁ……」
「これからも乗っていく事になるかもしれない自転車やから、
じっくり考えて選ぶんやでー?」
「分かってるよー! えーっと……あっ、これがいいかな!」
じっくり選ぶという点では最初にウツギ博士の研究所で
パートナーとなるポケモンをもらった時の感じに
どことなく似ているなぁと思ったりしながら、
リリスは壁に置かれている1台のマウンテンバイクを指さす。
それはマウンテンバイクの力強いイメージにはややミスマッチな
綺麗な純白のフレームの所々に青いラインが入っており、
金色のチェーンを持つ、一見観賞用にも見える自転車だった。
「ほへー、ずいぶん綺麗な自転車やね!」
「にゃはは……あたし自身、白色が好きだし、
青や金色も好きだから、直感で選んだって感じかな」
『ワニワニ』
『ポポッ』
リリスが選んだ自転車を早速触り出すワニノコ達。
自分達が乗っても大丈夫かどうか気になっているようだ。
『ワー……』
「わっとと! 噛みついたらダメだって! まだ借り物なんだから!」
『ワニワニー……!』
その中で、ワニノコがあやうくフレームに噛みつきそうになったので、
リリスはあわててワニノコを自転車から引き離していた。
ワニノコは目の前に噛みつこうと思った対象があるのに引き離され、
やや不満そうにアゴをガチガチさせている。
「おやおや、自転車もちょうど決まったみたいだね!
さ、この旗を自転車にくくりつけて宣伝しておくれ!」
ちょうどその時、店長さんが店の奥から現れる。
店長さんの手の中にある応援団が振ってそうな大きな旗には
【MADE IN ミラクルサイクル自転車! 走り心地抜群!】と
大きくメッセージが書かれている他、このお店の住所と思われる字もあった。
「うわぁ……こんなのくくりつけて走ったらバランス崩しそう……」
「ま、まぁスピードを落として走れば大丈夫やろ……多分」
さすがにこれにはアカネもリリスも苦笑い。
しかし店長さんはすでにすっかりその気になっており、
二人の自転車に嬉々として旗をくくりつけている。
センスがどうとか、そんな大きな端をくくりつけたら絶対に転ぶって!
といった類の言葉は、イキイキと笑顔で作業を進める店長さんを見ている
二人の口からは出てきそうになかった。
★
「さぁ、これで準備オッケーだ! 二人とも、頑張ってくれよー!!」
「うっ……お、思った以上に重たいわぁこれ……」
「にゃぐぐ……」
とりあえず外に出ていたポケモン達はみんなモンスターボールに戻し、
早速旗がくくりつけられた自転車に乗ってみるリリスとアカネ。
店長さんに送り出される中、二人で出発したはいいのだが……。
自転車に乗り慣れたアカネもやや運転しづらい感じであり、
自転車に乗った経験の薄いリリスは
ちょっと横から指で押されただけでも転倒しそうなほどグラついていた。
「と、とりあえずそろそろ時間もだいぶ経ったし、
そろそろゲームコーナーへ行ってもええ頃やろ! リリスちゃん、うちについてきて!」
「あ、あんまりスピード出さないでよ!? あたしまだ慣れてないんだから…!」
リリスはアカネの後を追いかける形で、
どうにか転ばないようにしながらほとんど足を常に地面につけたまま移動する。
やはりこんな大きな旗を掲げて大通りを移動するのは人目に付くようで、
道行く人のほとんどがリリスとアカネの方を振り返っていた。
「な、なんだありゃ? コガネ百貨店のイベント宣伝か何かか?」
「新手の暴走族? それとも珍走団?」
しかし、道行く通行人には自転車の宣伝と言うよりは
むしろ別の何かと見られているようで、自転車の性能やデザインに関する話よりも、
何か怪しいモノを見るような目でヒソヒソ話をしている光景の方をよく見かけた。
「ねえアカネさん……これってホントに宣伝になってるのかなぁ……?」
「うー……あの方法提案したんはちょい失敗やったかも……。
それよりも、見えてきたで! あそこが大会の会場や!」
グラグラする自転車で転倒しないよう超スローペースで進むこと10分弱。
リリス達は【GAME CORNER】と書かれた電光掲示板の目立つ
大きな紫色のドーム状の建物の前へとたどり着く。
「ここがそうなんだ……よいしょっと!」
「さ! 早いトコ受付にいくで!」
自転車を降りてみると、それまでのバランスの悪さや旗の重量がなくなって、
体がほんの少し軽くなったような錯覚に見舞われる。
まるで一種の修行を終えたみたいだなぁと思ってちょっと笑っていると、
すでにアカネは自動ドアをくぐってゲームコーナーの中へと入っていっていた。
「あっ! ま、待ってよー!」
まだ見知らぬコガネシティの地理を把握している唯一の人間を見失ってはまずいと、
リリスはすぐに自転車を壁にたてかけてアカネの後を追い、自動ドアをくぐった。
今回はコガネシティの探索がメインとなりました。
ゲームじゃ自転車をもらったり、ラジオカードを手に入れたりするのは
ただの「作業」でしかなかったですが、これらを手に入れるまでの流れを
違和感なく自然な感じで書けたかどうか心配です…。
リリス「ラジオカードに自転車に、色々手に入ってラッキー!
この調子でトゲピーも取り返せたら最高なんだけどなぁ」
まあまあ、それはアカネとジム戦を迎えるまでの辛抱です。
今回の次回予告はこの人にお願いしましょう。
自転車屋店長「今までずっと日陰者だったけれど、
これで一気に大ブレイクできたらいいなぁ……!
次回、黄金の心、シロガネの魂 第三十六話
【ゲームコーナーのビッグイベント!】!
一人でも多くのお客さん、カモォーン!」
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