~前回のあらすじ~
ウバメの森にて行われたジムバッジとトゲピーを賭けた
アカネとのカモネギ捜索対決は、
思わぬアクシデントによりミルタンクが大怪我を負うも、
結果的にアカネの勝利で終わり、トゲピーは一時アカネが預かることに。
いつか絶対にリベンジしてやろうと近いながらも、
コガネシティへ向けて出発するリリスを待つものは……?
第三十四話 謎の舞子さん と リョウコの実家
「あーもぉ、みんな待ってよー!」
『ワニニー』
『イシ、イッシ!』
「ぐずぐずしとると、置いてくでー?」
『チョゲプリー!』
「もう少しで、ウバメの森の出口だから頑張って!」
アカネとのトゲピー争奪戦に加えて壮絶なミルタンク救助活動を行った翌日、
シャワーと睡眠でリフレッシュしたリリス達御一行は、
次の目的地であるコガネシティ目指して足を進めていた。
トゲピーはアカネにだっこされ、すっかりご機嫌である。
しかし、思いの外ウバメの森の道が長いため、
寝坊したおかげで朝食なしで出発するハメになったリリスは、
アカネとリョウコに比べてやや息が上がっている様子。
「ほんとに、こっちの道で合ってるのー!?」
「だいじょーぶ! ウチはこのウバメの森の道だったら
バッチリ覚えとるから、安心してついて来ぃや!」
「ホントなのかなぁ……」
右を見ても左を見ても木や草ぼうぼうの同じ景色しか見えないため、
不安になってアカネに【この道で大丈夫なの?】と何度か質問しても、
帰ってくる返事は【大丈夫】【まかしとき】といった物ばかり。
半信半疑のまま、多分30分くらいは歩いたと思われる中で、
リリスはせっかく頭の包帯が取れたにもかかわらず、
空腹と森の中にこもる蒸し暑さに参ってしまっていた。
「あー、もーダメ……あたしはちょっと一休みするー!」
『ワ、ワニワニ!』
『イシイシ!』
先程のやりとりから数分が経過した時、
とうとう空腹と暑さに耐えかねてリリスはその場にあった木にもたれる格好で座り込んでしまう。
ポケモン達は【今そんな事してたら置いて行かれるぞ!?】と言いたそうに
リリスをの手や足を掴んで引っ張っていこうとしていた。
「いたたた……! 今はお腹空いて力が出ないの!
5分くらい一休みしたらまたついて行くから、今は休憩させてよ!」
『ワニワニ……』
『エレー……』
一度ダダをこね始めると、無理に動かそうとすればするほど
余計に意地になってしまうリリスの性格を見抜いてか、
エレキッドやワニノコ達はリリスの手足を引っ張るのをやめる。
『ポ、ポーッ』
『フリ~!』
そして、せめて前を進んでいる涼子達に状況を伝える(&迷わないよう道しるべも残す)ため、
ポッポとバタフリーはアカネ達に追いつくべくリリスの場から離れ、
通りすぎていった道の方へ、迷わないようにするための道しるべ代わりに
道ばたに落ちている小石を2匹で規則正しく並べながら飛んでいった。
「はぁ……お姉ちゃんやアカネさんにもうちょい待ってもらって、
ポケモンセンターで食べ物買っておけばよかったなぁ……」
そして肝心のリリスはというと、
べちゃーっと木に寝そべったままリュックの中身を漁っている。
何を漁っているかというと、栄養補給用の食料だ。
「せめて何か食べられそうなもの……何かないか何かないか……あっ」
『ワニ……』
リュックの中を見てみても、出てくる物はきずぐすりやモンスターボール、
それにヒワダジムで取ってきた木の実と言ったポケモンに関するものばかり。
パッと見て【人間の食べ物】と分かりそうなものは何一つなかった。
しかし、あちこち物を探していたリリスの目は木の実に止まる。
「確か……木の実って人が食べても大丈夫って話を
昔テレビで言ってたような……もしかすると、木の実って食べられるのかも?」
ふと、そんな時に、物心ついて間もない頃にテレビで見た
【ジョウト 3分間クッキング】で紹介されていた木の実を使った料理の事を思い出し、
リリスはカバンの中にあったオレンの実を取り出してしげしげと眺めてみる。
『イッシ……』
『ワニワニ……』
ポケモン達は、本当に大丈夫なのかと心配そうにリリスを見ていた。
「いちおう生だけど、多分食べられないことはないハズだよね。
それじゃ……いただきまー……!?」
己の空腹を満たそうと早速オレンの実にかじりつくリリス。
だが、彼女の歯はオレンの実をかじるまでには至らなかった。
あまりにも固いオレンの実の皮に、歯が通らなかったのだ。
『ワニワニ……』
『エレレ……』
「いたたた……歯が折れちゃうかと思った……!
もぉ、固すぎるよこの木の実ー!!」
きのみを食べることさえままならない自分のトレーナーに哀れみの視線を向けるワニノコ達の前で、
リリスは八つ当たりするように手に持ったオレンの実をブンッと目の前に投げる。
オレンの実は放物線を描きながら、人気のない森の中を飛んで、
リリスの視界の外で、地面にぽとりと落ちた音を立てていた。
「……はぁ、怒鳴ったらまたお腹が減って来ちゃった。
もしお姉ちゃん達が戻って来なかったら、
このままここで白骨化……? いやいや、そんなのダメダメ……!!」
「これ、今この木の実を投げたのは、あんさんどすか?」
「にゃ!?」
ふと、聞き慣れない声がしたので独り言をやめて顔を上に上げると、
真っ赤な着物姿の和風なイメージの女性がリリスの前に腰掛けていた。
まるで自分の前に瞬間移動したかのように突然現れたその女性に、
リリスはビックリして自分のもたれている木で頭を打ちそうになる。
★
「えーっと……お、お姉さん誰? 確かどっかで見たような……」
「これこれ、質問に質問で返さないでおくんなまし。
今質問しとるのはうちどすえ。今、うちが手に持ってるこのオレンの実を
うちのいる方にぶん投げたのは、あんさんどすか?」
「う、うん……そうだけど……」
表面上はおっとりしていて優しそうな雰囲気だったものの、
確かに質問に質問で返すのはあまり感心できる事ではないし、
舞妓さんの内からにじみ出るすごみのような物を感じ取ったリリスは素直に答えた。
しかし、同時に疑問も心の中に浮かんくる。
さっき自分がオレンの実を投げた時、その方向には誰もいなかったはずだ。
ましてやこんな綺麗で目立つ格好をした人がいれば真っ先に目に付くはずである。
しかし、この舞子さんの存在を認知できたのはほんのついさっきだ。
本当に【突然】自分の目の前に現れたとしか説明がつかない程、
この人は突然現れたのである。
「あきまへんなあ。このカチカチな木の実が、
もうちょいでうちの頭にガツーンと当たる所だったんやで?
それにこのウバメの森は森の神様を祭ってる大事な祠があるんどす。
その祠にキズでもついたらどないしはるんや?」
「えっ? そ、そんな大事な物があったの?」
「そうやで。ほら、うちの後ろにあるのがそのほこらどす」
舞子さんの後ろを見てみると、確かに古ぼけた小さなほこらのような物がある。
あちこち苔が生えていて神様を祭るにしては妙に小さくて粗末な気もしたが、
見ているだけでどれだけ長い間このほこらがここにあるのかを実感するには充分だった。
「あれが…… ご、ごめんなさい……」
『ワニワニ……』
リリスはただの八つ当たりで人に怪我をさせる所だったのだと教えられ、
言い訳せずに素直に謝り、ワニノコやエレキッド達もつられて頭を下げる。
「うんうん、それでいいんどす。何事も素直が一番どすからなあ」
「えっと、じゃあ今度はあたしが質問する番だよ! あなたは誰?」
とりあえず目の前にいる舞子さんの質問には答えたと判断し、
リリスは逆に舞妓さんに質問する。
すると、舞妓さんはくるくるその場で回りながらしゃべり出した。
「迷子の迷子の舞妓はん。森で迷ってさぁ大変ー」
「ま、迷子の迷子の舞妓はんって……いかにもそのまんまだなぁ……。
あっ、それよりも! あなたキキョウシティのフレンドリィショップであたしと会わなかった?
その喋り方も着物も、どうも見覚えがあるんだけど……」
くるくる回りながらしゃべる舞妓さんに、リリスはさらに追い打ちをかける。
キキョウシティでフレンドリィショップから出てきたときに、
今目の前にいる舞妓さんと同じような人に出会ったのを思い出したからだ。
その一方で、舞妓さん本人は首をかしげている。
「なんどす? うちに見覚えがある? キキョウの町で?
それは気のせいと違いますかー? うちかて、あんさんとは初対面やしな」
「そうかなぁ……どう見てもそっくりなんだけど……」
他人のそら似だったらしく、舞妓さんは人違いだとリリスに言う。
しかしどこからどうみてもキキョウシティで見かけた舞妓さんとうり二つだったので、
リリスはキキョウの舞妓さんと目の前にいる舞妓さんが他人とは思えなかった。
「ところであんさん、この森の出口はどちらか教えてもらえまへんやろか?
さっきから出口が分からないで困っておるんどすが……」
「出口? どっちが出口かは知ってる事は知ってるんだけど、
今はお腹が空いちゃって……」
「なんどすの? 自分もまだ森を抜けられしまへんのに出口が分かるんどすか?
それなら早く教えてくださいまし!
お腹が空いてるなら、とっておきの大福をあげるから」
「いいの!? やった!」
リリスは舞子さんが懐から出したパックに入っている大福餅を受け取って、
早速パックを歯で空けながら中身の大福にかじりつく。
ちょうど空腹だった事もあってか、
中に詰まっていたあんこがほっぺたが落ちそうなほど甘く感じられた。
「さ、それで森の出口はどっちですのん?」
「むぐむぐ……森の出口だったら、ここから道に落ちてる
小石をたどっていけばいいよ……ぷはー、美味しかった! ワニノコ、案内してあげて!」
大福を完食して胃袋の充電を完了させたリリスは
その場から立ち上がると、ワニノコに舞妓さんのガイドを依頼する。
『ワニワニ!』
ワニノコはビシッと敬礼した後、
バタフリーとポッポが残していった石ころの後をたどって歩き始めた。
「んまあ! うちに出口を教えてくれますのん!?
ちゃーんと道しるべを残していくなんて、かしこいポケモン達どすなぁ……」
「ふふー、すごいでしょ? この作戦もあたしが……」
「ほな、お先にー」
舞妓さんが感心しているのをみて自慢するリリスだったが、
肝心の舞妓さん本人はリリスの話を聞こうとしないで、
ワニノコの後をついて行き始めた。
「もー、全部説明し終わってないのに! 待ってよー!」
『エレエレ』
『イッシッ』
元々この石ころを置いて道しるべを残す方法は
ポッポとバタフリーが考えたものであり、リリス自身は何もしていないため、
イシツブテとエレキッドは【やれやれ】と言いたそうな仕草を取って、
舞妓さんを追いかけようと走り出したリリスの後を呆れながら追いかける。
「待ってったらぁー! あの人、早いよぉ……!
リリスはなんとか走って追いつこうとはしているのだが、
舞妓さんの足はやたらと軽やかで、
必死に走っているはずなのに追いつくことができず、
むしろどんどん差が開いていく一方だった。
★
「な、なんなのあの人……! 下駄って普通走りにくいはずなのに
ランニングシューズ履いてるあたしより早く走れるなんて……!」
『ワニワニ……!!』
走っている途中で、舞妓さんに追いこされたワニノコと合流したリリスは、
妙に動きのすばやい彼女を、ポッポとバタフリーが残してくれた道しるべを頼りに追う。
まるで浮いているかのような動きで移動する舞妓さんはどんどんリリスとの距離を離していき、
気が付けばかすかに見える程度のレベルにまで差を付けられてしまっていた。
「もー、どうやったらあんなに早く走れるわけ!? こうなったら絶対追いついて……あわっ!?」
「きゃっ!?」
リリスは曲がり角を曲がって舞妓さんの姿が見えなくなったのを見て、
意地でも追いついてやろうとさらに走る速度を速める。
そして曲がり角を曲がったところで、リリスは何かに激突して尻餅をついた。
「いったたた……もぉ、何なのー!?」
「それはこっちの台詞よ! リリスちゃんが中々ついてこないから、
心配になって様子を見に行こうとしたんじゃない!」
『フリ~……』
『ポー』
痛むお尻をさすりながら前を見ると、
そこには自分と同じようにしりもちをついたリョウコの姿があった。
その後ろでは、バタフリーとポッポが心配そうに自分の姿を見ている。
『エレ、エレレ……』
『イシ、イッシ……!』
「え? あれ? あの人は?」
イシツブテとエレキッドが息を切らしながら後ろから走ってくる中で、
リリスは涼子に謝るのも忘れて周囲をキョロキョロと見渡していた。
もちろん、事態を把握していないリョウコとポッポ達は頭に「?」マークを浮かべている。
「リリスちゃん、あの人って?」
「ここを真っ赤な着物を着た女の人が通らなかった!?
ほら、お姉ちゃんもキキョウシティのフレンドリィショップで見たでしょ?
なんかこう、和風な感じの舞妓さん!」
「あぁ、あの人! 私が道を逆送して出会ったのは
リリスちゃんが初めてよ? そんな人は見なかったけど……」
「えぇ? そんなハズないよー……」
リョウコもリリスが言いたい事は何となく理解したようだが、
ここまでの道中で自分が出会ったのはリリスだけだと語る。
それを聞いて、リリスの頭の上にはさらに「?」マークが増えていた。
確かにさっきまで自分は舞子さんを追いかけていたハズであり、
少し前に受け取った大福をくるんでいたラップもちゃんと持っている。
増してあれだけ目立つ服装をしていればすぐに目に付くはずなのに、
回りを見渡してみても、周囲に見えるのは生い茂る木々に、伸び放題となっている芝だけだ。
どんなに目を懲らしてみても赤い着物は影も形も見当たらない。
あの目立つ着物が特徴的な舞妓さんは、
リリス達の前から煙のように姿を消してしまっていた。
「リリスちゃん朝ご飯抜いたから、
多分お腹の減りすぎで幻覚でも見たんじゃない?」
「違うもん! あたしはちゃんと 大福とか受け取ったり会話もしたりして……」
確かに自分はあの舞子さんと会話したし、大福を受け取ったりした。
もしリョウコの言うとおり、あの舞妓さんが「幻覚」か何かだったのであれば、
リリスは本来いないはずのものとやり取りをしていた事になる。
「ま、まさか……あたしが見たのは、ゆ、ゆゆ……ユーレイ!?」
「もう、朝っぱらから幽霊なんて出るわけないでしょ!
けど確かに不思議ね……何だったのかしら?」
「みんなー!! そんなトコで何ボーッとしとるんー!? 置いてくでー!!」
『チョゲチョゲプリー!』
ガタガタ震えだしたリリスを落ち着かせ、リョウコもその舞妓さんについて考えようとし始めた時、
少し遠くの方からアカネが大きな声で手を振りながら二人を誘導しているのが見えた。
そしてその後ろにはウバメの森からコガネシティへ通じていると思われるゲートらしき物が見える。
どうやらリョウコ以上に、アカネはリリスが来ない事に待ちくたびれている様子だ。
「いっ、今いくー!! みんなも早く行こう!」
『ワニワニ!』
『イシッ……』
アカネに導かれるままに、リリスとポケモン達は移動を開始する。
こんな幽霊が出るかもしれないような薄気味悪い森とは早くオサラバしたい一心で、
後ろは振り向かずに全力疾走していた。
後ろを振り向かなかったのは……もし後ろを振り向いたとたんに、
あの舞子さんの顔が自分の目の前にあったらと思うと、
悲鳴を上げて腰を抜かすか、その場で気絶するのは明らかだったからだ。
全速力で走りながらアカネを追い抜いたときに、
「なんやリリスちゃん、えらいせわしないなー」とアカネとトゲピーは
笑っていたが、【知らぬが仏】という言葉は
こういう事を言うのかも知れないとリリスは思っていた。
そして死にものぐるいでリョウコとアカネを追い抜いた後、リリスはゲートの扉をくぐる。
★
「はー……はー……も、もう大丈夫だよね……?」
『ワニワニ……』
『エレー……』
ゲートをくぐって、ウバメの森とコガネシティをつなげていると思われる
建物の中で、リリスとポケモン達は息を切らしてへたり込む。
とりあえずウバメの森で散々見ていった木や草は見当たらず、
ポケモンセンターと同じような感じの窓やソファと言った人工物のある空間に、
リリスは幽霊かもしれない舞子さんの出るウバメの森を抜けた事を実感し、ホッと一息ついた。
「ばぁーっ!!」
「にゃ、にゃぁぁぁっ!?」
しかし一息ついたのも束の間、
突然隣で発生した大声と自分の肩をがっしり掴まれた感触に、
緊張が解けはじめたばかりだったリリスは
心臓が口から飛び出そうになる程の大声を出し、壁まで一気に逃げる。
「あははは……すっごいリアクションやなぁ! そんなにウチが怖かった?」
『チョゲチョゲ!』
再び舞妓さんが現れたのかと思って目を見開いて自分がさっきまでいた場所を見ると、
そこにはケラケラ笑っているアカネとトゲピーの姿があった。
「び、ビックリしたぁ……もぉ、脅かさないでよね!
こっちはさっき本物のユーレイに会ったかもしれないんだから!」
「ちょ、ちょっとした軽いイタズラやん。 何もそう青筋立てんでもええやねん……」
『チョゲゲ……』
とりあえず幽霊ではないと分かって安堵すると同時に、リリスは怒りながらアカネに詰め寄る。
アカネの方も悪気は無かったようで、
本気で怒っているように見えるリリスを前にアタフタしている。
「リリスちゃん、アカネさんだって悪気があってやったわけじゃないんだし、
とりあえず許してあげたら?」
「そ、そうそう! ちょっと脅かそう思っただけで、
まさかそこまで怒らせちゃうなんて思わんかったんや……」
『チョゲェェ……』
「むぐぅぅ……わ、分かった……」
リリスはこの後で思いっきりアカネに説教してやりたい気分だったが、
アカネに抱かれているトゲピーがリリスの顔を見て泣きそうになっていたので、
リョウコの仲裁もあり、気持ちをグッとこらえてアカネから離れた。
「そもそも……幽霊が出るなんてウバメの森にはそんな言い伝えはなかったはずやで?」
「けどあたしが出会った舞妓さんは、影も形もなくなっちゃったんだよ!?
お姉ちゃん達がいた方向に走っていったハズなのに、誰も見てないなんて、
これは幽霊以外の何者でも……」
「はいストップ!! とりあえず、もう幽霊が出るかもしれない森は抜けたんだから、
その話題はここまで! これからコガネシティに行く前に
育て屋さんに寄る予定なんだけど、みんなはどうする?」
リョウコは延々と続きそうな話題を半ば強引にストップさせ、
話の流れを変えるべくリリスとアカネに問いかける。
「育て屋かぁ、 賛成ー! うちもちょうど帰りに寄ろうと思ってた所やしな!」
「育て屋さん? 確かポケモンを育ててくれるって所だよね?
と、とりあえずあたしも行くー!」
育て屋さんに関してはテレビや新聞で少しだけ見た程度の知識しか無かったが、
その名が示すとおり、「ポケモンを育ててくれる場所」という事くらいは知っていた。
それに形はどうであれ、ウバメの森から離れられるのであれば何でも良かったので、
リリスは異議を唱える事なくアカネの意見に便乗する形で賛成する。
「よし、じゃあ決定ね! このゲートをくぐれば
すぐそこに見えるはずだから、歩いて5分もかからないわよ」
「そうなんだ! あっ、もしかしてあそこ?」
3人揃ってゲートをくぐった後、その目的となる建物はすぐに目に付いた。
民家が全く存在せず、草むらと川しかない道にデーンと構える大きな家。
柵のような物も張り巡らされており、その柵の内側にはポケモン達の姿も見える。
リョウコの言う「育て屋」があるとしたら、ここ以外に考えられなかった。
「その通り! それじゃ、行きましょうか!」
「おー!」
一体どんな施設なんだろうとワクワクしながら
さっきまでの幽霊や舞子さんの事は頭の片隅に追いやって、
リリスはアカネと一緒にリョウコの後をついて行った。
★
「お爺ちゃーん! ただいま! お仕事オツカレ!」
早速【ポケモン育て屋さん】と大きく書かれた看板が立ててある建物に近づくなり、
リョウコは家の側に立っているひげを生やした頭が禿げている着物姿のメガネを書けた老人に
話しかけながら近づいていく。
すると、老人の方も涼子の声に気づいたらしく、
ぼーっと空を見上げていた首をぐるりとリョウコ達の方へと向けた。
「おんや? リョウコじゃないか! おかえり。 後ろに居るのは妹達かえ?」
「まぁ厳密には妹分も一人混じってるけど、厳密には血はつながってないからね?
みんな、紹介するわ! この人がうちのお爺ちゃんよ!」
「こんちゃー! あたし、リリスって言います!
というか……お姉ちゃんのおうちって育て屋さんだったの!?」
「ええ。そういえば今まで、詳しい事は話してなかったわね」
今までリリスは涼子の事を【ワカバタウンに住んでいるお姉ちゃん分】程度にしか見ていなかったので、
こんな大きくて立派な家の子供だったという事実を知った事にはビックリしていた。
「しかしこんな所で会うとは奇遇じゃな。 体力の限界を感じて戻ってきたのか?」
「もう! まだそんな年じゃないわよ! コガネシティに立ち寄る途中だったから、
たまたま通りかかっただけ! 私もお爺ちゃんからもらったマリルも、まだまだ元気なんだから」
『リルリル~!』
トレーナーを引退したのかと勘違いする祖父を相手に、
リョウコはツッコミを交えながら返答する。同じようにモンスターボールからも
マリルが飛び出し、リョウコと同じようなリアクションを取っていた。
「とりあえず、改めて紹介するわね。 まずこっちの紫色の髪の子がリリスちゃん!
まだトレーナーとしては新人だけど、
とってもポケモンと仲良しで、バトルも結構腕は立つのよ」
「にゃはは、どーもどーも」
『ワニワニッ』
リョウコに紹介され、褒められたような感覚を覚えたリリスは少々照れくさそうに前に出る。
そして、愛情表現と言わんばかりにワニノコも二の腕に噛みついていた。
「いたた……! ちょ、痛いって……」
「それからこっちの人がコガネシティジムリーダーのアカネさん!
大体お爺ちゃんも知ってるだろうとは思うけど……」
「なあなあ育て屋さん! うちが預かったピッピ達、元気にしとる!?」
ワニノコに腕を噛まれて痛がるリリスをよそに、
リョウコがアカネの自己紹介に移ろうとしたとき、
アカネはリョウコを押しのけておじいさんの前にずいっと出る。
「おお、この前ピッピを預けてくれたジムリーダーさんか!
君のピッピ達は元気にしとるよ。詳しい事は、中にいるばあさんに聞いとくれ」
「ほんま!? じゃあ行ってくるー!」
アカネはそうおじいさんから聞くと、
すぐにドアを開けて建物の中へと入っていった。
どうやらアカネが育て屋さんに寄ろうとしていたのは、
預かっていたポケモンを引き取るためらしい。
「元気なジムリーダーさんね……リリスちゃんにも負けてないんじゃないかしら。
それじゃリリスちゃん、中も案内するからついてきて」
「はーい!」
『ワニワニ!』
リョウコに案内され、リリスもアカネのすぐ後に続いて建物の中へと入っていく。
「うわー……ひろーい……!」
中に入って見て、最初にこの言葉が、リリスの口から脊椎反射的に出てきた。
『タチオ!』
『オータチ!』
『ニドニド』
『ランッ』
建物の中はリリスの家の5倍ほどの空間があり、
建物の中にある柵の向こうでは様々なポケモン達が一緒に遊んでいる。
たくさんのポケモン達が放牧されている様は、
「育て屋」というよりは、「牧場」という言葉を彷彿とさせた。
「ほい、2匹とも引き取りでええね?」
「もちろん! ピッピ達、今まで一緒にいられなくてごめんなー!」
『ピッピピー!』
『ピピー!』
そして入り口から少し少し離れた位置にある受付のような所では、
アカネが白髪の老婆からポケモンを受け取っている所だった。
全体的にピンク色の体に、短い手足とつぶらな瞳が可愛さを増している。
「あのポケモン……あれがピッピ!」
アカネの口から出た「ピッピ」という言葉に反応し、
リリスはすぐにポケモン図鑑を取り出してそのポケモン達に向けた。
【ピッピ……妖精ポケモン。愛くるしい仕草と鳴き声で
可愛いと大人気のポケモン。だが、滅多に見つからない……】
「2匹もピッピを持ってるなんて、アカネさんってすごいわねー……」
「せやろせやろ? 昔カントー地方まで行って、お月見山で必死にさがしてたんや!」
「よく見つけたなぁ……」
リリスとリョウコは、ポケモン図鑑のデータを聞きながら
2匹のピッピをはべらせて頭を撫でるアカネを見て素直に感心していた。
なにせピッピといえば、テレビや雑誌でも中々見つからないポケモンとしてよく載っているからだ。
パッと見た限りではアカネはめんどくさそうな事は嫌がるタイプだが、
可愛いポケモンのためなら例え火の中だろうと水の中だろうと
その可愛いポケモンを探しに行くかもしれない……そんな気がした。
「と、それよりも……おばあちゃんただいま!」
「おや、リョウコじゃないか。おかえり。ワカバタウンにいたはずなのに、
もしかして体力の限界を感じて……」
「ちがーうっ! おじいちゃんと同じ事言うんだからもう……
たまたま近くに寄ったから、二人が元気してるかどうか見に来たの!
それから、今日は妹分も一緒よ」
「こんちゃー! お姉ちゃんの妹分のリリスっていいます!
それにしてもでっかいお家だねー……」
天井から柵の向こうに広がる牧場まで一通り見渡して、
思った感想を実直にリリスは口から出してみる。
「ふぉっふぉ、うちの育て屋を利用するトレーナーは結構多いからねえ、
生半可な広さじゃ収まり切らなくて、増築し続けた結果がコレじゃ。
そっちのリリスと言う子は見たところトレーナーのようじゃが、
リョウコが連れてきたのだから腕は確かじゃろうな」
「んふふ、やっぱりそう見えるー?」
『ワニワニ』
『イッシ!』
リョウコのお婆さんにもトレーナーとしての腕を褒められ、
リリスは鼻が天狗になろうとしていたが、またしてもワニノコの噛みつきと、
イシツブテのデコピンによってそれは阻止された。
「いたた……! もぉ、調子に乗っちゃダメなのは分かってるってば!」
「まぁまぁ、ポケモン達がきちんと反応してくれる辺り、好かれている証拠じゃて。
リリスちゃんとやら、またいつでもあそびにおいで。
それからリョウコ、ちょっと話があるからおいで」
「ええと、おばあちゃんなんの話?」
リリスはリョウコのおばあちゃんに元気よく返事をした後、
お婆さんに呼ばれ、ゴニョゴニョと耳打ちされているリョウコ。
「んむー? お姉ちゃん、何の話してるのー?」
リリスは当然耳打ちの内容が気になって、
リョウコに一体何があったのかと聞いてみる。
すると、リョウコは少しだけ残念そうな顔で喋り始めた。
「リリスちゃんごめん。ちょっと急な用事ができちゃって、
一緒にコガネシティに行くのは無理みたい……」
「え? どうして!?」
3人で一緒にコガネシティへ行く予定だったのに、
リョウコが「一緒に行けない」と突然言い出したので、リリスはとっさに聞き返す。
「うちの息子夫婦がコガネシティのゲームコーナーで行われておる大規模な大会に
働きに出ておってな、どうにも人手不足なんじゃよ。
わしと爺さんだけじゃ預かっておるポケモンの面倒を全部見る事は難しくてのう……。
息子夫婦が帰ってくるまでリョウコに手伝ってほしいんじゃが、ダメか?」
「うっ、それは……」
リョウコのおばあさんから事情を聞かされて、
リリスは【ダメ!】という言葉がお腹に引っ込んでいくのを感じた。
確かにこれだけの広いエリアに放牧されているポケモン達全員の面倒を
おじいさんとおばあさんの二人きりで見なきゃいけないのはかなりの重労働だし、
人手が足りないのならなおさら涼子の手を借りたいはずである。
リョウコが手伝えば少なくともおじいさんとおばあさんの負担は大幅に減り、
二人も楽が出来るはずなので、自分のワガママで涼子を無理矢理連れて行って
この二人に苦労を押しつけさせるのは、どうにも気が引けてしまった。
「そういう事なら仕方ないなぁ……お姉ちゃん、
お爺ちゃんとおばあちゃんのお手伝いして、少しでも二人を楽をさせてあげて!」
「リリスちゃん……うん、わかった!
用事が片づき次第、すぐそっちにも行くからね!」
「約束だよ!」
リリスはそういって小指を涼子に向かって差し出す。
すると、リョウコの方も「ええ、約束ね」と行って小指を差し出し、
お互いの小指同士をガッチリ結んで【指切りげんまん】の形を取った。
「話はまとまったようだね。さぁ、そうと決まったら早速仕事じゃ!
リョウコ、ミニスカートさんから預かったオオタチ達に飯をやっとくれ!
それからトサキント達のいる池が汚れてきてるから、
藻を取り除くのも頼んだよ! 40秒で支度しな!」
「は、はぃっ!」
リョウコが残る事が分かったとたんにそれまでのまったりしたお婆さんの様子が一変し、
ビデオの早送りでも見ているような機敏な動きで、
ポケモンのご飯と思われるコロッケやら網やらを棚や床から取り出しリョウコに手渡す。
「わわ……! お、お姉ちゃんのおばあちゃんっていつもこうなの!?」
「まあねえ……仕事になると、おばあちゃんは性格変わっちゃうから……」
驚くリリスに、リョウコは苦笑いしながら説明している。
「リョウコ何やってんだい! 仕事する時は集中しな!」
「はーい! 今いきまーす! じゃあリリスちゃん、また後でね」
その間にもお婆さんからせかす声が飛んできていたので、
リョウコはリリスの元を離れて、手渡されたコロッケの山と網を持って、
柵の向こうの牧場へと走っていった。
「それじゃ、コガネシティの観光はうちとリリスちゃんの二人で決定やな!」
「そうみたいだねー。ねーねー、コガネシティって、どれくらい大都会なの?」
リョウコがメンバーから一時的に抜けてしまって残念さを隠せないリリスだったが、
クヨクヨしててもしょうがないと思い、すぐに気を取り直してアカネに質問してみる。
「まーまー、そいつは見てのお楽しみや。
ほいじゃ、とりあえずゲームコーナーでイベントが行われてるっぽいし、
まずはそこを目指してレッツらゴー!」
「おーっ!」
『ワニ!』
ゲームコーナーで何が行われているのか?
それはリリスにも気になっているところではあった。
育て屋のお婆さんの言う限りでは「大規模なイベント」らしいので、
もしかしたらアルフの遺跡で行われていたポケスロン以上のイベントかもしれない。
コガネシティが一体どんな町なのか?
その「大規模なイベント」が一体どのようなものなのか?
様々なまだ見ぬ出来事に期待しながら、リリスはアカネと一緒に育て屋さんを出て、
コガネシティを目指して歩き始めた。
リリス「お姉ちゃんの実家って育て屋さんだったんだー……。
大変そうだなぁ」
まぁトレーナーから預かったポケモンを少人数で
みんな面倒みないといけませんからね。
そういう意味じゃ、確かにたいへんな職業かもです。
リリス「お姉ちゃんには頑張ってほしいけど、
大会ってなんだろ……!?
なんだかそっちもすっごい気になる!」
ですねー。「大規模な」ってついてるくらいだから、
きっと相当なビッグイベントだと思いますよ?
では、今回の次回予告はこの人にやってもらいましょう。
リョウコ祖父「ふぉふぉ、まさかワシがここに呼ばれてしまうとはの。
どれどれ……ええと、次回のタイトルを言えばいいんじゃったか。
次回、黄金の心、シロガネの魂 第三十五話
【リリスとアカネ ~コガネシティ珍道中?~】。
さて、リョウコと婆さんの手伝いでもしてくるかのう」
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