艦魂年代史外伝 天空を制する乙女達PDFで表示縦書き表示RDF


 艦魂年代史外伝シリーズ第七弾は本編初期に消えてしまった赤城、加賀、蒼龍、飛龍と後期に消えた翔鶴、瑞鶴の六人の艦魂が繰り広げる戦前の作品です。
 真珠湾までの道のりが描かれた今作から、太平洋戦争の全てが始まったのです。
 そんな六人の少女の繰り広げる作品、どうか最後までお読みください。
艦魂年代史外伝 天空を制する乙女達
作:黒鉄大和


 太平洋戦争が始まる少し前の一九四一年十月、鹿児島湾上空を埋め尽くすような数百機の航空機が天空を舞っていた。
 戦闘機隊は上空でアクロバット飛行を、爆撃機隊は急降下と急上昇、雷撃機隊は低空飛行を繰り返している。
 そんな航空隊の下には六隻の空母がその勇姿を威風堂々と輝かせていた。
 上空を舞っている航空隊はこの空母部隊の艦載機部隊であり、今は大規模な航空訓練を行っている。
 空母部隊こと第一航空艦隊。その旗艦を務める空母『赤城』の防空指揮所には六人の少女達が天空を舞う航空機を見詰めていた。
「これほど大規模な航空訓練を行うのは初めてね」
「近いうち大規模な作戦が開かれるんじゃないのぉ?」
 マジメそうな少女――空母『赤城』の艦魂に顔いっぱいに笑みを浮かべる少女――『加賀』の艦魂が話し掛ける。
 艦魂とは艦船に宿る艦の魂の化身のようなもので若い女の姿をしているが、詳しい事は彼女達自身もよくわかっていない。
 そんな二人の少女の後ろでは、
「今回は特に雷撃機隊の訓練がおもしろいわね。新型航空魚雷を開発した上に今まで以上の低空飛行をするなんて」
「新型魚雷は投下後にあまり沈まない魚雷で、あの高度と速度なら投下してすぐに水面すれすれを走るだろうから、どこか浅瀬の艦艇を沈めるんじゃないの?」
 身長差二〇センチもある二人の少女――長身の少女『蒼龍』艦魂の言葉にもう片方の小柄な少女――『飛龍』艦魂が自分の知識を付けて返す。
 仲のいい義姉妹(準同型艦だから)の二人のさらに後ろでは、
「いい加減私から離れろ」
「そ、そんな事言わないでよぉ――お姉ちゃん」
「何度も言っているだろう。私をそんな呼び名で呼ぶな」
「は、はい――姉さん」
 四人から少し離れた所で少し変わった会話をするのは新鋭空母『翔鶴』とその妹艦『瑞鶴』の艦魂だ。
 空母『翔鶴』は今年の八月生まれのまだまだ新品空母で、『瑞鶴』に関してはつい数日前に生まれたばかりの艦魂なので二人の間にはまだ姉妹関係が成り立っていないのだ。
 そんな六人の空母艦魂達は世界でも類を見ない空母を中心とした高速空母艦隊――通称南雲機動部隊(司令長官・南雲忠一中将)に所属する。
 当時空母は主力部隊同士の艦隊決戦前に敵兵力を減らす目的の、あくまで補助艦艇でしかなく、各艦隊に分けられていた。そんな空母達を機動部隊生みの親と称される小沢治三郎中将が一つの艦隊に集約。それがこの南雲機動部隊こと日本機動部隊――第一航空艦隊だ。
 まだ生まれて間もない艦隊は日々訓練を続けていたが、最近になって突如さらに大規模な訓練がなされるようになっていた。
「一体どこに攻めるんでしょうか?」
「さあ? 中部太平洋で敵主力部隊を攻撃するか、南方資源地帯を一挙攻略するかじゃないかしら」
 蒼龍の質問に赤城が考えられる目標を言うが、どれもありそうだ。
 悩む二人の後ろで、翔鶴が苦笑しながら、
「案外、米太平洋艦隊司令部と米太平洋艦隊がいるハワイに攻めるかもな」
『なあっ!?』
 翔鶴の意見に四人は驚愕する――瑞鶴だけが話について行けなくいて頭の上に疑問符を浮かべている。
「それはないでしょ」
 赤城が微笑みながら答えた。
「そうそう。そんな大遠征をした事は日本海軍じゃないわよ」
 加賀もケラケラ笑って翔鶴の意見を否定する。
「それに日本からハワイまで敵地を六隻の空母を率いた大部隊が移動するのは無理がある。特に、洋上での燃料補給は難しい」
 蒼龍もハワイ攻略が無理な大きな理由を言う。
「それに――空母部隊で敵主力部隊を攻撃するなんて、今までの歴史に一度もない。それを三五〇〇浬も離れた敵海軍の本拠地まで無事にたどり着くのはほぼ不可能よ」
 飛龍も現実的な意見を放つ。
 四人の先輩空母に反対されるが、翔鶴は一歩も引かない。
「日本がアメリカに勝つには、短期決戦で敵を壊滅させ、早期に和平する事しかない。ならば、開戦と同時に敵艦隊を壊滅させるのは、兵法の基本だと思うのだが」
 翔鶴は自分の何十倍も生きている赤城達に自分の意見を通そうとするが、赤城も加賀も相手にする気はなさそうだし、蒼龍にいたっては不機嫌そうに眉間にしわを寄せている。そんな三人に飛龍は笑顔で、
「まあまあ、若気の至りって事ですから気にしないでくださいよ」
「飛龍。それだと私達がもう年寄りみたいじゃない」
「すみません」
 飛龍の仲介で再び穏やかな空気に戻るが、翔鶴はそんな堅物四人を不機嫌そうに睨み付ける。
「前時代の考え方じゃ、今の世の中は戦えん」
 もうここにいるのも嫌になったのか、翔鶴はそのまま光に包まれて消えて自艦に戻ってしまった。その後を慌てて瑞鶴も追う。
 二人の新米空母がいなくなったのを四人は感じたが、無視した。
 だが、一人だけ小さなため息をついた。
「私も、空母でハワイを叩くのはあながち間違ってないと思うんだけどなぁ・・・」
 四人の中では一番若い飛龍が誰にも聞こえないような声でそう言ったが、それを聞く者は誰もおらず、飛龍は着艦訓練を始めた航空機を見詰めた。

 その夜、夜間着艦訓練の為に各空母の甲板は大忙しだったが、艦魂達はそれぞれの艦でのんびりしていた。
 ただし、この二人は・・・
「いい加減自分の艦に戻ったらどうだ?」
「そ、そんな事言わないでよぉ・・・私は姉さんの妹なんだよ? もう少し優しくしてくれても・・・」
「私はお前のような軟弱な妹ならいらん」
「そ、そんなぁ・・・っ!」
 まだまだ世間知らずの瑞鶴は姉である翔鶴の所に来ていたが、当の翔鶴は瑞鶴をあまり歓迎してくれてはいなかった。
 自分を振り払おうとする翔鶴にしがみ付き、瑞鶴は叫ぶ。
「わ、私がんばるから! 姉さんに認めてもらえる妹になってみせるから・・・だから・・・っ!」
「ならまずはその涙を何とかしろ」
 翔鶴は冷たい言葉で一蹴する。そんな姉の反応に瑞鶴はぼろぼろと涙を流してしまう。
 そんなこじれ切っている二人の下に思わぬ来訪者が、
「こんばんわぁ」
 現れた飛龍はおみやげの芋羊羹を「ほらほら、羊羹だよぉ」とその存在を強調したが、部屋の中の張り詰めた空気に笑顔が凍り付いた。
「あ、あれ?」
 飛龍はとりあえず中に入ると、二人を確認する。
「あ、瑞鶴も来てたんだ」
「こ、こんばんわぁ・・・」
 泣きながら言う瑞鶴を見て、飛龍はようやく状況を理解し、腕を組んでうんうんと首を振る。
「なるほど、愛するお姉様に自分の愛をぶつけた瑞鶴に、当のお姉様である翔鶴が無慈悲の言葉でそれを一蹴したのね」
「内容は合ってるが、その言い方はやめてくれんか? なぜかとてつもなく危険なオーラを感じる」
「そう?」
 飛龍は別に気にした様子もなく瑞鶴の隣に着くと、嗚咽をしながら泣く瑞鶴の肩をぽんぽんと優しく叩いた。
「大丈夫。あなたのお姉さんは素直じゃないの。だから、本当は嬉しいのにあえて冷たくしてるのよ」
「ほ、本当ですか?」
「全くもって見当違いだ」
 翔鶴の言葉を無視し、飛龍は瑞鶴を優しく励ます。むしろこちらの方が本当の姉妹に見える。
 瑞鶴が涙を拭って笑みを浮かべると、飛龍は「よし」と嬉しそうに瑞鶴の背中を叩いた。
 一方、そんな元気な飛龍を翔鶴は不機嫌そうに睨む。
「ところで、一体何用だ? まさか遊びに来たのじゃあるまい」
「遊びに来たって言ったら?」
「私の武術をお見せしよう」
「重要な相談をしたくて参りました」
 飛龍は一瞬でシャキッとして神前や仏前の儀式の時のような『最敬礼』のお辞儀(角度が九〇度)を行った。
 なぜここまで飛龍が豹変したかと言うと、翔鶴は日本海軍艦魂の中で最強と呼ばれる武闘家で、その強さは本当に最強なのだ。
 そんな彼女に攻撃されたら骨の一本や二本折れるのを覚悟しなければらないほどなので、飛龍の一変した態度は正当な自己防衛反応なのだ。
「で? 一体何の用だ?」
「えっとね、昼間あなたが言っていた空母部隊によるハワイ攻撃について聞きたいんだけど」
 飛龍の言葉に、翔鶴は明らかに嫌そうに顔をしかめる。
「その話はそっちが蹴っただろうが」
「それは姉さん達だよ。私は結構いいアイデアだと思うなぁ」
 飛龍の突然の言葉に翔鶴は一瞬驚いた顔をするが、すぐにいつものぶっきらぼうな顔に戻る。
「お前もハワイに行くのは不可能だと言ったではないか」
「あれはあくまで意見よ。それに不可能とは言ってない。不可能に近いってだけで、可能性はゼロじゃないわ。ただ、そうなるとかなり博打的要素が入ってくるのよね」
「だからこそやると思うのだ。何せ今の連合艦隊司令長官の山本五十六大将は根っからの博打好きだからな」
「確かに、戦争が終わったらモナコでカジノを開きたいって言ってるくらいの人だからね。それくらいの博打は入るか」
 飛龍がおもしろおかしそうに笑うと、翔鶴も口元だけで笑った。
 そんな二人の会話に、瑞鶴は全くついて行けていなかった。
「えっと・・・」
 完全に混乱している瑞鶴に呆れる翔鶴。だが、その視線に気づいて飛龍はすぐにフォローを入れる。
「まあまあ、お茶にしようよ。芋羊羹もあるしね」
 飛龍は持って来た芋羊羹をその場で広げる。するとそこにはおいしそうな芋羊羹がその輝きを広げていた。
「うわぁ、おいしそう」
「ほう、これはなかなかの上物だな」
「でしょぅ? これは老舗和菓子屋の芋羊羹なんだよ。えへへ、早く食べようよ♪」
 その後、飛龍の持って来た芋羊羹と翔鶴が艦魂の力を使って空間からお茶を出してお茶会をした。
 まだまだ生まれて間もない翔鶴と瑞鶴、竣工後二年と比較的新しい空母である飛龍の三人は新米同士会話も弾んだ。
 特に飛龍の仲介を得てようやく翔鶴と瑞鶴の間の壁はなくなり、二人は笑顔でしゃべれるようになった。飛龍はそれを見詰めて嬉しそうに笑っていた。

 それから一ヶ月の時が流れた十一月後半、ついに海軍はハワイ作戦の発動を決定。訓練中の空母部隊は作戦参加の為に急遽各航空隊を収容して出撃し、極秘とされた集結地――択捉島の単冠湾ひとかっぷわんに集結した。
 二二日、参加艦艇の全艦が集結を終えた。
 二四日、参加将兵全員に極秘任務――米太平洋艦隊本拠地であるハワイ心中湾を空母部隊で奇襲攻撃し、停泊中の敵艦隊を撃滅。及び敵司令部を壊滅させるという大作戦の内容が伝えられた。
 目的地を初めて知った赤城達はその内容に驚愕したが、翔鶴は不敵に笑っていた。
 その夜、参加艦艇の艦魂達は艦隊旗艦である空母『赤城』の会議室に集結した。
 開口早く赤城が口にしたのは自分達に与えられた超極秘の重要任務に対する心構えと、それに関する主な各艦の動向その他だった。
 会議が無事に終わると、赤城は自分の席に座って何も言わずに沈黙している翔鶴の横に立った。
「悪かったわね。あなたの言うとおり、私達空母部隊はハワイに向かう事になったわ。あなたの言葉を信じなくて、本当にすまなかった」
 艦隊旗艦である赤城、次席指揮官の加賀、堅物の蒼龍の三人が新米の翔鶴に頭を下げる光景に皆驚いた。そんな中、翔鶴は別段気にした様子も無く、
「謝る必要はない。私が言ったのは可能な作戦の中から一つを選んだけだ。それが採用されたのは偶然に過ぎん。貴官達が頭を下げる理由など微塵もなかろう」
 翔鶴の言葉に、赤城達も頭を上げた。その表情はどこか嬉しそうな顔をしていた。
「ほらほら姉さん。もうすぐ出撃なんだから、そんな嬉しそうな顔してちゃダメだよ」
「それはお前だ」
 飛龍の言葉に蒼龍が返答した直後、二人の艦魂がやって来た。
 一人は大人らしい美しさを放つ女性で、もう一人はそんな彼女の後ろに隠れている自分達より少し年上の少女だった。
「初めまして。今回あなた達空母部隊を無事に日本に連れて帰る任務を受けた護衛部隊司令官、戦艦『比叡』よ。そしてこの後ろに隠れてるのは私の妹の『霧島』の艦魂。よろしくね」
 比叡と霧島は日本海軍でも最古参に入る金剛型戦艦の艦魂である金剛四姉妹の次女と四女である。金剛型戦艦は軍艦としては老兵ながらも通常戦艦をはるかに超える高速力を誇る。スピードが命の機動部隊の護衛には打って付けの戦艦なのだ。
「よろしくお願いします。まだまだあなた方に比べれば赤子も同然の私達ですが、全力で敵を潰します」
「もうやめてよ。そんな言い方じゃまるで私達がおばあちゃんみたいじゃない。ねぇ霧島?」
「え? あ・・・うん・・・私はおばあちゃんじゃ・・・ないよぉ」
「い、いえ。そういう意味で言ったのでは」
 完全に比叡のペースにはまっている赤城を皆はクスクスと笑う。すると赤城は顔を真っ赤にして怒る。
「わ、笑うなッ!」
「赤城サイコーよ。さぁ比叡さん。もっと赤城をからかってください」
「加賀ッ!」
 あはははと笑いながら逃げる加賀を赤城が猛然と追いかけるという鬼ごっこが始まった。
 一同二人の喜劇(?)を見て笑う中、翔鶴はそっと部屋を出た。その後ろを瑞鶴と飛龍が追う。
「翔鶴。もう少し見ていこうよ」
「私はいい。明日にも出撃するかもしれないからな。帰って寝るさ」
「そう・・・その時は瑞鶴を抱っこして寝てあげてね♪」
「ほ、本当ッ!?」
「誰がするか。愚か者」
 喜ぶ瑞鶴にキツイ一撃を入れて翔鶴は去り、実の姉に言葉一蹴された瑞鶴も涙ながらに消えた。そんな二人を見て飛龍はこの先の二人を想像して静かにため息して自艦に戻った。
 自艦に戻った飛龍は防空指揮所に降り立った。
 きれいな星空を見上げ、飛龍は心躍らせる。
「ついに開戦ね。これから先は私達空母が前線で戦い、敵艦隊を壊滅させる。そうしなきゃ、日本の勝利である日米講和は望めないからね。がんばらなくちゃ」
 飛龍は澄み切った空に輝く星空を見上げながら、静かに天空に向かって拳を上げた。
 それは、彼女の決意の表れであった。
 天空に向かって自らの拳を高らかに上げる飛龍の表情はとても凛々しく、瞳は決意に燃えて星の光以上に輝いていた。
 高らかに自らの決意を固めた飛龍が指揮所を去った刹那、星空に一筋の流れ星が流れた。
 それは一体何を意味していたのかは、誰にもわからない・・・

 二六日、再編成された第一航空艦隊こと南雲機動部隊は単冠湾を出港。一路ハワイ北方海域を目指して出撃した。
 参加艦艇は空母六隻、戦艦二隻、重巡洋艦二隻、軽巡洋艦一隻、駆逐艦九隻、潜水艦三隻、油槽船七隻(今で言うタンカー)。及び航空機三五〇機を率いる大艦隊となっていた。
 空母部隊を囲むように護衛艦隊は陣を張って航行するその姿は威風堂々としており、とても極秘任務で隠密行動を行っているとは思えないほど輝いていた。
 日本の命運を分ける重要な任務を持つ南雲機動部隊はハワイに向かって進み続けた。

 十二月二日、ハワイに向かって海を翔け続けている南雲機動部隊に連合艦隊旗艦・戦艦『長門』より連合艦隊司令長官山本五十六大将が発したの命令電文が届いた。

 ――ニイタカヤマノボレ一二〇八――

 十二月八日に作戦を決行せよという内容の電文だった。
 どうやらギリギリまで行われていた日米交渉は失敗に終わったらしい。
 南雲機動部隊の全将兵や各艦魂達はついに決定された大作戦に心を躍らせた。
「長門司令ッ! 私達第一航空艦隊は全力で敵を殲滅してご覧に入れましょう! 必ずや貴官のご期待に応えて見せます!」
 連合艦隊旗艦である戦艦『長門』の艦魂である長門はすごいお姉さんキャラで皆から慕われている。特に赤城は長門崇拝者の一人だ。その志は筋金入りである。
 赤城が尊敬する上官からの電文に歓喜している頃、飛龍は防空指揮所で海を見詰めていた。
 蒼い海はどこまでも続き、永遠の時を刻んでいるかのように静かだった。
 悠久の展望台。その名がふさわしいと思う。
 この蒼い海の先にはこれから自分達が殲滅するべき敵がいる。日本を破滅に導く悪魔が。
 この作戦が成功しなければ大日本帝国という国の存亡に関わる。
 かつて日露戦争時に日本を守る為に日本海で激戦を繰り広げた東郷平八郎大将が率いていた連合艦隊の艦魂達もこんな想いで戦い抜いたのだろうか?
 戦い方が変わっても、日本を守りたいという想いは永遠に変わらない。
 愛する祖国を守る。
 時代がどんなに変わっても、その想いは変わる事はない。
 日本という国を、自分達が愛する大切な祖国を守る為に、今自分達は強大な敵と戦おうとしている。
 だが、何かを守りたいという想いは最強だ。
 例え何十倍も強力な敵でも、その想いの力があれば負けはしない。
 今日本は滅びの時を迎えている。
 それを何としても阻止する。それが自分達に与えられた責務なのだ。
「必ず、守ってみせる」
 飛龍は今はもう見えぬ祖国に向かって、静かに敬礼をした。
 一陣の風が吹き、軍艦旗が靡く。
 決戦の時は近い。
 南雲機動部隊はひたすらハワイを目指して進撃を続けた。

 そして十二月八日(現地時間十二月八日)、夜明けと共に南雲機動部隊全艦のマストに赤、青、黄、黒の四色から成るZ旗が揚げられて風に靡いた。
 かつて日本海海戦の時に使われた『皇国ノ興廃此ノ一戦ニ在リ。各員一層奮励努力セヨ』という意味が込められたこの旗は、まさにこの戦にふさわしいものだった。
 南雲機動部隊の戦闘能力である空母六隻の甲板には多くの飛行機が天空に飛び立つのを今か今かと待ちわびていた。
 そして、午前一時三〇分(現地時間午前六時)、ついにその時が来た。
 南雲長官から発艦命令が下り、荒鷲達はその翼を力強く羽ばたかせて天空へ舞い上がった。
 空母六隻から次々に発進する飛行機達は上空で旋回を続けて編隊を組む。
 そして、第一次攻撃隊一八三機全機が天空へ舞い上がると、上空を飛ぶ飛行機群はそれぞれ戦闘機隊、急降下爆撃機隊、水平爆撃機隊、雷撃機隊とそれぞれで編隊を組み終え、全機攻撃目標地点であるハワイオアフ島の真珠湾を目指して暁の空へ飛んで行く。
 兵達は皆空の向こうへ消えて行く攻撃隊に向かって帽を振って見送った。
 艦魂達も皆天空を翔ける荒鷲達に全ての運命を託して帽を振り続けた。
 その中には飛龍の姿もあった。
 徐々に小さくなって消えて行く攻撃隊を、飛龍はいつまでも見送った。
 彼らの奮闘で、日本という国の生死が決まると言っても過言ではない。だが、飛龍は信じていた。
 必ず作戦は成功し、米太平洋艦隊は壊滅。その隙に太平洋全てを日本が手中に収めればアメリカは日本に講和を求めて来る。それを受けれ入れる事が日本の勝利なのだ。
 この戦争は必ず勝てる。
 かつて日露戦争でも強敵ロシアを日本は打ち破ったのだ。今度も必ず日本が勝つ。誰もがそう信じ、疑う事はなかった。
 しかしこれが、三年八ヶ月にもおよぶ日本の敗北への道になるとは、この時の誰もが思ってもみなかった。
 ただ勝つ事を信じて、彼らは戦いに向かった。
 それは艦魂達も同じ。
 皆、勝利を信じて戦っている。
 それが、大和の民なのだ。

 真珠湾攻撃は大成功した。
 二度に亘る航空攻撃で米太平洋艦隊の戦艦八隻、駆逐艦二隻を撃沈または撃破、その他艦艇に大損害を与え、敵航空隊も撃滅した。
 日本海海戦以来の大勝利。
 誰もがそれを疑わなかった。
 だが、山本長官が最も恐れていた米空母部隊は任務の為に全艦出撃してた為被害はなかった。
 まさかこれが、日本の敗北への道の最も大きな敗因となるとは、この時の誰も思っていなかった。

 意気揚々と引き上げる南雲機動部隊。
 皆勝利の余韻に浸って嬉しそうな笑顔をしている。それは艦魂達も例外ではない。
 大喜びする艦魂達の中、飛龍も嬉しそうに宴会ではしゃいだ。
 例えこれが敗北への戦いだとしても、例えこの半年後に自分が死ぬとしても、今の彼女はそれを知らない。だからこそ今目の前の勝利をこんなにも楽しむ事ができる。
 日本は勝つ。
 その想いがうら若き乙女達の大和魂に火を付ける。
 戦いはまだ始まったばかりなのだ。

 大日本帝国海軍の最強部隊――日本機動部隊。
 それは、日本に戦いの歴史をもたらし、そしてその戦いの中で儚く散って行った――日本という国の桜だったのかもしれない。
 春という短き栄光の時に輝き、いずれ散ってしまう儚き花。
 散った花びらが二度と戻らぬように、散った命は戻らない。
 戦いの中でしか輝けない空母達は、今日も新たな戦地に向けて旅立つ。
 日本機動部隊とは、桜花爛漫の時の中を翔ける、桜の花なのだ・・・


 さて、今回は懐かしい南雲機動部隊のお話です。もっとも南雲さんは出てませんが。
 もはや対米戦は時間の問題となった世界であの六人が戦争に向けての準備をする姿は勇ましいです。
 今回は本編のミッドウェー海戦に続き飛龍に視点を置いた作品となっています。
 特に今回一番力を入れたのはまだお互いに誕生間もない翔鶴と瑞鶴の姉妹の描き方です。やっぱりまだまだ二人は初々しいですね。
 もう一度この六人を書いて見たいという僕の個人的な意見の作品だったのですが、読者の皆さんも喜んでくれた事を願っています。
 さて次の作品ですが、はっきり言いましょう。書いた本人である僕もちょっと失敗したかなぁ?という作品です。
 雲龍型空母三人のお話なんですが、ストーリーがちょっと変なのでこれから修正はしていきますが、今までよりはちょっとおもしろさがなくなるかもしれません。
 唯一の救いは本編登場キャラが数人出て来るぐらいです。
 がんばって書き直しますので一応期待はしていてください。













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