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半透明なシナプスの恋 作者:藤山素心
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第4話 冗漫な記録映画


 入学式から、修一には大学の生活に違和感があった。

 それは高校の頃となにひとつ代わり映えしない生活が原因だった。
 いや、実際にはもっと酷い。

 高校の頃を教訓にクラブやサークルには一切参加しないつもりでいた。
 にもかかわらず、勧誘の嵐は高校の比ではない。

 1時限終わるごとに修一の周りには人だかりができた。
 しかもすべて女子。
 ぷんぷん漂うフレグランスも、体感的には高校の3倍程度に膨れあがっていた。
 体育会系から文化系、果ては素性の怪しい自己啓発めいたものまで盛りだくさん。
 学食でもテーブルの一角を占拠してしまうので気軽に行けない。

 高校の時はなにをしていたか。
 趣味はなにか。
 そして最後は必ず彼女はいるのか。
 修一の気持ちは関係なしの質問攻めが校門を出てもつきまとった。

 修一が最も衝撃を受けたのは、勝手に撮られた写真をSNSにあげられたことだった。
 ウチの大学のイケメンとかなんとか、それを口火にお祭り騒ぎ。
 ここまでは高校でも経験していたが、さすがにジャニーズ事務所へ勝手に書類を送られたことはなかった。
 なにを良かれと思ったのか理解できない。

 彼女がいないのがすべての原因だと考えた修一は、その時たまたま告白された同じ科の女子を受け入れた。
 別に好きではなかったが嫌いではなかった。
 それで幾分かは取り巻きも減ったが、総合的なダメージは減りはしない。

 彼女が友達と買い物に出かける時は必ず連れ出された。
 やたら一緒の写真を撮られ、ブログだかSNSにアップされる。
 頼みもしないのに、自分の趣味全開で全身コーディネートの押しつけ。
 それらにすべて目をつぶっていた修一だったが、相談なしで雑誌のコーナーに「私のカレシ自慢」と称して写真が載ったことは決定的だった。

 そして数々の苦痛に黙々と耐えても、いつも終わりは決まったセリフでやってくる。

 ――なんか、ぜんぜん楽しそうじゃないね。

 まったくその通りだったので反論もしない。

 ――いつも私ばっかり好きで、なに考えてんの?

 特別、考えるようなことはなかった。

 ――千葉くんと並んで歩いてると、なんだか自分が恥ずかしくてたまらない。

 勝手に寄せては退いていく女の群れは、ここでもまた健在だった。

 そうしてまた修一が自宅で銀細工に没頭するようになると、決まって声をかけられることがある。

「今夜、合コンあるんだけど来てくれね? 今フリーっしょ」

 自分は撒き餌だと知りながら、それでも修一は見ず知らずの合コンに参加する。
 これをきっかけに、誰か気軽に話せる男友達が出来るのではないかと。


▽ ▽ ▽ 


 その日も指定の時間ぴったり。
 待ち合わせ場所の居酒屋に到着し、修一はテーブルの隅に座った。

 酒と油料理のむせかえる臭い。
 タバコで澱んだ空気。

 すでにでき上がった店内の喧噪とした息苦しいムードの中、細身のデニムに白の襟シャツとカーディガンの修一は浮き上がって見えた。

 簡単な自己紹介が終わったが、修一は誰にも興味が持てない。
 楽しくバカ話をしようにも、男たちはあからさまにハンターの眼差し。
 女子の視線はそれらをかいくぐって修一にまとわりつく。
 しかし本当の問題は、誰でも楽しめるバカ話を修一が持ち合わせていないことだったのかもしれない。
 修一は右手の中指にはめた最も愛着のあるスカル・リング――初めて作った銀細工を、そっと撫でて気を紛らわせた。

「いつもみんな、なにして遊んでるんですか?」

 まとまりのない空気に、同席の女子が話題を振ってくれる。
 最も困る会話だ。
 名前も知らない同級生たちは自分のサークルの話、車の話、サッカーの話、テレビドラマの話を繰り広げている。

 それは誰も傷つかない会話術で、社交辞令と呼ばれる物に近いのかもしれない。
 だがそれは自らが興味を持ち、あるいは誰かの興味を引くために仕入れた物。
 人はいつどうやってそれを身につけるのか修一にはわからない。
 誰も教えてくれなかったし、教科書にも載っていなかった。
 唯一この銀細工の話、誰が興味を持つというのか。

 困ったことに、今日もまた修一がロックオンされる。

「千葉くんは?」
「別に」
「もしかして読モ? そのコーデ流行る?」
「なにそれ」

 面倒くさいし興味もない。

「『MEN’S NEN NE』とかの読者モデルのことだけど」
「へー」
「絶対載るよね、ね?」
「わたしもイケると思うー」

 必ず周囲に同意を求める女子の気持ちがわからないと、修一はいつも思う。

「そいつイケメンだけどコミュ障だから狙ってもムリじゃね?」

 必死に人を落とさなくても、好きなだけ持っていけばいい。
 正直、その方が修一にはありがたい。

「うそ。イケメンでコミュ障とかマジありえないし」
「目つき悪ぃし無愛想だし、寄ってくる女は全部シカトだぜ?」

 間違ってはいない。

「やだ、もれなくゲイ?」
「おっけおっけ。ウチそういうの、ぜんぜんOKだから」
「じゃ今晩、おれらで3Pしようぜ」
「マジそれ笑えない」

 黙っていても、いつも話は修一の外側で進んでいく。

「えー、でも付き合ってる人はぁ?」
「なんか不特定多数すぎて、おれらも知らねぇ」

 勝手に答えてもらってありがたいし、概ね間違ってはいなかった。
 だがつい、修一から本音が漏れてしまう。

「……他に話、ねぇのかよ」

 この言葉をきっかけに、会話は修一から一線を引いた。
 盛り上がっていく会話の外で、修一は視線をスカル・リングに落として溜め息を漏らす。
 今日も誰とも仲良くなれそうにない。
 いつものようにしばらく黙っていれば、そのうち熱は冷める。
 1時間も過ぎれば、そっと帰っても失礼はないだろう。

 しかし、その日に限って一人だけ。
 隣りに座っていた女子が、いまだにじっと見つめていた。

 特に目立たない子だった。
 黒くて長い髪にふわっとしたワンピース。
 印象的だったのは、そのまっすぐな視線だ。

「なに」

「え、あ、ごめん」

 さらに目を大きくして慌てる彼女。
 それでも視線は修一の手元に釘付けだった。

「これ?」

 修一は改めて中指のシルバー・リングを眺めた。

「自分で作ったんでしょ?」
「わかんの?」
「だってブサイクだもん」

「は?」

 一度も言われたことがない。
 もちろん修一自身そう思ったこともない。

「でも、すっごくイイ」
「どっちよ」
「だってそれ愛されてるじゃん」
「アイ? 意味わかんない」
「なんか作り込みが激しい」

 確かに修一が、ありったけの情念を込めて作った最初の物。
 どこにも行き場のない思いが詰まっていると言えばそうだ。

「ふーん」
「言われたことない?」
「ない」
「けっこう一途だって」
「は?」

「そういう作り込みするのって、一途な人が多いんだよ?」

 想定の範囲外の答えに修一は視線を逸らした。

「……ない」

「そういう顔もするんだ。ズルいね」

 完全に調子を崩された修一は明らかに混乱していた。
 自作のリングに気を止められたことはない。
 それを褒められたのか、けなされたのかも分からない。

 ヤリチン、ホスト、ヒモ、等々。
 だが一途だと言われたことは一度もない。
 挙げ句に、なにがズルいのかもさっぱりだった。

 他のメンツは修一から距離をおき、というより男子が壁を作って女子を修一に近づけないようにしている。
 奧の壁を背に座っていた修一と黒髪の彼女は、必然的にテーブルの会話から隔離される形となった。

 わけがわからない時には黙ればいい。
 時が過ぎ去るのを待つのが一番だと修一は知っていた。

 息苦しい空間。

「ほんとに友達いないんだね」
「なんで?」
「こんな合コンに来てるから」
「自分もだろ」
「まぁね」

 黒髪の彼女はグラスに口を付けるが、修一は酒を飲んだことがない。
 乾杯以後は、グラスが冷や汗をテーブルに垂れ流しているだけだ。

「友達、欲しくないわけ?」
「わかんない」
「自分のことじゃん。真剣に考えなきゃ」
「はぁ」
「じゃ、いま考えて」
「は?」
「いま面倒くさい女って思ったでしょ」

 むしろ悪くないと修一は思った。
 口では適当に答えたが、友達は欲しいと常日頃から思っている。
 だがしかし、なぜ友達が欲しいかなど考えたこともなかった。

「そうだな……」

 壁にもたれて修一は天井を仰いだ。

「なにそのポーズ、決まってるし」
「おちょくってんの?」
「ごめん、ホントにそう思っただけ」

 無造作に髪をかき上げ、修一は珍しくグラスのビールを少しだけ飲んだ。

「トモダチがいたら、もう少し生活が豊かになるかも」

 ぷっ、と黒髪の彼女が吹き出した。

「笑うとこ?」

「おかしいよね、千葉君」

 グラスを置いて口元をハンカチで拭く彼女から、なぜか修一は目が離せなくなっていた。

「なにが」
「だって生活が豊かになるとか」
「……正直に言うんじゃなかった」
「ごめん。なんか変な表現だったから、つい」

 不思議な気分だと修一は驚いていた。
 いつもは過ぎていくのを待つだけの適当な会話が、今日は違う。
 好きだ嫌いだ、付き合った別れた、カレシカノジョのオンパレードにならない。
 こんな会話をもっと続けていたいと修一自らが望んでいた。

「あのさ、えーっと……」

 修一は彼女の名前すら聞いていなかった。

「だよねー。あたしなんて背景レベルの女だもんねー」
「いや、別に」
「名前でしょ? 美紀(みき)七木田(ななきだ)美紀」
「七木田サンは――」
「なに?」

 はっ、とそこで修一は止まった。
 なにを隠そう他に話がないのは修一だったのだ。

 思い返せば、修一の過去はすべて色恋にまみれていた。
 口を開けば誰が好きだ、付き合って欲しい、そんな話ばかり。
 それが嫌で仕方なかった。
 それなのに自分には他に会話がない。

 服や髪でも褒めればいいのだろうと修一は考えもした。
 だがそれでは、そのわくわくした瞳に応えられるとは考えにくい。
 なにより自分が聞かされ続けて辟易している会話だ。

「……つまんねぇヤツなんだな」

 修一は溜め息をついて居酒屋メニューを眺めた。
 こうして黙っていれば、ほとんどの相手は呆れていなくなる。
 今夜は意に反するが会話がない以上こうするしかない。

「なにか頼むの?」

「え?」

 だが今日は何かが違っていた。

「焼き鳥?」

 たまたま開いていたのがそのページというだけ。
 食べたくもないメニューを修一は慌てて眼で追った。

「いや、別に」

 修一の言葉と行動が解離し始める。

「千葉君、手きれいだね」

「手?」

 まじまじと眺めてみたが、やはり修一には理解できない。
 きちんと爪を切っていたからそう見えたに違いない。

「なんかスラッと長くてしなやか。シルバー以外は作らないの?」
「いや、別に」
「大学では?」
「聞いてもツマんねぇよ」
「でも聞きたい。ウザい?」

 珍しい女だと修一は驚いた。
 大学の研究内容を聞いてなにが楽しいというのか。
 ともかく今夜はすべてのリズムが狂う。

「立体動画。動くホログラフィだけど」
「もしかして昔のスター・ウォーズに出て来るみたいなヤツ?」
「そ。売りは脳内イメージと連動して動くってトコ」
「すご……そんなの作ってんだ。わりと感動」

 勢いにほだされたのか、修一はガラにもなく研究内容を話し始めた。
 それでなにを理解して欲しかったわけではない。
 ただこうして、黙ってうなずいて聞いてくれるだけでよかった。

「と、まぁそんなカンジ」

 美紀は目を輝かせて食い入る。

「千葉君はそれで何を映し出すつもりなの?」

 考えたこともなかった。

「いや、別に」
「えー。あたしだったら絶対それ使ってマコーに帰ってきてもらうな」
「……誰それ」
「死んだワンちゃん。あたしと14年も一緒にいたの」
「イヌかよ」

 美紀の視線がぼんやりと空間を泳ぐ。

「もっとしてあげたかったこととか、後からいっぱい思い出すんだよね」
「やり直しても辛いだけじゃね?」
「してあげられなかったコトを思い出す方が、辛いかな」
「じゃそれ、作ってみっか」
「ホント?」

 美紀の瞳がわずかに潤むのを修一は見逃さなかった。
 こぼれ落ちる前の涙をこらえ、美紀は笑顔を浮かべていた。

 どうしてその涙に惹かれたのか分からない。
 ただの軽いペットロスといえばそれまで。
 しかし高鳴る心臓の拍動に理由などいらないのかもしれない。

「あー、悪い。なにか食う?」
「千葉君のオススメは?」
「ない」
「じゃ、あたしは焼き鳥を塩で」
「パーツ絞れよ」
「ねぇ、これこれ」

 ぐっとメニューを覗き込んだ美紀から柔らかい匂いがした。
 いつもの女が漂わせる、ギトギトしたツンと鼻を突くフレグランスではない。

 これは意図的なものなのか。
 狡猾であざとい、女のあれなのか。

 微かに触れた肩越しの暖かさにまで修一は動揺していた。

「どれよ」
「チューリップって食べれたっけ?」
「肉だよ、ニク」

 それを見ていた名も知らないクラスの男が急に話に入ってきた。

「お、コミュ障もエイムしたのか」

「あ?」

 修一は露骨に嫌な顔を浮かべた。
 男は遠慮なくタバコ臭い身を乗り出してくる。

「さすがホスト。磨けば光る原石狙いとか、極める角度が違うなァ。キミ、なんて名前?」

「あ、あたし? 七木――」

「来んなよ」

 修一の冷徹な言葉に遮られた男は顔色を変える。

「ハァ? なに言っちゃってんの。合コンっしょ?」

 おもむろに革サイフから1万円札を取り出す修一。

「今日のカネ。2人分」

「ハァ!? てめ、ケンカ売ってんのか!?」

 語気を荒げる男を、修一はただじっと睨んでいるだけ。
 ただでさえ目つきの悪い修一に微かな憎悪が混じる。

「大事な話してんだ」

「なッ――」

 男が絶句した次の言葉は、修一から放たれる尋常でないオーラに弾き返された。
 これ以上まとわりついて、この男に得はない。

「ケッ、コミュ障イケメンが偉そうに。釣りとかねぇからな」

「いらない」

 ザコキャラのようなセリフを吐いて、男はすこすごと立ち去っていった。

「ちょっと、あたしの分は」
「いいよ」
「よくないよ。今日、会ったばっかなのに」

「……」

 次に会った時でいい。
 そんな簡単な言葉をなぜ言えないのか修一は不思議でならなかった。

「あたし払うから」

 修一はサイフを取り出す美紀の手を掴んだ。
 その手が少し汗ばんでいたことを少し後悔しながら。

「飼い犬に手を噛まれたとでも思って」

「なんか例え間違ってない? ていうか恥ずいんですけど」

 握られた手を美紀が気まずそうに見ている。

「あ、悪ぃ」

「だいたい、あたしたち大事な話してた?」

 きょとんとする美紀に修一が小声で耳打ちした。

「チューリップ」

「ひゃめれっ!」

 耳にかかった吐息に身悶えながら、美紀は思わず笑ってしまう。

「なにその反応、ウケる」

「もーっ! 変な声出ちゃったじゃない!」

 それを見た修一の口元にも笑みが浮かんだ。

「あ、千葉君が笑うの初めて見た」
「つまんねーだろ、オレ」
「そんなことないけど」

 修一が真顔で美紀を見つめる。

「……それ、オレは相手としてつまらなくないって認識でいいのか?」

 笑顔からシリアスへの激しい緩急に、美紀は戸惑っていた。

「え?」
「わりと真剣に」
「ちょ、なんかズルい」

 慌てて濡れたおしぼりを顔に当てた美紀だがメイクは崩れない。
 それは元々、派手なメイクをしていないからだ。
 だがその仕草に初めて、修一は女性を可愛いと感じた。

「あのさ」
「なに?」

 美紀はまだ、おしぼりを鼻から下に押し当てている。

「オレと――」

「なに、聞こえない」

 修一は美紀の顔からおしぼりを取った。

「友達になってくんね?」

 きょとんとした美紀の顔。
 そのまま自宅に持ち帰りたい衝動を修一はかき消した。

「……それ、どういう意味?」
「そのままだけど」
「あたしと? なんで?」
「なんでって、楽しいから」

 真っ赤になった美紀が急にうつむいた。

「楽しくないよ」
「七木田サンが?」
「いや、そうじゃなくて」

「ダメ……か」

 修一はおしぼりをテーブルに投げた。

「ダメじゃないけど、あたし誰かに暗殺されそう」

「それはオレが排除する」

 絶妙のタイミングで触れられた肩に美紀の体が反応する。

「排除とか……わけわかんない……」
「そのかわり教えてくんないかな」
「なにを?」

 振り返った美紀の真正面に修一の顔が迫っていた。

「トモダチって、なにすればいいんだ?」

 ぽかんとした後、美紀はくすりと笑ってささやいた。

「特別なことはなにもしなくていいよ、友達だからって」

 ふたりはその日、二度目の微笑みを交わした。


 ――哲子に揺すられて修一は我に返った。


「修っぴ! ちょっと戻って来て、修っぴ!!」

「……ん?」

 いつものように嫌な汗が止まらない。

「医務室に行こうか」

 ここは入社した初日のタカギ製作所。
 開発部。

「あ、哲子さん。大丈夫、よくあるんで」 
「そんなに変な汗かいて、大丈夫なわけがない」

 修一はいつものようにひとつ深呼吸をして、なんの話だったか思い出しながら言葉を選んだ。

「だから、その……哲子さん。えーっと」
「それより、医務室」
「大丈夫だから」

 哲子はため息をつき、ぬるくなったお茶を飲み干した。

「じゃ私、お茶煎れ直すわ」
「あ、オレが」
「いいから、いいから。ところで修っぴ。その器械、なんて名前なの?」
「名前?」

 そう。
 哲子と立体ホログラフィー動画の話をしていたのだった。
 あれほど冗漫に垂れ流された記録映画なのに、腕時計は1分しか進んでいない。
 慣れているとはいえ現実との切り替えには少し時間がかかる。

「すごい発明品なんだから、なんか名前がなきゃ」

 開発コード、あるいは商品名。

「考えたことない」

 湯気の立つ湯飲みを持った哲子が流し台から戻ってきた。

「じゃ、考えよう。英語の名前がいいな。その方がカッコいいわ」

「そう?」

 修一はしばらく黙って湯飲みの熱いお茶をすすった。

「なんにする?」

 メガネの奥で哲子の瞳が輝いているのがわかる。

「そうだなぁ……」

 頭のイメージがそこに浮かび上がる器械。
 いつでも想像すれば思い描いた人がそばにいる。

「イマジナリー・フレンド、ってどう?」

「い、イマ……?」

「想像上の友達を生み出せるって意味で、イマジナリー・フレンド」

「いいじゃない。いいねそれ。なんか、かっこいいわ」

 それは果てしなく走り続ける第一歩だと修一は直感した。

 できればこのまま、なんの問題もなく走り続けたいと願った。

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